上 下
4 / 8

女王様の憂鬱       ~下僕は女王のためだけに頑張ります。

しおりを挟む
キーンコーンカーンコーン
「はい、そこまで、テストを回収するぞー」
先生の声で答案用紙が次々と回収されていく。
テストの順位発表は一週間ごだ。教科ごとの点数と順位が張り出される。
(今日も羽田来なかったわね)
毎日のように私の所へ来ていた羽田はあれからぱったりと姿を見せなくなった。

その時隣の教室から話しかけてきた人物がいた。一瞬羽田かと思ったけど違った。期待してた自分がバカに思えてくる。
「ゆかり様、だよな。この前は悪かった。」
そう話しかけてきたのは前田だった。
「なによ、いきなり。」
「この前のことちょっと考えてみた。・・・すまない。あの言葉は無神経だったと思う。」
しおらしく謝ってきたのは正直驚いた。
「別にいいわよ。私も周りが言う通りあなたに八つ当たりしただけだから。」
「私、正直あんまり勉強していなくてもある程度できるんだ。だから別に点数が高くてもあんまりうれしくなかった。」
「・・・・・」
やっぱりねという気持ちになった。
「でもな、今日のテストはちゃんと勉強したんだ。そしたら思いのほか楽しくてな。今まで以上に手ごたえを感じたんだ!!」
キラキラとした目をしていた。いつもはクールな感じなのに。ハーフの美人の楽しそうな笑顔は、教室中の視線をくぎ付けにしていた。
「・・・そう、よかったわね。」
「ああ、ありがとう。ゆかり様に怒られなかったら勉強の楽しさには気づけなかったんだ。」
「べ、べつに感謝される筋合いはないわよ。」
「ゆかり様のおかげだ。感謝してる。」
そういって上機嫌で教室を出ていった。嵐が去ったような心地だった
(何だったのかしら)
それにしても天才があれだけ勉強したっていうなら、今回の期末ヤバいんじゃないかしら。羽田のことを思い出す。
(あいつ、ほんとにまずいんじゃないかしら)
勉強していなくても学年1位を取るような人だ。
(勉強なんてしたらそれこそ手も足も出ないんじゃないかしら。)
そんなことを考えて首を横に振る。
(なんであいつのことを考えているのよ。低い点でも取ったら笑ってやるんだから)
そう心に決めたのだった。
しかし、結果は予想とは裏腹のものになってしまったのだ。

張り出された順位の髪を見て唖然としている。
「ゆかり様!!先行くなんてひどいですよ。」
羽田は
私を見つけて走ってくる。
そんなことには構ってられないほど驚いていた。数学、国語と並んでいる順位。いつもの通り前田が一位でわたしが二位だった。でも、5教科のうち英語だけは一位は羽田の名前になっていた。私は前田と同一2位になっていた。
「・・・どういうこと?」
自分の目が信じられない。羽だが帰国子女相手に英語で勝ったの!!
「どうって、ゆかり様が言ったんですよ?俺が前田さんよりも高い点数を取ったらデートしてくれるって。」
俺、かなり頑張りましたので。あっけらかんという羽田はゆかり様といられなくて寂しかったです。とか言っていてへらへらしている。
確かにそういう約束をした。でもまさか本当に取れると思っていなかった。

「・・・本当だったのね」
「ええ、寝る時間もがりがり削って頑張りましたから。」
言っている口調は軽いけれど、ほんとに実践するとなるとかなり大変だ。誘惑の多い家の中で勉強をやるのだって忍耐は必要だ。実際かなり努力したのだろう。
ほおを照れ臭そうにかく手の手のペンだこを見逃さなかった。
少しはねぎらいの言葉をかけてやるかと思っていると肩をたたいて話しかけている人がいた。
振り返ると手を振っている金髪美少女、前田だった。
「順位表を見たぞ!!びっくりした。ゆかり様が私と同一で一位はあったが、順位を完全に抜かれたのは初めてだ。」
「それは光栄です。」
羽田がいつものへらへらとした笑顔を見せながら頭を掻いて照れていた。
(美人に褒められたからって鼻の下伸ばしてんじゃないわよ)
「まあ、今回は負けたけどな。次は負けんぞ。」
前田は普通に手を差し出している。握手しようとでも思っているんだろう。
(なんか癪に障るわね)
「ふっ、そう簡単に追いつかせてあげませんよ。」
(一回勝ったくらいでえらそーに)
とは思っているものの話している二人は楽しそうで完全に蚊帳の外だ。
なんだか仲良さげに話している二人にイラっときた。
「ちょっと、羽田、いつまで話しているのよ!!さっさと行くわよ。」
「はい、ゆかり様」
忠犬のように私の後ろに控える姿を見て満足する。
「前田も、今度は負けないわよ」

「ああ、私も負けないぞ」

なぜだか心は晴れやかだった。
しおりを挟む

処理中です...