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本編
43.やわらかな二人のままで
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キスなら今までにもたくさんしてきた。けれど、こういう湿度や熱を含んだものではなかったかもしれないと、東は頭の中でぼんやりと思った。
蓜島が心の底から自分を求めているのがわかる。それを感じるほどに、きっと自分が蓜島を同じくらい求めていることも伝わってしまっているのだろうと、東は気付いている。
「……東さん」
東は蓜島のことをどこか、淡白な男だと思っていた。付き合ってみたらこれ以上ないほどに甘かったけれど性急に求められることはなかったし、スキンシップが少なかったわけではないけれど、それは親しみを込めた触れ合いの域を出ないものだった。
そう、こんなにも火傷しそうなほどの熱が込められているものではなかったのだ。布団の上に座ったまま、中途半端に着た浴衣は乱れていくばかりだ。
大きな両手で鷲掴みするように押さえられた腰や首が、少しだけ痛い。だけど痛いだなんて言う気にはなれなかった。こんなにも強い力で抱き締められていることが、むしろたまらなく嬉しい。
痛いのに嬉しいなんて、相当惚れてしまってるんだな、と東は頭の隅でぼんやりと思う。
「蓜島さん、おれ…こわく、ないから」
そう言ったのは、本音が半分と強がりが半分。
「……東さん」
蓜島も東の心の内はわかっていた。だから本当かと確かめることはしなかった。何も言うべき言葉は見つからず、代わりにぎゅっと抱き締めて名前を呼ぶ。
「はいしま、さん」
「……うん」
「あ、……んっ…」
呼び返された声があまりにも甘くとろけていたものだから、蓜島はたまらなくなって東のこめかみや首筋にキスを落とす。
いつもつやつやとした唇以外も、東の肌はどこもきめ細やかで瑞々しい。ずっとキスしていたいと思ってしまうほどに。
「脱がせますね」
「…ん、どうぞ」
裸はさっき既に見られているけれど、いざ直接そういうことをしようというときに見られるのはやはり緊張するものだった。
旅館の浴衣の帯は簡易的なもので、簡単にするりと外すことができる。東はもう少し覚悟の時間が欲しかったような、いやむしろひと思いにサッと脱がされたのが良かったような、複雑な気持ちになった。
帯が解かれると前を開かれ、するりと中に入れられた手で肩からハラリと浴衣が落ちた。
「……っ、」
布地の中でこもっていた熱が直に伝わってしまいそうで、東は思わず身をすくめる。男同士だというのに、上半身を見られるというだけでもなんだかものすごく恥ずかしい。
「綺麗ですよ」
部屋は小さな明かりしかつけておらず、窓から入る月の光で青白く東の肌が照らされている。東の端正な顔とよく引き締まった体に浮かぶ光と陰は、まるでひとつの芸術作品のように美しかった。
「そんなこと、ないです。だいぶ男っぽいし、傷とかもあるし…なんだか、幻滅…してませんか?」
「しないですよ。私は東さんのこと、女性の代わりにしようとしている訳じゃありません」
パティシエは繊細そうなイメージとは裏腹に体力仕事だ。東は一人で何でもこなしているため腕や胸、脚はきちんとふっくらとした筋肉がついているし、細かな傷や火傷の痕があちこちにある。顔立ちが中性的ゆえにすらりと細そうでいて、衣服を取り払うと意外なほどにしっかりと男性らしい体つきに驚かれることもあった。
「東さんが見た目より力持ちなのも知ってますし、こういう火傷の痕も、これまでの東さんを作ってきたものだと思えば愛おしく感じますよ」
東が気にしていたようなことなど何も気にかけていない蓜島の言葉が東は嬉しかった。そのままの自分を受け入れて愛してもらえる喜びが、胸の中に満ちていく。
「……もう、おればっかり恥ずかしいんですけど。蓜島さんも脱いで」
「ふふ、東さんが脱がせてください」
「わかりました」
不安をまたひとつ取り除かれて、空気が柔らかくなる。東が蓜島の浴衣も脱がせようと帯に手をかけると、持て余した蓜島は東の顔や耳にたくさんキスをしていった。
「こら、ちょっと、邪魔しないで」
「東さんがかわいくて、つい」
いちいち蓜島のキスに反応を示してしまうと脱がせる手が止まってしまう。東はそう悟って手早く一気に蓜島の浴衣を脱がせた。
蓜島の体はその長身に見合った、ほどよく鍛えられた綺麗な筋肉の乗った体だった。甘いものが大好きでよく食べているにも関わらず、弛んでいるところは見受けられない。そういえば、太らないように気を付けてはいると言っていたっけ、と東はその体に見惚れながら思う。
「東さん」
東がほんの少しの間ぼうっとしていると、蓜島は痺れを切らして名前を呼び、またその唇にキスをする。今度もたっぷりと熱を込めて、東に触れたいという欲も込めて。
向かい合って座ったままの姿勢から噛み付かれるようなキスをされたものだから、つい東の上体は勢いに負けて仰け反り、そのまま後ろに倒れ込んだ。けれど、とさりと優しい音がして東の体に痛みも全くなかったのは、蓜島が体を支えながら布団に降ろしてくれたからだ。
「…はいしま、さん」
仰向けにされた東の体の上に蓜島の影が落ちると、いよいよこれから自分はこの男に抱かれるのだという気分にさせられた。
