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الفصل ١「アブダビってどこ?」

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「パールちゃんが僕の体のことを気にしてくれるなんて……なんだか、しばらく会えなくなるみたいだな」

——あ、マズい。ものすごくカンの鋭い人だということを、失念していた。

   ふだん階下したのフロアにいるあたしが、ここにいるだけでもレアなことなのに……いくら彼が会社の幹部のお偉いさん方の覚えがめでたい人だとはいえ、正式な辞令をもらう前に他言してはいけないのは、会社人としての鉄則だ。

「長澤さんが経営企画部に異動されてから、ほとんど顔も見られてないじゃないですか」
   あたしは気取られないよう、努めて冷静に言った。

「それもそうだね」
   彼が屈託なくふわりと笑う。
——あぁ、この笑顔も、もうすぐ見納めか……

   あたしのことなんて、彼にとっては「後輩」以外の何者でもないことは、百も承知だった。
   あたしが彼を「先輩」としてしか見ていないと思っているからこそ、気負うことなく接してくれていることも……

   その類稀たぐいまれなる容姿の上に、すこぶる仕事ができて、しかも「御曹司」な彼は、あたりまえだがものすごーくモテる。社内でも狙っているやからは枚挙にいとまがない。

   なのに、少しでも自分に対してそういう意味での「好意」を持つオンナを、彼は軽やかにあしらってスルーする。決して、寄せつけたりはしない。

   もし、あたしが彼に「好きだ」と告げて、自分がそんなオンナに「分類」されてしまうのが……

——怖い。

   もうこんなふうに、何気なく話をして微笑んでくれることがなくなってしまうなんて……イヤだ。

   とは言え——数年後、あたしがアブダビから「帰還」した際には、すでにどこぞの「御令嬢」とご家庭を築いているかもしれない。

   だったら……どうせ、しばらく姿を見せることはないのだ。

——後悔のないように、この機会に告白してみようか……?


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   そのあと正式に辞令が出て、あたしはどうすべきか悶々と考え続けることとなった。
   とは言うものの、補充メンバーとして途中参加する身であるから、会社からは一刻も早く現地のメンバーと合流してほしいと言われ、にわかに慌ただしくなってしまった。

   しかも、初めての海外赴任である。ましてや国が国だけに(どうも「中東」というだけでテ◯リストが横行闊歩する紛争地域ではないかとパニックになった両親——特に母親をなだめるのに苦労した)現地のことについて(特にイスラム教!)調べておかなけれはならないことが山ほどあった。

   おかげで友人たちとは会ってしばしの別れを告げるヒマもなく、仕方ないからグループラ◯ンに、
【急にアブダビに海外赴任することになった。日本に帰れるのは数年後】
【あ、アブダビってアラブ首長国連邦の首都だよ。今までドバイだとばかり思ってたよ】
【アラサーなのに婚期逃すこと確定だわ】
と流して【ぴえん】のスタンプを送付した。

   また、会社関係の送別会も、マンション事業販売部のそれもうちのチームのメンバーとくらいで、同期会などはすべてお断りせざるを得なかった。
   当然、部署のまったく違う長澤さんが来るわけがない。

   そして、結局……あれから彼の顔も見ることなく……もちろんこの想いを伝えることのないまま……

——あたしはアブダビへと発った。




※諸事情により名称を一部変更しました。ご了承願います。
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