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超大規模依頼編
第五話 不意打ち
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その後、アレク達は問題の農村へと足を運んだ。
といってもそれなりに遠いので、足には馬車を使っている。
馬車の中では各々が時間潰しをしているが、そこでレンカが文句を垂れる。
「ていうかぁ、なんでフィース学園長の瞬間移動使わなかったわけ? それ使えばすぐでしょ。ギルマスと学園長仲良しなわけだし」
すると、横にいたヨークが渋い顔で振り返って答える。
「学園長は忙しいんだぞ。そもそも俺らなんてガキ扱いだし。そこの……アレクの坊主ならわかるだろ」
「え?」
突然話しかけられ、アレクは外へ向けていた目線をヨークに戻す。
「坊主なら、学園長がハイエルフなこと知ってるだろ」
「……逆に、ヨークさんも知ってるんですね」
「まあな。協力も何度もしてもらった。今回もと思ったが、そもそもあの人気まぐれだしな。許可が下りなかった」
「学園長先生、優しいのに」
学園長が協力しないのを意外に思っていると、はあ、とレンカがため息を吐いた。
「そりゃああんたがお気に入りだからでしょう。学園の天才児らしいじゃない。さっき聞いたばっかだから私も詳しくないけど」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。あんたが大切らしいおにーちゃんとおねーちゃんにね」
チラリと視線をやれば、ガディとエルルが馬車の隅で眠っているのが見える。
こんなところで寝こけるなど珍しい。というかありえない。
二人は馬車の上や移動中などは、常に気を抜かずにいることがほとんどだ。
それほど今回一緒にいるメンバーを信頼しているのだろう。
一方ヨークはアレクの最初の顔合わせの態度を思い出して、後悔に駆られていた。
「流石に最初にしては攻めすぎたな……挙句、学園長が今回手を貸してくれなかった理由は、アレクの坊主に手を出したからだろう」
「そうなんですか?」
「絶対そうだろうよ。俺なんざ、後から学園長に釘刺されてるからな」
自分の生徒に傷をつけてくれるなとのことである。
恐らく、治癒魔法の及ぶ範囲なら目を瞑るが、それ以外は擦り傷もつけるなとのことだろう。
無理だとも言えず、ヨークはできるだけ努力すると返した。
今後一切学園長からは支援を期待できないだろう。
「おい、つくぞ」
馬車を運転していたラフテルが声を上げる。
すぐさま双子が反応して目を覚ませば、馬車が次第に減速して止まった。
「……ここは」
「破壊された農村だ」
アレクは馬車を降り、目の前の光景に愕然とした。
農村というより、そこは荒野であった。
建物どころか草木一本も生えていない。
エルルが地面に手をつくと、すぐに魔力の特定を始める。
「……酷いな」
ガディがポツリと呟くと、ラフテルが続けて己の故郷のことを思い出す。
「アルスフォードもこんな感じだった。燃やされ、壊され、原型も残らず。俺らの一族が統治している土地も被害だらけだ。ここ一年は作物が育たないと言われて、てんで参っている」
「本当かそれ。じゃあどうするんだ」
「しばらくは異国からの輸入に頼りきりだろうな。いつまで続くかはわからんが」
そんな二人の会話を尻目に、エルルは魔力を追い続ける。
「……?」
そこでエルルは微かな違和感を覚えた。
あらゆる魔物の魔力がひしめき合っているものの、大悪魔とおぼしき魔力の持ち主が確認できない。
邪悪で、それでいて莫大な魔力を持つ者はいくら探しても見つけられなかった。
「……」
「おい、エルルの嬢ちゃん。見つかったか」
「いや……変よ。どう考えても大悪魔らしき魔力はーー」
エルルが何か言いかけた瞬間、何かの影がエルルに向かって襲い掛かった。
「!」
咄嗟にエルルは短剣を抜いて応戦するも、あまりの強さに弾き返すこともできずよろめく。
ガディが横から短剣を振り翳したので、襲ってきた何かは身を翻してその場から離れた。
