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あるかもしれない話(オメガバース)
しおりを挟む俺の母は、男である。
唐突に何を言ってるんだ。と思うかもしれない。
この世には、男子と女子の他にα、β、Ωの性別がある。
βは、世にいう“普通”の人間。
αは、世にいう“エリート”
Ωは、“劣等種”として扱われている。
Ωは、男でも繁殖器がある。そう、母はΩなのだ。
俺の母の名前は、“小林幸哉”。さすがΩなだけあってとても綺麗だ。
そんな母が、俺は嫌いだ。Ωは、何も出来ない。社会からも見放され、αがいないとΩは生きていけないんだから
そんな“劣等種”俺は嫌いだ。そんな、Ωを好きという父だって俺にはウザくてたまらなかった。
────────────────────────────────────
俺の息子は、俺が嫌いらしい。
赤ん坊の頃は、とても愛らしかった。
「ママ抱っこ」と言って腕を広げる息子はとても可愛かった。
そんな、息子が俺を嫌いになったのは、小学四年生。
性別検査の結果が“α”とわかってからだった。
“Ω”は、劣等種。αの奴隷と思うようになった。
息子は、“Ω”な俺をαの奴隷として接した。
口を開けば「肉便器」「父さんの奴隷」と言った。
俺の旦那には、“α”だから俺ほどひどい扱いはしない。
いくら俺らが、運命の番で“Ω”を差別しない人だったとしても
家族の1人。ましてや、息子に差別されて傷つかない人がいるだろうか?
そんな、俺を見て旦那は言った。
「息子を、養子に出そうか?」と
裏を返せば、この子を捨てようか?というものだった。
俺は、「嫌だ」と言った。例え俺を嫌いでも、俺の子である
俺を嫌いでも、俺はこの子を愛してるから。
いつか、俺を認めてくれる時が来るかもしれない。
そうだよね?〇〇──────────。
────────────────────────────────
俺は、妻を愛している。俺と幸哉は、運命の番だった。
幸哉は、周りから劣等種として扱われていた。
高校の親友と思っていたやつには犯され
会社の上司には、拉致監禁。一時期、人間不信にもなった。
そんな幸哉を見て、俺は助けようと思ったんだ。
幸哉の幸せを奪うやつは、俺が許さない。
そう思っていた。
その幸哉の幸せを奪う人物が、実の息子だと誰が思うだろうか?
幼い頃は、俺らに懐いていた。
小学四年生になると、性別について学び社会の厳しさを知ったのだろう。
幸哉に対しての辺りが強くなった。
正直、自分の子供が“Ω”に対してこうも差別的に育つとは思わなかった。
俺は、幸哉に「息子を、養子に出そうか?」と言った。
幸哉の幸せを奪うものは、例え息子でも許せない。
これ以上、幸哉がどんどん自分を追い詰めるくらいなら
子供を捨てた方がいい。
そう思っていた。
だが、幸哉は泣きそうな顔で「嫌だ」と言った。
「あの子は俺の子だから」という。
その子供に、お前はここまで精神的に追い詰められているのに……
どうして、庇おうとする?俺は、幸哉のことがわからなかった。
幸哉に言われたとおり、俺は息子を養子には出さなかった。
───────────────────────────────
ある日、母が死んだ。
俺が仕事に行く途中、居眠り運転のトラックにひかれそうになったのを庇って。
俺は、意味がわからなかった。母が死んで、悲しいとは思わなかった。
でも、母がなんで俺を庇ったのか分からなかった。
母は死ぬ前に、俺を見て笑った。「よかった。やっと親らしいこと出来た。」と言った。
今まで、親らしいことをする素振りもなかったのに何を今更と思った。
葬式が始まると、父は泣いていた。愛していたのだから当たり前か。
周りの親戚は、「やっと忌々しい“Ω”が消えた」と話していた。
父は、それが聞こえていたのか、唇をかみ怒りに振るえていた。
何を怒る必要があるのか、事実ではないか。
“Ω”は、社会で役に立たない。死んでせいせいするじゃないか。
なのに、俺はなんでこうも胸がざわつくのだろう。
母が死んでから、胸のざわつきが止まらない。
父は、その日についてのことを聞いた。
俺は、正直に言った。母がなぜ笑っていたのか分からなかったから。
その話を、父に言うと、父はないていた。「そうか。幸哉は、お前を守って……」と涙ぐむ。
「あの人は、なんで笑っていたの」と父を聞いた。
「それは、幸哉がお前を愛していたからだよ。」と言った。
母が、俺を愛していた?ますます意味がわからなかった。
俺は、母に愛されるようなことをしてこなかった。
それどころか、恨まれてもいいはずだ。
そう俺が悩んでいると、父はまた付け足した。
「俺らは、お前が生まれた時から愛しているよ。」
俺は、胸のざわつきが一気に涙となって出てきた。
母を何度も傷付けて、母は親らしいことが1番最後に出来たかもしれない。
でも、でも…………
「俺は、母さんに息子らしいことなんて1度もしてないっ……」
父は、俺を抱き寄せ話を続ける。
「俺な。正直お前を捨てようとしたんだ。」
「……」
当たり前だ。俺は、父が愛している人にさんざん酷いことを言った。
「でも、幸哉がいつかお前が幸哉を認めてくれる日が来るって信じてたんだ。」
母は、ずっと俺を信じていた。そんな母を俺は蔑ろにした。
「俺のせいだ……。母さんが死んだのはおれのせいだ。」
「違うよ。幸哉はね、お前が産まれてくる時に言ったんだ。」
“世界で1番幸せになってね。さち”
「“さち”はね。幸せになるようにって願いを込めて幸哉がつけたんだ。」
ありがちな名前の付け方だけど。
俺は、母さんを思うと胸が痛かった。
母さん。ごめん。そして、ありがとう。
─────────────────────────────────
母さんがなくなって、月日がたったあと俺はΩと結婚した。
両親と同じで、運命の番だ。
今なら父の気持ちがわかる。Ωに対して世間は厳しい。
そんな、Ωを傷つける人がいたら俺は一生許さないと思う。
父は、そんな俺を許してくれた。そんな父を俺は尊敬している。
母さん、見ていますか?
「母さん。俺無事に結婚したよ。母さんに見せたかったな。」
墓に添える花は、クチナシの花──────────
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