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それぞれの先へと
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老婆とアレンの話が着いた時、クレアは店の奥で、髪と身体を洗っていた。
昨日、川で一応身体を洗ったものの、水に晒して擦った程度のものだったので、身体の汚れを、落としきれた訳ではなかった。
それに今日は、昨日と違い、人目を気にする必要もない。
クレアは上機嫌で鼻歌を歌いつつ、思う存分、身体を洗うのだった
身体を洗い終えたクレアは、髪と身体を拭き、乾かした後、髪を切って貰う事になっていた。
長くボサボサになっていた髪を、ある程度の長さで切り揃えてもらい、後ろで束ねるようにしてもらう。
奴隷となる前に、クレアがよくしていた髪型だった。
身体を綺麗にしたクレアは、ついに服へと袖を通す。
クレアが選んだのは、何の飾り気もない、ごくごく一般的な麻の服だった。
それでも、今まで来ていたボロや外套に比べれば、その着心地は遥かにマシである。
身体を綺麗にし、新しい服を貰えたクレアは今、とても上機嫌だった。
「ありがとうございます、お婆さん」
全ての支度が終わったクレアは、店の入口に座っていた老婆へと、礼の言葉を述べる。
「なに、その分の代金はたんまりと貰っているから問題ないよ」
老婆はクレアの姿に、楽しそうに目を細める。
先ほどまでの薄汚れた格好とは違い、今のクレアは、可憐という言葉がよく似合う少女になっていた。
そんなクレアの変わりように、老婆は満足していたのだ。
「それで、お婆さん。あの人はどこに?」
だが、続くクレアの一言に、老婆の顔は曇り始める。
言い難い事ではあるが、黙っている訳にもいかない。
「お嬢ちゃん、お前さんの連れはねぇ……」
仕方なく老婆は、先程の出来事を、クレアへと伝え始めた……。
クレアを店に残したアレンは、街の入口付近まで来ていた。
「あいつを残してきた事は、俺にとっては良い事尽くしなんだ。もう、あいつの面倒を見なくていいんだし、これから起こるだろう、厄介事からも逃げられる。何も問題は無いはずなんだ」
自分に言い聞かせるように、ブツブツと呟くアレン。
もう少し歩けば、街の外へと出る事になる。
だがアレンの足は、外へと近づいていくにつれ、段々と重たくなっていた。
「くそっ、何だってんだよ」
ほんの数日とはいえ、道中一緒に旅してきた仲だ。
クレアに多少、情が移っているのも、彼女の身に何が起こるのか、気になっているのも確かだった。
しかしアレンには、夢の中で交わした約束があった。
クレアの下へと戻れば、その約束を破る事になってしまうのだ。
街の出口を目前にして、アレンの足は完全に止まってしまう。
通り過ぎる人々が、道の真ん中で立ち止まるアレンの事を、怪訝そうに眺めていく。
だが、考えに集中しているアレンは、そんな事を気にしてはいられない。
「俺の幸せを祈っている……か」
頭の中に浮かぶのは、夢で交わした約束と、最後に言われた言葉。
「俺が幸せになる為なら……」
心を決めたアレンは、悩みを断ち切り、まっすぐに顔を上げる。
そして、己の行くべき道へと、その足を踏み出すのだった。
アレンが立ち去った事を老婆から聞いたクレアは、慌てて店の外へと飛び出し、左右を見回した。
だが、すでに立ち去ったアレンの姿が、そこにあるはずが無い。
「残念だが、諦めなさい」
クレアを追いかけ、店から出てきた老婆が、労わるようにクレアへと声を掛ける。
「あの男も悩んでいた様だったが、結局はお嬢ちゃんと別れる事を選んだ様だ。お嬢ちゃんには辛いかもしれないが、その事を受け入れないと」
「……それは分かっています。元々、私が勝手に付いてきただけですし、途中で放り出されても仕方ないと思ってもいました。でも……」
クレアが、悲しそうにうつむく。
