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東雲(しののめ)⑤
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腰に剣を携えたジャックは、走ってミーナに合流する。
「なに、フィリカをよろしくって言ったのに、結局あんた来たの?」
「そのフィリカに追い出されたんだよ」
「あら、そう。可哀想に」
「可哀想だなんて思ってないだろ」
ジャック達が城門を出ると、右側の壁に寄り添うように二人の男女がいた。数日前に見たあの姿と、何も変わらない格好をしている。
「待たせて悪いわね。お仲間は······彼女だけかしら?」
「ああ。他の皆は街を見てるよ。後で、宿で落ち合う予定なんだ」
「あら、そう」
クレスタは一度、ジャックの方をちらりと見ると軽く手を挙げる。それを返すようにジャックも手を挙げる。
彼の隣にいたエルフのシェリエが、きょろきょろと辺りを見渡している。
「今日は······眼鏡のあの子は居ないんですね。お仕事中ですか?」
二人は目を合わせては、少し顔を曇らせ、気まずそうに話す。
「フィリカは今、医務室なの。私のせいで、モンスターの攻撃を受けちゃってね······」
「まぁ、大丈夫なんですか?」
「カヤクダケのトゲを受けただけだから、命に別状はないけど、まだ少し痺れが残ってるからベッドの上で休んでるわ」
「そうですか······。でも、命に関わらなくて何よりです」
「ありがとう、フィリカを心配してくれて」
「なに、一緒に戦った仲じゃないですか」
透き通るような白い肌の彼女は、この曇り空でも全く色褪せないほどの眩さを持っていた。
「とても不審者扱いされるとは思えないわね」
「ホントに」
雑踏に消されそうな程の小さな声で、二人はついて呟くと、その会話が聞こえたのか、シェリエはそれに補足するように一言付け加える。
「あら、門兵さんに止められたのはクレスタさんだけなんですよ?」
「えっ? そうなのか?」
「ん? あぁ。初めて来る街では僕だけ何故か声を掛けられるんだ。勇者だからかな?」
「違うだろ絶対」
「そうですよ。グールさんだっていつも止められてるんですよ?」
「そうなのかい?」
クレスタはいつも自分が先頭にいる為、仲間も止められている事を知らなかった。
「まぁ、そんな鎧じゃあ、仕方ないわよねぇ······」
ミーナが、金色に輝く鎧を見ながらそれを口にすると、シェリエは、なぜ彼がこの装備をしているのかを教えようとする。
「でも、この鎧は鎧で、凄いんですよね? クレスタさん」
「あぁ、熱にも冷気にも強く、打撃、斬撃、酸、あらゆる攻撃に対して強いんだ。そして何より、見た目以上に軽いんだ」
「へぇー。なんかさっきの会話の後だと、すごい胡散臭く聞こえるけど······それが本当ならすごいな」
「ええ」
二人は興味深そうに、じっくりとその鎧を見ていた。
「もう、本当ですよ。私たちが目の前でいつも見てるんですから」
上品だけど嫌味を感じさせず、むしろ可憐さを感じさせるように口元を隠して笑うシェリエ。
「まぁ、あんたがそこまで言うんだから、本当なのかね······」
牙を抜くような彼女の笑顔は、ジャックにも通用していた。
ジャックは前屈みになっていた身体を戻して、腕を組む。
「そんなすごい鎧があるものなのね」
「ある集落で代々伝わる鎧らしくてね。その集落を助けた時にお礼に、と貰ったものなんだ」
「でも、そのおかげでいつも呼び止められるんだろ? 有り難いのか有り難くないのか······分からないな」
「僕は目立つのが好きだからね。有り難さしかないよ。もちろんね」
「じゃあ、あんたにピッタリの装備だな」
「だろ?」
話が一段落した所で、ミーナは本来の用件を聞き出す。
「それで、今日はどうしたのかしら? わざわざ鎧を見せに来たわけじゃないんでしょ?」
「なに、ちょっと遊びに来ただけだよ」
「ふーん······。軍の機密に関わるとこ以外は自由に入れるから好きにしてって」
「キミの炎についての場所は?」
「残念ながら機密よ」
「そうか、残念だよ」
「まぁ、フィリカさんに会っていきましょうよ」
「そうだね」
そうして四人は門を越え、石畳の道を通り、フィリカの居る部屋を目指す。
だが、城の中に入る手前、クレスタが右の庭を指差し、ミーナに尋ねる。
