追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第七十三話 リリカの事情

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リリカは弓の手入れをしながら、ポツリポツリと事情を話していった。

「私とお爺様はエルフ。私はここで生まれたけど、お爺様は元々エルフの里にいたんだ。そこでは悪習があってさ。ハイエルフの寿命と引き換えに、世界樹をずっと守ってるんだ」

思い出した。
確か学園長はそのハイエルフで、寿命を取られたくないから逃げたと言っていた。
今ではハイエルフ一人ではなく、エルフの里の者全員分の寿命を少しずつ明け渡すことで、成り立っているらしい。

「お爺様さ、ハイエルフの人と恋人だったみたいで……あ、ウチの里はハイエルフが長になるんだけどね?」
「知ってる」
「え?」
「俺達の知り合いに、里から抜け出したハイエルフがいる」
「……ホント?」
「本当だ」
「今その人、英雄学園っていうところで、学園長やってるわよ」
「そんな人、お婆様以外にいたんだ」

驚きでポカンとリリカが口を開ける。
ハイエルフが逃げ出すことは、どうやら過去にもあったことらしい。

「あ、私のお婆様、ハイエルフでね。お婆様が元々長になる予定だったんだけど、お爺様と逃げ出したの。多分里に残った、妹のほうのハイエルフが、代わりに長になったんじゃないかな。世界樹がなかったら大変なことになっちゃうから、その選択は間違いだったかもしれないけど……逃げ出すことができたお陰で、お爺様とお婆様は結ばれたんだ」

複雑な心境のようで、リリカの表情は険しい。
しかしガディとエルルは現実主義。
今が続いているため、過去のことなどどうでもいい。
特に二人からの言及がなかったため、リリカは続ける。

「私はそんな二人の子供のお母様と、人間のお父様の間に生まれた、そんな複雑なエルフなんだ。里にはもう戻れないから、ここに暮らしてる。でも、お爺様の技術は、たくさんの人から狙われてる」

振り返れば、家の中で作業している魔石爺の姿が窓から見える。
大層集中しているようで、魔石に向かって目を凝らしていた。

「ここ、アルスフォードは、魔石が凄く有名な国でさ。輸入に頼りっぱなしだけど、その分活用する力が凄いんだ。町にいけば、魔石を利用した機械がたくさんある。そんな魔石の効果を最大限引き出せるお爺様は、色んな人から狙われている。だからここに住んで、一部の客しか受け付けてないんだ。悪い人が来たらたまったもんじゃないからね」
「魔石爺一人で、身も守れないのか?」
「ううん。私がお爺様を心配してるだけ。一人にはしたくない」
「でも、あなたは冒険に出たいんでしょう?」
「そうだけどさ……」

その時だった。
リリカの尖った耳がピクリと痙攣し、同時にリリカが立ち上がる。

「……変な奴が来る」

手入れ中だった弓と矢を取り、リリカが走り出す。
ガディとエルルは、リリカの後を追った。

「おい! 変な奴って」
「侵入者……これ絶対侵入者!」
「私達みたいに、勘違いじゃないの!?」
「絶対そうだよ! 気配が普通じゃない!」

そう叫んだ矢先、リリカを水が捕らえる。
空中に浮かんだ水がリリカを取り込み、リリカから酸素を奪う。

「もがっ……」
「リリカ!」

助け出そうとして、はっと気がつく。
短剣がない。
自らが主要としていた武器の損失が、あまりに痛い。
エルルはすかさず木の魔法で木の根を伸ばし、水からリリカを引っ張り出した。

「リリカ! 大丈夫!?」
「ゲホッ、えほっ」

咳き込むリリカを前に、明るい声音が降ってくる。

「お久しぶりでーす! 私とミヤちゃんのこと、覚えてる?」
「お前はっ……」

リリカを捕らえた水が、女の形へと変化した。
女の横にいる、筋骨隆々とした男を見て、ガディはハッと笑う。

「何だ。死んでなかったのかよ」
「お陰様でな」

(ティファンと一緒に行動してた……確か、女のほうがマル。男のほうがミヤだったか)

「ティファン様のご指示で、ガディさんとエルルさんを殺しに来ましたー! よろしくっ!」
「行くぞ」

襲いかかってきた二人に、ガディとエルルは即座に応戦する。
しかし、短剣がない分非常に戦いづらい。
自分達がいかに短剣に頼ってきたかを、思い知らされるようであった。

「エルル! お前はマルを!」
「わかった!」

ここで二手に別れ、それぞれ対処することを決めたらしい。
それぞれの外敵を決めて引き離せば、キャハハと無邪気にマルが笑う。

「ミヤちゃーん、今度は壊されないようにね?」
「わかっている」
「んじゃあ、また後でー!」
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