「何だ!?」
急すぎる襲撃者に、ヨーク達も警戒体制を取る。
「……アハっ」
襲撃者の正体は女だった。
大ぶりの大剣を手にした彼女はぐるりと全員を見回すと、更に愉快げに笑った。
「あはっ、あはっ、ははは……」
「ラリってるわけこの女」
レンカが悪態をつけば、女は笑いながら続けた。
「ははっ、ごめんねぇ。つい、面白くって」
「はぁ?」
「だってぇ、こんな面子で大悪魔? だっけ……てやつを狩ろうとしてんでしょ? おもしろー!」
女がその場で笑い転げたので、アレクは背筋に薄ら寒いものを感じた。
これはグラフィールで、ディラン王に感じたものと同じだ。
得体の知れないものへの恐怖。
「っ、うわああああ……」
「おい!」
すると、ずっと黙ったままであったハウンドが、大きな悲鳴を上げて蹲った。
涙をボロボロ流しているが、立派な成人男性である。
「なんだよこのおっかないの……だから嫌だったんだよこの依頼……」
「うっわ……」
ハウンドが泣き喚き始めたので、わかりやすくレンカが引いた。
それに構わず、ハウンドはひぐひぐと肩を揺らして泣いている。
「えっと……あの、大丈夫ですか」
アレクが思わず声をかけると、ハウンドが弾かれたように顔を上げた。
「君……優しいね」
「いや、その」
「こいつ……追っ払ってくれない?」
「ええ……」
困惑気味に女を見つめれば、ニコリと女が微笑み返してくる。
攻撃してきた割にはやけに友好的だ。
すると女がアレクに向かって話しかけてくる。
「ねーえ、キミィ」
「はい!」
「キミってこの面子の中で随分浮いてるね」
「浮いてるって……どういう意味でですか」
「えーっとね」
次の瞬間、エルルが女のいる位置に向かって攻撃魔法を仕掛けた。
火柱が大きく上がり、反応の遅れた女の腕が燃える。
「あっつ! あーもー最悪」
「アレクに近づくな!」
「別に変なことしないって。今日は顔見にきただけだし」
「……大悪魔の仲間だったりするのかしら」
エルルの言葉に、女は笑って首を振る。
「なわけないじゃーん! あんな奴の仲間とかごめんだしぃ」
「じゃあ、あなたは……」
「ーーねえ、アレク君」
名前を呼ばれたアレクが、驚いて女を見つめる。
女は相変わらず笑ったままであった。
「キミ、幸せ?」
「……え」
「幸せ?」
「……まあ、幸せですけど」
「そっかー。じゃあ、こいつら殺すね」
女は大剣を何事もなかったかのように構えた。
質問の意味もわからないし、行動の意味もわからない。
ポカンと口を開けたままのアレクをすり抜けて、女は蹲ったハウンドに向かって剣を振った。
「こっちくるなよ!」
ギャン、とハウンドが叫んだ。
その叫びがまるで頭に直接響くような騒音で、アレクは眩暈がして膝をつく。
「ーーえ」
ぶしゅ、と女の耳から血が溢れた。
女は自らの血を拭うと目を細める。
「ふーん。面白いもの持ってるじゃん」
「ううぅ……やっぱ僕には無理だったんだよ。僕ってば、周りに迷惑かけてばっかり」
ぐすぐすと泣きながらもハウンドがゆらりと立ち上がる。
ハウンドに向かってヨークが叫んだ。
「おいハウンド! テメェのスキルはこっちにも影響出るんだから、迂闊に使うんじゃねえ!」
「ご、ごめんなさい。でも、身の危険があったし」
「せめて使う時は使うって言え!」
「無理だよぉ」
そうこうしている間に女は再び、ハウンドに向かって剣を振り翳す。
触れるか触れないかの瀬戸際になって、ラフテルがそれを阻んだ。
「……っ!」
剣の圧にラフテルが凄む。
そもそもこの大剣を振り回せるだけの筋肉量が、女の細腕のどこにあるというのか。
それでも意地になって剣を振り切り、ラフテルが大きく息を吐いた。
「おい、急ぎすぎだ」
「ミヤちゃん」
(新しい敵!?)
新たに参戦した筋骨隆々な男に、アレクが眉を顰める。
攻撃しようにも、二人には隙がない。
アレクは必死になってタイミングを見極めようとしていた。
「いいじゃーん。これが私達の任務なわけだし」
「……一人は残せよ。命令だ」
「りょうかーい」
(戦うしか……ないんだ!)
