39 / 46
第三部「いつか」
第二十一話
しおりを挟むわたしがまだ女学校に通っていた頃、出征する兵隊さんに純潔を捧げたら、その人は必ず生きて還ってくる、という迷信がまことしやかに流れていた。
時々、隣の組の誰々が、戦地に赴く幼なじみにとうとう捧げたらしい、といったような噂が女学生の間で飛び交っていた。
だけど、だれも、そのようなことをすればなぜ兵隊さんが生還できるのか、さっぱりわかっていなかった。
だからわたしは、男の人は勝手だから、なにも知らないわたしたちを、自分たちの都合でいいようにしていると、ずっと思っていた。
「明日入営したら、今度いつ会えるかわからない。だから、きみを……安藝子を、僕の妻にしてから、戦地に征きたい」
彼の思いがけない言葉に、わたしは目を伏せた。
「でも、伯父さんたちが帰ってきたら……」
伯父たちはまだ帰って来ていなかった。
どういうわけか、今日は断続的に警報のサイレンが鳴り響いていた。
いつものようにサイレンの音だけで、東京で経験したようなB29の爆撃音はしなかったが、それでも遅い帰宅は案じられた。
「小父さんは酒が入ってるから、歩いて帰ってくるのは無理だろう。今日は僕の家で泊まると思う」
路面電車はとうに動いていなかった。
「……安藝子」
彼がわたしの頬を両手ですっぽりと包んだ。
「僕の頼みを、聞いてくれるね」
彼が私の目を覗き込むようにして訊いた。
今のわたしは、あの頃のような女学生ではない。彼がわたしの許に無事還ってくるのなら、どんなことだってやりたい。
既に、あんな恥ずかしいお守りまで作ったのだから……
わたしはこくっと肯いた。
゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚
台所の土間にいたわたしたちは、いつもわたしが寝間として使っている部屋へ移った。
彼が押入れから敷蒲団を出して、畳の上に広げた。そして、蒲団の脇に腰を下ろし、きっちりと巻きつけたゲートルを解き始めた。
わたしは、彼とは反対側の蒲団の脇に正座し、ブラウスのボタンを一つずつ外していった。
わたしがブラウスを脱ぎ、紐をほどいてもんぺも脱ぎ、シュミーズ姿になると、彼が後ろから抱きしめてきた。
わたしが振り向くと、彼が今までにない荒々しさでくちびるを求めてきた。彼の身体には褌一枚すらなかった。
重なり合うようにして、わたしたちは蒲団の上に横たわった。
わたしたちは激しく、くちびるを吸い合った。
やがて彼は、わたしの首筋から鎖骨へとくちびるを滑らせていった。
シュミーズの左右の肩紐が、勢いよく下げられる。灯火管制による薄暗い電球の下で、ちっちゃな二つの乳房があらわれた。
背だけがひょろりと高いわたしは、食糧事情のせいで、あばら骨が透けるくらい痩せている。
だけど彼だって、五尺八寸ほど上背があるのに、肋骨が浮き出ていたので、お互いさまだった。
彼はわたしの乳房の片方を大きな手のひらに包み込んだ。そして、もう片方には口をつけ、貪るように吸った。
わたしの身体の芯が、カッと熱くなった。火が放たれたみたいだった。
「・・・ぁあ・・・」
思わず、わたしのくちびるから、今まで発したことのない甘い声が漏れる。
それから彼は、お腹の辺りまで下げたシュミーズを、ズロースごと一気に足元まで摺り下ろした。彼のためにつくった弾除けのお守りに入れたものが、姿を見せる。
それは、仄暗い電灯の下、夜露に濡れたように艶やかな光を帯びていた。
すかさず、わたしの左右の脚が大きく開かれた。足首に引っかかっていたシュミーズとズロースが、彼の手によって蒲団の外へ放り出される。
荒く息を弾ませた彼が、わたしの脚の間に滑り込んできた。まるで人が変わったように怖い顔をした彼が、そこにいた。
そんな彼を恐ろしく感じる半面、わたしはもうどんなに恥ずかしいことをされてもいい、という気持ちになっていた。
0
あなたにおすすめの小説
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
徳川慶勝、黒船を討つ
克全
歴史・時代
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
尾張徳川家(尾張藩)の第14代・第17代当主の徳川慶勝が、美濃高須藩主・松平義建の次男・秀之助ではなく、夭折した長男・源之助が継いでおり、彼が攘夷派の名君となっていた場合の仮想戦記を書いてみました。夭折した兄弟が活躍します。尾張徳川家15代藩主・徳川茂徳、会津藩主・松平容保、桑名藩主・松平定敬、特に会津藩主・松平容保と会津藩士にリベンジしてもらいます。
もしかしたら、消去するかもしれません。
【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記
糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。
それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。
かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。
ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。
※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
古書館に眠る手記
猫戸針子
歴史・時代
革命前夜、帝室図書館の地下で、一人の官僚は“禁書”を守ろうとしていた。
十九世紀オーストリア、静寂を破ったのは一冊の古手記。
そこに記されたのは、遠い宮廷と一人の王女の物語。
寓話のように綴られたその記録は、やがて現実の思想へとつながってゆく。
“読む者の想像が物語を完成させる”記録文学。
アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)
三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。
佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。
幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。
ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。
又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。
海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。
一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。
事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。
果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。
シロの鼻が真実を追い詰める!
別サイトで発表した作品のR15版です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる