ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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勇者パーティ現る②

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「ここね」

 木製の柵に囲まれた小さな村に彼らは辿り着いた。幸いな事に、村に着くまで魔物達と遭遇する事もなく。

 入り口付近で農作業をしていた老婆に、ミーナは尋ねる。

「すみません。積み荷の護衛する人を募集してると聞いて来たんですが」
「ああ! あんたら仕事引き受けてくれる人かい? ありがたいねぇ······。そんだったらあの一際大きい茅葺屋根あるだろ? あそこに村長がいるから、そこで話を聞いておくれ」
「わかりました。ありがとうございます」
「なに、こちらこそ来てくれて嬉しいよ」

 彼らは会釈をして、老婆の言う茅葺屋根の家へと向かう。

 その家は周りの家々と同じく、丸太をそのまま並べたような壁と、その上には茅を乗せた簡素な造りだった。

 扉をノックして「こんにちはー」と言い、ドアを開ける。中から何かを煮込んだような匂いが流れ、彼らの鼻を刺激する。

「いい匂いですねー」

 フィリカが鼻をくんくんとしていると、一人の老人が引き戸から現れた。

「誰だい? こんな辺鄙なトコにくるなんて」

 まだ初老ほどで足腰のしっかりした彼は、三人を見て訝しげに尋ねる。

「馬車がモンスターに襲われてると聞いて、ウィルドニアから来ました」
「ああ、そうでしたか! これはこれは失礼しました」

 彼は居住まいを正して、三人に頭を下げる。

「こんな所に足を運んでくれて嬉しいよ。募集をしたはいいけど、誰も来てくれないと思っていたからねぇ。——ありがとう」

 ミーナの右手を両手で取り、まるで拝むように何度も感謝をする。

「いえ。とりあえず、詳しい話を聞かせてもらえませんか?」
「ええ、勿論ですとも。······そうだ! 街から来たんだ、ここまで何も食べてないでしょう? ちょうど昼を作っていた所だから、良かったら食べながら話でも聞いてください」

 そう言って彼は立ち上がると、中へ入るように手招きして三人を促した。




「申し遅れました。私は村長の『ミゲル』です」

 天井からぶら下がった鉤には鍋が掛けられ、豚肉と村で取れた野菜、ハーブがその中で煮込まれていた。
 それを四方から囲む形で、お椀に入った料理を食べつつ、三人は話を聞いていた。

「一週間ほど前からですかね——急に、空から鷲のような爪を持った獣に襲われた、と命からがら逃げ帰った馭者から報告がありましてね······。その魔物はその鋭い爪で、仲間の馭者や馬を掴むと、大きな翼を広げ、どこかへ行ってしまったそうなんです。連れ去られた彼らは、今もまだ戻っておりません······」

 老人の言葉の語尾が弱くなる。

「ミーナ、知ってるか?」

 器を置いた彼女は、何かを思い出す仕草をする。

「恐らく······グリフォンね。肉食で馬や牛、何でも襲うと言われているわ。だからきっと、連れ去られた人達も、もう······」

 四人は顔を曇らせる。重い空気を紛らわせようとミーナが続ける。

「でも、この地方に現れるなんて初めて聞きました」
「ええ。私ども初めての事です······。きっと、住んでいた所の獲物が居なくなって、ここに来たのではないかと、私どもは考えておりますが······。ほら、熊や猪でも、食料がなくなると人里に現れると言いますし」
「そうなのかしらね······」

 囲炉裏の火を見つめて、彼女が考えていると、村長が口を開く。

「······それで、引き受けてくださるのでしょうか?」
「ええ、もちろんです」
「よかった······。ありがどうございます······!」

 白髪の短い髪をした彼は、深々と頭を下げる。

「今日、村の者に準備をさせ、明日、出発出来るように致しますので、今宵はコチラでお休みください」
「お気遣い、ありがとうございます」




 食事を終えた三人は、家を出て、村を見て回る事にした。

「何か気になるのか?」

 村長の家を出てからも、どこか腑に落ちない顔をミーナはしていた。

「······グリフォンは普通、山の洞窟に寝ぐらを作るのよ。そんな高低差のあるような山にも見えないし······。いったい何処から来たのかと思ってね」
「あの爺さんの言った通りじゃないのか?」
「だといいんだけれど······」
「グリフォンってたしか、基本群れで行動してるんですよね?」
「ええ、そうよ」
「もしあの村長さんの言う通り、人里降りてきた魔物なら、一つの群れをやっつけるまでが、私達の任務になるんですよね?」
「ええ、そうなるわね。じゃないとまた襲撃を受けてしまう可能性が高くなるからね」
「作戦とかは考えなくていいのか?」
「考えるも何も、集団で襲ってくる奴らを全て倒す、それ以外にないわ。——だから、私とジャックは敵を、フィリカは馬車を守るのをお願いね」

 ポケットから薬包紙を取り出したミーナは、それをフィリカに渡そうとした。だが、それを拒むように、彼女は自分の前で手を振る。

「わ、私、この魔法使ったことないですよ?!」
「大丈夫。敵が飛んで来たら、目の前に壁を作るつもりで炎を出せばいいから。出発する直前にでも飲んでおいてね」
「でも······」
「大丈夫よ。絶対に、私達が後ろには行かせないから」
「······わかりました」

 彼女は両手を差し出してその薬を受け取った。

「俺は、魔法無しか?」
「あなた、そんな魔力ないもの」
「その言い方地味に傷付くぞ······」
「戦ってる最中に炎使えなくなったなんてペース狂うでしょ? だったら初めから剣で戦うほうが、私はいいと思うけど」
「確かに······。まぁ、仕方ないか」
「そっ。頼むわよ、兵士さん」

 そう言うとミーナは、ポンっと彼の肩を叩いて何処かへ行ってしまう。

「ジャックさん大丈夫ですか?」
「どうだろうな······。剣の実戦は初めてだし、少し不安だけど······まぁ、やるしかないよな」
「······そうですね」

 不安なのは自分だけじゃない、と認識したフィリカは、渡された包みをカバンの中へと大事にしまった。




 ——次の日の朝。

 村の入り口には馬車が二台、彼らを待つように佇んでいた。

「二台なのね······。ちょっと予定が狂ったけど、まぁいいわ。私とジャックは前、フィリカは後ろよ」

 二人がコクリと返事をすると「フィリカ」とミーナが言った。

 「『コンタクト』をしておきましょう。万が一、後ろからの襲撃があった時にはすぐに連絡して頂戴」
「はい、わかりました」

 「じゃあ······」と言って、ミーナは手を差し出す。ここしばらくの彼女との練習を思い出して、フィリカも手を差し出す。
 だが、差し出した手に、フィリカが手を重ねようとしたその時、その一行は現れた。

「おい、なんだありゃ?」

 初めに気付いたジャックが、思わず声を漏らす。二人は『コンタクト』しようとしていた手を下げて、彼の視線の先を見た。

「なんですか······アレ······?」
「さあ······ねぇ······。仮装パーティかしら?」

 フィリカは珍しい物を見るような目で、ミーナは腕を組み、首をかしげながらそれを見ていた。

 彼らの視線の先に居たモノ。それは、黄金に輝く鎧に身を包む男と、その後ろから歩く複数の人の影だった。
 団体は、村へと続く最後の木陰を抜けた。太陽を背にした男の鎧がより一層、眩しく輝く。
 やがて、馬車付近まで歩いてきた彼らは、いきなりこんな事を口にした。

「その仕事、僕たちに任せてもらおうか」
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