179 / 227
アルスフォード編
第七十三話 リリカの事情
しおりを挟む
リリカは弓の手入れをしながら、ポツリポツリと事情を話していった。
「私とお爺様はエルフ。私はここで生まれたけど、お爺様は元々エルフの里にいたんだ。そこでは悪習があってさ。ハイエルフの寿命と引き換えに、世界樹をずっと守ってるんだ」
思い出した。
確か学園長はそのハイエルフで、寿命を取られたくないから逃げたと言っていた。
今ではハイエルフ一人ではなく、エルフの里の者全員分の寿命を少しずつ明け渡すことで、成り立っているらしい。
「お爺様さ、ハイエルフの人と恋人だったみたいで……あ、ウチの里はハイエルフが長になるんだけどね?」
「知ってる」
「え?」
「俺達の知り合いに、里から抜け出したハイエルフがいる」
「……ホント?」
「本当だ」
「今その人、英雄学園っていうところで、学園長やってるわよ」
「そんな人、お婆様以外にいたんだ」
驚きでポカンとリリカが口を開ける。
ハイエルフが逃げ出すことは、どうやら過去にもあったことらしい。
「あ、私のお婆様、ハイエルフでね。お婆様が元々長になる予定だったんだけど、お爺様と逃げ出したの。多分里に残った、妹のほうのハイエルフが、代わりに長になったんじゃないかな。世界樹がなかったら大変なことになっちゃうから、その選択は間違いだったかもしれないけど……逃げ出すことができたお陰で、お爺様とお婆様は結ばれたんだ」
複雑な心境のようで、リリカの表情は険しい。
しかしガディとエルルは現実主義。
今が続いているため、過去のことなどどうでもいい。
特に二人からの言及がなかったため、リリカは続ける。
「私はそんな二人の子供のお母様と、人間のお父様の間に生まれた、そんな複雑なエルフなんだ。里にはもう戻れないから、ここに暮らしてる。でも、お爺様の技術は、たくさんの人から狙われてる」
振り返れば、家の中で作業している魔石爺の姿が窓から見える。
大層集中しているようで、魔石に向かって目を凝らしていた。
「ここ、アルスフォードは、魔石が凄く有名な国でさ。輸入に頼りっぱなしだけど、その分活用する力が凄いんだ。町にいけば、魔石を利用した機械がたくさんある。そんな魔石の効果を最大限引き出せるお爺様は、色んな人から狙われている。だからここに住んで、一部の客しか受け付けてないんだ。悪い人が来たらたまったもんじゃないからね」
「魔石爺一人で、身も守れないのか?」
「ううん。私がお爺様を心配してるだけ。一人にはしたくない」
「でも、あなたは冒険に出たいんでしょう?」
「そうだけどさ……」
その時だった。
リリカの尖った耳がピクリと痙攣し、同時にリリカが立ち上がる。
「……変な奴が来る」
手入れ中だった弓と矢を取り、リリカが走り出す。
ガディとエルルは、リリカの後を追った。
「おい! 変な奴って」
「侵入者……これ絶対侵入者!」
「私達みたいに、勘違いじゃないの!?」
「絶対そうだよ! 気配が普通じゃない!」
そう叫んだ矢先、リリカを水が捕らえる。
空中に浮かんだ水がリリカを取り込み、リリカから酸素を奪う。
「もがっ……」
「リリカ!」
助け出そうとして、はっと気がつく。
短剣がない。
自らが主要としていた武器の損失が、あまりに痛い。
エルルはすかさず木の魔法で木の根を伸ばし、水からリリカを引っ張り出した。
「リリカ! 大丈夫!?」
「ゲホッ、えほっ」
咳き込むリリカを前に、明るい声音が降ってくる。
「お久しぶりでーす! 私とミヤちゃんのこと、覚えてる?」
「お前はっ……」
リリカを捕らえた水が、女の形へと変化した。
女の横にいる、筋骨隆々とした男を見て、ガディはハッと笑う。
「何だ。死んでなかったのかよ」
「お陰様でな」
(ティファンと一緒に行動してた……確か、女のほうがマル。男のほうがミヤだったか)
「ティファン様のご指示で、ガディさんとエルルさんを殺しに来ましたー! よろしくっ!」
「行くぞ」
襲いかかってきた二人に、ガディとエルルは即座に応戦する。
しかし、短剣がない分非常に戦いづらい。
自分達がいかに短剣に頼ってきたかを、思い知らされるようであった。
「エルル! お前はマルを!」
「わかった!」
ここで二手に別れ、それぞれ対処することを決めたらしい。
それぞれの外敵を決めて引き離せば、キャハハと無邪気にマルが笑う。
「ミヤちゃーん、今度は壊されないようにね?」
「わかっている」
