異世界をかける少女

天地海

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第六章 闇の魔王と第二の魔法少女

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「お前みたいな奴が何度現れても、私が何度でも倒してみせる!」
 あいりちゃんがそう言って天音の隣に立つ。
「天音さん、行くよ!」
「待って! ちょっと試したいことがあるわ」
 あいりちゃんは空を飛ぶとき、杖にまたがらなければならない。
 でも、それだとあの杖を使った攻撃が上手く使えないからどうしても散発的な攻撃になってしまっていた。
 天音の解釈が正しいなら、魔法は自分だけでなく、他の人にも使えるはずだった。
 だって、怪我を治す魔法は他人に影響を与えているわけだから。
 イメージするのは自分ではなく、あいりちゃんの背中。そこに風の翼を生えさせる。
 天音の意思ではなく、あいりちゃんの思うように動くイメージ。
「『風の翼よ、友の背に』」
「え? え?」
 魔法の言葉が、風を呼ぶ。
 それは目を白黒させているあいりちゃんの背中に纏わり付き、天音と同じように翼を形作った。
「初めてにしては、上手くいったわね」
「これって……」
「杖を使わなくても、もう自在に空を飛べるはずよ」
 あいりちゃんは杖から降りたが、空に留まった。
「す、凄い」
 そう言ってパタパタと風の翼で空を飛ぶ。
「さ、行くわよ」
「うん。これなら……シャイニングロッド、ステージフォー!」
 今度はあいりちゃんの魔法で杖が形を変える。
「って、それはもう杖じゃないよね」
 体くらい大きな一振りの剣だった。
「闇を切り裂く煌めき――シャイニングスラッシュ」
 天音の質問に必殺技で答えながら、ソロネシアに向かって行った。
 すでに風の翼を思うように使いこなしているところは、さすが魔法少女だと思わずにはいられない。
『チッ』
 直線的に斬りかかるあいりちゃん。
 躱されては方向を変え、何度も斬りかかる。
 こっちもただ見ているだけではない。
 さっきの火炎球。闇の矢を破壊したってことは本体にだって効果はあるはず。
 一つじゃダメだ。
 どれだけ作り出せるか。全力で自分の周り、空に無数の火炎球をイメージする
「『百千火炎球』!!」
 まるで、漆黒の空に星が散りばめられたかのように、無数の火炎球が生み出された。
『ちょこまかと……何!?』
 あいりちゃんに気を取られていたソロネシアはやっと、自分を囲む炎の塊に気がついた。
 でも、もう遅い。
「あいりちゃん、逃げて!」
 あいりちゃんがソロネシアの側から離れると同時に、全ての火炎球がソロネシアに降り注いだ。
 爆発と炎上を繰り返す。
 その熱が大気を震わせて、炎と熱の竜巻がソロネシアを包み込んでいた。
 熱くて汗が出ているのか、それとも冷や汗なのか。
 天音もあいりちゃんもただその様子をじっと見つめていた。
『ぐおあああああああ!!』
 それは、ソロネシアの断末魔の声ではなかった。
 炎が吹き飛ばされ、中からソロネシアが姿を現す。
 軍服のような黒衣は、その半分が焼かれて黒焦げになっていた。
 それでも、ソロネシアにはそれほどの傷を与えていない。
『お前ら……死ね!』
 ソロネシアが両腕を広げると、黒い風が巻き起こり、波のように天音を襲う。
 その圧力に風の翼では空に留まることは出来なかった。
 押しつぶされるように地上へ叩きつけられる。
「『風の盾』!」
 しかし、その寸前で魔法を使って自分の体を受け止める。
 ――が、さっきと違って落下速度が速すぎた。
 なんとか、体は守ったものの。着地は失敗した。
「いててっ……」
 あいりちゃんは、大丈夫だろうか。
 心配してあいりちゃんが吹き飛ばされた方を見ると、彼女も立ち上がっていたので少しホッとした。
