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先輩と後輩②
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——司令部、ハイゼルの部屋。
「ふむ······。ドラゴンの血を炎に······まだ俄かに信じがたいのだが、本当なのかね?」
「はい。もし許しを頂けるのであれば、ここで証明してみせます」
「ここで? ······大丈夫なのか?」
「はい」
背もたれのついた椅子に浅く座り、対面式の机の上で手を組みながらハイゼルは考えた。
「······じゃあ見せてもらおうか」
ミーナが目配せをすると、ジャックはポケットから薬包紙を取り出し、中身を飲み込む。
「彼が飲んだのは報告書にも書かれている調合薬です。そして、その薬の効果がこれです」
例のごとく、ジャックは右の手のひらを前に差し出し、集中する。そして、少しの静寂のあと、何もない手のひらに炎が姿を現した。
——ボッ!!
「ほぉ······」
ハイゼルは目を大きく見開いた。
「信じられんな······。君は熱くないのか?」
「はい。ミーナは少し熱を感じていると思いますが、俺は全く熱くありません」
「ミーナ君、術者がこれを使用する上で注意する点はあるのかね?」
「魔力の量を操る訓練が必要な事。また、使用する際に袖などが燃えないよう注意することです」
「······ふむ。それだけでいいのか?」
「はい」
ハイゼルは机に手をつくと、立ち上がり、窓の外を眺める。
彼の背中が見えると、ジャックは右手の炎を消した。
「······君の前でこんな事言うのは申し訳ないが、魔力なんてのはずっと人類の欠陥品だと思っていたんだ」
ミーナは表情を変えずに、彼の話を聞く。
「だが、今ここで、その炎を見て、全てが変わった。ミーナ君、君は本当に面白い子だ」
「ありがとうございます」
「確か······要望では、人を増やして欲しいということだったね? 私の見た感じだが、魔力を操作した経験のある人間の方が助かるのかな?」
「はい」
「ふむ。では、こちらでそのような人を探しておくよ」
「ありがとうございます」
ジャックは心の中で小さくガッツポーズをした。
「とは言っても、兵士に魔力の訓練などさせてこなかったからなぁ······今いる兵士の中で魔力をちゃんと扱える者は少ないかもしれん。だから、多少時間は掛かるものだと思っておいてくれると、こちらとしても助かるよ」
「わかりました」
「軍の訓練に、魔力の訓練を入れることも考えないといけなくなるか······どの時間に挟むべきかな······」
彼が独り言のようにぶつぶつと呟いていると、ミーナが口を挟んだ。
「恐縮ですが、まだ軍での実用化は難しい思われます」
「ん? それはまたどうして?」
「私達二人はドラゴンを間近で見ました。たとえ準備はしていても、アレ一体を討伐するには膨大な怪我人、下手をすれば死者が出ることも予想されます」
「ほう、被害に対しての対価が得られないと?」
「いえ、一体討ちとることが出来れば、きっと、一年は軍で使う事のできる血は採れるでしょう。ですが、人の命を天秤にかけてまで、手に入れるべきものなのかどうかが······」
「なるほど······」
ハイゼルは整えられた顎髭を触りながら、思案にふける。
「それと、恐れながらもう一つ」
「······なんだね?」
「ドラゴンの潜んでいた洞窟奥の入り口ですが、それもドラゴンの衝突により崩落してしまいました」
「······つまり、そこを掘り進むのにも、また人が必要になると」
「はい」
「そうか······」
彼は軽く肩を落とす。
「······ですが、魔法の可能性は信じてもらえたと思います」
「ああ。そこは確かに信じるよ」
「では、これからも研究は続けても問題ないということで、よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だろう。これからも是非、研究に取り組んでくれ。ただ次は、リスクの少ない――新しい魔法を期待しているよ」
朗らかに笑って、彼は場を和まそうとする。
「はい。御期待に沿えるよう努めます」
報告が終わった二人は、中央部の内部、一階へと続く広場の階段を歩いていた。
