ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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東雲(しののめ)①

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 ウィルドニアの街、南の石橋には、モンスターの大群が押し寄せて来ていた。それを迎え撃つ討伐隊。
 そしてジャックは、その討伐隊に加わり、敵達と戦っていた。

「いいのか、ジャック。こんな所にいて」

 本来、一緒に着任するはずだった兵士が、敵の方を見ながらジャックに話かける。二人は、隙を作らないように互いに背中を預け、魔物と対峙していた。

「あぁ。今日俺んとこはお休みなんだよ」

 今日、ミーナがグリフォン回収部隊に同行しているため、彼は休暇という事になっていた。

「じゃあ、尚更おかしいだろ」
「いいんだよ。どうせ家に居ても体なまっちまうし。······それに!」

 ジャックは、襲ってきた狼のモンスターを斬り払う。

「余計な事も考えないで済む」
「何があったかは知らないが、怪我はするなよ。俺の負担が大きくなるんだからな」
「それはお互いさまだろ」

 敵の増援が橋の向こうから見えてくる。

「まぁ、後で話聞かせろよ。今はそんな余裕なさそうだからな」
「あぁ、また後でな」

 二人は、他の隊と陣形を整えるため、一旦後ろへと下がった。




 それからしばらくして、橋の上には狼の屍があちらこちらに散らばっていた。怪我人が些か出たが、彼らは無事勝利を収めていた。

 ジャックと先程の兵士は、橋の欄干にもたれ、戦いの疲れを癒していた。

「意外と······まだ戦えるんだな、ジャック」
「お前もな」

 二人は拳を付き合わせる。

「毎日こんなんなのか?」
「いや、今はちょっと特別だ。あいつらの繁殖期に入ったんだと。住処周辺じゃ食料が足りないからって、こうして、栄養価の高い人様を群れで襲いに来るらしい」

 男は橋の上で転がる狼達を見る。
 侵攻された際に、と後方で構えていた兵士達が、血の匂いが漂う中、その屍を片付けていた。

「あれはどうするんだ?」
「あれは、一部は食料と衣類に。他は全部森に捨てられるよ。またそれを魔物が食って、処理してくれるんだ」
「へぇー······」

 ——本来なら自分はこうしていたんだろう。いや、それとも、あの兵士のように片付ける側の人間になっていたのだろうか。

 ジャックは、自分がここの兵士ではない事を、改めて思い知る。

「そういえば、ムスリカ村での活躍聞いたよ。グリフォン倒したんだって?」
「ん? あ、あぁ」
「んだよ、歯切れ悪いな。——ああ、もしかして、こんなとこに居るのもそれが原因か?」
「······勘がいいな」
「お前の反応があからさまなだけだろ? ——んで、何があったんだ?」

 男は面白そうにジャックに尋ねる。それとは裏腹にジャックは冷めた顔をする。

「······勇者に会った」
「は?」
「だから、勇者に会ったんだよ」

 男は小馬鹿にしてジャックを笑った。だが、ジャックの表情が変わらないのを見て、男はすぐにそれを止める。

「悪い······。でも勇者って、本の中だけの存在だと思ってたぞ? そんなやつ本当にいるのか?」
「あぁ。金色の鎧着ててな······。——お前、グリフォンって戦った事あるか?」
「あぁ、あるよ。確か······遠征した時だったかな。その時相手は四体だったが、三十人で倒すのがやっとだったんだよなー。大怪我する奴もいてさ、そりゃ大変だったよ」

 彼はどこか自慢気にその事を話す。
 だがジャックは、より考え込む様に手を見ては、指をこする。

「······にんだ」
「ん? 何だって?」

 少し興奮気味の兵士は聴き取れなかったのか、小さく呟くジャックの言葉をもう一度確かめる。

「······五人だよ。そいつらはたった五人だった」
「はぁ?」
「相手は六体いたんだ。三体は仲間が倒して、勇者は一人で······二体倒してた」
「いやいやいや!! 俺ら三十人がかりで何とかなった相手だぞ!? 嘘だろ!?」
「······ホントだよ」

 最初は驚いていた彼だが、ジャックの反応を見てそれが真実だと確信すると、落胆するでもなく、大げさに驚くでもなく、ただ唖然とするように言葉を漏らしていた。

「はぁー······、信じらんねぇ······。——ん? でも待てよ······一体足りなくないか?」

 指を折って、男は数を数え直す。

「······残りの一体は、俺の上司が倒した」
「はぁ!? あの髪の赤い子がか!?」

 ジャックはコクリと頷く。
 自分より華奢な身体を持つ少女がグリフォンを倒すという、にわかに信じがたい出来事に、男もすっかり言葉を失っていた。

「だからさ、なんか、自信がなくなってんだ······。俺なんかに護衛が務まるのか、って」

 ジャックは空を見上げる。

「珍しいな、お前がそんな弱音吐くなんて。······まぁ、俺が話で聞いてもこれだけショック受けてんだ。それを目の前で見たお前は相当なもんだろな······」

 男は、石橋の下で流れる川を見ていた。
 ちょうど通りかかった一艘の船が、水面に波を作り、街の方まで進んでいく。
 きっとあの人達は、この上の光景を知る事はないんだろう、と、男と胸中に浮かべる。

