14 / 28
魚釣りをしながら
「今日は約束していた釣りにでも行こうか」
「いいですね、楽しみです」
「私はあまり食わずとも平気だが、ちゃんとフェイの食事を確保しなければね」
「ありがとうございます。私も割と少食ですが、いただいた粥のおかげで元気になりました。やはり食は大事ですね」
数日後、すっかり元気になったフェイと揃いで釣りに出かけることにした。
「それに、この前いただいたマスは美味しかったです。私、お魚は好きみたいです」
「釣れるといいな」
屋敷から川はすぐ近くなので、今日はふたりで釣り道具を持ちながらのんびりと歩く。
「ここへ来てから、少しずつですが足腰が鍛えられた気がします」
「今までこんな風に歩き回ることはなかったのだろう」
「はい。なのでもっと体力をつけたいです」
「うん。がんばろう」
川につくとフェイは針への餌のつけ方をルイから習い、ふたりで一本の釣り糸を垂らした。魚がかかるまでは待つだけだから、ぽつぽつと話しながらゆったりと時間が進む。
「そういえば、手紙の返事は書いたのかい?」
「まだなんです。ジンに伝えたいことばかり考えていたので、もう直接話してしまいましたから、何と書いたものか」
「弟以外には親しい者は居なかったのか」
「私にも優しくしてくれた使用人の方も少し居ましたが、親しい者というとジンと幼馴染のミンシャだけです」
「その名は何度か聞いたな」
「はい。私たち双子とは歳も近くて、とても優しくて明るい女子です。使用人というよりは友人かきょうだいか、そんな風な関係でした」
「ほう、かわいいのか?」
「とてもかわいらしい子で……そうですね、ミンシャに宛てた手紙でも、届けていただけるでしょうか……」
「ユンロンなら届けてくれるだろうさ。しかしフェイ、おまえはからかい甲斐がない子だね」
「……えっ? あ、ああ、今のはやはり、そうでしたか」
フェイはもしかしたらそういう意図かもしれないと思いつつも、素直に答えてしまった。
「……私は色恋などとは無縁でしたから。自分にそういうことが叶うとは思ったこともありませんでしたし……彼女の気持ちがどうあれ、私が相手ではうまくいくことはないでしょうから」
「……その口ぶりは、もしや惚れられていたか」
「…………私もそこまで鈍くはなかったので……。でも、ミンシャは私にはもったいない娘です。彼女にはちゃんと……普通に恋をして、結ばれてほしい……苦労はかけたくないですから」
「フェイに気持ちはなかったのかい」
「さて、どうだったのかはわかりません。けれど今思うと、あれはただ純粋な感謝と、ジンユェに対するものと同じような、きょうだいへの愛だったのだと思います」
話しているとふいにちゃぷん、と浮きが沈み、釣り糸が引っ張られる。
「お、引っかかったね。フェイ、網を頼むよ」
「は、はいっ」
「よし、まずは一匹めだ」
ルイはフェイに見せながら、器用に針を魚の口から外し、魚を水の張った桶にぽちゃんと入れた。
「すごいです、釣れるものですね」
「このあたりはよく釣れるところなんだ」
「そうなんですね」
フェイは釣れた魚を珍しそうに夢中で眺めている。王宮では既に調理された魚しか目にしたことはないし、生き物の図録ももちろん色は言葉でしか書かれていなくて、青白く輝くその身がこんなにも綺麗だと知らなかった。
「………話の続きを考えていたのですが」
「うん、なんだい?」
「ジンユェ、あいつは隠していたけれど、ミンシャのことが好きなんです」
「ほう、そうだったのか」
「私は自分のことよりも、弟の健気な恋が叶ってほしかった。とても似合いのふたりだから、ふたりがうまくいったら、私も幸せです。ジンはいい男ですから、その気になれば振り向かせられるはずです」
フェイは陽の光を浴びてきらきらと光る魚が泳ぐ姿や流れる川を眺め、さわさわと風が揺らす木々の音を聞く。
そして隣にいるルイを見つめた。
「私には恋がよくわかっていませんでした。……けれどルイの側では、いつも新しい世界が広がっていて、いつでも心がはしゃいで……今まで見えていなかった自分の中のものまで、はっきりと色がついていくんです。私は今は、そんな日々が……そこに居てくれるルイが、大切で……何より愛おしいです」
それは、不器用で恋を知らないフェイの精一杯の愛の言葉だった。
