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本編
42.例えどうなっても
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部屋にある内風呂で身体を洗い合ったりしているうちに、裸を見られる緊張感は薄れていった。というか、身体を洗うというやるべきことがあるうちは、なんとなく気が紛れていたのだ。
問題は、きっとそれからだと東は思った。
「部屋の中からも見えてたけど、お庭が綺麗で素敵ですね」
「ええ、明かりも控えめだからちゃんと星も見えますよ」
「ほんとだ、結構見える」
部屋にある露天風呂からは、見事に手入れされた庭と、その上に広がる夜空にいくつもの星が見えた。これぞ非日常の風景といった趣で、ゆったりと落ち着いた気持ちになれるそこが二人はたいそう気に入った。
「はあ、あったかい、気持ちいい~」
「本当ですね」
二人でゆっくり湯船に浸かってあたたまる時間がなんだか不思議で、とても幸せだった。それでもやっぱり、心臓はどきどきと落ち着かなかった。
「……今日、楽しかったです」
「はい。私もすごく楽しかったし、東さんが可愛かったですよ」
「もう、かわいいのとか、蓜島さんのほうですから」
蓜島は本心からそう言ったけれど、東はきっと蓜島が少し茶化して緊張してるのをほぐしてくれたのかな、なんて考えていた。離れていた肩を寄り添わせて、東は蓜島の方に少し寄りかかる。
「後悔とか、してませんか?」
寄りかかって顔が見えない体勢のまま、東がそう呟く。
「え?」
蓜島は東の言葉の意味がわからない。
「まあ、さっきから見てるからわかってはいると思いますけど……おれ、普通に男ですし」
「ああ、まあ…そうですね?」
「蓜島さん、別にゲイってわけじゃないんでしょうし、その……おれ相手で、勃つのかなって」
東の心配は至極真っ当なものだと蓜島も理解した。同じような不安を自分も抱いていたからだ。
「それは、心配ないと思いますよ」
「…わかんないじゃないですか、いざってなったら、うわーってなるかも…」
「だからそれを、確かめましょうよ。私の身体を見て、東さんも嫌だなってなるかもしれませんし」
男同士なんだから、条件は一緒だ。蓜島もずっと同じようなことを考えていた。だからこそ、二人で一緒に踏み出してみようと、蓜島は言う。
「…蓜島さんは、怖くないですか?」
「怖いですよ、少しは。でも、東さんとなら、どういう結果になっても、きっとなんとかなるんじゃないかって思えるんです」
「…どういう結果になっても?」
「できなくても、したくなくても、それでも一緒に居られるんじゃないかって……嫌ですか?」
「……嫌じゃないです。ていうか、めちゃめちゃ嬉しいんですけど、それ……」
好きだから、触れてみたい。もっと深くまで知りたい。もっと強い繋がりがほしい。そんな風に思う自分は確かに居るけれど、それが叶わなかったら。
初めて男同士で付き合って、ゆっくりと少しずつ、順調にしあわせに関係を深めていけたからこそ、次の大きな一歩を踏み出すのが怖かった。
積み上げてきたものが壊れてしまうんじゃないか。東はそんな風に怖がっていたけれど、蓜島はそこからうまくいかなくたって失敗してしまったって、それでもこれまでのことはなくならないと言うのだ。
「……好きです、だいすき。どうしよう」
もやもやと東の心を覆っていたものがほどけ落ちていく。代わりに心の中は大好きの気持ちが溢れて止まらなくなった。
東は蓜島の肩に頭を預けたままに、ぎゅうと強く蓜島を抱きしめる。ちゃぷりと音を立てながら水面が揺れて、ほわほわと滞留していた湯気を含む空気が動く。
「……東さん、」
蓜島が滲み出る熱を隠さないままに愛しい名前を呼べば、その湯に濡れて俯いていた美しい瞳が蓜島を捉える。その目の中にもしっかりと蓜島と同じ熱が込められていて、触れたいなんてことは言葉にする必要がなかった。
「ん、……」
蓜島の大きな手で頬に触れると、小さく震える瞼が閉じていく。薄く開かれた紅色の唇は好きにしてもいいというように目の前に差し出され、そっと塞げば緩く吸い付いてくる。
「……っ、ん、ふ」
くちづけられたままの東の息遣いが乱れたのは、頬に触れていた蓜島の手がするりと落ちて、首筋をなぞり、鎖骨をすべり、胸や腹のあたりを撫でたからだ。ほんの少しとろみのある泉質ゆえの、すべすべと滑らかな感触に身体がぞくりと震えた。
そこからどう触られるのかがわからなくて、東の心臓はばくばくと煩くなる。それでも、触れ合わせた唇を離したくなくて、荒くなる呼吸も無視して必死でキスをした。
「ん、ん……っ、はいしま、さ、ン……ッ」
湯船の中の蓜島の手は東の腰や脚までもをするするとまさぐっていく。きっと強い快感を与えられるであろう性器を敢えて避けているのは、未だほんの少しの怖さに震えている東のためか、この場所を汚さないようにという配慮のためか、蓜島自身にもわからない。
どちらにしても、互いにもどかしくて、焦ったい。触れたい気持ちと、触れられたい気持ち、恥ずかしさや、僅かな恐れも、全部がごちゃ混ぜになって頭をぐるぐるとまわる。
「……っ、蓜島さん、おれ、のぼせそう」
「……あがりましょうか」
「うん…」
体はどんどん熱くなるし、思考もままならない。そんな中で一旦ストップをかけられたのは正しい判断だったかもしれない。
