あまいの、いくつほしい?

白湯すい

文字の大きさ
43 / 79
本編

43.やわらかな二人のままで

しおりを挟む
 キスなら今までにもたくさんしてきた。けれど、こういう湿度や熱を含んだものではなかったかもしれないと、東は頭の中でぼんやりと思った。
 蓜島が心の底から自分を求めているのがわかる。それを感じるほどに、きっと自分が蓜島を同じくらい求めていることも伝わってしまっているのだろうと、東は気付いている。
「……東さん」
 東は蓜島のことをどこか、淡白な男だと思っていた。付き合ってみたらこれ以上ないほどに甘かったけれど性急に求められることはなかったし、スキンシップが少なかったわけではないけれど、それは親しみを込めた触れ合いの域を出ないものだった。

 そう、こんなにも火傷しそうなほどの熱が込められているものではなかったのだ。布団の上に座ったまま、中途半端に着た浴衣は乱れていくばかりだ。
 大きな両手で鷲掴みするように押さえられた腰や首が、少しだけ痛い。だけど痛いだなんて言う気にはなれなかった。こんなにも強い力で抱き締められていることが、むしろたまらなく嬉しい。

 痛いのに嬉しいなんて、相当惚れてしまってるんだな、と東は頭の隅でぼんやりと思う。


「蓜島さん、おれ…こわく、ないから」
 そう言ったのは、本音が半分と強がりが半分。
「……東さん」
 蓜島も東の心の内はわかっていた。だから本当かと確かめることはしなかった。何も言うべき言葉は見つからず、代わりにぎゅっと抱き締めて名前を呼ぶ。
「はいしま、さん」
「……うん」
「あ、……んっ…」
 呼び返された声があまりにも甘くとろけていたものだから、蓜島はたまらなくなって東のこめかみや首筋にキスを落とす。
 いつもつやつやとした唇以外も、東の肌はどこもきめ細やかで瑞々しい。ずっとキスしていたいと思ってしまうほどに。

「脱がせますね」
「…ん、どうぞ」
 裸はさっき既に見られているけれど、いざ直接そういうことをしようというときに見られるのはやはり緊張するものだった。
 旅館の浴衣の帯は簡易的なもので、簡単にするりと外すことができる。東はもう少し覚悟の時間が欲しかったような、いやむしろひと思いにサッと脱がされたのが良かったような、複雑な気持ちになった。
 帯が解かれると前を開かれ、するりと中に入れられた手で肩からハラリと浴衣が落ちた。
「……っ、」
 布地の中でこもっていた熱が直に伝わってしまいそうで、東は思わず身をすくめる。男同士だというのに、上半身を見られるというだけでもなんだかものすごく恥ずかしい。

「綺麗ですよ」
 部屋は小さな明かりしかつけておらず、窓から入る月の光で青白く東の肌が照らされている。東の端正な顔とよく引き締まった体に浮かぶ光と陰は、まるでひとつの芸術作品のように美しかった。
「そんなこと、ないです。だいぶ男っぽいし、傷とかもあるし…なんだか、幻滅…してませんか?」
「しないですよ。私は東さんのこと、女性の代わりにしようとしている訳じゃありません」
 パティシエは繊細そうなイメージとは裏腹に体力仕事だ。東は一人で何でもこなしているため腕や胸、脚はきちんとふっくらとした筋肉がついているし、細かな傷や火傷の痕があちこちにある。顔立ちが中性的ゆえにすらりと細そうでいて、衣服を取り払うと意外なほどにしっかりと男性らしい体つきに驚かれることもあった。

「東さんが見た目より力持ちなのも知ってますし、こういう火傷の痕も、これまでの東さんを作ってきたものだと思えば愛おしく感じますよ」
 東が気にしていたようなことなど何も気にかけていない蓜島の言葉が東は嬉しかった。そのままの自分を受け入れて愛してもらえる喜びが、胸の中に満ちていく。

「……もう、おればっかり恥ずかしいんですけど。蓜島さんも脱いで」
「ふふ、東さんが脱がせてください」
「わかりました」
 不安をまたひとつ取り除かれて、空気が柔らかくなる。東が蓜島の浴衣も脱がせようと帯に手をかけると、持て余した蓜島は東の顔や耳にたくさんキスをしていった。
「こら、ちょっと、邪魔しないで」
「東さんがかわいくて、つい」
 いちいち蓜島のキスに反応を示してしまうと脱がせる手が止まってしまう。東はそう悟って手早く一気に蓜島の浴衣を脱がせた。
 蓜島の体はその長身に見合った、ほどよく鍛えられた綺麗な筋肉の乗った体だった。甘いものが大好きでよく食べているにも関わらず、弛んでいるところは見受けられない。そういえば、太らないように気を付けてはいると言っていたっけ、と東はその体に見惚れながら思う。
「東さん」
 東がほんの少しの間ぼうっとしていると、蓜島は痺れを切らして名前を呼び、またその唇にキスをする。今度もたっぷりと熱を込めて、東に触れたいという欲も込めて。

 向かい合って座ったままの姿勢から噛み付かれるようなキスをされたものだから、つい東の上体は勢いに負けて仰け反り、そのまま後ろに倒れ込んだ。けれど、とさりと優しい音がして東の体に痛みも全くなかったのは、蓜島が体を支えながら布団に降ろしてくれたからだ。
「…はいしま、さん」
 仰向けにされた東の体の上に蓜島の影が落ちると、いよいよこれから自分はこの男に抱かれるのだという気分にさせられた。

 おかしなものだ。出会う前までは、まさか自分が男に抱かれるなんて考えたこともなかったというのに、いざそうなってみても、ちっとも嫌な気持ちにはならないのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~

水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。 アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。 氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。 「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」 辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。 これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!

俺の婚約者は小さな王子さま?!

大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」 そう言い放ったのはこの国の王子さま?! 同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。 今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。 「年の差12歳なんてありえない!」 初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。 頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL

路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―

たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。 以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。 ​「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」 トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。 ​しかし、千秋はまだ知らない。 レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

無愛想な氷の貴公子は臆病な僕だけを逃さない~十年の片想いが溶かされるまで~

たら昆布
BL
執着ヤンデレ攻め×一途受け

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

たとえ運命じゃなくても、僕は

mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。 たとえ運命から背を背けようとも」 音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。 努力家の先輩αと、 運命の番だと告げられた天才α。 運命か、愛情か―― 選ぶのは、僕自身だ。 ※直接的な描写はありません。

処理中です...