52 / 79
本編
52.あたたかな風の吹くところ
しおりを挟む
長閑な田畑が広がる田舎町。ぽつぽつと離れて家が並び、この季節は殆どの畑が収穫が終わっていて、すっかり秋から冬に移り変わる準備が出来ているという雰囲気だ。
都会で過ごしていると、こんな風に景色で季節を強く感じるということは少ない。電車の窓から見える風景に、蓜島は良いところだな、と思った。
「畑と川くらいしか何にもないところですよ」
「何もないのが良い、ということもあるでしょう。それに、東さんの故郷ですから」
好きな人が、生まれ育った場所。それだけで、なんだか目に映るものすべてが綺麗なものに見える。それは、こんなにも綺麗な人が生まれた場所だと思うからだろうかと、蓜島は考えた。
最寄りの駅を降りて、そこからはバスに乗る。東は親から駅まで車で迎えに行こうかという連絡を受けていたが、いきなり初対面で車に乗るのも落ち着いて話もできないし緊張するだろうと断っていた。
そうでなくとも、今日の蓜島はやはりどこか緊張しているようだった。状況を考えれば、それはそうだろうと思う。
「手土産も忘れてないし、服装も……堅苦しすぎず、綺麗めなのを選んだつもりなんですが……大丈夫ですよね?」
蓜島は家を出てからずっとそわそわと持ち物の確認をしたり身だしなみを気にしたりしている。こんなに落ち着かない蓜島を見るのはなかなかに珍しい。
「大丈夫ですよ、そんなお堅いちゃんとした家じゃないですから。むしろ、ちょっと騒がしい家族ですけど」
蓜島としては、そうは言われても元々憧れの人と恋人になれたというだけでも未だ夢見心地だというのに、その御両親に挨拶するだなんて考えただけでも緊張してしまう。
こんなに綺麗な人の親となると、やっぱり……なんてことまで考える。さすがにそれは口には出来なかったし、考えないようにしていたけれど。
どんなに緊張して不安がっていても東の案内する通りに道を進めば、目的地へと着いてしまう。心の準備は既にしてきたつもりだったのに、いざ近付くと足がすくむような心持ちだった。
バスを降りて三分ほど歩いた頃、東が少し先を指差してあそこがうちですよ、と言った。
大きなビニールハウスがたくさん並び、その周りにも畑が広がっている大きな敷地。気持ち良い風の吹くその先に、その家はあった。
「ただいまーっ」
東は家の中に入ろうとはせず、畑のほうへ向かって大きな声でそう言った。すると、ひとつのビニールハウスの扉が開き、人が出てくる。
「おかえり、聡介!」
「おお、帰ったか」
「聡くん、おかえり!」
出てきたのは東の両親と弟だった。皆、東の姿を見るとパッと明るい笑顔になって、とても嬉しそうだ。
駆け寄ってきた東の家族は、隣の蓜島にも同じ笑顔を向けた。
「あなたが蓜島さん? いつも聡介がお世話になってます」
「はい、蓜島通成と申します。本日はお招きいただきありがとうございます」
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。ちゃんとした方なのね~」
まるで仕事の取引先に挨拶でもするように、いつも通り……いや、いつもよりももっと深々とお辞儀をする蓜島を見て、東の母は少し驚いてから笑った。それはおかしくて笑ったというよりも、なんだか安心したような笑顔に見えた。
同性同士で付き合うということは、少しずつ世間に認識が広まりつつあるとは言え、まだまだ受け入れられにくいものだと蓜島は考えていた。
それゆえに、あまりにもさっぱりとした東の家族に対応にやや肩透かしを喰らっていた。
「蓜島さん、本当にきちんとしてる方なのね~。なんで聡介と、なんて考えちゃう」
「だなあ。蓜島さん、うちのが迷惑かけてませんか」
「いえ、迷惑だなんて。むしろ私のほうがお世話になっているようなもので」
ちょっとくらい値踏みするような顔をされることも念の為覚悟してきたというのに、逆にそんなことを聞かれてしまう。蓜島は本心から言葉を返す。
「でも、僕も意外だった! 聡くんの彼氏っていうから、もっと変な人かなって」
「誠生、失礼だろ」
「あはは、真逆で良かったって話だよ」
「おれに失礼だろってことだよ」
「確かに!」
東の弟も人懐っこそうな笑顔のかわいい青年だった。二人で並ぶと似ていないが、親子で並ぶと家族なのだとわかる。東の涼やかな美しさと甘やかな雰囲気は両親ともに似ているし、弟の快活な印象のあるかわいらしさは母親にそっくりだった。
「ほらね、緊張するような家族じゃなかったでしょ」
東はそう言って笑う。
「…はい。とても緊張していたんですけど皆さんあたたかな人たちで……こういうご家族のなかで育ったから、東さん…聡介さんは優しくてあたたかい人なんだなと知れて嬉しいです」
蓜島のまっすぐな言葉に、東一家は皆思わず目を丸くして、それから照れるように笑った。
「……こういうことサラッと言う人なんだよ」
「す、すてきね~…!! お父さんもロマンチストだけど、こうも実直そうな人にストレートに言われるのはなかなか…」
