遠い昔からの物語

佐倉 蘭

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第三部「いつか」

第二十一話

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   わたしがまだ女学校に通っていた頃、出征する兵隊さんに純潔を捧げたら、その人は必ず生きて還ってくる、という迷信がまことしやかに流れていた。

   時々、隣の組の誰々が、戦地に赴く幼なじみにとうとう捧げたらしい、といったような噂が女学生の間で飛び交っていた。

   だけど、だれも、そのようなことをすればなぜ兵隊さんが生還できるのか、さっぱりわかっていなかった。
   だからわたしは、男の人は勝手だから、なにも知らないわたしたちを、自分たちの都合でいいようにしていると、ずっと思っていた。


「明日入営したら、今度いつ会えるかわからない。だから、きみを……安藝子あきこを、僕の妻にしてから、戦地に征きたい」

   彼の思いがけない言葉に、わたしは目を伏せた。

「でも、伯父さんたちが帰ってきたら……」

   伯父たちはまだ帰って来ていなかった。

   どういうわけか、今日は断続的に警報のサイレンが鳴り響いていた。
   いつものようにサイレンの音だけで、東京で経験したようなB29の爆撃音はしなかったが、それでも遅い帰宅は案じられた。

小父おじさんは酒が入ってるから、歩いて帰ってくるのは無理だろう。今日は僕の家で泊まると思う」

   路面電車はとうに動いていなかった。

「……安藝子」
   彼がわたしの頬を両手ですっぽりと包んだ。

「僕の頼みを、聞いてくれるね」
   彼が私の目を覗き込むようにして訊いた。

   今のわたしは、あの頃のような女学生ではない。彼がわたしのもとに無事還ってくるのなら、どんなことだってやりたい。

   既に、あんな恥ずかしいお守りまで作ったのだから……

   わたしはこくっと肯いた。


゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*:.。. .。.:*・゜゚


   台所の土間にいたわたしたちは、いつもわたしが寝間として使っている部屋へ移った。

   彼が押入れから敷蒲団を出して、畳の上に広げた。そして、蒲団の脇に腰を下ろし、きっちりと巻きつけたゲートルを解き始めた。

   わたしは、彼とは反対側の蒲団の脇に正座し、ブラウスのボタンを一つずつ外していった。

   わたしがブラウスを脱ぎ、紐をほどいてもんぺも脱ぎ、シュミーズ姿になると、彼が後ろから抱きしめてきた。

   わたしが振り向くと、彼が今までにない荒々しさでくちびるを求めてきた。彼の身体からだにはふんどし一枚すらなかった。

   重なり合うようにして、わたしたちは蒲団の上に横たわった。
   わたしたちは激しく、くちびるを吸い合った。

   やがて彼は、わたしの首筋から鎖骨へとくちびるを滑らせていった。

   シュミーズの左右の肩紐が、勢いよく下げられる。灯火管制による薄暗い電球の下で、ちっちゃな二つの乳房があらわれた。

   背だけがひょろりと高いわたしは、食糧事情のせいで、あばら骨が透けるくらい痩せている。
   だけど彼だって、五尺八寸ほど上背があるのに、肋骨が浮き出ていたので、お互いさまだった。

   彼はわたしの乳房の片方を大きな手のひらに包み込んだ。そして、もう片方には口をつけ、貪るように吸った。

   わたしの身体からだの芯が、カッと熱くなった。火が放たれたみたいだった。

「・・・ぁあ・・・」

   思わず、わたしのくちびるから、今まで発したことのない甘い声が漏れる。

   それから彼は、お腹の辺りまで下げたシュミーズを、ズロースごと一気に足元までり下ろした。彼のためにつくった弾除けのお守りに入れたもの・・が、姿を見せる。

   それは、ほの暗い電灯の下、夜露に濡れたように艶やかな光を帯びていた。

   すかさず、わたしの左右の脚が大きく開かれた。足首に引っかかっていたシュミーズとズロースが、彼の手によって蒲団の外へ放り出される。

   荒く息を弾ませた彼が、わたしの脚の間に滑り込んできた。まるで人が変わったように怖い顔をした彼が、そこにいた。

   そんな彼を恐ろしく感じる半面、わたしはもうどんなに恥ずかしいことをされてもいい、という気持ちになっていた。

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