「そっちは何があるんだい?」
「兵士の訓練場よ」
「ふーん······。ちょっと見てってもいいかい?」
彼は三人に許可を得るように尋ねる。
「今は誰も訓練してないし、何もないぞ?」
「構わないさ」
「よく分かんないけど、それでいいなら行きましょ」
ジャックとミーナは先に歩き出し、訓練場へと向かう。
まだ歩き出さないクレスタ。
その隣でシェリエが不安そうな顔で呟く。
「お願いですから、見るだけにしてくださいね?」
クレスタは少し微笑むだけで、何も言わなかった。
訓練場の上空には、先程よりも重たい雲がこちらに押し寄せてきていた。
整備された土のフィールド以外、何も無いその場所を四人は歩いていた。
「本当に何もないんだね」
「ここは訓練生や兵士が、身体をトレーニングしたり、模擬戦をしたりする所だからな」
「あんたも、時々ここで何かやってるわよね」
「あぁ」
顎に手を当て何かを考えるクレスタ。
「へぇー······模擬戦ねぇ······」
彼は暫くそうしていると、腕を下ろし、ジャックに話しかける。
「まぁ、ここでもいいか」
「ん?」
「本当の事を言うとね······実は今日、キミに会いに来たんだ。なぁ? シェリエ」
「は、はい······」
「······なんで俺に?」
ミーナならまだしも、彼らが自分に会いに来る理由がジャックには分からなかった。
「ただね、話したい事はあったんだけど······その前にジャック。ちょっと僕と試合してよ」
「はぁ? なんで俺がお前と試合しなきゃいけないんだよ」
「いいだろう? 別に。よくココでやっていることなんだろう?」
「いや、そうだけどさ。何もいま——」
「それで」
ジャックが全てを言い終える前に、彼は口を開いた。
「僕が勝ったら、彼女をもらう」
あまりに突然の事に、三人は言葉を失う。
「ちょ、ちょっとクレスタさん。それは私も聞いてないですよ!?」
「ごめん、シェリエ。少し気が変わったんだ」
彼女の身体を押しのけて、一歩前に出た彼はジャックに尋ねる。
「それで、どうなんだい?」
「ジャック、相手にしなくていいわよ」
ミーナも元より行く気が無いことを示して、彼を止めようとする。だが、
「いや······なんでそんな勝手に決めるんだよ。そもそも、誘いたいのはミーナだろ? もっかい直接ミーナに聞けばい——」
「負けるのが怖いのかい?」
ジャックの指先がピクリと動く。
その一瞬の緊張を、クレスタは見逃さない。
「なんだ······怖いだけか」
「あぁ?」
彼の言葉を聞いたジャックは、目つきを鋭くして睨みつける。だが、彼は全く物怖じせず、ジャックを挑発し続ける。
「つまり、彼女を失うのが怖いんだろ? 僕は強い。キミじゃ勝てない。そう······キミは僕より圧倒的に弱いのが——明白だから」
「ちょっとクレスタさん! いくらなんでも言い過ぎで——」
その時、金属の擦れる音が響く。
ジャックは腰に携えていた剣を引き抜いていた。
「ジャックさん······」
「いいよ······やってやる。俺だってホントの事言うと、ずっとお前が気に食わなかったんだ」
「ちょっとジャック! あんたまで何言って——」
「じゃあ決まりだ」
不敵な笑みを浮かべるクレスタ。
彼はフィールドの真ん中まで歩くと、脇に添えていた剣を引き抜いた。
右手に剣を持ったままのジャックも、彼の向かいへと、ゆっくり歩いて行く。
そこに南地区の報告に来ていたスライが、建物角に映るジャックを見つける。
「おーい、ジャック。なにして——」
だか、彼は途中で呼び掛けるのをやめる。
どちらにしろ彼の声は風の音で掻き消され、届くことはなかったのだが。
剣を構えるジャック。その向かいで同じように剣を構える、黄金の男。
その者が誰かを察した彼は、建物の陰からそれを見守る。
対峙する二人。
「僕が憎いんだろう? 模擬戦とは言わず、本気で殺しに来なよ」
「あぁ。その減らず口、二度と開けないようにしてやるよ」
シェリエは両手を胸の前で組んで、心配そうに二人を見つめていた。
その隣ではミーナが、冷静な顔をして腕を組んでいる。だが、その腕の先は固く、自身の服を強く握り締めていた。
ポツポツと雨が降り始める。
乾いた地面が、黒へと染まっていく。
「早いとこ終わらせようか。ジャック」
「あぁ、そうだな」
