3 / 15
街の手前で
しおりを挟む
「街が見えてきたか……」
太陽が中天を過ぎた頃、遠くに街を発見したアレンは、何とも言えない表情をしていた。
チラリと後ろへ視線を向けると、静かに付いてくるクレアの姿。
結局アレンは、クレアを連れたまま数日を歩き、次の街へと辿り着いてしまったのである。
道中、ずっと後ろを付いてくるクレアを振り払う事も出来ず、かと言って無視する事も、アレンには出来なかったのだ。
「面倒事を抱え込むのは、御免なんだがな……」
過去の経験からも、非情になった方が楽だと思っているアレンだったが、それを実践出来ずにいた。
分かってはいても、元々の性分は、なかなか変えられないのである。
「街へ向かわないのですか?」
不意に立ち止まったアレンを不思議に思いつつ、クレアは疑問を口にする。
アレンが悩んでいる事など、彼女には知る由もなかった。
「ああ、そうだな……」
気乗りしない返事をしつつ、アレンはどうしたものかと頭を悩ませ、そして、一つの答えを出した。
クレアを、この街へ置いていけばいいのだ。
街道とは違い、危険も少なく、人も居る。運が良ければ、優しい人間に拾って貰う事も出来るだろう。
ここでなら、クレアを置いていっても、後味の悪い思いをしなくて済むはずだ。
そう考えたアレンは、改めてクレアの方を見る。
クレアの姿は、出会った時と同じまま。
髪は長く、ボサボサで、着ている物は申し訳程度のボロキレ一枚。
「おい、ちょっとこっちに来い」
よくもまぁ、自分は道中気にしなかったものだと思ったアレンは、街へと入る前に、少し寄り道する事にした。
街道脇にある、鬱蒼とした林を抜けた先、そこで川を発見したアレンは、その中へとクレアを放り込んだ。
「何をっ……!?」
溺れぬよう、慌てて身を起こすクレア。
幸いな事に、川の水位はクレアの胸下くらいの高さであり、クレアは立ち上がる事ができた。
「うるせえな、お前ちょっと臭うんだよ」
怒りのままアレンに食って掛かろうとしたクレアは、その一言に固まってしまう。
恐る恐る自分の腕へと鼻を近づけ、匂いを確かめる。
奴隷であったとはいえ、クレアとて年頃の乙女だ。
臭うと言われれば、ショックを受けるに決まっている。
「いいか? 街に入る前に、しっかりとそこで洗っておけ」
「でも……」
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
川で身体を洗う事には、クレアとて賛成なのだが、
「服を、脱がなきゃいけないじゃないですか……」
そう言って、顔を赤らめ、身体を抱きかかえる様に身をよじるクレア。
そんなクレアに対し、アレンは冷めた視線を向ける。
「ハッ、ガキが何言ってるんだ? そう言う事は、もうちょっと色気を身につけてから言えよ」
アレンの言葉に、ムッとした表情を浮かべるクレア。
何か言い返そうと思ったが、己の平たい胸が視界の中へと入ってしまい、結局、何も言い返す事は出来なかった。
「ま、俺もガキの裸なんて見ても面白くないし、散歩でもしてくるから安心しろよ」
意気消沈したクレアを川の中へと残し、そのままアレンは、林の中へと入っていった。
周囲に誰もいなくなった事を確認したクレアは、身に着けていたボロを脱ぎ、その裸身を露わにする。
ろくな食事を与えられていなかったクレアの身体は、全体的にやせ細っており、同年代の少女達に比べて、発育も良くなかった。
川の流れへと、身を浸し、クレアは身体の汚れを洗い流す。
手元に、身体を擦れる様な物が無かった為、仕方なく、脱いだボロを丸め、身体を擦る事にした。
今まで、汚れるままになっていた身体からは、擦る度に、垢が落ちていき、クレアは、身体が清められていく様な感覚を味わっていた。
長い時間を掛けて、ひと通り身体を洗い流したクレア。
そろそろ川から上がろうかと思った時、
「おい」
林の方から、アレンの声が聞こえてきた。
クレアは慌ててしゃがみ込み、川の中へと身体を隠す。
だが、アレンの声は聞こえても、姿は見えなかった。
どうやら、木の陰から話し掛けてきている様だ。
「水浴びが終わったら、こいつを羽織っておけ」
木の陰から飛んできたのは、今まで着ていたボロよりは、多少マシなだけの、薄汚れた外套。
もう少しマシな物が良かったと思うクレアだったが、自分の境遇を考えれば、これでも贅沢な方だと思い返した。川から出て、落ちていた外套を拾い上げる。
「それと、腹が減ったからそろそろ飯にする。そこで火の準備をしておけ」
次いで飛んできたのは、紐で括られた枝の束と、火打石だった。
クレアが水浴びをしている間に、林の中で拾い集めてきたのだろう。
空を見上げてみると、陽はまだ沈みきっておらず、夕食をとるには、早い時間だった。
だが、水浴びをし、身体が冷えていたクレアには、火の傍に居られるという事は、ありがたかった。
「あの……ありがとう」
「別に、お前の為じゃねえよ。俺の腹が減っただけだ」
自分の為の行為だと言い切り、クレアの感謝の言葉を、バッサリと切り捨てるアレン。
アレンの言葉に戸惑ったクレアだったが、
「じゃあ、しっかりと準備はしておきます」
言われた事だけは、しっかりとやる事にした。
「ああ、俺は上流の方で魚でも採ってくる。ちゃんと火を起こして、傍で調節をしておけよ」
そう言い残してアレンはまた、林の中へと消えて行くのだった
太陽が中天を過ぎた頃、遠くに街を発見したアレンは、何とも言えない表情をしていた。
チラリと後ろへ視線を向けると、静かに付いてくるクレアの姿。
結局アレンは、クレアを連れたまま数日を歩き、次の街へと辿り着いてしまったのである。
道中、ずっと後ろを付いてくるクレアを振り払う事も出来ず、かと言って無視する事も、アレンには出来なかったのだ。
「面倒事を抱え込むのは、御免なんだがな……」