「お、おい、ぼくはロマンチストじゃないだろう」
「なんで聡くんが好きになったのかわかった気がする……」
口々にリアクションしていく東家に蓜島も照れてしまった。
都会で過ごしていると、こんな風に景色で季節を強く感じるということは少ない。電車の窓から見える風景に、蓜島は良いところだな、と思った。
「畑と川くらいしか何にもないところですよ」
「何もないのが良い、ということもあるでしょう。それに、東さんの故郷ですから」
好きな人が、生まれ育った場所。それだけで、なんだか目に映るものすべてが綺麗なものに見える。それは、こんなにも綺麗な人が生まれた場所だと思うからだろうかと、蓜島は考えた。
最寄りの駅を降りて、そこからはバスに乗る。東は親から駅まで車で迎えに行こうかという連絡を受けていたが、いきなり初対面で車に乗るのも落ち着いて話もできないし緊張するだろうと断っていた。
そうでなくとも、今日の蓜島はやはりどこか緊張しているようだった。状況を考えれば、それはそうだろうと思う。
「手土産も忘れてないし、服装も……堅苦しすぎず、綺麗めなのを選んだつもりなんですが……大丈夫ですよね?」
蓜島は家を出てからずっとそわそわと持ち物の確認をしたり身だしなみを気にしたりしている。こんなに落ち着かない蓜島を見るのはなかなかに珍しい。
「大丈夫ですよ、そんなお堅いちゃんとした家じゃないですから。むしろ、ちょっと騒がしい家族ですけど」
蓜島としては、そうは言われても元々憧れの人と恋人になれたというだけでも未だ夢見心地だというのに、その御両親に挨拶するだなんて考えただけでも緊張してしまう。
こんなに綺麗な人の親となると、やっぱり……なんてことまで考える。さすがにそれは口には出来なかったし、考えないようにしていたけれど。
どんなに緊張して不安がっていても東の案内する通りに道を進めば、目的地へと着いてしまう。心の準備は既にしてきたつもりだったのに、いざ近付くと足がすくむような心持ちだった。
バスを降りて三分ほど歩いた頃、東が少し先を指差してあそこがうちですよ、と言った。
大きなビニールハウスがたくさん並び、その周りにも畑が広がっている大きな敷地。気持ち良い風の吹くその先に、その家はあった。
「ただいまーっ」
東は家の中に入ろうとはせず、畑のほうへ向かって大きな声でそう言った。すると、ひとつのビニールハウスの扉が開き、人が出てくる。
「おかえり、聡介!」
「おお、帰ったか」
「聡くん、おかえり!」
出てきたのは東の両親と弟だった。皆、東の姿を見るとパッと明るい笑顔になって、とても嬉しそうだ。
駆け寄ってきた東の家族は、隣の蓜島にも同じ笑顔を向けた。
「あなたが蓜島さん? いつも聡介がお世話になってます」
「はい、蓜島通成と申します。本日はお招きいただきありがとうございます」
「あらあら、ご丁寧にありがとうございます。ちゃんとした方なのね~」
まるで仕事の取引先に挨拶でもするように、いつも通り……いや、いつもよりももっと深々とお辞儀をする蓜島を見て、東の母は少し驚いてから笑った。それはおかしくて笑ったというよりも、なんだか安心したような笑顔に見えた。
同性同士で付き合うということは、少しずつ世間に認識が広まりつつあるとは言え、まだまだ受け入れられにくいものだと蓜島は考えていた。
それゆえに、あまりにもさっぱりとした東の家族に対応にやや肩透かしを喰らっていた。
「蓜島さん、本当にきちんとしてる方なのね~。なんで聡介と、なんて考えちゃう」
「だなあ。蓜島さん、うちのが迷惑かけてませんか」
「いえ、迷惑だなんて。むしろ私のほうがお世話になっているようなもので」
ちょっとくらい値踏みするような顔をされることも念の為覚悟してきたというのに、逆にそんなことを聞かれてしまう。蓜島は本心から言葉を返す。
「でも、僕も意外だった! 聡くんの彼氏っていうから、もっと変な人かなって」
「誠生、失礼だろ」
「あはは、真逆で良かったって話だよ」
「おれに失礼だろってことだよ」
「確かに!」
東の弟も人懐っこそうな笑顔のかわいい青年だった。二人で並ぶと似ていないが、親子で並ぶと家族なのだとわかる。東の涼やかな美しさと甘やかな雰囲気は両親ともに似ているし、弟の快活な印象のあるかわいらしさは母親にそっくりだった。
「ほらね、緊張するような家族じゃなかったでしょ」
東はそう言って笑う。
「…はい。とても緊張していたんですけど皆さんあたたかな人たちで……こういうご家族のなかで育ったから、東さん…聡介さんは優しくてあたたかい人なんだなと知れて嬉しいです」
蓜島のまっすぐな言葉に、東一家は皆思わず目を丸くして、それから照れるように笑った。
「……こういうことサラッと言う人なんだよ」
「す、すてきね~…!! お父さんもロマンチストだけど、こうも実直そうな人にストレートに言われるのはなかなか…」
「お、おい、ぼくはロマンチストじゃないだろう」
