カラダから、はじまる。

佐倉 蘭

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Secret 4

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「……あら、もう帰ってきたの?夕ごはん食べてきた?」
   母が手にしていた菜箸を置いて尋ねた。

「ううん。りょ…田中さんが、今日のところは早くうちまで送り届けるって。おとうさんの心証を悪くしたくないんだって」
   七海がダイニングの椅子に座りながら言った。

   代わりに母が立ち上がって、彼女の分の呑水とんすいと箸を取りに行く。

「……そうか」
   父がにやっ、と笑った。

——さも満足げなのが、ダダ漏れしてる。

「で、今日はどこ行ってきたのよ?」

   動揺して手が震えるのをなんとか抑え、お鍋から鶏肉かしわを取りながら、わたしは訊いた。でも、声が裏返りそうだ。

「えーっと、ア◯アシティでボヘミアン・ラプソディを観て……」

   七海は、母からに呑水と箸を受け取りながら答えた。

「ラーメン国◯館で豚骨ラーメンと一口餃子を食べた」

「ええええぇーーーっ!?」

   思わず、わたしは素っ頓狂な声をあげてしまった。もう、声も裏返りまくりだ。

「あの、無機質で人造人間サイボーグな田中が……『ラーメン国◯館』で豚骨ラーメンと餃子っ!?そこって、フードパークじゃんっ?」

   性的処理セフレたちですら、小洒落たイタリアンバールやスペインバルらしいのに……

——どういうこと……⁉︎

   だが、びっくりしたのはわたしだけではなかった。       
   父までもが「ありえない」という顔をして、鶏ミンチでつくられた華◯鳥の華つくねをお鍋から箸で持ち上げたまま固まっていた。

「『なにが食べたいか』って訊かれて、ア◯アシティだったから、どうしても食べたくなって逆にあたしが連れて行ってあげたんだけど?」
   七海はおたまで、白濁したお出汁だし呑水とんすいに入れながら言った。

「だから言ったんじゃないの。諒志さんに失礼のないように、って」
   母がほぉーっとため息を吐く。

「もおっ、失礼なことなんてしてないよー。だって、田中さんは『フードパークやフードコートを侮ってた。こんなに本格的だったとは』ってびっくりしながら、豚骨ラーメンも一口餃子も『旨い、旨い』って食べてたもん」

   七海は、わたしよりも数倍かわいく口を尖らせてそう言うと、華◯鳥の白濁スープの中へ柚子胡椒を入れた。

「……あれっ、七海、あんた、そんなネックレス持ってたっけ?」
   気がつけば、わたしは七海の首元を凝視していた。

「ふふん、田中さんからの誕生日プレゼントだよーん♡」
   トップにアメシストの輝くネックレスがみんなによく見えるように、七海がくいっと顎を上げる。

——た、た、誕生日プレゼントぉ⁉︎

   驚きもここまで来ると、もう、声も出なかった。

「二月は七海の誕生月だもんね。会ってまだ二度目なのに、ちゃんと覚えてくれてプレゼントまで用意してくれるなんて、諒志さんてやさしいわねぇ」
   母がうっとりしながら言った。

「あら、素敵。七海にしてはめずらしく大人っぽいじゃない。アメシストの周りをダイヤが取り巻いてるのね」
   七海の首元をうらやましそうに見つめている。

「おとうさん、わたしも今度の誕生日にこういうのがほしいわぁ。……あ、その前に結婚記念日があるわね」

   途端に父が、まるで「田中、余計なことを」というように顔を歪めた。

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