追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第二十五話 我が焦がれる人

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覚えている。
仲間の死に顔を。
覚えている。
自分の無様さを。

「ーーーっあ」

レンカが目覚め、最初に目にしたのは天井であった。
埃臭い、慣れた空気が鼻をつく。

「起きたかね、レンカさん」
「ギルドマスター……」

どうやら自分は眠っていたことを、レンカはこの時点で初めて気がついた。

「天気の魔物は……」
「安静にしたまえ。全て終わった」

終わった。
あの長い戦いが、終わったのだ。
実感が湧かない。
あまりに強い敵であった。
ガチャガチャと横で音が聞こえる。
ギルドマスターが水桶やら何やらの道具を抱えて駆け回る音だった。
どうやらギルドマスターが、メンバー全員の世話を甲斐甲斐しく焼いているらしい。
テーブルの上に、コップが置いてあるのが見えた。
喉が渇いた。水が飲みたい。
そう思って、コップに向かって手を伸ばした。

「ーーあ」

ない。左腕が、ない。
あまりのことに動揺し、そのまま崩れ落ちてしまう。
ギルドマスターが慌ててこちらにやってきて、レンカの右手を取る。

「大丈夫か」
「すみません……あの、腕」
「……言いづらいのだが、天気の魔物に吹き飛ばされたらしい」

そうだ、思い出した。
天気の魔物の攻撃を食らい、腕が消し飛ばされてレンカは気を失った。
目覚めれば全てが終わっていた。
服の垂れた袖を捲ると、歪な形となった傷口が見える。

「下手っくそな治療痕ね……」
「エルルさんが治癒魔法を使ったらしい」
「どうりで」

エルル、という子供の名前を聞いて、レンカはバカにするように笑った。
実力不足な子供であった。兄も同様だ。
多少は戦力になったものの、使えないの一言に尽きる。

「! エルルさん……もう起きて大丈夫なのかね」

そこで、エルルが起床してフラフラとこちらにやってきた。
その顔は青い。
まるで死人のようだった。

「ギルドマスター……依頼を、受けさせてください」
「何を」
「ミーシャさんに回るはずだった依頼、私にください」

懇願するエルルに、レンカは嫌気が差した。
ギルドマスターは「駄目だ」とエルルの意見を一蹴する。

「どうして!」
「君はまだ療養中の身だ」
「だって、傷はもう治癒魔法で」
「癒えていると言えるのか。復帰できるほどになったと」
「………」

治癒魔法は万能ではない。
よほどの実力者でなければ失った部位が戻ってくるわけがないし、なくなった血が元通りになるわけではない。
実際、レンカは貧血で今にも倒れそうであった。

「そんなっ、お願いします、お願いします」
「休んでいなさい」
「ギルドマスターッ……!」

エルルの悲痛な呼び止めに、レンカは背を向けた。
これ以上は付き合っていられない。
心の折れた者にレンカは興味がない。
反吐が出るくらいだ。
死んだ者の代わりになろうと奮闘する姿が嫌いだ。
いつまでも仲間の死を引き摺るレンカが、まるで馬鹿みたいではないか。

「……まあ、バカか」

◆ ◆ ◆

それからレンカは、アルスフォード出身であったレオのツテを使って義手を付けてもらった。
レオの知り合いである義手師が、レンカの義手を調整しながら思い出を語り出す。

「レオ君はね、本当に真面目だった。弟や妹と守りたいと、もっと強くなりたいといって、修行としてトリティカーナに来ていたくらいだ。まさか、戦死するとは思っていなかった。レオ君は本当に強かったから……」
「アイツの実家は、何て言ってた?」

他国で自身の家の跡継ぎが死んでしまったのだ。
文句の一つでも出るだろうとレンカは思っていたが、義手師は暗い声音で答える。

「戦いの中で死ねたのなら、英雄家として本望だろうと」
「……英雄家って、どこもかしこも腐ってるのかしら」

ムーンオルト家のことを思い出す。
幼い子供を戦場に送り出す家であった。
ギルドには子供も働いていたが、こんなにも頻繁に戦場に行くのは、例の双子だけであった気がする。

「よし。つけるよ」

合図と共に、義手が装着される。
バチンという音が体内に響き、その痛みにレンカは顔を歪めた。

「魔力回路と義手を繋げたから、最初は痛むと思うけど……慣れてくれば、自分の腕のように動かせるから。魔力で動かすんだけど、ちょっとコツがいるから頑張って。定期的にメンテナンスが必要だけど、しょっちゅうアルスフォードこっちには来れないでしょ。セルフケアの方法、書いておいたから」
「ありがとう」

義手師に礼を言い、レンカは店を出る。
早く腕を動かせるようになって、現場に復帰したい。
戦っていなければ、仲間の怨嗟に押しつぶされそうだった。
死なせた仲間全員、レンカを責めている気がしてやまない。

「ままならないわね……」

どうすれば、この苦痛から解放されるのだろうか。

◆ ◆ ◆

それから約半年後。
ギルドに依頼を受けにきたレンカを、誰かが呼び止める。

「レンカ」

振り返ると、銀髪の少女が立っていた。

「……誰かと思えば、アンタじゃない。元気だった?」

嫌味も含めて尋ねると、「ええ」と素直な返事が返ってくる。

「で、何の用。私忙しいんだけど」
「……今日、実家に帰ることにした」
「あっそ」
「一度、手合わせしてほしい」

これにはレンカも驚いた。
もう心が折れ、実家に引っ込むものだと思っていた。
戦場には戻らないと思っていたのに、こんなことを言ってくるとは。
断ろうと思った。
生憎、相手をしている暇はないのだと。
しかし、何の気まぐれかレンカはそれを了承することにした。
エルルの目が真剣だったからかもしれない。

