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Chapter 6
大地と「田中さん」⑦
しおりを挟む「……さすがに、腹減ったな」
大地のその一言で、亜湖はやっと彼の尽きることのない律動から「解放」された。時刻はすっかり昼を過ぎた。
亜湖だって、確かに、オンナに生まれてきてよかった、と実感できた濃密な時間だった。
でも、全身筋肉痛のように強張るし、両脚は産まれたての子鹿のようにガクガクするし、膣内深くには、まだ大地の張りつめられた「熱」が埋められているような感覚が抜けないしで……身体への負担が半端なかった。
——確かに「好きにして」とは言ったけど……
「……悪い。止められなかった。……身体、大丈夫か?」
どの口が言う?と思って、亜湖は大地をきゅっ、と睨んだ。
「なぁ……おれと亜湖のカラダの相性、最高なんじゃないか?」
大地は亜湖に構うことなく、能天気に言う。
亜湖とは体格差があるから抱きにくいかなと思っていた。
だが——全然、そんなことはなかった。
亜湖が自分の身体の下に、ジャストなサイズ感ですっぽり収まる。恥ずかしがる彼女の逃げ場を徹底的に塞いで、征服欲を思うぞんぶん満たせた。
——なにより一晩で、こんなに亜湖の感度が上がるとは思わなかったな。
だから、思わずセックスを覚えたての男子高生のようにガッついて、何回もしてしまった。亜湖がどんな顔を見せても、今の大地は上機嫌だった。
——ところが。
「さぁ、どうかな?……ほかの人と、してみないとわからない」
亜湖はちょっといじわるしたくなって、大地に言ってみた。
「……っ⁉︎」
とたんに大地があわてだす。亜湖は、ふふっ、と笑った。
亜湖はブランケットを身体に巻きつけたまま、大地に放り投げられてベッドの外にあった下着を拾い上げた。
「昨日と同じ下着身に着けるのイヤだろ?洗濯しろよ。乾燥もできるぞ」
大地はそう言って、亜湖のブラを奪い取った。
「おっ、六五のE……Eカップか」
すぐさま、亜湖がブラを奪い返す。
「Tシャツかスウェットか……洗濯が終わるまで着るもの貸してっ」
亜湖がものすごい目で大地を睨む。
大地は満足げにニヤッと笑った。そして、十帖ほどのベッドルームの隣の、ウォークインクローゼットにしている四帖ほどのサービスルームへ入って行った。
——まさか、元カノの「置き土産」を持ってくるんじゃないでしょうね?
亜湖の顔がすーっと怪訝な顔になる。
しばらくして、大地が透明の袋に入った衣類を持って戻ってきた。
「丸の内のトレーディングルームにいた頃の教育係だった先輩が最近結婚して、新婚旅行の土産なんだけど、新品だから」
アメリカのオークランドにあるユナ◯テッド・スタジオの白いポロシャツだった。
アメリカンサイズのメンズのLなので、受け取った亜湖が着てみると膝上丈になり、まるでポロワンピだ。袖はパフスリーブのようになった。ポロシャツは生地は厚めだが、下着を着けず素肌にそのまま着ているため、胸の突端がくっきりと浮き出ている。襟をふんわり立てるために、上のボタンを外しているので、胸の谷間が見えそうで見えない、という微妙なことになっている。
亜湖は小柄ながら身体のバランスがよく、手足が長かった。横から見ると、ふっくらと愛らしいおしりがキュッと上がっているのがわかる。さらに、歩くと腰からおしり・脚にかけて、生地がまとわりつくようになり、急に身体のラインが現れる。
大地はたちまちソソられて、もう一度亜湖をベッドへ引きずり込みたくなった。
「……洗濯機はどこ?」
亜湖はそんな大地のことなどつゆしらず、犬のような無邪気な瞳で尋ねた。
洗濯機があるバスルームの隣のパウダールームへ行く途中、亜湖はきょろきょろと周囲を見回した。
——いくつ部屋があるのかな?
「3LDKだ。ウォークインクローゼットにしてる部屋を入れると3SLDKになるのかな」
大地がまるで、亜湖の心をよんだかのように答える。
「一人暮らしなのに、3SLDK?」
亜湖が眉間にシワを寄せ、怪訝な顔をする。
「悪い方に勘ぐるな。ファミリータイプの方が売りたいときに買い手がつきやすいからだ」
どうやら、賃貸ではなく分譲らしい。
洗濯させてもらえるのはありがたいが、レースの下着類は繊細なので、洗濯機にそのまま入れるのは不安だ。亜湖が躊躇していると、大地が造り付けの棚から洗濯ネットを取り出した。透明の袋に入った新品だ。
——一人暮らしの男の人の家に「洗濯ネット」ってあるものなの!?
亜湖がさらに眉間にシワを寄せ、大地の部屋に来て以来、最悪に怪訝な顔になる。
「だから、悪い方に勘ぐるなって!会社の取引先のノベルティだっ。粗品だよっ」
渡された洗濯ネットの袋を見ると、確かに会社名が印字されていた。
亜湖は洗濯ネットにシフォンのトップスと下着類を入れ、ドラム式の洗濯機の操作ボタンを押していった。
——だけど……女の人の下着類は、洗濯ネットに入れて洗濯機を使うってことは知ってるのね?
亜湖は口に出すことはなかったが、心ではしっかり思った。
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