「なんで聡くんが好きになったのかわかった気がする……」
口々にリアクションしていく東家に蓜島も照れてしまった。
1
あなたにおすすめの小説
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
俺の婚約者は小さな王子さま?!
大和 柊霞
BL
「私の婚約者になってくれますか?」
そう言い放ったのはこの国の王子さま?!
同性婚の認められるパミュロン王国で次期国王候補の第1王子アルミスから婚約を求められたのは、公爵家三男のカイルア。公爵家でありながら、長男のように頭脳明晰でもなければ次男のように多才でもないカイルアは自由気ままに生きてかれこれ22年。
今の暮らしは性に合っているし、何不自由ない!人生は穏やかに過ごすべきだ!と思っていたのに、まさか10歳の王子に婚約を申し込まれてしまったのだ。
「年の差12歳なんてありえない!」
初めはそんな事を考えていたカイルアだったがアルミス王子と過ごすうちに少しづつ考えが変わっていき……。
頑張り屋のアルミス王子と、諦め系自由人のカイルアが織り成す救済BL
路地裏の王子様と秘密のカフェ ―10年ぶりに再会した親友はトップアイドルでした―
たら昆布
BL
大学生の千秋がバイト帰りの路地裏で助けたのは、今をときめくアイドル『GALAXY』のセンター、レオだった。
以来、レオは変装して千秋の働くカフェへ毎日通い詰めるようになる。
「千秋に会うと疲れなんて全部消えちゃうんだ」
トップアイドルとは思えないほど素直に懐いてくるレオに、千秋は戸惑いながらも多忙な彼を支えたいと願うようになる。
しかし、千秋はまだ知らない。
レオが10年前に「また絶対会おう」と約束して別れた泣き虫な親友の玲央本人だということに。
【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】
古森きり
BL
【書籍化決定しました!】
詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります!
たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました!
アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。
政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。
男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。
自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。
行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。
冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。
カクヨムに書き溜め。
小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。
【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】
彩華
BL
俺の名前は水野圭。年は25。
自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで)
だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。
凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!
凄い! 店員もイケメン!
と、実は穴場? な店を見つけたわけで。
(今度からこの店で弁当を買おう)
浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……?
「胃袋掴みたいなぁ」
その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。
******
そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
執着
紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。
たとえ運命じゃなくても、僕は
mimi
BL
「僕は自分の気持ちを信じたい。
たとえ運命から背を背けようとも」
音楽大学に通うΩの青年・相田ひなた。
努力家の先輩αと、
運命の番だと告げられた天才α。
運命か、愛情か――
選ぶのは、僕自身だ。
※直接的な描写はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる