あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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本編

51.重くても

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 初めて繋がれた旅行の日から、ひと月ほど経った。
 二人の仲は順調どころか、既に安定しきっているような関係になっていた。もう素直な気持ちを言うことにも、抱き合うことにも躊躇いも戸惑いもない。二人でいることが当たり前で、何よりも大切で、かけがえのないものとなった。

 そんなある日のこと、東に一通のメッセージが届く。
 メッセージ受信を知らせる電子音が鳴って、いつものようにそれを確認すると、東はしばし考えるような顔のまま固まっていた。
「…東さん、どうかしましたか?」
「あ、ああ、いえ。弟からメッセージがきてたんですけど」
「悩むような内容だったんですか?」
「あはは、顔に出てましたか」
 東はなんでもお見通しだなと思って笑う。ソファですぐ隣に座っていた蓜島は、よく東のことが見えている。

 それから東はまた少し考える仕草をしてから、蓜島に問いかけた。
「……あの、うちの家族が、蓜島さんに会いたいって」
「ご家族が、私にですか」
 この提案にはさすがの蓜島も少し狼狽えた。嫌というよりも、一瞬考えただけでも緊張してしまったのだ。
「…すみません。おれ、蓜島さんと……その、男の人とお付き合いしてるって、親に話しちゃって。なんというか流れで……」
「は、はい。それは、いいんですが」
「親も弟も、おれのこれまでのことってだいたい知ってるので。蓜島さんはおれのこと見た目だけで判断しない人なんだって話したら、会ってみたいって、今度帰ってくるとき連れてきてって言い出しちゃって」
「…そうでしたか」

 東の両親は、幼馴染である和山や同じ学校に居た弟ほど細かな恋愛事情や学校での肩身の狭さを知っているわけではないが、傷ついて落ち込んで帰ってきた息子の姿はたくさん見てきたのだった。幼少期から外見のことで不躾な視線を向けられ怯えていた我が子のことは誰よりも見ている。
 だからこそ、息子が今度こそ自身を見てくれる人に出会えたのだと聞いて喜んでいた。
 もちろん相手が男性であるということに戸惑わなかったわけではない。それでも、息子が幸せだということのほうが大事だと考える人たちだった。

「多分めっちゃ歓迎はされると思うので、そんな緊張はしなくて大丈夫なんですけど……」
「きっと優しいご両親なのだろうとは思うのですが、私自身の前評判がそんなに良いとそこで緊張してしまいますね……」
「た、確かに」
 最初の印象が良すぎるとプレッシャーになるというのは、東が嫌というほど知っていることだ。蓜島の言うことは尤もなことである。

「…でも、私も東さんが生まれ育った場所には行ってみたいですし、ご家族にもお会いしてみたいです」
「本当? なんか聞いてから、両親に挨拶みたいな感じで、流石に重いかなって…思ってたんですけど」
 もじもじと東がそう言うと、蓜島は不安そうな顔を大きな手で優しく包んで、ふわりと微かに笑った。
「ふふ、重いのなんて、大歓迎ですよ。……私、東さんのこと、離してあげられないと思うので」
 蓜島はそう言いながら、東の額にキスをする。
「……おれ、重くていいんだ」
「ええ、私のほうが重いので」
「え~? どうかな」
 そう言い合いながら、二人はお互いに自身の体重をかけて寄りかかり合う。おかしな張り合いに、すぐに二人は笑い出してしまう。

「クリスマス前だとおれも実家も忙しくなっちゃうので、その前くらいかな」
「私も年末は流石に忙しそうなので、来月くらいがいいですかね。休むきっかけが見つからなくて有給がまだ余ってます」
「じゃあ、来月くらいにって返信しておきますね」
「お願いします」
 そうして二人での東の実家へと遊びに行くことになった。


 重くてもいい、離してやれない、なんて言いながらそんなことを決めると、本当にカップルが両親に挨拶にいくみたいな感じだと思えてしまう。
 事実としてはそうなのだけれど、まだ付き合い始めて数ヶ月で結婚を考えている…なんてこともない。というか、今のところ同性同士の結婚はできないから、そういう名目にはどうしてもならない。

 できないことは、考えたことがなかった。おれは蓜島さんと結婚したいのだろうか、と東はふと考えた。
 結婚したら、何が変わるのだろう。今でも一緒に住んでるような距離感だけれど、やっぱりもう少し密接になるだろうか。苗字が変わる、なんて本当に考えたことがなかったし、二人の間にはどうやったって子供はできない。
 どんな想像も、今の東にとっては違和感があった。そうなると、必要ないのではとも思える。
 ただ、生涯を共にする約束ということを考えると、それはすごく幸せなことのように思えた。

 すべてはまだ想像の世界だ。現にそんな話が出たわけでもない。
「どうしました? 東さん」
 それでも、このわかりにくくて愛おしい笑顔を、ずっと見ていたいなと東は思う。
「なんでもないです」
 今はまだそれを言葉にはせず、大切に胸の中にしまった。
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