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Chapter 1
⑨
しおりを挟むだけど、だれかには話したい。
たとえ、解決策が見つけられなくても、話を聞いてくれるだけでいい。
しかし、それでなくても新興のこの会社は平均年齢が若くて、呑みに行ったとしてもどうしても「聞き役」になってしまう。
さらに「管理職」になった今、おいそれと「部下」たちに腹を割ってグチるわけにもいかない。
「だよねぇ。……あ、今度さ、女子会しない?美咲さんも呼んで」
稍が胡麻だれドレッシングのかかったサラダを箸休めにしながら「提案」する。
白いレンゲでミニチャーハンを掬っていた麻琴の顔が、パッと華やぐ。
「いいわね!」
——さすが、ややちゃん!わかってくれてる。
この会社に来るまでは大手の証券会社に勤務していて「主任」だったという稍は、麻琴よりも一つ上だった。
そして、「美咲」というのはPB事業部の魚住部長の妻の名だ。魚住の同級生だった彼女は、麻琴より三つ上である。
——何の因果か、あんなに好きだった魚住さんと青山さんをかっ攫っていった女たちと、こんなに仲良くなるなんてねぇ……
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
きっかけは、当時同じ青山チームで働いていた稍を、麻琴が誘って二人で呑みに行ったことだった。
そのときに、青山とは「セフレ」だったことをバラしたのだが、結婚したばかりの新妻だった稍はすでに知っていた。
さらに、ついでに魚住の方もバラしてやったのだが、後日稍が魚住の妻にそれをチクった。
偶然にも彼女たちは、同じ高校と大学の先輩・後輩だったのだ。
彼女たちは激怒した。
しかし、それは「恋敵」の麻琴にではなく——それぞれの夫が麻琴にした「仕打ち」に対してだった。
その後、今度は三人で集まって呑むことになった。
すると、お酒が進むにつれて彼女たちがそれぞれの夫を関西弁で罵りだしたため、麻琴はびっくりした。彼女たちは関西出身だった。
挙げ句の果てには、
『麻琴ちゃん、和哉を懲らしめて「仇」とったるわっ!任しといてっ‼︎』
『そうや、そうやっ!智史みたいな「オンナの敵」には「天誅」やっ‼︎』
そう叫んで、真剣な顔で夫への「報復措置」としての「制裁」をあれこれ考え始めた。
そんな彼女たちを、
『いいのよ、もう過ぎたことだから』
麻琴は逆に宥める羽目になった。
いつの間にか、なんだかよくわからない妙な「連帯感」が芽生えていた。
——あなたたちの思考回路、混線してショート寸前になってるけど、大丈夫なの?それとも、そういう「校風」なのかしら?
麻琴は唖然としながらも、それ以降折を見て、たびたび「女子会」が開かれるようになった。
そうするうちに、結婚したり独身でも仕事が多忙を極めたりしてだんだんと疎遠になっていく学生時代の友人たちとは反比例して、彼女たちとはだんだんと心置きなく話せる間柄になっていった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「あ、そうだ!」
デザートの杏仁豆腐をスプーンで口に運んでいた稍が、そう言ったあと……ぐっと声を潜めた。
「智くんからの情報なんだけどね」
食後のカフェオレを飲んでいた麻琴も、つられて顔を寄せる。
——なにかしら?
「……松波先生が、うちの会社の非常勤の産業医に決まったらしいよ」
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