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Last Book

「これから」⑥ 〈完〉

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「櫻子はなーんにも心配しなくていいからね」
 シンちゃんはまた、ぎゅーっとわたしを抱きしめた。

「で…でも……あのね……んっ!?」
 なにかを言いかけると、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。

「仕事の方は櫻子がやりたいと思えば、好きなようにしてね。司書の仕事をゆっくりと探せばいいよ。だけど、できたら僕の第二秘書になってくれたらうれしいなぁ。青井は秘書としては優秀だけど、厳しいから雰囲気が殺伐とするときがあるんだ。櫻子がいてくれれば、仕事中でも癒されるんだけどなぁ。それに、僕の実家の近所に住む幼なじみの子がね、結婚してご主人の秘書をしてるんだよ。うらやましいなぁって、ずっと思ってたんだ」
 くちびるを離したシンちゃんが嬉々として話す。

「で…でも……あのね……んっ!?」
 また、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。

「櫻子がこの家を離れたくない気持ちは、よーく理解わかってるよ。もちろん、結婚してからも、僕も一緒にこの家に住んで、ここから会社に通うからね。ほんとは、運転手が僕を社用車で送り迎えしなきゃいけないから、少々会社から遠くったって全然大丈夫なんだよ。言ったでしょ?うちの実家の方は弟夫婦が住んでくれてるから、なぁーんにも気にすることないんだよ?」
 くちびるを離したシンちゃんが嬉々として話す。

「で…でも……あのね……んっ!?」
 また、わたしのくちびるがシンちゃんのキスで塞がれた。

「それに、この界隈の人たちは僕のことを『葛城家の萬年堂の後継者』ではなく、ただの『シンちゃん』として接してくれるから。……この歳になって、こんなに『シンちゃん』って呼ばれるのがうれしいなんてなぁ」

 くちびるを離したシンちゃんが、しみじみと、噛みしめるように言った。

「生まれてからずっと実家で住んでたから、こんなに何のしがらみもなく、のびのびと暮らせるのは……初めてなんだ」


「……櫻子、きみに『天涯孤独』だなんて、もう言わせない。僕といっしょに……この家で……家族になっていこうよ。そして……この家から、また新しい家族をどんどん増やしていこう」

 死んでしまった人たちを、生き返らせることはできないけれど。
 ここから……また新しく、生み出すことはできるかもしれない。
 また新しく……わたしに「血の通う」家族ができるかもしれない。
 しかも、大好きなシンちゃんとも「血の通う」家族が……

 わたしは、シンちゃんの目をしっかりと見つめ、はっきりと肯いた。
 だって、なにかを言おうとすれば、シンちゃんがキスでわたしのくちびるを塞ぐから……

 それに——
 だって、もう、わたしの方が、シンちゃんという「家族」なしでは……

 ——「天涯孤独」では生きていけないから。

 大きく肯いたわたしを見て、シンちゃんは心底ほっとした顔になった。
 そんなシンちゃんの顔を見て、わたしはふふっ、と笑った。

 そして、シンちゃんは、わたしの左手をそっと取って、その薬指に——
 ふたりでお揃いの、トリニティ・ウェディングが輝く左手薬指に——

 ちゅっ、とキスをした。←今ここ。





「きみの左手薬指に」〈 完 〉

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