「私はこれだけ面倒を見て貰ったのに、何も返す事が出来ませんでした。だからせめて、お礼だけでも言いたかったのに……」
何も言わずに去ったアレンに対し、クレアの胸中は、申し訳ない気持ちで一杯になった。
何だかんだと文句を言いながらではあったが、アレンはクレアを蔑ろにせず、面倒を見てくれていたのだ。
それなのに自分は、ろくなお礼もせずに、ただただ甘えているだけだった。
「その気持ちがあれば充分だよ。縁があれば、また会う事もあるだろう。その時、お嬢ちゃんなりに、返せるものを、返せば良いさ」
「……はい」
そんなクレアの悔しさが分かったのだろうか、老婆が優しく、クレアを諭す。
その言葉にクレアは、静かに頷くのだった。
「とりあえずは店の中へお入り、これからどうするかは知らないが、少しくらいなら面倒を見てあげるよ」
「……いいんですか?」
クレアの確認に、老婆は笑顔で頷く。
「なに、それくらいはいいさ。あの若いのから、たんまりと代金は貰っているからね。まぁ、あの男は、苦々しげな顔をしていたがね」
その時のアレンの表情を思い出したのか、老婆が愉快そうに笑う。
クレアも、アレンが文句を言いつつも、代金を払った場面を想像し、自分の為に申し訳ないと思いつつも、クスリと笑った。
「さ、年寄りには、長い時間立っているのはキツイんだよ。中でお茶でもしようじゃないか」
「はい」
老婆の提案に、クレアは明るい声で答える。
アレンとの別れは残念ではあったが、それをいつまでも引きずっている訳にもいかない。
この先、どうなるかは分からないが、自分の事を助けてくれる人達もいる。
「何とか、なりそうですね」
まだ無理かもしれないが、いずれは自分一人の力で生きていけるようになり、いつかアレンと再会した時は、今日までのお礼をしよう。
自分の未来を考え、明るい希望を持ち始めたクレアだったが、
「おい」
次の瞬間、後方から声が掛かる。
まさかアレンが戻ってきたのかと、振り向いたクレアが見たものは、
「やっと見つけたぞ、クソガキが」
アレンが前に斬った男の仲間。クレアを奴隷としてこき使っていた男達が、そこにいたのだった。
昨日、川で一応身体を洗ったものの、水に晒して擦った程度のものだったので、身体の汚れを、落としきれた訳ではなかった。
それに今日は、昨日と違い、人目を気にする必要もない。
クレアは上機嫌で鼻歌を歌いつつ、思う存分、身体を洗うのだった
身体を洗い終えたクレアは、髪と身体を拭き、乾かした後、髪を切って貰う事になっていた。
長くボサボサになっていた髪を、ある程度の長さで切り揃えてもらい、後ろで束ねるようにしてもらう。
奴隷となる前に、クレアがよくしていた髪型だった。
身体を綺麗にしたクレアは、ついに服へと袖を通す。
クレアが選んだのは、何の飾り気もない、ごくごく一般的な麻の服だった。
それでも、今まで来ていたボロや外套に比べれば、その着心地は遥かにマシである。
身体を綺麗にし、新しい服を貰えたクレアは今、とても上機嫌だった。
「ありがとうございます、お婆さん」
全ての支度が終わったクレアは、店の入口に座っていた老婆へと、礼の言葉を述べる。
「なに、その分の代金はたんまりと貰っているから問題ないよ」
老婆はクレアの姿に、楽しそうに目を細める。
先ほどまでの薄汚れた格好とは違い、今のクレアは、可憐という言葉がよく似合う少女になっていた。
そんなクレアの変わりように、老婆は満足していたのだ。
「それで、お婆さん。あの人はどこに?」
だが、続くクレアの一言に、老婆の顔は曇り始める。
言い難い事ではあるが、黙っている訳にもいかない。
「お嬢ちゃん、お前さんの連れはねぇ……」
仕方なく老婆は、先程の出来事を、クレアへと伝え始めた……。
クレアを店に残したアレンは、街の入口付近まで来ていた。
「あいつを残してきた事は、俺にとっては良い事尽くしなんだ。もう、あいつの面倒を見なくていいんだし、これから起こるだろう、厄介事からも逃げられる。何も問題は無いはずなんだ」