 それにしても、なんて丈夫なヤツなのか。あれほどの火炎球を吹き飛ばしてしまった。
 今の天音にあれ以上の魔法が使えるだろうか。
 四大精霊魔法の組み合わせはどうだろう。
 組み合わせで、何か新しい魔法が使えれば……。
 考えてもすぐには出てこない。そもそも教わったのは基礎だけで、応用魔法なんて教わっていない。
 こうなったらぶっつけ本番。何か適当に組み合わせてやるしかない。
 そう思って再び『風の翼』で空へ飛び上がろうとしたら、足で何かを蹴飛ばしそうになった。
「……これって……」
 それは、ロックの世界でもらったお土産だった。
 着地に失敗した拍子に、鞄から落ちたのだろう。
 それを拾ってしまおうとしたとき、ふと気がついた。
 その道具が何か……武器のような……。
 確か、マニュアルがあったはず。
「……BS……バリアシールド? これは、この腕輪型の道具ね。何々、ありとあらゆる物理的事象を防ぐシールド。近距離核攻撃をするときに使用者を守るためにご利用ください……?」
 ……近距離核攻撃って……まさか……。あまり考えたくないけど、あの世界は人間が滅ぼしたはずだから、つまりそう言うことだろう。
 でも、これは使える。これでソロネシアの攻撃は無力化出来る。
「次は……」
『もう手は尽きたようだな。ならば、世界より先に滅びるがいい』
「そんなことはさせないって言ってるでしょ!」
 ソロネシアを止めるために、再びあいりちゃんが空へ飛ぶ。
 申し訳ないけど、少しだけ時間を稼いで欲しかった。
「えーと、これは……タブレットPC?」
 二つ目のマニュアルを開く。VRF(ヴァーチャルリアリティフィールド)、戦闘シミュレーション用の訓練機器。仮想的な空間を作り出します? ヴァーチャルリアリティなら普通はゴーグル型のデバイスじゃないのかな。って、考えてる場合じゃない。
 取り敢えずこれは使えない。
 三つ目は……なんだろう、卒業証書を入れる筒のような形をしている。
「マニュアルは……あった。えーと……」
 マニュアルを開こうとして、手が止まった。
 表紙にデカデカと赤く[封印][廃棄処理命令]と書かれている。
 空が大きな光で瞬いた。あいりちゃんは一人で戦っている。躊躇している場合ではない。
 その筒のコード名はBHB(ブラックホールブラスター)、ターゲットにブラックホールを出現させて周囲一帯を闇に飲み込んでしまう兵器。制御を間違えると、使用者も飲み込まれてしまう危険性あり。使用の際は注意すること。
 ……最後の一文には線が上から引かれてあって、赤文字でさらに続きが書かれていた。
 実証実験にて、想定外の挙動を見せたため第二十八区画チャイオウ都市消失。その危険性から各区画共同意見として封印及び将来的な廃棄処理を命ずる。
 結果的に、命の住めない星にしてしまった人たちでさえ、この兵器は危険視している。
 でも、それだけの威力ならソロネシアでも倒せるはず。
 天音は空とこの筒状の危険物を見比べた。
「…………地上では撃てない。間違えば、都市が……東京が消滅する」
 使い方は簡単だった。筒状の後ろに当たる部分にタッチパネルがあり、そこで安全装置を解除する。
 すると、筒の途中からトリガーグリップとターゲットスコープが突き出る。
 ターゲットスコープで対象あるいは地点を捉え、トリガーを引いている間、そこにブラックホールが生成される。
「やるしかない!」
 天音はバリアシールドを左腕に、ブラックホールブラスターの安全装置を解除して右手に担いだ。
『闇に滅せよ! ダークバスター!!』
 それは、あいりちゃんの必殺技に似ていた。
 ソロネシアの放った闇が、あいりちゃんを飲み込もうとしたその時、天音が装備した腕輪が光り輝く。
 バリアシールドは、天音だけでなく天音の側にいたあいりちゃんをも守ってくれた。
「天音さん。大丈夫だったんですか?」
「あいりちゃん、説明してる暇はないからあなたにやって欲しいことだけ伝えるわ」
