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リーズの恋3

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「私ね、こう見えても、結構いいところのお嬢さんだったのよ」

リーズはエイミに、自分の生い立ちを語った。

リーズはゴゥト王国との国境付近の街で生まれた。交易で賑わう大きな街で、リーズの家は裕福な商家だった。

「平民は平民だけど、何不自由ない暮らしで、適齢期になったらきっといい嫁ぎ先を見つけてもらってたんだと思う…でもゴゥト王国との戦争で、ぜーんぶ無くなっちゃった」

エイミはなにも言えなかった。エイミの村は貧しい田舎だったが、それ故に戦争の脅威にさらされることもなかったからだ。

「足を怪我してて、お腹も空いてるし、もう一歩も動けないってなったときにね、アルが見つけてくれたの」

辛い記憶はもうあやふやになっている部分も多いけれど、あの光景だけは今も鮮明に思い出せる。

「アルの背中に羽が生えているように見えた。あぁ、天使様が助けに来てくれたんだって」

家族を失くしたショックから、喋ることも笑うこともしなくなったリーズにしつこく話しかけ続けてくれたのもアルだった。

性格は見た目ほど天使じゃなかったけど、それでもリーズを救ってくれたのはアルだったのだ。

「アルと離れたくないの……そんな理由でお断りしたら、さすがのジーク様も怒るかしら」

リーズは泣き笑いみたいな表情で、エイミに言った。

エイミはぶんぶんと首を振った。

「怒るわけないです! ジーク様はリーズの幸せを一番に考えてくれますよ」

アルに子供扱いされるのが悔しくて、当てつけで縁談の話に乗ってみたけれど、やっぱり自分の気持ちを再確認しただけだった。

(お嫁にいくなら、その相手はやっぱりアルがいいわ)

数日後。トマス爺に頼まれて、お庭の掃除を手伝っていたリーズのところにアルがやってきた。

「断ったんだって?」
「うん」
「不細工だったとか?」
「全然。すごく格好よかった。それに、アルと違って紳士的で優しい人よ」

リーズは楽しげに、歌うように答えた。

「じゃ、なにが不満だったんだ?」

アルが形のよい眉を怪訝そうにひそめる。

「不満はないけど……大きな問題がひとつあったのよ」

リーズはくすりと笑った。

「なに?」

くるりと身を翻すと、リーズはアルの鼻先に人差し指をつきつけた。

「私がお嫁にいっちゃうと、アルが一生独り身になっちゃうでしょ」
「な、なに馬鹿なことを言って……」

ほんの少しだけアルが動揺したのを、リーズは決して見逃さない。

「もう。素直じゃないんだから。だって、そうでしょ。アルの意地悪についていけるのなんて、私くらいなもんよ」

アルはふんとリーズに背を向けた。

「子供のくせに、馬鹿なことを言ってるな。さっさと掃除をしろ」
「あら。わざわざ邪魔しにきたのはどっちよ」
「う、る、さ、いっ」

今日の勝負は、どうやらリーズの勝ちのようだ。リーズはそれを察して、ふふっとほくそ笑んだ。

そんなリーズをアルは面白くないと言わんばかりの顔で眺めていたが、ふとなにかを思いついたように、にやりと笑った。

「リーズ」
「え?」

アルはリーズの腕をひくと、背中からきゅっと抱きしめた。そして、耳元に唇を寄せた。

「だったら、早く大人になれ」

いつになく男らしい艶のある声で、そんな風に言われ、リーズはたちまち腰を抜かしてしまった。

耳も、頬も、頭の中も、全身が熱い。
へたりとその場にかがみ込んでしまったリーズを残して、アルはすたすたと歩き去る。

リーズはしばらく、その場から一歩も動けなかった。

(なに、あれ。アルがあんな格好いいこと言っちゃうなんて、反則でしょ~)

その夜のこと。三つ子を寝かしつけたジークとエイミは、ふたりで夜のティータイムを楽しんでいた。故郷に戻ったゾフィー婆やとキャロルが送ってくれたブレンドティーだ。

「寝つきが良くなるそうですよ」
「うむ、うまいな」

本当はゾフィー婆やお手製の精力増強スペシャルブレンドなのだが……そんなことはふたりとも知る由もない。

「それにしても、リーズとアルが……とは予想外でした」

つい先程、夕食の席で、アルが後々はリーズと結婚したいとはっきり宣言したのだ。
ふたりの仲の良さは周知の事実だったが、兄妹のような関係なのだとエイミは思っていた。

(でも、言われてみれば、リーズはそうだったのかも)

「そうだな。リーズもアルを好きだとは思いもしなかった」
「ですよね~。ん? リーズもって……逆じゃなくてですか?」

リーズのほうは言われてみればという感じだが、アルの気持ちはエイミにはさっぱりわからなかった。全く思いつきもしていなかったのだ。だが、ジークからすれば逆のようだ。

「アルがリーズを好きなのは、なんとなく気づいていたぞ。だからこそ、あえてアルの前で縁談の話をしてみたりしたのだ」

ジークがそんな気の利いたお膳立てを思いついたことも意外だったが、アルの気持ちを知っていたことはもっと驚きだった。

「うまくまとまって良かった、良かった」と、ジークは満足度な顔をしている。

「えぇ? なんでわかったんですか? どこらへんで?」

アルのあの態度に恋心など含まれていただろうか。そして、鈍感なジークがなぜそれに気がついたのだろう。エイミは不思議で仕方なかった。

「う~ん。なんでと言われても」

ジークは首をひねった。

「アルは長い付き合いで、半身のような存在だ。なにも言われずとも、あいつの考えていることは大体わかる。理屈ではないな」
「そ、そうですか……」

エイミはそれきりなにも言えなかった。想像以上にショックが大きい。

だって、まるで熱烈な愛の告白じゃないか。

(半身って……最強の恋敵はアルだったのね。うぅ、敵う気がしないわ)

「どうした?」

黙りこくってしまったエイミに気がつき、ジークはその顔をのぞきこむ。

「えーっと。私もいつか、ジーク様に半身と言ってもらえるよう精進します!」

エイミの突然の宣誓に、ジークはははっと歯を見せて笑った。

(え、笑顔がぁ、可愛すぎる!)

眩しすぎて、とても直視できない。ジークといるとドキドキし過ぎて、いつか心臓が壊れるんじゃないかと、エイミは半ば本気で心配してしまった。

ジークは優しく微笑みながら、エイミの手を取る。そして、その手をきゅっと強く握りしめた。

「アルが半身なら、エイミとは一心同体だ。エイミがいなくては、俺も生きてはいけない。だから、長生きしてくれよ」
「は、はわわわ」

(そ、そう思うなら、これ以上ドキドキさせないで欲しい。ほんとにほんとに、ジーク様に殺されちゃう)
















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