ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―

浅山いちる

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東雲(しののめ)②

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 ——次の日。

「いやー、ミーナちゃんのおかげで、道具を買い換える費用が節約できて助かってるよー」
「いえ、そんな。また困った事があれば何でも言ってください」
「ハハハ、ありがとね」

 ツナギの中に、タンクトップを着た男の後ろを、三人は歩いていた。

「こっちが、そのモンスターのいる道だよ」

 一本のロープが左右へと伸び、その道への進入を阻むように張られていた。

「僕らはこっちの道で採掘してるから、終わったら声を掛けてくれ」
「わかりました」

 もう一方の道へ歩いて行こうとした鉱夫が、何か思い出したように三人に問いかける。

「そうだ。ミーナちゃん達、ランタン以外の火、使うことあるかい?」
「えっ、使っちゃマズいんですか?」
「ダメなことはないけど、炭鉱はガスも出てるトコがあるし、火を使うと爆発する事もあるからね」
「爆発!?」

 フィリカが思わず声を上げる。

「あぁ、ごめんごめん。驚かすつもりじゃないんだよ。その道は、僕らの誰かが一度は歩いてるから、むやみに壁を壊さない限り大丈夫だ。ただ、もう一つ気を付けて欲しい事があってねー······」
「酸素ですね」
「そう。あんまり大きな火を使うと、酸欠を起こして倒れちゃう事があるから。それだけは気を付けて欲しいな」
「わかりました」
「んじゃ、気を付けてね」

 そう言って、灯りを持った男は暗闇へと消えていく。

「じゃあ、今回、ミーナの魔法は使えないって訳か······」
「そう思っておくことね。でも元々、燃やしちゃったらモンスターから何も取れないわよ?」
「あぁ、そうだった。忘れてたよ」
「まぁ、ドラゴンの時と違って、私たちでも仕留められるんだから、簡単な方よ」
「手段は何でもいいんだな」
「燃やす以外わね」
「オッケー」

 三人はロープをくぐり、奥へと進んで行った。



「それじゃあ、フィリカ。『サーチ』お願い」
「了解しました!」

 フィリカは目を閉じ、両手を合掌する。そして、目を見開くと、腕を左右に大きく広げた。

「サーチ!」

 フィリカは自身の魔力を周囲へ飛ばした。

「······ノリノリだな」
「こういうのは形から入りませんと」
「うーん······そういうもんか?」

 昨日話し合っている内に、フィリカの、魔力を飛ばして対象の位置を知る魔法を、ミーナは『サーチ』と名付けていた。

「だって、ミーナさんにこの魔法、名付けてもらったんですよ? こんな嬉しい事はありませんよー」

 ウキウキとしたフィリカを先頭に、三人は歩き出す。

「まぁ、嬉しいんならいいんだけどさ」
「ちなみに、私の炎の魔法は『インフェルノ』っていうのよ?」
「なぁ、名付けてもらうならまだしも、自分で言うとちょっと恥ずかしくないか?」
「そうかしら? 私は好きだけど」
「自分だけの技! って感じでいいですよね!」
「そうそう」

 自分の魔法を持つ彼女らは楽しそうに話す。

「······じゃあ、あの実。あの実で作った、魔法吸収する液体はどうするんだ?」
「あれだって、もう決まってるのよ?」
「えっ! そうなんですか!? 何て言うんですか? 教えてください!」
「いいわよ、聞きなさい」

 立ち止まり、ミーナは、コホンと一回咳をする。そして二人は、彼女の出す言葉を固唾を飲んで見守っていた。




「············『バキューム』よ」



『えっ?』

 それを聞いた二人は思わず、固まった。突如訪れた沈黙が、ミーナの身体を襲う。

「えっ、な、な、なによ······」

 予想外の反応にミーナは戸惑っていた。
 ジーッと黙って彼女を見ていた二人だったが、フィリカと目を合わせると、先にジャックが口を開いて胸中を吐露する。

「いや、『バキューム』ってさ······どっちかと言うと······空気じゃん? サーチ、インフェルノ、って来て、ここで『バキューム』って······普通くる?」
「風で吸い込む魔法ならアリですけど······。あの液体にコレは······流石にないですよね······」

 フィリカはすっかり肩を落としていた。

「ちょっと! フィリカまでそんなこと言うの!? 私、ここ二、三日、寝る前に必死で考えたのよ!?」

 ミーナの想いとは裏腹に、冷たい空気が坑内を漂う。

「お前······何にでも必死になるんだな······。なんか俺、哀しくなっちゃったよ······」
「私もです······。でも、ミーナさんも頑張るほう、間違える事あるんですね······なんかホッとしました······」
「そんなとこでホッとしないで!」
「行きましょう······」
「あぁ······」

 二人はミーナを置いて歩き出す。

「ちょっと! 待ちなさいよ!」

 怒りながらも二人の後を、彼女は付いていく。

「じゃあ、いいわよ! 今度、もっと驚くような良い名前考えてきてあげるわ!」
「そんなムキにならなくても······。別に液体だし······『リキッド』とかで良いんじゃないのか?」
「あぁ、いいですね! その前に、吸わせた魔法名とかつけるのはどうです、ミーナさん?」

 彼女はそれまで不満な顔をしていたのだが

「インフェルノ······リキッド······。なによ······いいじゃない」
「いいのかよ······」

 少し不貞腐れながらも、それを気に入った彼女は、機嫌をすっかりと取り戻していた。

「やっぱ、名前がカッコよく決まるといいわね」
「ですねー」
「ジャックに、私のが負けたのは癪だけど」
「アレには俺も負けねえよ」
「ふん。まぁ、いいわ。今回の所は勝ちを譲ってあげる」
「なんだよ、一番気に入ってるくせに······」

 ジャックは、呆れながらも楽しんでいた。

「ミーナさん。これからもたくさん魔法増やして、これやってたくさん名前を付けていきましょうね」
「ええ、忘れられないような良い名前を一緒に付けましょう!」
「さっきのは忘れられないけどな」

 ミーナがジャックの思いっきり叩く。

「そしていずれ、私達の魔法を世に知らしめるの!」
「はい!」
「そして、私達の名前は世界に名を刻むのよ!」
「はい!!」
「もはや目標変わってるし······」

 そんな事を言いながら、三人はゆっくりと坑内を歩き続けていた。
 その時、前を歩くフィリカの足が急に止まった。

「待って下さい」

 声を潜めた彼女は、曲がり角を指差して二人に、見たものを伝える。

「そこの陰に何か居ます。キノコっぽい形に見えますから、恐らくモンスターかと」
「ようやくお出ましね。じゃあ、昨日話した通りにいくわよ?」
「ああ」「はい」

 前にいたフィリカと、ジャックの位置が入れ変わる。
 そしてジャックは、背中に担いでいた盾を構えて、いつでもいける、と二人に合図をした。
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