触れ合っていた時間を途切れさせてしまえば熱が冷めてしまわないかと互いに不安に思ったけれど、それは杞憂だった。火照った体は夜の秋風に冷やされることはなく、熱いまま時間を置くことでさらに焦れた。
はやく、触れたくて仕方がない。
問題は、きっとそれからだと東は思った。
「部屋の中からも見えてたけど、お庭が綺麗で素敵ですね」
「ええ、明かりも控えめだからちゃんと星も見えますよ」
「ほんとだ、結構見える」
部屋にある露天風呂からは、見事に手入れされた庭と、その上に広がる夜空にいくつもの星が見えた。これぞ非日常の風景といった趣で、ゆったりと落ち着いた気持ちになれるそこが二人はたいそう気に入った。
「はあ、あったかい、気持ちいい~」
「本当ですね」
二人でゆっくり湯船に浸かってあたたまる時間がなんだか不思議で、とても幸せだった。それでもやっぱり、心臓はどきどきと落ち着かなかった。
「……今日、楽しかったです」
「はい。私もすごく楽しかったし、東さんが可愛かったですよ」
「もう、かわいいのとか、蓜島さんのほうですから」
蓜島は本心からそう言ったけれど、東はきっと蓜島が少し茶化して緊張してるのをほぐしてくれたのかな、なんて考えていた。離れていた肩を寄り添わせて、東は蓜島の方に少し寄りかかる。
「後悔とか、してませんか?」
寄りかかって顔が見えない体勢のまま、東がそう呟く。
「え?」
蓜島は東の言葉の意味がわからない。
「まあ、さっきから見てるからわかってはいると思いますけど……おれ、普通に男ですし」
「ああ、まあ…そうですね?」
「蓜島さん、別にゲイってわけじゃないんでしょうし、その……おれ相手で、勃つのかなって」
東の心配は至極真っ当なものだと蓜島も理解した。同じような不安を自分も抱いていたからだ。
「それは、心配ないと思いますよ」
「…わかんないじゃないですか、いざってなったら、うわーってなるかも…」
「だからそれを、確かめましょうよ。私の身体を見て、東さんも嫌だなってなるかもしれませんし」
男同士なんだから、条件は一緒だ。蓜島もずっと同じようなことを考えていた。だからこそ、二人で一緒に踏み出してみようと、蓜島は言う。
「…蓜島さんは、怖くないですか?」
「怖いですよ、少しは。でも、東さんとなら、どういう結果になっても、きっとなんとかなるんじゃないかって思えるんです」
「…どういう結果になっても?」
「できなくても、したくなくても、それでも一緒に居られるんじゃないかって……嫌ですか?」
「……嫌じゃないです。ていうか、めちゃめちゃ嬉しいんですけど、それ……」
好きだから、触れてみたい。もっと深くまで知りたい。もっと強い繋がりがほしい。そんな風に思う自分は確かに居るけれど、それが叶わなかったら。
初めて男同士で付き合って、ゆっくりと少しずつ、順調にしあわせに関係を深めていけたからこそ、次の大きな一歩を踏み出すのが怖かった。
積み上げてきたものが壊れてしまうんじゃないか。東はそんな風に怖がっていたけれど、蓜島はそこからうまくいかなくたって失敗してしまったって、それでもこれまでのことはなくならないと言うのだ。
「……好きです、だいすき。どうしよう」
もやもやと東の心を覆っていたものがほどけ落ちていく。代わりに心の中は大好きの気持ちが溢れて止まらなくなった。
東は蓜島の肩に頭を預けたままに、ぎゅうと強く蓜島を抱きしめる。ちゃぷりと音を立てながら水面が揺れて、ほわほわと滞留していた湯気を含む空気が動く。
「……東さん、」
蓜島が滲み出る熱を隠さないままに愛しい名前を呼べば、その湯に濡れて俯いていた美しい瞳が蓜島を捉える。その目の中にもしっかりと蓜島と同じ熱が込められていて、触れたいなんてことは言葉にする必要がなかった。
「ん、……」
蓜島の大きな手で頬に触れると、小さく震える瞼が閉じていく。薄く開かれた紅色の唇は好きにしてもいいというように目の前に差し出され、そっと塞げば緩く吸い付いてくる。
「……っ、ん、ふ」
くちづけられたままの東の息遣いが乱れたのは、頬に触れていた蓜島の手がするりと落ちて、首筋をなぞり、鎖骨をすべり、胸や腹のあたりを撫でたからだ。ほんの少しとろみのある泉質ゆえの、すべすべと滑らかな感触に身体がぞくりと震えた。
そこからどう触られるのかがわからなくて、東の心臓はばくばくと煩くなる。それでも、触れ合わせた唇を離したくなくて、荒くなる呼吸も無視して必死でキスをした。
「ん、ん……っ、はいしま、さ、ン……ッ」
湯船の中の蓜島の手は東の腰や脚までもをするするとまさぐっていく。きっと強い快感を与えられるであろう性器を敢えて避けているのは、未だほんの少しの怖さに震えている東のためか、この場所を汚さないようにという配慮のためか、蓜島自身にもわからない。
どちらにしても、互いにもどかしくて、焦ったい。触れたい気持ちと、触れられたい気持ち、恥ずかしさや、僅かな恐れも、全部がごちゃ混ぜになって頭をぐるぐるとまわる。
「……っ、蓜島さん、おれ、のぼせそう」
「……あがりましょうか」
「うん…」
体はどんどん熱くなるし、思考もままならない。そんな中で一旦ストップをかけられたのは正しい判断だったかもしれない。
触れ合っていた時間を途切れさせてしまえば熱が冷めてしまわないかと互いに不安に思ったけれど、それは杞憂だった。火照った体は夜の秋風に冷やされることはなく、熱いまま時間を置くことでさらに焦れた。
はやく、触れたくて仕方がない。
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