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Sista Kapitel
③
しおりを挟む「セント・ポールズ校であなたの兄と同室になって以来、彼の家族の話はよく聞かされていたからね。だから、あなたとの結婚話が出たときは——自分の結婚後はそう悪くないかもしれない、という希望が持てたよ」
思いがけない大尉の言葉に、リリはびっくりしてしまった。
「それに、私がKangliga Flottanで率いる部隊は平民から成っているのだ。彼らとの親睦を深めるために、結婚後の家庭に招いてもてなさねばならぬ必要も出てくるあろうが、そのとき取りすました『貴族令嬢』が女主人では、彼らはさぞかし気後れして心を開かぬことだろう」
——ま、まさか……そんな……
リリは呆然となった。
「わ、私……てっきり大尉から……庶民の出であることを……疎んじられてるとばかり……」
掠れた声で、かろうじてそうつぶやく。
「なぜ、私があなたを疎んじる必要が?私は未だかつて、あなたにそのようなことを言った覚えはないのだが?」
大尉が怪訝な顔になる。
「もしも、私があなたとの結婚が厭なのであれば、そもそも了承すらしていないが?」
「で、でも……婚約をしても、あなたは素っ気ないままでいらしたわ。私を疎んじていらっしゃるのか、ほとんどお会いする機会もなかったし、ストックホルムの舞踏会にだって、たったの一度しか私を呼んでくださらなかったわ。私なんかを、貴族の方々がいらっしゃる場へ連れて行かればならないのは、恥ずかしくお思いになったからではなくて?だからいつも……私を避けていらっしゃるのではなくて?」
リリの脳裏に、大尉と婚約してからの味気ない日々が甦る。
「あなたに対する素っ気ない態度は……申し訳なかった。私は昔からこういう性分なんだ。子どもの頃からいつも一緒にいた兄とウルラ=ブリッドが社交的で、その反動からか正反対になってしまった。また、軍人にはよくある気性だから、今まで特に改める必要がなかったのも仇となった」
大尉は苦渋に満ちた表情ではあったが、リリが疑問に思っていたことを次々と弁明していく。
「それから、私があなたと会う機会がほとんどなかったのは——軍事機密に当たるから詳細は言えないが、任務のためにここ何年か、カールスクルーナを離れる許可がなかなか下りなかったのだ。決して、あなたを疎んじているからではない。……どうか、信じてほしい」
大尉はリリの翠玉色の瞳を見つめて、真摯に告げた。
今世紀初頭に勃発した第二次ロシア・スウェーデン戦争によってロシアに敗したスウェーデンは、フィンランド領およびオーランド諸島を割譲することとなり、以後ロシアとの関係は緊張を強いるものとなっていた。彼はその対ロシアに関わる任務にあたっていたのだ。
「私は、私たちが互いのことを知るにはこれから時間はたっぷりあるのだから、結婚後にでもゆっくりと理解り合っていけばいいと、愚かにも甘く考えていた。……アンドレからは、あなたに対する態度を改めろと、幾度となく説教されていたんだがな」
大尉は自分自身に対して嘲るように苦笑した。
「それに……驚いたな。あなたはあのような不毛な舞踏会でも、また行きたいと思っていたのか?」
大尉はリリの心の裡を、慎重に探るような目で尋ねる。
「あの日以来、あなたをあのような場へ連れて行かないのは、もちろん私自身が好まないというのもあるが……没落している現状を決して直視せぬ、見栄を張るしか能のない、貴族の女どもの不躾な視線や口さがない厭味から、あなたを守りたかったからだ。だから伯爵邸でも、なるだけ目立たぬようにダンスも控えて壁際にいたんだがな」
——ええっ?もしかして、大尉は……私のことを護ってくだすっていたの?
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