「いやー、人生で一番集中したなぁ」
肩の荷が降りたジャックは、意気揚々としていた。
「そういえば、話の最後で言ってたアレってどういう事なんだ?」
「アレ?」
「研究を続けていいとかどうとか······」
「あぁ。あれは、ハイゼル司令官よりも上の人間に、設立の条件を出されていただけよ。最初に軍で使えそうな魔法が作れなきゃ、以降の研究は認めないって」
「なんだそれ」
「まぁ、気にすることないわ。すぐに実用化は出来ないけど、実際認めてもらえたようなものじゃない」
「そうだな」
肩の力が抜けたのか、ミーナもどこか安心した表情をしていた。
「ただ、前回の反省も踏まえて、もう少し簡単なのにしなきゃいけないわね」
「魔法をか?」
「魔法も、狩るモンスターもよ」
「あぁ、またあんなのと戦うってなったら、命がいくつあっても足りないからな」
「ええ」
すると急に、ミーナは立ち止まったかと思うと振り返り、今降りたばかりの階段を再び歩いていく。
「おい、どこ行くんだよ」
何も言わず戻っていく彼女を、ジャックは呼び止める。
「書庫よ。モンスターに関する文献をもう一度洗い直すの」
「前回の反省を考えてか?」
「そう」
「······じゃあ俺も行くよ。探したり運んだりするなら手は多い方がいいだろ?」
ジャックは小走りで、階段に足をかけていたミーナの所へ向かう。
彼が追いつき、並んで歩き始めた頃、彼女が口を開く。
「当然でしょ」
「当然ってなんだよ」
「私は"補佐"であなたを選んだのよ? 手伝って当然じゃない」
「······ったく、可愛くねえなぁ。たまには素直にありがとうでいいじゃんかよ」
「あら、そう?」
「そう」
「······ふーん」
これでこの会話は終わりだろう、ジャックがそう思っていると、ミーナは歩いたままジャックを見つめていた。
あまりに長い時間視線を感じたジャックは堪らず立ち止まり、口火を切る。
「······なんだよ」
すると、ミーナはあの、首を傾げた笑みを浮かべてジャックに言う。
「ありがとう。ジャック」
それだけ言うと彼を置いて、ミーナは先に階段の続きを登っていく。
残されたジャックは耳の後ろを掻いた。
「なんだよ、調子狂うなぁ······」
ジャックはそう呟いて、彼女の後を追いかけた。
「ふむ······。ドラゴンの血を炎に······まだ俄かに信じがたいのだが、本当なのかね?」
「はい。もし許しを頂けるのであれば、ここで証明してみせます」
「ここで? ······大丈夫なのか?」
「はい」
背もたれのついた椅子に浅く座り、対面式の机の上で手を組みながらハイゼルは考えた。
「······じゃあ見せてもらおうか」
ミーナが目配せをすると、ジャックはポケットから薬包紙を取り出し、中身を飲み込む。
「彼が飲んだのは報告書にも書かれている調合薬です。そして、その薬の効果がこれです」
例のごとく、ジャックは右の手のひらを前に差し出し、集中する。そして、少しの静寂のあと、何もない手のひらに炎が姿を現した。
——ボッ!!
「ほぉ······」
ハイゼルは目を大きく見開いた。
「信じられんな······。君は熱くないのか?」
「はい。ミーナは少し熱を感じていると思いますが、俺は全く熱くありません」
「ミーナ君、術者がこれを使用する上で注意する点はあるのかね?」
「魔力の量を操る訓練が必要な事。また、使用する際に袖などが燃えないよう注意することです」
「······ふむ。それだけでいいのか?」
「はい」
ハイゼルは机に手をつくと、立ち上がり、窓の外を眺める。
彼の背中が見えると、ジャックは右手の炎を消した。
「······君の前でこんな事言うのは申し訳ないが、魔力なんてのはずっと人類の欠陥品だと思っていたんだ」
ミーナは表情を変えずに、彼の話を聞く。
「だが、今ここで、その炎を見て、全てが変わった。ミーナ君、君は本当に面白い子だ」
「ありがとうございます」
「確か······要望では、人を増やして欲しいということだったね? 私の見た感じだが、魔力を操作した経験のある人間の方が助かるのかな?」
「はい」
「ふむ。では、こちらでそのような人を探しておくよ」
「ありがとうございます」
ジャックは心の中で小さくガッツポーズをした。