自分に言い聞かせるように、ブツブツと呟くアレン。
もう少し歩けば、街の外へと出る事になる。
だがアレンの足は、外へと近づいていくにつれ、段々と重たくなっていた。
「くそっ、何だってんだよ」
ほんの数日とはいえ、道中一緒に旅してきた仲だ。
クレアに多少、情が移っているのも、彼女の身に何が起こるのか、気になっているのも確かだった。
しかしアレンには、夢の中で交わした約束があった。
クレアの下へと戻れば、その約束を破る事になってしまうのだ。
街の出口を目前にして、アレンの足は完全に止まってしまう。
通り過ぎる人々が、道の真ん中で立ち止まるアレンの事を、怪訝そうに眺めていく。
だが、考えに集中しているアレンは、そんな事を気にしてはいられない。
「俺の幸せを祈っている……か」
頭の中に浮かぶのは、夢で交わした約束と、最後に言われた言葉。
「俺が幸せになる為なら……」
心を決めたアレンは、悩みを断ち切り、まっすぐに顔を上げる。
そして、己の行くべき道へと、その足を踏み出すのだった。
アレンが立ち去った事を老婆から聞いたクレアは、慌てて店の外へと飛び出し、左右を見回した。
だが、すでに立ち去ったアレンの姿が、そこにあるはずが無い。
「残念だが、諦めなさい」
クレアを追いかけ、店から出てきた老婆が、労わるようにクレアへと声を掛ける。
「あの男も悩んでいた様だったが、結局はお嬢ちゃんと別れる事を選んだ様だ。お嬢ちゃんには辛いかもしれないが、その事を受け入れないと」
「……それは分かっています。元々、私が勝手に付いてきただけですし、途中で放り出されても仕方ないと思ってもいました。でも……」
クレアが、悲しそうにうつむく。
「私はこれだけ面倒を見て貰ったのに、何も返す事が出来ませんでした。だからせめて、お礼だけでも言いたかったのに……」
何も言わずに去ったアレンに対し、クレアの胸中は、申し訳ない気持ちで一杯になった。
何だかんだと文句を言いながらではあったが、アレンはクレアを蔑ろにせず、面倒を見てくれていたのだ。
それなのに自分は、ろくなお礼もせずに、ただただ甘えているだけだった。
「その気持ちがあれば充分だよ。縁があれば、また会う事もあるだろう。その時、お嬢ちゃんなりに、返せるものを、返せば良いさ」
「……はい」
そんなクレアの悔しさが分かったのだろうか、老婆が優しく、クレアを諭す。
その言葉にクレアは、静かに頷くのだった。
「とりあえずは店の中へお入り、これからどうするかは知らないが、少しくらいなら面倒を見てあげるよ」
「……いいんですか?」
クレアの確認に、老婆は笑顔で頷く。
「なに、それくらいはいいさ。あの若いのから、たんまりと代金は貰っているからね。まぁ、あの男は、苦々しげな顔をしていたがね」
その時のアレンの表情を思い出したのか、老婆が愉快そうに笑う。
クレアも、アレンが文句を言いつつも、代金を払った場面を想像し、自分の為に申し訳ないと思いつつも、クスリと笑った。
「さ、年寄りには、長い時間立っているのはキツイんだよ。中でお茶でもしようじゃないか」
「はい」
老婆の提案に、クレアは明るい声で答える。
アレンとの別れは残念ではあったが、それをいつまでも引きずっている訳にもいかない。
この先、どうなるかは分からないが、自分の事を助けてくれる人達もいる。
「何とか、なりそうですね」
まだ無理かもしれないが、いずれは自分一人の力で生きていけるようになり、いつかアレンと再会した時は、今日までのお礼をしよう。
自分の未来を考え、明るい希望を持ち始めたクレアだったが、
「おい」
次の瞬間、後方から声が掛かる。
まさかアレンが戻ってきたのかと、振り向いたクレアが見たものは、
「やっと見つけたぞ、クソガキが」
アレンが前に斬った男の仲間。クレアを奴隷としてこき使っていた男達が、そこにいたのだった。
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