つのつきの子は龍神の妻となる

白湯すい

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魚釣りをしながら

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「今日は約束していた釣りにでも行こうか」
「いいですね、楽しみです」
「私はあまり食わずとも平気だが、ちゃんとフェイの食事を確保しなければね」
「ありがとうございます。私も割と少食ですが、いただいた粥のおかげで元気になりました。やはり食は大事ですね」

 数日後、すっかり元気になったフェイと揃いで釣りに出かけることにした。

「それに、この前いただいたマスは美味しかったです。私、お魚は好きみたいです」
「釣れるといいな」

 屋敷から川はすぐ近くなので、今日はふたりで釣り道具を持ちながらのんびりと歩く。

「ここへ来てから、少しずつですが足腰が鍛えられた気がします」
「今までこんな風に歩き回ることはなかったのだろう」
「はい。なのでもっと体力をつけたいです」
「うん。がんばろう」


 川につくとフェイは針への餌のつけ方をルイから習い、ふたりで一本の釣り糸を垂らした。魚がかかるまでは待つだけだから、ぽつぽつと話しながらゆったりと時間が進む。

「そういえば、手紙の返事は書いたのかい?」
「まだなんです。ジンに伝えたいことばかり考えていたので、もう直接話してしまいましたから、何と書いたものか」
「弟以外には親しい者は居なかったのか」
「私にも優しくしてくれた使用人の方も少し居ましたが、親しい者というとジンと幼馴染のミンシャだけです」
「その名は何度か聞いたな」
「はい。私たち双子とは歳も近くて、とても優しくて明るい女子です。使用人というよりは友人かきょうだいか、そんな風な関係でした」
「ほう、かわいいのか?」
「とてもかわいらしい子で……そうですね、ミンシャに宛てた手紙でも、届けていただけるでしょうか……」
「ユンロンなら届けてくれるだろうさ。しかしフェイ、おまえはからかい甲斐がない子だね」
「……えっ? あ、ああ、今のはやはり、そうでしたか」

 フェイはもしかしたらそういう意図かもしれないと思いつつも、素直に答えてしまった。

「……私は色恋などとは無縁でしたから。自分にそういうことが叶うとは思ったこともありませんでしたし……彼女の気持ちがどうあれ、私が相手ではうまくいくことはないでしょうから」
「……その口ぶりは、もしや惚れられていたか」
「…………私もそこまで鈍くはなかったので……。でも、ミンシャは私にはもったいない娘です。彼女にはちゃんと……普通に恋をして、結ばれてほしい……苦労はかけたくないですから」
「フェイに気持ちはなかったのかい」
「さて、どうだったのかはわかりません。けれど今思うと、あれはただ純粋な感謝と、ジンユェに対するものと同じような、きょうだいへの愛だったのだと思います」

 話しているとふいにちゃぷん、と浮きが沈み、釣り糸が引っ張られる。

「お、引っかかったね。フェイ、網を頼むよ」
「は、はいっ」
「よし、まずは一匹めだ」

 ルイはフェイに見せながら、器用に針を魚の口から外し、魚を水の張った桶にぽちゃんと入れた。

「すごいです、釣れるものですね」
「このあたりはよく釣れるところなんだ」
「そうなんですね」

 フェイは釣れた魚を珍しそうに夢中で眺めている。王宮では既に調理された魚しか目にしたことはないし、生き物の図録ももちろん色は言葉でしか書かれていなくて、青白く輝くその身がこんなにも綺麗だと知らなかった。

「………話の続きを考えていたのですが」
「うん、なんだい?」
「ジンユェ、あいつは隠していたけれど、ミンシャのことが好きなんです」
「ほう、そうだったのか」
「私は自分のことよりも、弟の健気な恋が叶ってほしかった。とても似合いのふたりだから、ふたりがうまくいったら、私も幸せです。ジンはいい男ですから、その気になれば振り向かせられるはずです」

 フェイは陽の光を浴びてきらきらと光る魚が泳ぐ姿や流れる川を眺め、さわさわと風が揺らす木々の音を聞く。
 そして隣にいるルイを見つめた。

「私には恋がよくわかっていませんでした。……けれどルイの側では、いつも新しい世界が広がっていて、いつでも心がはしゃいで……今まで見えていなかった自分の中のものまで、はっきりと色がついていくんです。私は今は、そんな日々が……そこに居てくれるルイが、大切で……何より愛おしいです」

 それは、不器用で恋を知らないフェイの精一杯の愛の言葉だった。
 ルイは思わず、フェイのことを抱き締めた。

「わっ、ルイ?」
「フェイ……かわいいフェイ。私の妻は、本当にかわいいね」
「ル、ルイ……っ」
「……私も、久しく恋などしておらぬ。だから私にもこの気持ちが何なのかなど、正しく知ることはできない。けれど、けれど今……こんなにもフェイが愛おしい。私もフェイのことが何より大切で、守りたくて……愛しいよ」
「ルイも、同じ気持ちで……いてくれてるのですか……?」

 この状況でもなお少し不安そうな声で言うフェイの頬を撫でて、ルイはそっとくちづけをした。

「……私はフェイに、こうしたいよ」
「……っ、…………わ、私もです……ん、」

 気持ちを確認し合うと、ルイはちゅ、ちゅ、と何度も唇を合わせた。

「……ルイは、私でいいのですか? 私は、男ですし……愛らしくもありませんし……」
「フェイがいいのだ。私がフェイに出会って、心を通わせて、今こうしている。他のことは知らない。ふたりともこの気持ちが何かわからぬのなら、私たちはこれを恋と名付けよう。どうせそれ以外のことは、ここにはないのだから。誰にも間違いなどわからぬよ」
「……ふふ。ルイがそう言うと、そう思えてきてしまうから不思議です」
「フェイはそう、信じていておくれ」
「……はい。私の旦那さま」

 ふたりが気持ちを通わせた喜びに浸りながらくっついていると、また釣り糸がぴんぴんと張り始める。

「わっ、ルイ、引いてます引いてます!」
「むうう、なかなかうまくいい雰囲気は続かぬものだな」

 危うく川に流されそうになる釣り竿をなんとか捕まえながら、ふたりはおかしくて笑い合いながらまた一匹、今度はさっきよりも大きな魚を釣り上げた。
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