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Kapitel 4
④
しおりを挟む「シェーンベリの家は、代々ローマ・カトリックなの」
彼女はカトリック教会で幼児洗礼を受けた際に、かつて実在したスウェーデンの聖女・Katharinaの洗礼名を司祭から授けられていた。
リリコンヴァーリェ・カタリナ・シェーンベリが彼女の正式な名前である。
リリは肌身離さずつけているロザリオを手繰り寄せ、その十字架の部分を、そっとやさしく握りしめる。
「そして、私は特にマリア様を厚く信仰していてよ」
聖母マリアは、福音ルター派の男爵・グランホルム家では信仰の対象にはならない存在だ。
「だから、あなたとの結婚を取りやめたい理由の一つに、プロテスタントに改宗したくないのもあるわ」
リリはここまで話すつもりは毛頭なく、なるだけ穏便に済ませようと腐心してきた。
だがこの大尉には、はっきりと言わぬままでは埒が開かないと、ようやく気づいた。
この際——すっかり話してしまおう、と決意した。
「日頃から奉仕活動のお手伝いをさせてもらっているイェーテボリの修道院のNunnaに、生まれた身分も環境も宗教観もまったく異なるあなたとの結婚に、不安を感じていることを相談したの。
慈悲深い修道女長は、私がこれからも変わらずマリア様への信仰を貫きたければ……私に、あなたとの結婚をやめて、すべてを捨てる覚悟があれば……いつでも修道院に迎えるとおっしゃってくだすったわ」
「……それで、あなたは私の妻になるより『神の花嫁』になろうとしているのか」
大尉は忌々しげに嘆息した。
「あなたは本当に、その修道女に入れ知恵されたとおりに、これから先の人生を、一生修道院で過ごす気なのか?」
「『入れ知恵』って……そんな言い方、ひどいわ……!」
リリは堪らず大きな声になってしまった。
「しかし……なるほど、あなたの考えはよくわかった」
大尉は普段声を荒げることなどないリリの叫びなど、物ともしていなかった。
「ならば——私もあなたとの結婚について、考え直さねばならないな」
淡々と、彼は告げた。
——あぁ、ようやく理解ってもらえたのね。
リリはホッとしたと同時に、喉の渇きを強く感じた。たぶん、大尉もそうであろう。
だから、ひとまず珈琲の差し替えを命じることにした。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
すぐに供された珈琲を互いに黙って飲みながら、彼女はあることに気づいた。
——そういえば、私、これほど大尉とお話をしたのって、初めてだわ。
婚約して以来、リリは大尉とは数えるほどしか会っていなかったが、彼はいつも不機嫌そうに怒ったような顔をしていて、余程の用がない限り、話しかけられることがなかった。
そして、生家の男爵家のために意に沿わぬ婚約相手を押しつけられ、きっとやりきれない思いを抱えているに違いないと慮り、彼女の方からも話しかけることもなかった。
——皮肉なものね。こうして初めてきちんとお話しするのが「最後」のときだなんて……
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◆◇◆◇◆◇◆
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