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Book 12
「執(しつ)恋」④
しおりを挟む「……先刻、警察の人にね、『不安なときはできるだけ家族に迎えに来てもらうか、タクシーなどを利用してください』って言われたんだけど」
家に帰る車の中で、わたしはシンちゃんに言った。
「わたしには家族もいないし、『無職』になっちゃったからタクシーにばかり乗ってもいられないし……これを機に、軽自動車でも買おうかな。一応、運転免許は持ってるから」
今はすっかりシンちゃんのブリウスの「定位置」になっているけれど、うちの前栽の横には車一台分のカーポートがあった。
それに今日は土曜日だから、きっとシンちゃんには行くところがあったはずだ。
なのに、わたしにつき合って病院や警察にまでついて来てくれた。
——これ以上、迷惑はかけられない。
「……櫻子、それ、本気で言ってる?」
その声が、わたしに向けては今までに聞いたことがないくらい冷んやりしたものだったので、びっくりしてシンちゃんを見た。
ブリウスを運転するシンちゃんは前を見たままだったが、その横顔は怒っていた。
「し…シンちゃん、どうしたの?」
「一緒に暮らし始めて、昨夜はやっと心もカラダも一つになれた、と思ったのに。……櫻子にとっては、まだおれは『家族』じゃない?」
ベッドの中(正しくは『布団の中』だけど)以外で、シンちゃんが一人称に「おれ」を使うのは初めてだった。
「えっと……あの、違うの。そういう意味で言ったわけじゃなくて、シンちゃん、あのね……」
どうやら、壮大な誤解をさせてしまったようだ。
「だったら……」
シンちゃんがすーっと息を吸い込んだ。
「結婚しよう、櫻子。正式に籍を入れて、夫婦になって、正真正銘の……家族になろう」
——ええええぇっ!?
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