「とは言っても、兵士に魔力の訓練などさせてこなかったからなぁ······今いる兵士の中で魔力をちゃんと扱える者は少ないかもしれん。だから、多少時間は掛かるものだと思っておいてくれると、こちらとしても助かるよ」
「わかりました」
「軍の訓練に、魔力の訓練を入れることも考えないといけなくなるか······どの時間に挟むべきかな······」
彼が独り言のようにぶつぶつと呟いていると、ミーナが口を挟んだ。
「恐縮ですが、まだ軍での実用化は難しい思われます」
「ん? それはまたどうして?」
「私達二人はドラゴンを間近で見ました。たとえ準備はしていても、アレ一体を討伐するには膨大な怪我人、下手をすれば死者が出ることも予想されます」
「ほう、被害に対しての対価が得られないと?」
「いえ、一体討ちとることが出来れば、きっと、一年は軍で使う事のできる血は採れるでしょう。ですが、人の命を天秤にかけてまで、手に入れるべきものなのかどうかが······」
「なるほど······」
ハイゼルは整えられた顎髭を触りながら、思案にふける。
「それと、恐れながらもう一つ」
「······なんだね?」
「ドラゴンの潜んでいた洞窟奥の入り口ですが、それもドラゴンの衝突により崩落してしまいました」
「······つまり、そこを掘り進むのにも、また人が必要になると」
「はい」
「そうか······」
彼は軽く肩を落とす。
「······ですが、魔法の可能性は信じてもらえたと思います」
「ああ。そこは確かに信じるよ」
「では、これからも研究は続けても問題ないということで、よろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だろう。これからも是非、研究に取り組んでくれ。ただ次は、リスクの少ない――新しい魔法を期待しているよ」
朗らかに笑って、彼は場を和まそうとする。
「はい。御期待に沿えるよう努めます」
報告が終わった二人は、中央部の内部、一階へと続く広場の階段を歩いていた。
「いやー、人生で一番集中したなぁ」
肩の荷が降りたジャックは、意気揚々としていた。
「そういえば、話の最後で言ってたアレってどういう事なんだ?」
「アレ?」
「研究を続けていいとかどうとか······」
「あぁ。あれは、ハイゼル司令官よりも上の人間に、設立の条件を出されていただけよ。最初に軍で使えそうな魔法が作れなきゃ、以降の研究は認めないって」
「なんだそれ」
「まぁ、気にすることないわ。すぐに実用化は出来ないけど、実際認めてもらえたようなものじゃない」
「そうだな」
肩の力が抜けたのか、ミーナもどこか安心した表情をしていた。
「ただ、前回の反省も踏まえて、もう少し簡単なのにしなきゃいけないわね」
「魔法をか?」
「魔法も、狩るモンスターもよ」
「あぁ、またあんなのと戦うってなったら、命がいくつあっても足りないからな」
「ええ」
すると急に、ミーナは立ち止まったかと思うと振り返り、今降りたばかりの階段を再び歩いていく。
「おい、どこ行くんだよ」
何も言わず戻っていく彼女を、ジャックは呼び止める。
「書庫よ。モンスターに関する文献をもう一度洗い直すの」
「前回の反省を考えてか?」
「そう」
「······じゃあ俺も行くよ。探したり運んだりするなら手は多い方がいいだろ?」
ジャックは小走りで、階段に足をかけていたミーナの所へ向かう。
彼が追いつき、並んで歩き始めた頃、彼女が口を開く。
「当然でしょ」
「当然ってなんだよ」
「私は"補佐"であなたを選んだのよ? 手伝って当然じゃない」
「······ったく、可愛くねえなぁ。たまには素直にありがとうでいいじゃんかよ」
「あら、そう?」
「そう」
「······ふーん」
これでこの会話は終わりだろう、ジャックがそう思っていると、ミーナは歩いたままジャックを見つめていた。
あまりに長い時間視線を感じたジャックは堪らず立ち止まり、口火を切る。
「······なんだよ」
すると、ミーナはあの、首を傾げた笑みを浮かべてジャックに言う。
「ありがとう。ジャック」
それだけ言うと彼を置いて、ミーナは先に階段の続きを登っていく。
残されたジャックは耳の後ろを掻いた。
「なんだよ、調子狂うなぁ······」
ジャックはそう呟いて、彼女の後を追いかけた。
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