ルイは思わず、フェイのことを抱き締めた。
「わっ、ルイ?」
「フェイ……かわいいフェイ。私の妻は、本当にかわいいね」
「ル、ルイ……っ」
「……私も、久しく恋などしておらぬ。だから私にもこの気持ちが何なのかなど、正しく知ることはできない。けれど、けれど今……こんなにもフェイが愛おしい。私もフェイのことが何より大切で、守りたくて……愛しいよ」
「ルイも、同じ気持ちで……いてくれてるのですか……?」
この状況でもなお少し不安そうな声で言うフェイの頬を撫でて、ルイはそっとくちづけをした。
「……私はフェイに、こうしたいよ」
「……っ、…………わ、私もです……ん、」
気持ちを確認し合うと、ルイはちゅ、ちゅ、と何度も唇を合わせた。
「……ルイは、私でいいのですか? 私は、男ですし……愛らしくもありませんし……」
「フェイがいいのだ。私がフェイに出会って、心を通わせて、今こうしている。他のことは知らない。ふたりともこの気持ちが何かわからぬのなら、私たちはこれを恋と名付けよう。どうせそれ以外のことは、ここにはないのだから。誰にも間違いなどわからぬよ」
「……ふふ。ルイがそう言うと、そう思えてきてしまうから不思議です」
「フェイはそう、信じていておくれ」
「……はい。私の旦那さま」
ふたりが気持ちを通わせた喜びに浸りながらくっついていると、また釣り糸がぴんぴんと張り始める。
「わっ、ルイ、引いてます引いてます!」
「むうう、なかなかうまくいい雰囲気は続かぬものだな」
危うく川に流されそうになる釣り竿をなんとか捕まえながら、ふたりはおかしくて笑い合いながらまた一匹、今度はさっきよりも大きな魚を釣り上げた。
「いいですね、楽しみです」
「私はあまり食わずとも平気だが、ちゃんとフェイの食事を確保しなければね」
「ありがとうございます。私も割と少食ですが、いただいた粥のおかげで元気になりました。やはり食は大事ですね」
数日後、すっかり元気になったフェイと揃いで釣りに出かけることにした。
「それに、この前いただいたマスは美味しかったです。私、お魚は好きみたいです」
「釣れるといいな」
屋敷から川はすぐ近くなので、今日はふたりで釣り道具を持ちながらのんびりと歩く。
「ここへ来てから、少しずつですが足腰が鍛えられた気がします」
「今までこんな風に歩き回ることはなかったのだろう」
「はい。なのでもっと体力をつけたいです」
「うん。がんばろう」
川につくとフェイは針への餌のつけ方をルイから習い、ふたりで一本の釣り糸を垂らした。魚がかかるまでは待つだけだから、ぽつぽつと話しながらゆったりと時間が進む。
「そういえば、手紙の返事は書いたのかい?」
「まだなんです。ジンに伝えたいことばかり考えていたので、もう直接話してしまいましたから、何と書いたものか」
「弟以外には親しい者は居なかったのか」
「私にも優しくしてくれた使用人の方も少し居ましたが、親しい者というとジンと幼馴染のミンシャだけです」
「その名は何度か聞いたな」
「はい。私たち双子とは歳も近くて、とても優しくて明るい女子です。使用人というよりは友人かきょうだいか、そんな風な関係でした」
「ほう、かわいいのか?」
「とてもかわいらしい子で……そうですね、ミンシャに宛てた手紙でも、届けていただけるでしょうか……」
「ユンロンなら届けてくれるだろうさ。しかしフェイ、おまえはからかい甲斐がない子だね」
「……えっ? あ、ああ、今のはやはり、そうでしたか」
フェイはもしかしたらそういう意図かもしれないと思いつつも、素直に答えてしまった。
「……私は色恋などとは無縁でしたから。自分にそういうことが叶うとは思ったこともありませんでしたし……彼女の気持ちがどうあれ、私が相手ではうまくいくことはないでしょうから」
「……その口ぶりは、もしや惚れられていたか」
「…………私もそこまで鈍くはなかったので……。でも、ミンシャは私にはもったいない娘です。彼女にはちゃんと……普通に恋をして、結ばれてほしい……苦労はかけたくないですから」
「フェイに気持ちはなかったのかい」
「さて、どうだったのかはわかりません。けれど今思うと、あれはただ純粋な感謝と、ジンユェに対するものと同じような、きょうだいへの愛だったのだと思います」
話しているとふいにちゃぷん、と浮きが沈み、釣り糸が引っ張られる。
