追い出されたら、何かと上手くいきまして

雪塚 ゆず

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アルスフォード編

第九十一話 Sランク討伐任務

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Sランク。
それはベテランの冒険者でも、相手をするのに命懸けな魔物のランクである。
もちろんそんなランクの魔物など頻繁に現れるはずがなく、ライアン達が普段住んでいるナハールの街付近でも、せいぜいBランクほどの魔物が現れるくらいだ。
そんな魔物の出現の知らせに、ユリーカは大いに取り乱した。

「る、ルイーズさん! アルスフォードでは、Sランクの魔物の出現が当たり前なんですか!?」
「そんな訳あるか馬鹿もの。つい最近の話だ。少し前から、高ランクの魔物が頻出するようになった」
「嘘……え、Sランクなんて」

ユリーカ達が相手取ったことのあるSランクの魔物は、フロストキングエイプ。
しかし、それすらもエルルと学園長に見守られてのことであり、トドメを刺したのもエルルだった。

「ルイーズさん、魔法は……」
「我が一族は揃って魔法が使えない」
「じゃ、じゃあ、戦闘手段は」
「ゴーレムを動かして対抗はするが……Sランクは厳しい」

そんな発言に、ユリーカは顔を青ざめさせる。

「に、逃げましょう! 避難が、命が第一です。ここで死ぬことなんてありません」
「無理だ。できない」
「なんで!」

ユリーカの必死の訴えに、サラリとルイーズは答えた。

「私達が英雄家だからだ。例え、科学の一族と讃えられた、非武力国家の者であろうとな、国民の希望なのだ。それに……戦闘員の少ない我が国で、私達が逃げればどうなる?」
「………」
「戦えとは言ったが、死んでもらう筋合いはないな。父上と屋敷に閉じこもっておけ」

踵を返して去ろうとするルイーズの手を、ライアンが掴んだ。

「俺も行くっス」
「……ほう? 正気か? お前は少しでも使いものになるとでも?」
「なるっスよ。ちょうど実力試したかったし」

淀むことなく言い放ったライアンに、ルイーズの目が弓なりとなる。

「わ、私も行きますっ!」
「シオン……!?」
「私だって、やれるもん……アレク君に、もう置いていかれたくない!」
「!」

シオンの発言に、ユリーカは我に返る。

(そうよ……私はポルカさんとの修行で、なにを学んだの? 私が頑張るのは人のため。それじゃダメだって言われたけど)

人のことに頑張れることこそ、美点なのではないだろうか。
どれだけ綺麗事でも、その行動ができる自分を、ユリーカは誇りに思っている。

「……私も行きます」
「いいのか? 先程まで、あんなに取り乱していただろう」
「すみません。もう、大丈夫です」

今までは、何となくで流されてきたのかもしれない。
それでも、この選択はユリーカが決めたものだ。
誰にも文句は言わせない。

「そうか。ならばついてこい愚者共。私が先陣を切ってやろう……おい! アリス!」

名前を呼ばれ、アリスが顔を上げる。
何かを考えていたようだった。

「お前も来い」
「……私の心配はしないの?」
「お前は種族柄死にづらいだろ。おまけに、私が守る義務があるのは人間だけだ」

あっけらかんと言う彼女に、アリスはやれやれとばかりに目を伏せた。
ルイーズは四人を引き連れ、廊下を早足で歩いていく。

「ルイーズ様!」
「準備、できております」
「ご苦労」

途中、使用人達が口々に声をかけてくる。
それを慣れた様子で返答しつつ、ルイーズはとある部屋の前で立ち止まった。
その部屋のドアだけなぜか鉄製であり、物々しい雰囲気を放っている。

「いいかお前達。これを見られることを幸運と思え」
「?」
「開けるぞ」

ルイーズが鉄の扉に手を掛け、ゆっくりと開く。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

鉄の塊のような巨大なロボットが、そこに鎮座していた。
ルイーズはがちゃがちゃと音を立てて、ロボットの横にある操縦機を操作していく。

「魔物対抗用のロボットだ。見掛け倒しだが、時間稼ぎにはなるだろう」

ロボットの胴体部分が開き、操縦席が見えた。

「乗れ。行くぞ」
「マジか! すげえ!」

ライアンは一人興奮した様子であったが、シオンはこのロボットに可能性を感じたらしい。

「これ、トリティカーナにどうにかして流通させられないかな……」

商人的な物の見方に、ユリーカは苦笑する。
そうだ、いつも通り。
特段緊張した様子もない二人に、ユリーカは安心させられた。

「開くぞ!」

部屋の壁が一気に開けて、外への道が現れる。
その道をロボットが走った。

「……あれか」
「グリフォン!?」

ユリーカが魔物を見て、慌てて叫ぶ。
鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、滅多に見かけることのない魔物だ。
グリフォンは、通りかかった行商人を襲ったらしい。
ユリーカ達にはよくわからなかったが、鉄の乗り物に乗っていた人達が、グリフォンから逃げ惑っている。

「マズいわ、あれ!」
「ど、どうして?」
「グリフォンは狙った獲物は逃さないの! 一度狙われたら、死ぬまで追い続ける!」
「ええ!?」

ユリーカの説明に、シオンが動揺してルイーズに言う。

「ルイーズさん! なんとかしないと!」
「わかってるから耳元で騒ぐな!」

ルイーズがハンドルを切った。
ロボットがグリフォンへと突進し、その巨体と拮抗する。

「今のうちだ……! そこから出て攻撃しろ!」

ロボットの出入り口が空いて、外から光が差し込む。
真っ先に飛び出したのはアリスだった。

「アリスちゃん!」
「お願い、止まって……!」

アリスが自身のツノを握り締め、グリフォンに語りかける。
しかし、グリフォンは止まることがない。
アリスに爪を振り下ろし、すんでのところでユリーカが救出した。

「アリスちゃん、大丈夫?」
「う、うん」
「でも、なんで魔物がアリスちゃんを……」

魔物はアリスのツノで、本来なら言うことを聞くはずだ。
ユリーカの口にした疑問に、アリスは即座に答えを示す。

「ティファンのせいだよ……」
「アリスちゃん?」
「ティファンのせいで、あんな風になってるんだ」

暴れ続けるグリフォンを見て、アリスは泣きそうな顔をした。



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