アレクは緊張で自らの袖を握りしめた。
といってもそれなりに遠いので、足には馬車を使っている。
馬車の中では各々が時間潰しをしているが、そこでレンカが文句を垂れる。
「ていうかぁ、なんでフィース学園長の瞬間移動使わなかったわけ? それ使えばすぐでしょ。ギルマスと学園長仲良しなわけだし」
すると、横にいたヨークが渋い顔で振り返って答える。
「学園長は忙しいんだぞ。そもそも俺らなんてガキ扱いだし。そこの……アレクの坊主ならわかるだろ」
「え?」
突然話しかけられ、アレクは外へ向けていた目線をヨークに戻す。
「坊主なら、学園長がハイエルフなこと知ってるだろ」
「……逆に、ヨークさんも知ってるんですね」
「まあな。協力も何度もしてもらった。今回もと思ったが、そもそもあの人気まぐれだしな。許可が下りなかった」
「学園長先生、優しいのに」
学園長が協力しないのを意外に思っていると、はあ、とレンカがため息を吐いた。
「そりゃああんたがお気に入りだからでしょう。学園の天才児らしいじゃない。さっき聞いたばっかだから私も詳しくないけど」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。あんたが大切らしいおにーちゃんとおねーちゃんにね」
チラリと視線をやれば、ガディとエルルが馬車の隅で眠っているのが見える。
こんなところで寝こけるなど珍しい。というかありえない。
二人は馬車の上や移動中などは、常に気を抜かずにいることがほとんどだ。
それほど今回一緒にいるメンバーを信頼しているのだろう。
一方ヨークはアレクの最初の顔合わせの態度を思い出して、後悔に駆られていた。
「流石に最初にしては攻めすぎたな……挙句、学園長が今回手を貸してくれなかった理由は、アレクの坊主に手を出したからだろう」
「そうなんですか?」
「絶対そうだろうよ。俺なんざ、後から学園長に釘刺されてるからな」
自分の生徒に傷をつけてくれるなとのことである。
恐らく、治癒魔法の及ぶ範囲なら目を瞑るが、それ以外は擦り傷もつけるなとのことだろう。
無理だとも言えず、ヨークはできるだけ努力すると返した。
今後一切学園長からは支援を期待できないだろう。
「おい、つくぞ」
馬車を運転していたラフテルが声を上げる。
すぐさま双子が反応して目を覚ませば、馬車が次第に減速して止まった。
「……ここは」
「破壊された農村だ」
アレクは馬車を降り、目の前の光景に愕然とした。
農村というより、そこは荒野であった。
建物どころか草木一本も生えていない。
エルルが地面に手をつくと、すぐに魔力の特定を始める。
「……酷いな」
ガディがポツリと呟くと、ラフテルが続けて己の故郷のことを思い出す。
「アルスフォードもこんな感じだった。燃やされ、壊され、原型も残らず。俺らの一族が統治している土地も被害だらけだ。ここ一年は作物が育たないと言われて、てんで参っている」
「本当かそれ。じゃあどうするんだ」
「しばらくは異国からの輸入に頼りきりだろうな。いつまで続くかはわからんが」
そんな二人の会話を尻目に、エルルは魔力を追い続ける。
「……?」
そこでエルルは微かな違和感を覚えた。
あらゆる魔物の魔力がひしめき合っているものの、大悪魔とおぼしき魔力の持ち主が確認できない。
邪悪で、それでいて莫大な魔力を持つ者はいくら探しても見つけられなかった。
「……」
「おい、エルルの嬢ちゃん。見つかったか」
「いや……変よ。どう考えても大悪魔らしき魔力はーー」
エルルが何か言いかけた瞬間、何かの影がエルルに向かって襲い掛かった。
「!」
咄嗟にエルルは短剣を抜いて応戦するも、あまりの強さに弾き返すこともできずよろめく。
ガディが横から短剣を振り翳したので、襲ってきた何かは身を翻してその場から離れた。
「何だ!?」
急すぎる襲撃者に、ヨーク達も警戒体制を取る。
「……アハっ」
襲撃者の正体は女だった。
大ぶりの大剣を手にした彼女はぐるりと全員を見回すと、更に愉快げに笑った。