「お、引っかかったね。フェイ、網を頼むよ」
「は、はいっ」
「よし、まずは一匹めだ」
ルイはフェイに見せながら、器用に針を魚の口から外し、魚を水の張った桶にぽちゃんと入れた。
「すごいです、釣れるものですね」
「このあたりはよく釣れるところなんだ」
「そうなんですね」
フェイは釣れた魚を珍しそうに夢中で眺めている。王宮では既に調理された魚しか目にしたことはないし、生き物の図録ももちろん色は言葉でしか書かれていなくて、青白く輝くその身がこんなにも綺麗だと知らなかった。
「………話の続きを考えていたのですが」
「うん、なんだい?」
「ジンユェ、あいつは隠していたけれど、ミンシャのことが好きなんです」
「ほう、そうだったのか」
「私は自分のことよりも、弟の健気な恋が叶ってほしかった。とても似合いのふたりだから、ふたりがうまくいったら、私も幸せです。ジンはいい男ですから、その気になれば振り向かせられるはずです」
フェイは陽の光を浴びてきらきらと光る魚が泳ぐ姿や流れる川を眺め、さわさわと風が揺らす木々の音を聞く。
そして隣にいるルイを見つめた。
「私には恋がよくわかっていませんでした。……けれどルイの側では、いつも新しい世界が広がっていて、いつでも心がはしゃいで……今まで見えていなかった自分の中のものまで、はっきりと色がついていくんです。私は今は、そんな日々が……そこに居てくれるルイが、大切で……何より愛おしいです」
それは、不器用で恋を知らないフェイの精一杯の愛の言葉だった。
ルイは思わず、フェイのことを抱き締めた。
「わっ、ルイ?」
「フェイ……かわいいフェイ。私の妻は、本当にかわいいね」
「ル、ルイ……っ」
「……私も、久しく恋などしておらぬ。だから私にもこの気持ちが何なのかなど、正しく知ることはできない。けれど、けれど今……こんなにもフェイが愛おしい。私もフェイのことが何より大切で、守りたくて……愛しいよ」
「ルイも、同じ気持ちで……いてくれてるのですか……?」
この状況でもなお少し不安そうな声で言うフェイの頬を撫でて、ルイはそっとくちづけをした。
「……私はフェイに、こうしたいよ」
「……っ、…………わ、私もです……ん、」
気持ちを確認し合うと、ルイはちゅ、ちゅ、と何度も唇を合わせた。
「……ルイは、私でいいのですか? 私は、男ですし……愛らしくもありませんし……」
「フェイがいいのだ。私がフェイに出会って、心を通わせて、今こうしている。他のことは知らない。ふたりともこの気持ちが何かわからぬのなら、私たちはこれを恋と名付けよう。どうせそれ以外のことは、ここにはないのだから。誰にも間違いなどわからぬよ」
「……ふふ。ルイがそう言うと、そう思えてきてしまうから不思議です」
「フェイはそう、信じていておくれ」
「……はい。私の旦那さま」
ふたりが気持ちを通わせた喜びに浸りながらくっついていると、また釣り糸がぴんぴんと張り始める。
「わっ、ルイ、引いてます引いてます!」
「むうう、なかなかうまくいい雰囲気は続かぬものだな」
危うく川に流されそうになる釣り竿をなんとか捕まえながら、ふたりはおかしくて笑い合いながらまた一匹、今度はさっきよりも大きな魚を釣り上げた。
あなたにおすすめの小説
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
繋ぎの婚約を契約通り解消しようとしたら、王宮に溺愛軟禁されました
こたま
BL
エレンは子爵家のオメガ令息として産まれた。年上のアルファの王子殿下と年齢が釣り合うオメガ令息が少なく、他国との縁組も纏まらないため家格は低いが繋ぎとして一応婚約をしている。王子のことは兄のように慕っており、初恋の人ではあるけれど、契約終了時期か王子に想い人が現れた時には解消されるものと考えていた。ところが婚約解消時期の直前に王子宮に軟禁された。結婚を承諾するまでここから出さないと王子から溢れるほどの愛を与えられる。ハッピーエンドオメガバースBLです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
【完結】転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。