過去の経験からも、非情になった方が楽だと思っているアレンだったが、それを実践出来ずにいた。
分かってはいても、元々の性分は、なかなか変えられないのである。
「街へ向かわないのですか?」
不意に立ち止まったアレンを不思議に思いつつ、クレアは疑問を口にする。
アレンが悩んでいる事など、彼女には知る由もなかった。
「ああ、そうだな……」
気乗りしない返事をしつつ、アレンはどうしたものかと頭を悩ませ、そして、一つの答えを出した。
クレアを、この街へ置いていけばいいのだ。
街道とは違い、危険も少なく、人も居る。運が良ければ、優しい人間に拾って貰う事も出来るだろう。
ここでなら、クレアを置いていっても、後味の悪い思いをしなくて済むはずだ。
そう考えたアレンは、改めてクレアの方を見る。
クレアの姿は、出会った時と同じまま。
髪は長く、ボサボサで、着ている物は申し訳程度のボロキレ一枚。
「おい、ちょっとこっちに来い」
よくもまぁ、自分は道中気にしなかったものだと思ったアレンは、街へと入る前に、少し寄り道する事にした。
街道脇にある、鬱蒼とした林を抜けた先、そこで川を発見したアレンは、その中へとクレアを放り込んだ。
「何をっ……!?」
溺れぬよう、慌てて身を起こすクレア。
幸いな事に、川の水位はクレアの胸下くらいの高さであり、クレアは立ち上がる事ができた。
「うるせえな、お前ちょっと臭うんだよ」
怒りのままアレンに食って掛かろうとしたクレアは、その一言に固まってしまう。
恐る恐る自分の腕へと鼻を近づけ、匂いを確かめる。
奴隷であったとはいえ、クレアとて年頃の乙女だ。
臭うと言われれば、ショックを受けるに決まっている。
「いいか? 街に入る前に、しっかりとそこで洗っておけ」
「でも……」
「何だ? 何か問題でもあるのか?」
川で身体を洗う事には、クレアとて賛成なのだが、
「服を、脱がなきゃいけないじゃないですか……」
そう言って、顔を赤らめ、身体を抱きかかえる様に身をよじるクレア。
そんなクレアに対し、アレンは冷めた視線を向ける。
「ハッ、ガキが何言ってるんだ? そう言う事は、もうちょっと色気を身につけてから言えよ」
アレンの言葉に、ムッとした表情を浮かべるクレア。
何か言い返そうと思ったが、己の平たい胸が視界の中へと入ってしまい、結局、何も言い返す事は出来なかった。
「ま、俺もガキの裸なんて見ても面白くないし、散歩でもしてくるから安心しろよ」
意気消沈したクレアを川の中へと残し、そのままアレンは、林の中へと入っていった。
周囲に誰もいなくなった事を確認したクレアは、身に着けていたボロを脱ぎ、その裸身を露わにする。
ろくな食事を与えられていなかったクレアの身体は、全体的にやせ細っており、同年代の少女達に比べて、発育も良くなかった。
川の流れへと、身を浸し、クレアは身体の汚れを洗い流す。
手元に、身体を擦れる様な物が無かった為、仕方なく、脱いだボロを丸め、身体を擦る事にした。
今まで、汚れるままになっていた身体からは、擦る度に、垢が落ちていき、クレアは、身体が清められていく様な感覚を味わっていた。
長い時間を掛けて、ひと通り身体を洗い流したクレア。
そろそろ川から上がろうかと思った時、
「おい」
林の方から、アレンの声が聞こえてきた。
クレアは慌ててしゃがみ込み、川の中へと身体を隠す。
だが、アレンの声は聞こえても、姿は見えなかった。
どうやら、木の陰から話し掛けてきている様だ。
「水浴びが終わったら、こいつを羽織っておけ」
木の陰から飛んできたのは、今まで着ていたボロよりは、多少マシなだけの、薄汚れた外套。
もう少しマシな物が良かったと思うクレアだったが、自分の境遇を考えれば、これでも贅沢な方だと思い返した。川から出て、落ちていた外套を拾い上げる。
「それと、腹が減ったからそろそろ飯にする。そこで火の準備をしておけ」
次いで飛んできたのは、紐で括られた枝の束と、火打石だった。
クレアが水浴びをしている間に、林の中で拾い集めてきたのだろう。
空を見上げてみると、陽はまだ沈みきっておらず、夕食をとるには、早い時間だった。
だが、水浴びをし、身体が冷えていたクレアには、火の傍に居られるという事は、ありがたかった。
「あの……ありがとう」
「別に、お前の為じゃねえよ。俺の腹が減っただけだ」
自分の為の行為だと言い切り、クレアの感謝の言葉を、バッサリと切り捨てるアレン。
アレンの言葉に戸惑ったクレアだったが、
「じゃあ、しっかりと準備はしておきます」
言われた事だけは、しっかりとやる事にした。
「ああ、俺は上流の方で魚でも採ってくる。ちゃんと火を起こして、傍で調節をしておけよ」
そう言い残してアレンはまた、林の中へと消えて行くのだった
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ちゃんと忠告をしましたよ?
柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私フィーナは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢アゼット様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
アゼット様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は最愛の方に護っていただいているので、貴方様に悪意があると気付けるのですよ。
アゼット様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
※現在体調の影響により、感想欄を一時的に閉じさせていただいております。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる