追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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超大規模依頼編

第三十三話 因縁の仲

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「ティファンが、生きてる……!?」

驚きのあまり目を見開いたアレクに、アリスがゆっくりと頷く。
天族の正確な寿命をアレクは一切把握していない。
しかし二百年となると、生き延びることができる期間なのだろうか。

「でもっ、あれだけエルミア様が苦労して施した封印を、どうして!?」
「それは……わからない。でも、確かにそうなの。私はそれを防がなくちゃならない。私が、魔王を継ぐからには……」
「魔王を?」

アリスはかつてのことを思い出すように、目を閉じて父のことを語り出す。

「お父様は……ティファンに殺された。お父様はこちらの世界と、あちらの……魔界。均衡を保つのが役目。だけどお父様が死んだから、次期魔王になるのは、私。次期魔王なら、世界を乱す者を捕まえるのは、私の役目。でも……」

唇を噛み締め、アリスは大層悔しげに言った。

「私が力不足のせいで、こちらの世界にこんなにも迷惑をかけてしまった……でも、ごめんなさい。私じゃどうにもできない。きっと、こちらの世界に平穏をもたらしてみせる。だから、助けてください」

頭を下げたアリスに、口を挟んだのはレンカだった。

「こんな奴、野放しにしておけるわけないじゃない! 魔王の娘なんてっ……何かしでかすに決まってる! 今すぐ処分すべきだわ!」
「俺も賛成だ。こいつは信用ならない」

ラフテルが同意し、レンカ側へとつく。
ヨークとハウンドはいまいち状況が理解できていないらしく、黙ったままだ。
ガディとエルルは、アレクの答えを待っている。

「……僕がアリスを助けた。アリスの責任は僕が持つよ」

アレクの下した決断に、ラフテルは噛み付くように盾ついた。

「アレク! 本気か!? お前っ……魔族は人間だけではなく、他の種族までも害したんだぞ!?」
「アリスは違うよ。アリス自身がやったわけじゃないでしょう。種族で差別したら、それこそ本末転倒だよ。人間が天族にしたこと……それだって僕は覚えてる」
「その、天族っていうのは何だ。俺は知らない。アレクは天族なのか」

ラフテルの発言で、もう引っ込みがつかなくなったことを悟った。
ここまで暴露してしまったのなら、もう言うしかないだろう。

「アレク。説明したいならするといい」
「兄様」
「こいつらは、信用できる」

ガディがそう促すため、アレクは天族について一から説明することにした。
種族のこと、人間が天族を滅ぼしたこと、エルミアのこと、自身のこと。
ある程度噛み砕いた説明ではあったが、十分キャパオーバーらしく、ラフテル達は頭を抱えていた。

「知らなかった……そんな種族がいたなんて」
「アレク君は、その、天族の末裔? ってやつなんですっけ」
「そうなりますね」
「はあ、何だかその……凄い、ですね。こんなことしか自分は言えませんけど」
「アレクの坊、人間じゃなかったのか」
「いや、人間ですけど。天族の魂……? ってやつを持ってるだけです」

冷静に言うアレクに反比例して、ラフテル達の混乱は深まっていく。
第一、こんな短時間で説明しきれるレベルのものではない。
困り顔で眉を下げる彼らであったが、レンカがアレクの前に立った。

「その天族うんたらって話は、私も知らないわ。先祖のしたことだし、勝手にしろって思う。けど……私はこいつを生かすことに賛成できない。アンタがエルルの弟だからよ」
「でも……僕は、アリスを守ります」
「そう。わかったわ。気まぐれとして、見逃してあげる」
「ありがとうレンカさん!」
「見逃すだけよ。協力はしない」

そう言い切ったレンカは、アリスを一瞥すると、嫌悪を前面に押し出した。

「私は……悪魔のこと、嫌いよ」
「はい。わかってます」
「アンタのこと、悪いけど信用し切れない」
「はい」
「……それじゃあ、私ギルドに報酬受け取りに行くわね。馬車はこの町から貰うわ」

レンカは踵を返してその場を後にした。
続けてヨークとハウンドも立ち上がる。

「俺らも行くとするか」
「この流れ的に報告書書くの僕なんですか? 嫌なんですけど……」
「なぁに、細かい作業はお前さんが一番得意だろ」
「嫌なことには変わりないんですけどね。そうだ、アレク君。これ」
「はいっ」

