ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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勇者パーティ現る③

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 出発を阻まれたジャック達は、村長の家へと来ていた。だが、その村長の話相手は、入り口で彼らに口を開いた、あの男である。

「僕達は、そこに居る彼らと同じように、馬車を護衛するために来ました」

「ほお。それはそれはありがとうございます」

 しかし、村長は浮かない顔をしていた。

「······ですが、私ども恥ずかしながら、これ以上のお金を出す事が出来ないのです」

 だが、男は顔色一つ変える事なく、それに答えた。

「それは構いません。しばらく、この辺りに居りたいとだけ思ってますので、少しの食事と寝る場所をお貸し頂ければ、それ以上は何も······」
「なんと! それでよろしいのですか!?」
「はい。報酬はここまで来てくれた、この方々に渡してください」

 と言って、ミーナ達三人を一瞥する。

「あ······ありがとうございます!!」

 村長は、目の前の男に深々と頭を下げる。
 その男の善意の言葉に、ジャック達も眩しさを覚える。

「何者だ? こいつ······」
「キラッキラッして見えますね······」
「聖人君子かしら······」

 三人が彼の発言に驚いている中、すぐ後ろに立っていた、槍を持つ巨乳の女が口を開く。

「いいのよ村長さん。彼は『勇者』として当然の事をしているだけだもの」

 『勇者』という言葉に三人は顔を見合わせる。

「だから、気にすることないのよ」

 ミゲルは再び頭を下げる。
 座る村長と話すため、少し屈んでいた彼女の、豊満な胸の谷間がより深くまで見える。

 ジャックは、それを一度見ると、隣にいるミーナの胸を比べるように見ていた。

「······しばくわよ?」

 その視線に気付いたミーナが彼を睨みつける。

「それじゃあ、少ししたら出発しましょう。いいですよね?」

 そう言って男は村長に同意を求める。

「ええ、いいですとも。よろしくお願いします」




 茅葺の家を出た彼らは、一緒に居たミーナ達に声をかけていた。

「すまないね。君達の仕事を奪う真似して」
「よっぽど自信があるのね」
「勿論だ。じゃなきゃあんなこと口走らないよ」

 言葉とは裏腹に、彼は優しい笑みを浮かべる。

「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕はイルム王国から来た『クレスタ』。······ほら、君らも自己紹介して」

 彼は仲間の四人にも、紹介するよう促す。

「槍使い。獣人の『ユーイ』よ」
「エルフの弓使い『シェリエ』です」
「ドワーフの錬金術士『コロボックル』です」

 だが一人、足から頭の先まで鎧に包まれた巨体の男は何も話さなかった。

「あぁ、彼は巨人族のガーディアン『グール』。寡黙な人間でね」

 大きな斧を持った彼は、その大きい身体を少し傾け、お辞儀だけをする。
 五人の紹介が終わると、ミーナ達も軽く自己紹介をした。

「ミーナよ。科学者をしてるわ」
「兵士のジャック」
「司書のフィリカです」

 それを聞いたユーイが思わず声を上げる。

「司書?! そんなのがこの仕事引き受けてるわけ?」
「ユーイ」
「それに黙ってたけど、ほら——」

 すると、前に出た彼女は、ミーナの胸を右手で軽く揉む。

「まだ子供じゃない。あなたたち子供はまだ家で寝てればいいのよ」

 後ろでフィリカが顔を赤らめ、胸を隠すように身体を背ける。だが、ミーナは、彼女から視線を逸らさず睨み続けていた。

 見兼ねたクレスタが、ユーイの肩を掴み、後ろへ引っ張る。

「やめないかユーイ。······彼女が失礼した。気を悪くしたなら謝るよ」
「······いいわ。それより仕事の話をしましょう」

 ミーナは服の左に出来た、服のシワを直す。

「戦うのはあなた方に任せていいのかしら?」
「ああ、もちろんだ。誰かが敵を見つけたら、大声で教えてくれればいい」
「そう。じゃあ私達がそれをやるわ」
「ん? それは別に誰でも——」
「あなた達より正確に早く伝えられるわよ?」