強風が吹く中、全く動かない二人。
剣の柄から垂れる水滴。
それが地面に触れる刹那、
飛ぶように強く、二人は前に踏み出していた。
「なに、フィリカをよろしくって言ったのに、結局あんた来たの?」
「そのフィリカに追い出されたんだよ」
「あら、そう。可哀想に」
「可哀想だなんて思ってないだろ」
ジャック達が城門を出ると、右側の壁に寄り添うように二人の男女がいた。数日前に見たあの姿と、何も変わらない格好をしている。
「待たせて悪いわね。お仲間は······彼女だけかしら?」
「ああ。他の皆は街を見てるよ。後で、宿で落ち合う予定なんだ」
「あら、そう」
クレスタは一度、ジャックの方をちらりと見ると軽く手を挙げる。それを返すようにジャックも手を挙げる。
彼の隣にいたエルフのシェリエが、きょろきょろと辺りを見渡している。
「今日は······眼鏡のあの子は居ないんですね。お仕事中ですか?」
二人は目を合わせては、少し顔を曇らせ、気まずそうに話す。
「フィリカは今、医務室なの。私のせいで、モンスターの攻撃を受けちゃってね······」
「まぁ、大丈夫なんですか?」
「カヤクダケのトゲを受けただけだから、命に別状はないけど、まだ少し痺れが残ってるからベッドの上で休んでるわ」
「そうですか······。でも、命に関わらなくて何よりです」
「ありがとう、フィリカを心配してくれて」
「なに、一緒に戦った仲じゃないですか」
透き通るような白い肌の彼女は、この曇り空でも全く色褪せないほどの眩さを持っていた。
「とても不審者扱いされるとは思えないわね」
「ホントに」
雑踏に消されそうな程の小さな声で、二人はついて呟くと、その会話が聞こえたのか、シェリエはそれに補足するように一言付け加える。
「あら、門兵さんに止められたのはクレスタさんだけなんですよ?」
「えっ? そうなのか?」
「ん? あぁ。初めて来る街では僕だけ何故か声を掛けられるんだ。勇者だからかな?」
「違うだろ絶対」
「そうですよ。グールさんだっていつも止められてるんですよ?」
「そうなのかい?」
クレスタはいつも自分が先頭にいる為、仲間も止められている事を知らなかった。
「まぁ、そんな鎧じゃあ、仕方ないわよねぇ······」
ミーナが、金色に輝く鎧を見ながらそれを口にすると、シェリエは、なぜ彼がこの装備をしているのかを教えようとする。
「でも、この鎧は鎧で、凄いんですよね? クレスタさん」
「あぁ、熱にも冷気にも強く、打撃、斬撃、酸、あらゆる攻撃に対して強いんだ。そして何より、見た目以上に軽いんだ」
「へぇー。なんかさっきの会話の後だと、すごい胡散臭く聞こえるけど······それが本当ならすごいな」
「ええ」
二人は興味深そうに、じっくりとその鎧を見ていた。
「もう、本当ですよ。私たちが目の前でいつも見てるんですから」
上品だけど嫌味を感じさせず、むしろ可憐さを感じさせるように口元を隠して笑うシェリエ。
「まぁ、あんたがそこまで言うんだから、本当なのかね······」
牙を抜くような彼女の笑顔は、ジャックにも通用していた。
ジャックは前屈みになっていた身体を戻して、腕を組む。
「そんなすごい鎧があるものなのね」
「ある集落で代々伝わる鎧らしくてね。その集落を助けた時にお礼に、と貰ったものなんだ」
「でも、そのおかげでいつも呼び止められるんだろ? 有り難いのか有り難くないのか······分からないな」
「僕は目立つのが好きだからね。有り難さしかないよ。もちろんね」
「じゃあ、あんたにピッタリの装備だな」
「だろ?」
話が一段落した所で、ミーナは本来の用件を聞き出す。
「それで、今日はどうしたのかしら? わざわざ鎧を見せに来たわけじゃないんでしょ?」
「なに、ちょっと遊びに来ただけだよ」
「ふーん······。軍の機密に関わるとこ以外は自由に入れるから好きにしてって」
「キミの炎についての場所は?」
「残念ながら機密よ」
「そうか、残念だよ」
「まぁ、フィリカさんに会っていきましょうよ」
「そうだね」
そうして四人は門を越え、石畳の道を通り、フィリカの居る部屋を目指す。
だが、城の中に入る手前、クレスタが右の庭を指差し、ミーナに尋ねる。
「そっちは何があるんだい?」
「兵士の訓練場よ」
「ふーん······。ちょっと見てってもいいかい?」
彼は三人に許可を得るように尋ねる。
