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Kapitel 1
②
しおりを挟む——その「グランホルム海軍大尉」が、問題なのだわ。
リリは盛大にため息を吐きそうになるのを、必死で堪えた。
リリの婚約者はビョルン・シーグフリード・グランホルムといって、今年十九歳になる彼女に対し二十五歳になるスウェーデン王国軍の海軍大尉だった。
海軍で指揮を執る武官は上から「~将」「~佐」「~尉」と続き、それぞれに「大」「中」「少」(スウェーデンの軍隊では将官のみ少将の下に准将)がある。
彼の年齢でKaptenという地位まで駆け上がったのは、その実力もさることながら「家柄」も大いに関係していた。
男爵・グランホルム家の二男としてこの世に生を受けた彼は、領地と領民を持つ「有産階級」出身だ。
この国にまだ王国軍ができる前、スウェーデン騎士団が加わった北方十字軍のあった時代より、兵を率いる役目を担っていたのが貴族の子息たちだった。
その発端は、国王陛下に対して「剣となり盾となる」軍事的奉仕をすれば、納税の義務が免除されたことからである。
この国の貴族社会は、国王陛下を頂点として「Hertig」「Furste」「Markis」「Greve」「Friherre」「Riddare」と続く。(スウェーデンでは子爵の爵位はない。)
だが、それも一八六五年の四身分制議会の廃止によって、永らく議長の職を独占してきた高位貴族がLantmarskalkの座を失い、それに伴って下位貴族たちの「政治的特権」も潰えてしまった。
その後、栄華を極めた彼らが衰退し没落していくさまは、火を見るよりも明らかだった。
ただ、王国軍においてはかろうじてその威光は健在のようで、貴族の子弟——特に領地・領民を相続できない二男や三男の多くは、相変わらず入隊して武官の道を歩んでいた。
グランホルム大尉もそのうちの一人だ。
しかしながら……実はグランホルム大尉には、なにも軍隊に入って国王陛下に「命」を捧げなくてもじゅうぶん生計が立てられる道があった。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
「……ちょっと、それは聞き捨てならないね」
ふと、ドローイングルームの入り口から声がして、リリとエマは同時に振り向いた。
「私のエマ……あなたは、私よりもグランホルムにご執心なのかな?」
リリの兄でエマの婚約者でもある、ラーシュ・シェーンベリはそう言って、苦々しげに微笑んだ。
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