追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

文字の大きさ
145 / 227
超大規模依頼編

第三十九話 厄介な相手

しおりを挟む
「こ、婚約者って……」
「本当ですか!? ベッキー先輩!」
「ええ、一応」

二人が驚きのあまり声を上げるのに対して、レベッカは酷く冷静であった。
ラビンと名乗った男は、レベッカのその対応に肩を竦めて見せる。

「昔から掴めないお方だ。私が何をしても、あなたのご機嫌を取ることはできない」
「それはこちらの台詞です。あなたが何を考えているのか、わたくしにはちっとも理解できなくてよ」

レベッカの返しにラビンは苦笑すると、出された茶を飲み終え席を立つ。

「ご馳走様でした。今日はこれで失礼します。明日、お返事を聞かせてください」
「……」
「それでは失礼します」

ラビンが教室を後にしたので、その場にはアレク達が残される。
早速アレクとヴィエラが、レベッカを質問攻めにした。

「ベッキー先輩、あの人が婚約者って……いつからなんですか?」
「そうですね、幼少の頃から……恐らく、四歳くらいの時。彼はルーウェン商会の次男坊ですわ。私の婿として、将来マウロス家に嫁ぎに来る予定ですの」

レベッカは、世界的に有名なマウロス商会の一人娘だ。
恐らくラビンがレベッカの元へ嫁ぎ、商会の後継ぎとしてやっていく予定なのだろう。
レベッカは目を伏せ、ラビンについて語り出す。

「あの方はとても優秀で。商人として、生まれてきたようなお方ですの。ルーウェン家が実力制度でしたら、間違いなくあの方が当主となっていましたわ」
「そんなに……」
「ルーウェン商会って、香辛料とかで有名なところですよね」

ヴィエラの質問に、レベッカが頷く。
アレクも名前くらいなら見たことがある気がする。
胡椒のラベルに確か、その名前が刻まれていたはずだ。

「そんな凄い商会が、僕達と取引を」
「そ、それって、チャンスじゃないですか!? 上手くいけば、売り上げもっと上げられるかも……!」
「得策ではありませんわね」

ヴィエラの上がったテンションを、レベッカが止めた。
アレクはレベッカの言葉に首を傾げる。

「得策じゃないって、どういうことですか?」
「……恐らく、薬はアレク君が作ったものだと、見破られてしまうでしょう」
「ええ!?」
「彼は賢い。誤魔化し切れるとは思っておりませんわ。それに、下手を打てば……」
「打てば?」
「気づけば学園から退学し、薬を作り続けることを承諾するサインを書かされているかも」
「そんなに物騒なんですか」
「彼ならやりかねませんわね」

レベッカの睨み通り、ラビンは優秀である分狡猾な男であった。
彼によって潰されてきた商会は数知れず、気がつけばルーウェン商会のために働いていた、不利な取引を呑まされていたなど、レベッカが聞かされてきた話は多い。
商人としてはこれ以上ないくらい優秀な男であるが、レベッカはラビンに対して不安を抱いていた。
マウロス家の令嬢として生まれてきたからには、勤めを果たすのに不満はない。
しかしラビンと一緒になって、幸せになる未来が見えないのだ。
マウロス商会はますます潤うだろうし、金銭的に困ることはあるまい。
しかし彼から愛情を注がれる気はしなかった。
レベッカのそんな態度に察したのか、アレクからこの取引を断ることを切り出した。

「やめましょう。別に、今取引してるロースウェスト商会に、不満があるわけじゃありません。アグニは確かに怖いけど……危険な橋を渡る必要はないと思います」
「わ、私も」

アレクの提案にヴィエラが同意するも、レベッカの反応は芳しくない。

「ベッキー先輩、どうしたんですか……?」
「それが……断ると不都合が発生しそうで」
「不都合?」
「薬は、カプセルに入れて売り出してますわよね」
「? はい」
「例えばですわよ。もしかしたら、カプセルを購入している取引先を潰されるかもしれませんわ」
「えええ!?」

レベッカの発言に、アレク達は揃って顔を青ざめさせる。

「別のカプセルの製造会社に移動したとして、根回しされて取引に応じてくれないかもしれません。金の力で戦われては、勝ち目などありませんわ。マウロス家の財産を持ち出すこともできませんし……あれだけ食い下がってきたのですから、執着もされていそうですわ」
「どどど、どうすればっ!」
「こうなった以上、なんとかして断る正当な理由を見つけなくてはいけませんわ」
「正当な……ラビンさんが、納得して手を引ける内容ってことですか」
「その通りですわ。アグニさんに相談しますわよ。レイル先輩もお呼びしましょう」



しおりを挟む
感想 449

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。