「いいわよ。アンタは私に勝てないだろうけどね」
「! ありがとう……!」





「おい、聞いたか。レンカ・ミゾウとエルル・ムーンオルトが手合わせだってよ」
「今やってんだろ、裏口で」
「見に行くぞ!」

どこからともなく情報を聞きつけたギルドの者達が、現場に向かって駆けていく。
そして、目にした光景に絶句した。

「おい……」
「酷いなありゃ」

そこにいたのは、無表情で立っているレンカと、血だらけのまま息を切らすエルル。
もう既に観客は十分すぎるほどおり、どよめきが上がっている。

「アンタ……治癒魔法使いなさいよ。傷口塞ぐくらいできるでしょ」
「使わない。使ったら、意味ない」
「意味わかんないの」

レンカは無傷だ。
実力差は圧倒的であった。

「じゃ、終わりにしましょ」

パキン、とレンカの手の中で、氷が音を立てて発生する。
「殺す気か」と周りが騒ぐも、レンカはそれを無視して魔法を放った。

「っ!」

ボウ! と突然、炎の柱が上がる。
氷はそれに呑まれて消えていくが、レンカは「芸がないのね」とつまらなさそうに欠伸する。

「どうかしらねっ」

エルルが炎の中、突っ込んでこちらまで攻めてきた。
流石に予想していなかった展開に、レンカの反応が少し遅れる。
対抗するようにして放たれたエルルの氷の魔法が、レンカの腹を僅かながらに掠った。

「っ……アンタ、正気? 焼けてるじゃない」
「いい血止めになるわ」

体が燃えたまま、水魔法で消そうともしないエルルに、レンカは絶句した。
イカれてる。狂ってるコイツ。

「バカねぇ、ほんと」
「はああっ……!」

ボコリ、と足場が盛り上がり、レンカを弾き飛ばさんと揺れる。
観客をも巻き込みそうなくらいの威力に、レンカは涼しい顔をして飛び退いた。

「蹴っ飛ばしてあげるわよ」

そのままエルルの頭目がけて、蹴りを繰り出そうとする。
その足をエルルが掴み、そのまま引き寄せ抱きしめた。

「はあ!? あづっ」

エルルについた炎がそのまま発火源となり、炎の魔法に二人揃って包まれる。
常人なら焼け死んでいるほどの威力だ。

「ウォ、ウォーターボール!」

レンカの唱えた水魔法が、二人に落下した。
鎮火はできたものの、今は水すらも酷く痛い。

「はぁっ……サイアク……!」
「レンカ。私と戦いましょ。もっと、もっと」

エルルは笑っていた。
観客達はエルルに薄寒い気配を感じ、後退する。
しかし火傷が激しいにも関わらず、エルルの美しさは損なわれていない。

「それで、私を殺してみて」
「っーーー! とんだ、殺し文句ね!」

それからは凄まじかった。
魔法の撃ち合い。どちらか倒れたほうが負け。
どちらも大して避けようともしないので、観客に被弾することもなく、順調に傷だらけになっていく。
そんな中でーー二人は、楽しそうに笑い合っていた。

「はは、あはは、はははははっ!」

(楽しい! こんなに楽しいの、いつぶりかしら! それこそ、アイツが生きてた頃のーー!)

ふと、現実に引き戻される。
殺された仲間の姿が、脳裏をよぎる。
レンカの体温が下がっていくのを感じる。
エルルがレンカの手を引いた。

「!」
「よそ見しないで。私を見て!」

間近で光る銀色。
あ、まつ毛長い。綺麗だな。
そんな凡庸なことを考えたのも束の間、レンカは一気にエルルに魅力された。

「ナマ言ってんじゃないわよっ!」
「っ!」

レンカの氷魔法が被弾し、とうとう限界を迎えたエルルが地に倒れ伏した。
シィン、と静まり返る辺りに、レンカは指示を出した。

「治癒魔法使える奴。コイツのこと治しといて」
「……おい、急げ! このままじゃ死にかねないぞ!」

我に返った観客の内の一人が声を荒げる。
エルルに向かって群がり出した彼らを背に、レンカはその場を後にしようとする。
そんなレンカに向かって、一人が声をかけた。

「いいんですか、レンカさん。治療してもらわなくて」

声をかけてきた人物に、レンカは思わず口角が上がる。

「アンタこそ、どうしたってわけ? やけに清々しい顔しちゃって。ーーハウンド」

立て篭っていたはずの、ハウンドが出てきている。
以前気まぐれで中を覗いた時、まるで亡霊のような姿であったのにも関わらず、ハウンドに生命力を感じた。

「ちょっと、励ましてもらいまして」
「あっそ。くたばんないよう、精々頑張りなさい」

レンカはそのままギルドを去った。
傷口が痛い。熱を持ってレンカに襲いかかるようだ。
それに手を這わせ、レンカは笑った。

(……欲しい)

あの銀色が、欲しい。
美しき子供が。力溢れる、獣の如き少女が。
自分の魅力された光が、どうしても欲しい!!
レンカは欲に忠実であった。

「……わかってんのよ。見てんでしょ、アンタ」

どこからか見ているであろう大悪魔に向かって、レンカは呼びかける。

「懐かしかったわ。いい思いした」

そこで、死んだはずの仲間が姿を現す。

「レンカ、死ね……!」

怨嗟の声でさえ、今はどうでもよく思えた。
高揚した気分のまま、それを凍りづかせる。

「アンタは一生、私の中の思い出で眠ってればいいわ」

後生大事に抱えててあげる。
そう笑ったレンカの意識が、くんと上に引っ張られた。


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