ハウンドがいつの間にか用意した紙切れを、アレクに握らせる。

「これ、僕の連絡用水晶の通信先」
「えっ」
「困ったことがあったら、いつでも連絡してください」
「いいんですか?」
「はい。僕にはそちらのお嬢さんのことや、君の詳しい事情は図りかねますが……君の力になりたいとは思っています」
「っ、ありがとうございます!」

ハウンドがここまで言ってくれることが感慨深く、アレクは思わず感動してしまう。
最初の頃の態度とは大違いだ。
すると、ハウンドが横に立つヨークに促す。

「ヨークさんも連絡先渡してみては?」
「そうしてぇのは山々なんだが……連絡用水晶持ってなくてな」
「原始人か何かですか?」
「一応高級品だってこと自覚しろよ?」
「あなたほどの実力者ならお金、持ってるでしょう。というか、今回の依頼の報酬は、自分が思う通りのものを手に入れられるんです。それならば、連絡用水晶を職人にでも作ってもらったらどうですか」
「馬鹿言え、そんなみみっちいもので消費できるかっての」

二人のやり取りで、アレクは今回の依頼の報酬のことを思い出した。
確か、自分が望んだものを何でも与えてくれるそうだ。
何でもと言っても限られた範囲ではあるだろうが、何を頼むべきかは決めていない。

「じゃあな! アレクの坊、頑張れよ!」
「僕も失礼します。使ってた馬車の一台はもらっていきますね」

色々考えている内に、ハウンドとヨークは去っていった。
その場にアレクと双子、アリス、ラフテルが取り残される。
ガディとエルルは報酬に関して話し合っているようだ。

「俺は新しい短剣でも新調するか。折れたしな」
「だったら私も。短剣にはまってる魔石が同じものだし」
「でも対になってる短剣なんてそうそうないぞ」
「それもそうね……」
「俺が鍛治氏を紹介しようか」

そこで名乗り出たのはラフテルだった。

「俺達の住むアルスフォードは科学の国。それと同時に職人の国でもある。そちらのツテならある」
「いいのか」
「ああ」
「じゃあ、お言葉に甘えようかしら」

そんな会話を彼らがしている間、アレクはアリスと向き合う。
何度見てもアリスはただの少女に見える。
ほんの小さな子供のようだ。

「アリスは……お父さんの跡を継いで、この世界から悪魔や魔物を回収するためにこっちに来たの?」
「私は、連れて行かれたの。お兄さん達が大悪魔って呼ぶ、あいつに」
「アリスが、本当の大悪魔なの?」
「それは、わからない。大悪魔っていうのは、人間がつけた名前だから……でも、魔物を操る力を持っているのは、私」

アリスの手の中には、取り戻した二つの小さなツノがある。
これに魔物を操る力があるようには見えないが、アリスが言うなら事実なのだろう。

「ツノは、無理やりあいつに取られて……あいつはお父様が殺された混乱に乗じて、私をこっちの世界に連れ去ったの。ツノをあいつが持ってる分、逃げるわけにはいかなかった。このツノを私の頭に戻そうにも、一度切れたらもう戻ってこない」

アリスは自身のツノを握りしめると、またしても涙を流した。

「これは私達の誇りーーこれを取られた私は、もう魔族なんて名乗れないかもしれない。でも、お父様の願いを無駄にしたくない」
「その、願いって」
「こちらの世界と、私達の世界に平穏を。仮初でもいい。均衡を、保ちたい。それがお父様の願い。でも……帰りたいな」

ポツリ、とアリスが弱音を吐く。
アリスの思いがアレクには痛いくらい伝わってくる。
一人で大悪魔に連れ去られ、父親が殺され、どんなに辛い思いをしてきたのか。
その孤独は計り知れない。

「これからは、僕がアリスを守るよ」
「……迷惑かけてごめんなさい。でも、約束する。全てが終わる頃には、お兄さんでも安心して過ごせる世界を」

アリスの琥珀の瞳が瞬く。
その輝きに、アレクは口角を緩めた。
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