あまいの、いくつほしい?

白湯すい

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いつか熟して、あまくなる

甘え下手のふたり

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「それが俺の昔の話。……卯月くんは男だし、俺はあのときそういうつもりで触ったわけではないから、何ともなかったけど。でも女がダメだからってじゃあ男って訳にもいかないだろうしさ」
「……そこは、僕としてはいってほしいんですけど」
「無茶言うなよ」
 和山はそんな風に食い下がる卯月に少し笑ってしまう。

「でも、あのとき和山さん、大人にも寂しいときはあるって言ってました。今の話を聞いて、やっぱり和山さんのことだったんだってわかりましたよ」
 寂しい。きっとそうなんだろう。言われてみればそれは、誰よりも自分に当てはまる言葉なのだろうと和山は思う。いや、きっと卯月も同じだ。

「あの夜、僕もすごく助かりました。心がちぎれちゃいそうだったのに、和山さんのやさしさで寂しいなって感じてた心があたたかくなった。和山さんは、東さんがそうしてくれたからそれを僕に返してくれただけって言ってましたけど、それなら僕が今度は和山さんにそれをまた返してあげたいです」
「卯月……」
 和山自身が使った言葉をそのまま返されてしまえば、和山はもう何も言えなくなる。ただ純粋な優しさだけで染まったはちみつ色の瞳がまっすぐに見つめてくるその様に、どこか東と同じものを感じた。

「和山はさ、もっと人に甘えてもいいのにな」

 東の言葉を思い出す。そうしたいと思っている自分を、許そうとしている卯月の瞳が目の前にある。

 自分を大切にしてこなかった自覚はある。けれどそれは、そうしなければ自分というものが保てなくて、自分らしくいられなかったからだ。
 まだ東と和山が学生の頃に夢として語っていた二人で始めた店も、軌道に乗って安定して、さらに大きくしていくことだってできた。ようやく、報われたと言っていいのかもしれない。自分によくやったなと言ってあげてもいいのかもしれない。

 はやく一人前になりたかった。自分たちの力で誰にでも認められる大人になりたかった。誰の助けもいらないと、いつも頑なだった。

 そうして一人で立てるようになった今、それでもずっとずっと胸の奥にある寂しさは癒えなかった。忘れることはできなかったのだ。自分だけの、自分のための居場所が欲しい。無条件に許されて愛されて、安心できる経験がない自分たちは、もしかしたら惹かれ合うべくして出会ったのかもしれない。和山はぼんやりと、そう思った。

「……卯月」
 名前を呼んで手を伸ばせば、簡単に手が届いた。さらりと綺麗な白い肌を撫でると、遠慮がちに戸惑いながらもそれを受け入れている。

「おいで」

 和山がそう言って軽く片腕を広げる。卯月はびっくりしながらも嬉しそうな顔をする。いいんだろうか、と戸惑いながら、そっと和山の肩に寄りかかり、身を預ける。ハグしてもいい、というつもりだった和山はその仕草にふと笑ってしまう。笑いが漏れるくらいに甘えるのが下手だ。

 伝わらなかったのなら、自分がそうしてみせたらいい。和山はそう思って、寄りかかってきた卯月の細い体をぎゅっと抱き寄せた。
「……っ、わやまさん?」
「なあ、俺も甘えていーの?」
 甘えて我儘を言うのが苦手なのは和山も同じだ。下手くそでも、それはそれでしゃーないじゃん、と、東だったら笑うのだろうなと和山は考える。

「も、もちろん。どんと来いです」
「へえ。何してくれんの?」
「わ、わやまさん、なんかキャラ変わってません?」
「……甘えさせてくれんでしょ。したことないんだから、しょうがないじゃん」
「僕も、よく知らないんですけど」
「じゃあ、してほしいこと、してみてよ」

 和山は卯月の顔を見て、言い慣れない我儘とおねだりをする。こんなのは、何をしてもいいということだ。卯月は混乱しながらも嬉しくて、でも戸惑いのほうが大きかった。

「……じゃ、目、閉じてください」
「…………ん、」
 そう言われて、何をされるかわからない訳はない。

 人に甘えてもいい。自分の気持ちに素直になってもいい。そう思うと、自然と導き出されるひとつの答えがそこにはあった。
 きっかけは似たような傷を持っていたからだったかもしれない。そう言ってしまうと傷の舐め合いみたいに感じるけれど、別にそんなことはどうだっていい。他の子たちだったらしなかったであろう手助けも、人に触るのは苦手なのに抱き締めたことも無意識のうちに髪に触れたくなって伸ばしかけた手も、自分の弱さを話せたことも、自分の心の声をきちんと聞けば全部説明がつくのだ。

「……すきだよ」

 恐る恐る、静かに触れただけの唇が離れてすぐに、たった四つのその音を紡ぐ。
 和山にとってそれが何より難しいことだった。けれどやってみれば、なんてことはない。ただ短いその言葉を音にして伝えるだけのこと。実にあっさりしたものだった。
「…………!」
 けれどそれだけのことで、腕の中の愛おしいひとが大きな瞳に涙を滲ませるくらいに喜んでくれる。素直になるというのは、こんなにも簡単だったんだな、と気づく。

「俺さ、多分重いよ」
「僕もですよ」
「今は平気だけど、なんかうまいこといかないかもしれないし」
「和山さんがしんどいことはしたくないです」
「あと、そもそも男だし」
「それはなんか、しゃーないじゃないですか」
「しゃーないか」
「そうですよ」
「それもそうだな」
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