 クレスタ少し驚いて目を丸くする。

「······本当かい?」
「ええ」
「どうやって?」
「それは秘密よ」

 そこで、それまで黙っていたジャックが口を挟む。

「じゃあ俺らが前で、ミーナが後ろでいいよな?」
「ん? 別に私はどっちでもいいわよ」
「じゃあそういう事で決まりな」
「······それじゃあ、敵が現れるまでの事は君たちに頼むよ。それでいいかな?」
「ええ。後の事は任せるわ」
「ああ、任せといてくれ。じゃあ、よろしく。また後で」
「こちらこそ」

 三人に握手をしたクレスタは、仲間と共に馬車の方へと歩いて行った。

「出発までゆっくりしてましょ」

 そう言って彼女は、また何処かへと歩いていく。その後を追いかけるように、フィリカは走り出す。

「······勇者ねぇ」

 残されたジャックは不満げに、ボソッと呟いた。




 三十分後。各々、馬車の中で配置についていた。
 クレスタは馭者と最後の確認をする。

「もし奴らが現れたら、馬車を停めて後ろに下がっててください。後は僕達がやりますので」
「ああ。よろしく頼む」

 馭者は、クレスタが中に入るのを確認すると馬に跨る。

「では、出発する」

 男が脚を入れると馬は進み出し、ガタガタと音を立てながら、馬車は村を後にした。

 出発して間もない頃、フィリカは外を監視しながら、隣にいるジャックへと話しかけた。

「ジャックさん。なんであの時、あんなこと口にしたんですか?」
「あんな事?」
「コンタクトの事ですよ。前がどうで、後ろがどうとか。どっちでもいいじゃないですか」
「······何でもいいだろ」

 だが、彼の視線は無意識に、奥に座るクレスタの方へと向いていた。

「······あの人が前に行くと予想してたんですね」
「だったらなんだよ」
「嫉妬ですか? 珍しいですね」

 彼女の言葉にジャックは何も答えなかった。

「ふーん······別にいいんですけど」

 そう言って、フィリカはまた空を見上げる。二人の間に沈黙が流れる。

「······あと任せるわ」

 ジャックはそう言って、彼女が返事をする前に、荷台の奥へと入って行った。




 一番奥へと向かうジャックに、クレスタが声を掛ける。

「彼女、一人にしていいのかい?」

 彼の方を見る事なく、ジャックは袋の奥へと座る。

「ああ。今回、俺は用無しらしい」
「そうか」

 薬草の袋を挟んで、二人は座っていた。
 ジャックが黙って、向かいの木目を見ていると、袋越しに声がした。

「君は——」

 特に話す気もないジャックだが、彼の言葉が耳に入ってくる。

「君は何故、魔物が絶えないか······考えた事あるかい?」
「いや······」

 ぶっきらぼうに短く、彼は答えた。

「そうか······。まぁ、僕らが旅をする理由になるんだが······僕らは、ただモンスターを倒してるだけじゃないんだ。モンスターが何処から来て、何処で増え続けるのか、それを突き止めるために、世界中を回っているんだよ」
「この世界の何処かに、その根源があるとでも?」
「僕はそう考えている」
「魔物だって生物だろ? 俺らと同じように、住処を作って増えてるんじゃないのか?」
「確かに一部の魔物はそうだろう。馬や家畜同様、種類も多くない、そんな奴らだ。だけど、僕らは世界各地を回ってはいるが、いつまで経っても新しい魔物に出会い続けるんだ。——もし、君の言うように魔物も住処を作って、そこで生き続けているというのならば······これはとても奇妙な事だと、そう思わないかい?」

 想像を超える彼の言葉に、ジャックは絶句する。

「つまり、この世界の何処で」

 ――その時、二人の会話を遮って、フィリカが大声で叫んだ。

「ジャックさん! 後方からグリフォンが六体、群れでやって来たそうです!」

 フィリカの言葉を確かめるようにクレスタは外を覗いた。

「ああ、本当だ。はやいお出ましだね······。行くよ、シェリエ」
「はい」

 やがて馬車が止まると、二人は中から勢いよく飛び出した。

「ジャック······だったかな? 念のため、そこにいる馭者を守ってくれるかな?」
「ああ」

 ジャックも中から出て、剣を構える。

「フィリカはそこで伏せてろ」
「はい!」

 少しして、前方の隊とミーナ達が合流をする。

「大丈夫か?」
「ええ、この人が少し焦って転んだくらいよ」

 馭者の男は擦りむいた膝を見せ、照れるように笑っていた。

「あとは、あいつらに任せるか······」

 そう言ってジャックは、敵を迎え撃とうとする、彼らの背中を見た。
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