 あるいは、説明したら止められるかも知れないから。
「やって欲しいこと?」
「あいつを、ソロネシアを宇宙まで吹き飛ばして欲しいの」
「宇宙まで? でも、私のシャイニングバスターでも、ダメージは与えられなかったし……」
「私が魔法で巨大な風の塊を作るわ。それに、あいりちゃんの魔法を重ねれば、傷は与えられなくても吹き飛ばすことは可能じゃない?」
「……やってみなければわからないけど、やってみる価値はあるかも」
 ソロネシアの放った闇が消え去る。
『馬鹿な! まだ生きているというのか!?』
 バリアシールドのお陰で無傷だった天音たちを見て、さすがのソロネシアも本気で驚いていた。
「それじゃ行くよ」
 イメージは空気の圧縮。大気が震え、空気が集まる。ギュウギュウに押し込められた空気の塊は風を巻き込んで徐々に大きくなっていく。
「『風流空塊』」
 巨大な風の塊は、まるで小型の台風のように周囲の大気をさらに巻き込む。
 バリアシールドがなければ、天音とあいりちゃんもすでに吹き飛ばされていただろう。
「シャイニングロッド、ステージスリー!」
 二股の槍のような形状になった杖をあいりちゃんが風の塊に向ける。
 すると、風の塊が光によって包まれる。
「これで、あいつにぶつかるまでは破裂しないはず」
「それじゃ、任せたわよ」
 天音はブラックホールブラスターを構えた。
「これが、私たちの魔法! 未来に届く光と、闇を吹き飛ばす風――シャイニングバスターブラスト!!」
 風の塊を包み込んだ光がソロネシアに向かって行く。
『それがどうだというのだ!』
 ソロネシアはそれを両手で受け止めた。
 ――すると、大気が一気に爆発し、あいりちゃんが放った光さえも吹き飛ばす。
『ぐおああああああああぁぁぁぁぁ!!』
 声だけが遠くに向かって鳴り響く。
 そこにソロネシアはいなかった。
 だが――ブラックホールブラスターは宇宙にまで吹き飛ばされたソロネシアの姿をそのターゲットスコープに捉えていた。
 すでに、天音とあいりちゃんの合体魔法は霧散している。
「あれでも無傷とはね。でも、これで終わりよ」
 静かにトリガーを引く。
『な、なんだ……?』
 ソロネシアの声が直接天音に響いてくる。
 ターゲットスコープからはそれはただの黒いボールのようにしか見えなかった。
 ソロネシアの片手にすっぽりと収まってしまうよう。
 それは、徐々に広がっていく。
 黒という色を想像すると、みんな誰もが思い浮かべる色がある。
 でもね。その黒はきっと、本当の黒ではない気がした。
 ソロネシアの作り出す闇も。
 宇宙の闇も。
 パソコンのペイントですら数値で表すことさえできない。
 ブラックホールの闇こそが深遠にして真の闇であり――本当の黒なんじゃないだろうか。
『ぐおおおああああああ。馬鹿な! この俺が、闇の国の王であるこの俺が……闇に飲み込まれるだと!!』
 冷や汗が頬を伝う。
 トリガーを握る指も汗でびっしょり。
 恐ろしい力だった。
 ソロネシアの体はすでに手足と頭を残してそのほとんどが黒い円に取り込まれていた。
『闇が……闇を……』
「これで終わり! 終わって!!」
 トリガーを強く握ると、耳をつんざくような警告音が規則的に鳴り始めた。
 使い方を間違えば、都市だけでなくきっとこの世界さえも闇に飲み込まれてしまう。
 それでも天音はターゲットスコープに映るソロネシアから目を離せず、トリガーから手を離すこともできなかった。
 ソロネシアの体の中心からソロネシア自身が生み出す闇よりも暗い真の闇が一気に膨れ上がり――。
『ぐあああああああああああああああああああ!!』

 ソロネシアの魂の叫び声、断末魔は世界中の人へ届いたんじゃないかと思った。

 地球を覆う闇が晴れる。

 ソロネシアはこの世界から完全に削り取られて消え去ったのだ――。
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