「今は誰も訓練してないし、何もないぞ?」
「構わないさ」
「よく分かんないけど、それでいいなら行きましょ」
ジャックとミーナは先に歩き出し、訓練場へと向かう。
まだ歩き出さないクレスタ。
その隣でシェリエが不安そうな顔で呟く。
「お願いですから、見るだけにしてくださいね?」
クレスタは少し微笑むだけで、何も言わなかった。
訓練場の上空には、先程よりも重たい雲がこちらに押し寄せてきていた。
整備された土のフィールド以外、何も無いその場所を四人は歩いていた。
「本当に何もないんだね」
「ここは訓練生や兵士が、身体をトレーニングしたり、模擬戦をしたりする所だからな」
「あんたも、時々ここで何かやってるわよね」
「あぁ」
顎に手を当て何かを考えるクレスタ。
「へぇー······模擬戦ねぇ······」
彼は暫くそうしていると、腕を下ろし、ジャックに話しかける。
「まぁ、ここでもいいか」
「ん?」
「本当の事を言うとね······実は今日、キミに会いに来たんだ。なぁ? シェリエ」
「は、はい······」
「······なんで俺に?」
ミーナならまだしも、彼らが自分に会いに来る理由がジャックには分からなかった。
「ただね、話したい事はあったんだけど······その前にジャック。ちょっと僕と試合してよ」
「はぁ? なんで俺がお前と試合しなきゃいけないんだよ」
「いいだろう? 別に。よくココでやっていることなんだろう?」
「いや、そうだけどさ。何もいま——」
「それで」
ジャックが全てを言い終える前に、彼は口を開いた。
「僕が勝ったら、彼女をもらう」
あまりに突然の事に、三人は言葉を失う。
「ちょ、ちょっとクレスタさん。それは私も聞いてないですよ!?」
「ごめん、シェリエ。少し気が変わったんだ」
彼女の身体を押しのけて、一歩前に出た彼はジャックに尋ねる。
「それで、どうなんだい?」
「ジャック、相手にしなくていいわよ」
ミーナも元より行く気が無いことを示して、彼を止めようとする。だが、
「いや······なんでそんな勝手に決めるんだよ。そもそも、誘いたいのはミーナだろ? もっかい直接ミーナに聞けばい——」
「負けるのが怖いのかい?」
ジャックの指先がピクリと動く。
その一瞬の緊張を、クレスタは見逃さない。
「なんだ······怖いだけか」
「あぁ?」
彼の言葉を聞いたジャックは、目つきを鋭くして睨みつける。だが、彼は全く物怖じせず、ジャックを挑発し続ける。
「つまり、彼女を失うのが怖いんだろ? 僕は強い。キミじゃ勝てない。そう······キミは僕より圧倒的に弱いのが——明白だから」
「ちょっとクレスタさん! いくらなんでも言い過ぎで——」
その時、金属の擦れる音が響く。
ジャックは腰に携えていた剣を引き抜いていた。
「ジャックさん······」
「いいよ······やってやる。俺だってホントの事言うと、ずっとお前が気に食わなかったんだ」
「ちょっとジャック! あんたまで何言って——」
「じゃあ決まりだ」
不敵な笑みを浮かべるクレスタ。
彼はフィールドの真ん中まで歩くと、脇に添えていた剣を引き抜いた。
右手に剣を持ったままのジャックも、彼の向かいへと、ゆっくり歩いて行く。
そこに南地区の報告に来ていたスライが、建物角に映るジャックを見つける。
「おーい、ジャック。なにして——」
だか、彼は途中で呼び掛けるのをやめる。
どちらにしろ彼の声は風の音で掻き消され、届くことはなかったのだが。
剣を構えるジャック。その向かいで同じように剣を構える、黄金の男。
その者が誰かを察した彼は、建物の陰からそれを見守る。
対峙する二人。
「僕が憎いんだろう? 模擬戦とは言わず、本気で殺しに来なよ」
「あぁ。その減らず口、二度と開けないようにしてやるよ」
シェリエは両手を胸の前で組んで、心配そうに二人を見つめていた。
その隣ではミーナが、冷静な顔をして腕を組んでいる。だが、その腕の先は固く、自身の服を強く握り締めていた。
ポツポツと雨が降り始める。
乾いた地面が、黒へと染まっていく。
「早いとこ終わらせようか。ジャック」
「あぁ、そうだな」
強風が吹く中、全く動かない二人。
剣の柄から垂れる水滴。
それが地面に触れる刹那、
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