おかしなものだ。出会う前までは、まさか自分が男に抱かれるなんて考えたこともなかったというのに、いざそうなってみても、ちっとも嫌な気持ちにはならないのだから。
蓜島が心の底から自分を求めているのがわかる。それを感じるほどに、きっと自分が蓜島を同じくらい求めていることも伝わってしまっているのだろうと、東は気付いている。
「……東さん」
東は蓜島のことをどこか、淡白な男だと思っていた。付き合ってみたらこれ以上ないほどに甘かったけれど性急に求められることはなかったし、スキンシップが少なかったわけではないけれど、それは親しみを込めた触れ合いの域を出ないものだった。
そう、こんなにも火傷しそうなほどの熱が込められているものではなかったのだ。布団の上に座ったまま、中途半端に着た浴衣は乱れていくばかりだ。
大きな両手で鷲掴みするように押さえられた腰や首が、少しだけ痛い。だけど痛いだなんて言う気にはなれなかった。こんなにも強い力で抱き締められていることが、むしろたまらなく嬉しい。
痛いのに嬉しいなんて、相当惚れてしまってるんだな、と東は頭の隅でぼんやりと思う。
「蓜島さん、おれ…こわく、ないから」
そう言ったのは、本音が半分と強がりが半分。
「……東さん」
蓜島も東の心の内はわかっていた。だから本当かと確かめることはしなかった。何も言うべき言葉は見つからず、代わりにぎゅっと抱き締めて名前を呼ぶ。
「はいしま、さん」
「……うん」
「あ、……んっ…」
呼び返された声があまりにも甘くとろけていたものだから、蓜島はたまらなくなって東のこめかみや首筋にキスを落とす。
いつもつやつやとした唇以外も、東の肌はどこもきめ細やかで瑞々しい。ずっとキスしていたいと思ってしまうほどに。
「脱がせますね」
「…ん、どうぞ」
裸はさっき既に見られているけれど、いざ直接そういうことをしようというときに見られるのはやはり緊張するものだった。
旅館の浴衣の帯は簡易的なもので、簡単にするりと外すことができる。東はもう少し覚悟の時間が欲しかったような、いやむしろひと思いにサッと脱がされたのが良かったような、複雑な気持ちになった。
帯が解かれると前を開かれ、するりと中に入れられた手で肩からハラリと浴衣が落ちた。
「……っ、」
布地の中でこもっていた熱が直に伝わってしまいそうで、東は思わず身をすくめる。男同士だというのに、上半身を見られるというだけでもなんだかものすごく恥ずかしい。
「綺麗ですよ」
部屋は小さな明かりしかつけておらず、窓から入る月の光で青白く東の肌が照らされている。東の端正な顔とよく引き締まった体に浮かぶ光と陰は、まるでひとつの芸術作品のように美しかった。
「そんなこと、ないです。だいぶ男っぽいし、傷とかもあるし…なんだか、幻滅…してませんか?」
「しないですよ。私は東さんのこと、女性の代わりにしようとしている訳じゃありません」
パティシエは繊細そうなイメージとは裏腹に体力仕事だ。東は一人で何でもこなしているため腕や胸、脚はきちんとふっくらとした筋肉がついているし、細かな傷や火傷の痕があちこちにある。顔立ちが中性的ゆえにすらりと細そうでいて、衣服を取り払うと意外なほどにしっかりと男性らしい体つきに驚かれることもあった。
「東さんが見た目より力持ちなのも知ってますし、こういう火傷の痕も、これまでの東さんを作ってきたものだと思えば愛おしく感じますよ」
東が気にしていたようなことなど何も気にかけていない蓜島の言葉が東は嬉しかった。そのままの自分を受け入れて愛してもらえる喜びが、胸の中に満ちていく。
「……もう、おればっかり恥ずかしいんですけど。蓜島さんも脱いで」
「ふふ、東さんが脱がせてください」
「わかりました」
不安をまたひとつ取り除かれて、空気が柔らかくなる。東が蓜島の浴衣も脱がせようと帯に手をかけると、持て余した蓜島は東の顔や耳にたくさんキスをしていった。
「こら、ちょっと、邪魔しないで」
「東さんがかわいくて、つい」
いちいち蓜島のキスに反応を示してしまうと脱がせる手が止まってしまう。東はそう悟って手早く一気に蓜島の浴衣を脱がせた。
蓜島の体はその長身に見合った、ほどよく鍛えられた綺麗な筋肉の乗った体だった。甘いものが大好きでよく食べているにも関わらず、弛んでいるところは見受けられない。そういえば、太らないように気を付けてはいると言っていたっけ、と東はその体に見惚れながら思う。
「東さん」
東がほんの少しの間ぼうっとしていると、蓜島は痺れを切らして名前を呼び、またその唇にキスをする。今度もたっぷりと熱を込めて、東に触れたいという欲も込めて。
向かい合って座ったままの姿勢から噛み付かれるようなキスをされたものだから、つい東の上体は勢いに負けて仰け反り、そのまま後ろに倒れ込んだ。けれど、とさりと優しい音がして東の体に痛みも全くなかったのは、蓜島が体を支えながら布団に降ろしてくれたからだ。
「…はいしま、さん」
仰向けにされた東の体の上に蓜島の影が落ちると、いよいよこれから自分はこの男に抱かれるのだという気分にさせられた。
おかしなものだ。出会う前までは、まさか自分が男に抱かれるなんて考えたこともなかったというのに、いざそうなってみても、ちっとも嫌な気持ちにはならないのだから。
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