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Chapter 5
そのときの「田中さん」⑫
しおりを挟む「……はぁ!?」
大地は腕の中の亜湖をまじまじと見た。
「来たことない」
「うそ」
亜湖は間髪入れずに言った。
「うそじゃない。おれは、女をうちには入れない」
「絶対、うそ」
亜湖の表情の窺えない日本人形のような瞳が、ひたすら怖い。
「うそじゃない。それこそホテルに行ったり、向こうの家に行ったりしてた。自分のうちに入れたら、いつの間にか相手の私物が増えるだろ?別れるとき、面倒なことになったことがあるから、それ以来入れないようにした」
こんなことを話したら、火に油を注ぐようなものだとは思ったが、大地は正直に言った。
「だから、亜湖、おまえをここに入れた意味、わかるだろ?おれは、おまえを……」
大地の言葉を亜湖は遮った。
「今まで、彼女をとっかえひっかえしてたんでしょ?」
亜湖の声は氷のように冷たかった。
「だれがそんなことを言ったんだ!?」
大地は亜湖の両肩を掴んだ。亜湖は顔を背ける。
「慶人か!?」
亜湖は顔を背けたままだ。
——あの野郎、ブッ殺す!! 今度、慶人に会ったときがヤツの命日だ。蓉子にはかわいそうだが、結婚する前に未亡人確定だ。
「……篠原さんも……入れてないの?」
「なんで……珠紀のことを……」
大地の目が見開かれた。
「……『珠紀』って呼んでたんだ」
亜湖が声にならない声で、つぶやいた。
「いや……亜湖……それは……」
急に大地の落ち着きがなくなった。
「……会社のために、別れたんですよね?」
亜湖は大地をまっすぐに見て訊いた。
「篠原さんは専務秘書です。あなたのお父さまが見込んだ方じゃないんですか?」
「亜湖、ちょっと待て……おれの話を聞いてくれ」
「篠原さんと、本当に別れる必要があったんですか?」
亜湖は仕事モードの「大奥の総元締め」に入ったかのように詰めていく。
「もう、彼女は大阪で結婚してる」
大地はかろうじて返した。
「だから……わたし、ですか?」
亜湖の声が震えた。
「常務の娘で……大奥の総元締めで……仕事に使えるから……会社のためになるから……」
「違う……っ!」
大地は亜湖を引き寄せて、力いっぱい抱きしめた。
「おれには、おまえなんだ! 小学生の頃、朝比奈の新年パーティで会ったときから、おまえだけなんだ!!」
——せっかく、また「おれの市松人形」に出逢えたのに、二度と放してたまるか!
「珠紀から言われたんだ。……『心をだれかに奪われてるような人と一緒にいても、幸せにはなれない』って」
亜湖を抱きしめる腕に力を込める。
「亜湖……好きだ……愛してる……傍にいてくれ……一生、おれから離れないでくれ……」
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