追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第八十ニ話 モデルにならない?

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探知機が反応したのは、一つはアルスフォードの王都。もう一つが、その街から少し離れた場所だった。
王都のほうは止まり続けているが、もう一つのほうは移動し続ける。
移動した反応も、やがて王都へと戻った。

「これはもう、行くしかないな」

ガディの発言を皮切りに、皆が頷く。
アルスフォードの王都。
どんなところなんだろう、とアレクが考えを巡らせていれば、ラフテルが横から話しかけてくる。

「アルスフォードの王都はな、まさに科学都市なんだ。アルスフォードの顔だからな。アレクにも行ってみてほしい場所がたくさんある。こんな事態じゃなかったらだけどな」
「ラフテル……うん。全部終わったら、案内してよ」

アレクがそう言うと、一瞬ラフテルは呆けたような顔をした。
しかし、すぐさま破顔すると、勢いよく頷く。
こういうところが、ラフテルに純粋さを感じる要因なのかもしれない。

「王都って言っても、少し距離があるわよね。私達、一日近くかかったわよ」

エルルが確かめるようにラフテルの方を見れば、ラフテルはすぐさま提案する。

「風魔を出そう。あれなら早いし、アルスフォードなら、専用の駐船場まである」
「ああ、あの空飛ぶ船のこと? あれ、国境に置いてきてなかったかしら」
「もう一つあるからいい」

ラフテルが先頭を切って歩いていく。
ところで風魔はいくらくらいなのだろう。
少なく見積もって、金貨千枚くらいだろうか。

(ムーンオルト家には、あんまりお金なかったもんなあ)

アレクは心の中でふと呟く。
金がない、と言っても、貴族として使用人を雇えるほどにはあった。
しかし、他の英雄家と比べれば、決して裕福とは言い難い。
しかしそれすら贅沢なことなのだと、アレクはこれまでの経験で理解している。

「ほら、乗れ」

ラフテルに促され、風魔へと足を踏み入れる。
トリティカーナから乗ってきたものよりかは幾分か小さく、スリムな形をしていた。
ナオは風魔に詰む魔石を抱えながら、風魔の解説を始める。

「この子、すっごく速いんですよ! ウチが持ってる中で一番です。これはルイーズ様が作ったのですよっ」
「……あの変態が」
「兄様、失礼だよ」
「いえ、ルイーズ様は好色ですので……あっ、これ言っちゃいけないんだった」

慌ててナオが自身の口を塞げば、抱えていた魔石が床に落下する。
その魔石が落ちる鈍い音で、ラフテルが振り向いた。

「なにしてる。行くぞ」
「は、はいっ」

魔石を抱え直し、ナオは奥へと引っ込んでいく。
慣れているのだろう。
両者の雰囲気から、こんなやり取りが日常茶飯事で行われていることを理解した。
アレクがラフテルに尋ねる。

「どのくらいかかるの?」
「そうだな……三十分と言ったところか」
「さ、三十分!?」

あまりの速さにアレクは目を剥く。
その反応に、ラフテルは面白そうに笑った。

「凄いだろ。これこそアルスフォードの力だ」
「うん……凄い」
「わかってもらえてなにより」

ラフテルが笑う。
自国を誇りに思っている者の笑顔だった。

「俺はな、この国の英雄家の当主になるんだ。この国を、よりよくしていきたいと思ってる。そのために……お前に協力する」
「うん」
「まあでも、俺がお前に惚れ込んでいるのも要因だがな」

そんなことをサラリと言う。
アレクの横に立つエルルが、「キザな男ね」と言う。

「そんなんで口説いてるつもりかしら」
「……? 別に」
「無意識?」
「俺はアレクと対等になるつもりはないが」
「変な奴」

ラフテルのアレクに向ける気持ちは、もはや一種の信仰心に近い。
神と同等になろうとしないのと同じことだ。
アレクは苦笑いして、前を向く。

(……どうか、ティファンに会いませんように)

そんなことを考えてしまって、ハッとする。
会いたくないと思ってしまった。
クリア達は、自分の助けを待っているというのに。
アリスの言葉が忘れられない。

『私が殺す』

憎悪を抱いた少女は、一体どこへ向かうのだろうか。

◆ ◆ ◆

風魔に乗り、およそ三十分後。
ラフテルの言った通り、きちんと王都に辿り着いた。
エルルの〔追跡〕を利用しつつ、反応を追っていく。

「ここね」
「……おい。本当にここか?」
「しょうがないでしょ。本当なんだから」

ついたのは事務所。
それも、モデル達が集う有名どころだった。

(どうかティファンじゃありませんように)

アレクが祈りながら事務所へと足を踏み入れると、受付係が声をかけてくる。

「お客様。ご用はなんでしょう」
「ガブリエルに会いたい」
「ガブリエル様に? あの、すみません。どちらからお越しで? 事前にお申し出がない限り会えませんよ」

受付係の反応からして、ここにいるのはガブリエルらしい。
アレクは安堵で胸を撫で下ろす。

「ラフテル、なんとかしろ」
「できるわけないだろ。英雄家にもやれることとやれないことがあるんだよ」

受付でやんややんやと揉めていたため、責任者が顔を出す。

「お客様、すみません。他の方のご迷惑になりますので」
「ちょ……」
「すみません!」

アレクがそこで、責任者に訴えかける。

「僕、どうしてもガブリエルさんに会わなきゃいけないんです! あの人に会って、話を聞かないと」
「………」

本来なら、聞き入れられることのない無茶振りだ。
しかし責任者には、アレクという存在が突き刺さったらしい。

「いいですよ」
「本当ですか!?」
「ええ。その代わり、モデルやってください」
「え」

責任者が取り出したのは、一枚のビラ。
そこには、少年モデルの詳細が載っていた。

「ちょうど募集してましてね。君はその点ピッタリだ。これをやってくれるなら、ガブリエルに会わせましょう」
「も、モデル……」

人生初の経験に、アレクは非常に困惑した。
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