「んじゃあ、また後でー!」
「私とお爺様はエルフ。私はここで生まれたけど、お爺様は元々エルフの里にいたんだ。そこでは悪習があってさ。ハイエルフの寿命と引き換えに、世界樹をずっと守ってるんだ」
思い出した。
確か学園長はそのハイエルフで、寿命を取られたくないから逃げたと言っていた。
今ではハイエルフ一人ではなく、エルフの里の者全員分の寿命を少しずつ明け渡すことで、成り立っているらしい。
「お爺様さ、ハイエルフの人と恋人だったみたいで……あ、ウチの里はハイエルフが長になるんだけどね?」
「知ってる」
「え?」
「俺達の知り合いに、里から抜け出したハイエルフがいる」
「……ホント?」
「本当だ」
「今その人、英雄学園っていうところで、学園長やってるわよ」
「そんな人、お婆様以外にいたんだ」
驚きでポカンとリリカが口を開ける。
ハイエルフが逃げ出すことは、どうやら過去にもあったことらしい。
「あ、私のお婆様、ハイエルフでね。お婆様が元々長になる予定だったんだけど、お爺様と逃げ出したの。多分里に残った、妹のほうのハイエルフが、代わりに長になったんじゃないかな。世界樹がなかったら大変なことになっちゃうから、その選択は間違いだったかもしれないけど……逃げ出すことができたお陰で、お爺様とお婆様は結ばれたんだ」
複雑な心境のようで、リリカの表情は険しい。
しかしガディとエルルは現実主義。
今が続いているため、過去のことなどどうでもいい。
特に二人からの言及がなかったため、リリカは続ける。
「私はそんな二人の子供のお母様と、人間のお父様の間に生まれた、そんな複雑なエルフなんだ。里にはもう戻れないから、ここに暮らしてる。でも、お爺様の技術は、たくさんの人から狙われてる」
振り返れば、家の中で作業している魔石爺の姿が窓から見える。
大層集中しているようで、魔石に向かって目を凝らしていた。
「ここ、アルスフォードは、魔石が凄く有名な国でさ。輸入に頼りっぱなしだけど、その分活用する力が凄いんだ。町にいけば、魔石を利用した機械がたくさんある。そんな魔石の効果を最大限引き出せるお爺様は、色んな人から狙われている。だからここに住んで、一部の客しか受け付けてないんだ。悪い人が来たらたまったもんじゃないからね」
「魔石爺一人で、身も守れないのか?」
「ううん。私がお爺様を心配してるだけ。一人にはしたくない」
「でも、あなたは冒険に出たいんでしょう?」
「そうだけどさ……」
その時だった。
リリカの尖った耳がピクリと痙攣し、同時にリリカが立ち上がる。
「……変な奴が来る」
手入れ中だった弓と矢を取り、リリカが走り出す。
ガディとエルルは、リリカの後を追った。
「おい! 変な奴って」
「侵入者……これ絶対侵入者!」
「私達みたいに、勘違いじゃないの!?」
「絶対そうだよ! 気配が普通じゃない!」
そう叫んだ矢先、リリカを水が捕らえる。
空中に浮かんだ水がリリカを取り込み、リリカから酸素を奪う。
「もがっ……」
「リリカ!」
助け出そうとして、はっと気がつく。
短剣がない。
自らが主要としていた武器の損失が、あまりに痛い。
エルルはすかさず木の魔法で木の根を伸ばし、水からリリカを引っ張り出した。
「リリカ! 大丈夫!?」
「ゲホッ、えほっ」
咳き込むリリカを前に、明るい声音が降ってくる。
「お久しぶりでーす! 私とミヤちゃんのこと、覚えてる?」
「お前はっ……」
リリカを捕らえた水が、女の形へと変化した。
女の横にいる、筋骨隆々とした男を見て、ガディはハッと笑う。
「何だ。死んでなかったのかよ」
「お陰様でな」
(ティファンと一緒に行動してた……確か、女のほうがマル。男のほうがミヤだったか)
「ティファン様のご指示で、ガディさんとエルルさんを殺しに来ましたー! よろしくっ!」
「行くぞ」
襲いかかってきた二人に、ガディとエルルは即座に応戦する。
しかし、短剣がない分非常に戦いづらい。
自分達がいかに短剣に頼ってきたかを、思い知らされるようであった。
「エルル! お前はマルを!」
「わかった!」
ここで二手に別れ、それぞれ対処することを決めたらしい。
それぞれの外敵を決めて引き離せば、キャハハと無邪気にマルが笑う。
「ミヤちゃーん、今度は壊されないようにね?」
「わかっている」
「んじゃあ、また後でー!」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。