「あはっ、あはっ、ははは……」
「ラリってるわけこの女」
レンカが悪態をつけば、女は笑いながら続けた。
「ははっ、ごめんねぇ。つい、面白くって」
「はぁ?」
「だってぇ、こんな面子で大悪魔? だっけ……てやつを狩ろうとしてんでしょ? おもしろー!」
女がその場で笑い転げたので、アレクは背筋に薄ら寒いものを感じた。
これはグラフィールで、ディラン王に感じたものと同じだ。
得体の知れないものへの恐怖。
「っ、うわああああ……」
「おい!」
すると、ずっと黙ったままであったハウンドが、大きな悲鳴を上げて蹲った。
涙をボロボロ流しているが、立派な成人男性である。
「なんだよこのおっかないの……だから嫌だったんだよこの依頼……」
「うっわ……」
ハウンドが泣き喚き始めたので、わかりやすくレンカが引いた。
それに構わず、ハウンドはひぐひぐと肩を揺らして泣いている。
「えっと……あの、大丈夫ですか」
アレクが思わず声をかけると、ハウンドが弾かれたように顔を上げた。
「君……優しいね」
「いや、その」
「こいつ……追っ払ってくれない?」
「ええ……」
困惑気味に女を見つめれば、ニコリと女が微笑み返してくる。
攻撃してきた割にはやけに友好的だ。
すると女がアレクに向かって話しかけてくる。
「ねーえ、キミィ」
「はい!」
「キミってこの面子の中で随分浮いてるね」
「浮いてるって……どういう意味でですか」
「えーっとね」
次の瞬間、エルルが女のいる位置に向かって攻撃魔法を仕掛けた。
火柱が大きく上がり、反応の遅れた女の腕が燃える。
「あっつ! あーもー最悪」
「アレクに近づくな!」
「別に変なことしないって。今日は顔見にきただけだし」
「……大悪魔の仲間だったりするのかしら」
エルルの言葉に、女は笑って首を振る。
「なわけないじゃーん! あんな奴の仲間とかごめんだしぃ」
「じゃあ、あなたは……」
「ーーねえ、アレク君」
名前を呼ばれたアレクが、驚いて女を見つめる。
女は相変わらず笑ったままであった。
「キミ、幸せ?」
「……え」
「幸せ?」
「……まあ、幸せですけど」
「そっかー。じゃあ、こいつら殺すね」
女は大剣を何事もなかったかのように構えた。
質問の意味もわからないし、行動の意味もわからない。
ポカンと口を開けたままのアレクをすり抜けて、女は蹲ったハウンドに向かって剣を振った。
「こっちくるなよ!」
ギャン、とハウンドが叫んだ。
その叫びがまるで頭に直接響くような騒音で、アレクは眩暈がして膝をつく。
「ーーえ」
ぶしゅ、と女の耳から血が溢れた。
女は自らの血を拭うと目を細める。
「ふーん。面白いもの持ってるじゃん」
「ううぅ……やっぱ僕には無理だったんだよ。僕ってば、周りに迷惑かけてばっかり」
ぐすぐすと泣きながらもハウンドがゆらりと立ち上がる。
ハウンドに向かってヨークが叫んだ。
「おいハウンド! テメェのスキルはこっちにも影響出るんだから、迂闊に使うんじゃねえ!」
「ご、ごめんなさい。でも、身の危険があったし」
「せめて使う時は使うって言え!」
「無理だよぉ」
そうこうしている間に女は再び、ハウンドに向かって剣を振り翳す。
触れるか触れないかの瀬戸際になって、ラフテルがそれを阻んだ。
「……っ!」
剣の圧にラフテルが凄む。
そもそもこの大剣を振り回せるだけの筋肉量が、女の細腕のどこにあるというのか。
それでも意地になって剣を振り切り、ラフテルが大きく息を吐いた。
「おい、急ぎすぎだ」
「ミヤちゃん」
(新しい敵!?)
新たに参戦した筋骨隆々な男に、アレクが眉を顰める。
攻撃しようにも、二人には隙がない。
アレクは必死になってタイミングを見極めようとしていた。
「いいじゃーん。これが私達の任務なわけだし」
「……一人は残せよ。命令だ」
「りょうかーい」
(戦うしか……ないんだ!)
アレクは緊張で自らの袖を握りしめた。
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