 男が感傷に浸っていると、ジャックが立ち上がり、隣にいる男と同じように、欄干に腕を引っ掛ける。

「話したらちょっと楽になったよ。ありがとな、スライ」
「なに、気にすんな」

 少しだけ晴れた顔をしたジャックを見て、スライの気も和らぐ。

「んじゃ、俺そろそろ行くわ。城戻って訓練しようと思う」
「そうか、頑張れよジャック。——またな」
「おう。またな」

 そう言って軽く手を挙げると、ジャックは街の入り口へと歩いて行った。




 それから三日後。ジャックはミーナに呼び出され、あの研究部屋へと来ていた。
 
「んで、何で呼ばれたんだ? 本を運べってか?」
「違うわよ。カヤクダケを取りに行くの」
「カヤクダケ?」
「そう。体内に火薬を貯めて、敵が来ると、それを爆発させるモンスターよ。爆発と同時にトゲを飛ばすから、今回は特に気を付けなきゃいけないわ」
「トゲ?」

 その時、数冊の本を持ったフィリカが部屋に入ってくる。

「ミーナさん。持ってきましたよー」
「ちょうど良かったわ。ありがとう、フィリカ」
「いえいえ」

 フィリカは二人の前の机に、どさっと本を置く。いずれもモンスターの文献に関するものだ。

「確か······この本だったかしら? ······あったわ」

 ——『カヤクダケ』キノコ型のモンスター。暗闇に生息し、自立歩行をする。
 敵意を感じると頭の傘が爆発し、そこに生えたトゲを飛ばす。
 トゲには痺れ作用があり、一本刺さると、立てなくなるほどの麻痺に襲われる。
 カヤクダケは人を襲うモンスターではないため、対象が痺れている間に、別の場所へと逃走する。
 トゲは何本刺さっても、死に至る程の毒ではないが、数日間その痺れに見舞われてしまうため、そこを別のモンスターに食われるなど二次的被害に遭い、命を落とすケースも少なくはない。

「キノコなのに歩くって、どんなんだろうな······」
「気になりますね······」
「あんたらね······トゲのほう気にしなさいよ······」

 ミーナは呆れた顔で二人を見る。

「でも、こいつらどの辺にいるんだ? いま街の外、狼がウジャウジャいて危ないぞ」
「そうなんですか?」
「みたいね。——でも、そこはちゃんと考えてあるわ」

 ミーナは街の地図を取り出し、別の机に大きく広げる。そして、彼女は右の方を指差し、二人に説明する。

「ここ。街の東にある炭鉱なんだけど、東地区にある地下トンネルが、そこに繋がってるの」
「へぇー。そんなトコ、東地区にあったんだな······」
「あっ! もしかして、石橋の中に線路があるっていう、あそこですか?」
「そうよ」
「フィリカも知ってるのか?」
「ほら何年か前、街のあちらこちらに、トンネル探検ツアーって貼り紙されてたじゃないですか。覚えてません? 私、それに参加して、記念にトロッコ乗せてもらったんですよー」
「······あぁ! 子供限定で募集してたアレか!?」
「そう! それです!」
「あー、思い出した! それでミーナも知ってたのか。そういえば昔、俺に『トロッコ乗ったんだ~!』ってはしゃいでたもんな」
「ちょっと······」
「えっ! 本当ですか!? ミーナさんがトロッコで······」

 フィリカが、幼い頃のミーナを想像する。

「可愛いですね······」
「や、やめなさい······」

 ミーナは、ほんのり頬を赤らめていた。

「と、とりあえず——今は石炭を運ぶ為に使われてる、そのトロッコで、炭鉱に行くってことよ」
「······なるほどね。でも、よく許可取れたな」
「前にスコップやらツルハシやら、新しい鉄を使用した、道具の新調を手伝ってくれたからお礼に、って」
「あぁ、そういえばハイゼル司令官も、前に似たような事言ってたな」
「ミーナさんの積年の賜物ですね」
「だな」

 彼女は、少しだけ嬉しそうな表情を見せると、また気を引き締めて話し出す。

「それで、明日は鉱夫の人が、途中まで道案内をしてくれるわ。ただし勿論——」

 彼女は、バンっと本の上に手を置く。

「油断は禁物よ。それに、送り迎えまでしてくれるんだから、何も手に入らないだなんて、みっともない事は許さないわよ。——だから、今からしっかり下調べをして明日に備えるの。いい?」
「おう」「はい!」
「じゃあ、途中、気になることがあったらどんどん言って頂戴」

 それから三人は本を囲んで、互いに敵を分析し、特徴を確認し合いながら、作戦を話し合った。
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