100年後わたくしの力が潰えるまでに、封印中の魔王を改心させてみせますわ!

七森陽

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晩御飯は食べないと力が出ないでしょう?

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――15 years old――

「魔王さま、今晩は何を召し上がりますか?」
 執務室へ入ってそう尋ねると、魔王アグレアスは面倒そうにため息を吐いた。
「…巫女、なぜそんなに気安く話しかけてくるのだ」
 魔王は執務机で何かの書物を読んでいた。タイトルは…よくわからない文字で書かれてあり、イヴには読むことが出来ない。
 黒く長い髪をぞんざいに流し、ローブも適当に羽織って椅子に斜めに腰掛けている彼は、聞くところによると身体がたいそう重いそうだ。おそらく聖剣士と聖なる巫女の力によるものだと思うが、そのせいで生きるのを酷く億劫に感じているようだった。
 よくよく見ると、彼は人間で言うところの『美丈夫』だろう顔立ちに、金色の綺麗な瞳をしている(今は目を眇めているせいでよく見えないが)。ただの人間だと言われても何ら不思議はないのだが、しかし残念ながら彼は正真正銘、王国の宿敵・魔王その人なのである。
「あら、だって晩御飯は食べないと、力が出ませんでしょう?」
「…力が出て困るのはそちらではないのか」
「まぁ人間界を滅ぼす程、元気になられては困りますけど…」
 頬に手を当てそう答えるが、アグレアスは理解できないといった風に首を横に振った。


 イヴが聖なる巫女として擁立させられたのは、今から7年前、イヴがまだ8歳の頃だった。
 物心ついた時には他の人に見えないものが見えたり、小さな傷がたちまち治ったり、人の気持ちを読めてしまったりと不思議な力を有していて、同年代の子どもたちからは疎まれたものである。
 8歳を迎えた日、どこからイヴの話が漏れたのか王城の使者がぞろぞろ街にやってきて、両親と何かの取引をした。明らかに両親はほっとしたような顔をしていて、これまで怖くて気持ちを読まないようにしていたイヴはそれだけで全てを理解してしまい、一も二もなく登城に応じることとなったのである。
 それからの7年はあっという間の7年だった。
 聖剣士の擁立や、歴史分析と宝具研究、魔王討伐騎士団の結集。他にも細々とした調整をしつつ、イヴ自身も明確ではない『封印の力』を高めてみたりもした。
 その結果が、先日の魔王との決戦である。
 魔界と重なっている境界の森で、騎士団が魔族を一掃、聖剣士と魔王の一騎打ち、そしてトドメに聖なる巫女による封印の儀。
 その7年にも及ぶ計画は、成功に着地した。
 ――と、思われた。
 想定では、魔王は宝具に封印され、さらにそれは教会の祭壇で管理される予定であった。そして教会の巫女たちの日々の祈りで封印を守っていく予定だったのだ。
 しかし、気付けばイヴは『ここ』に居た。
 見知らぬ城。外は太陽の光も無い夜闇。不気味な鳴き声が周りから聞こえるのに、城からはほとんど生き物の気配がしない。
 正直、死ぬことさえ覚悟した決戦であったから、どんな状況になっても対応できると思っていた。しかし、この状況は想定外も想定外過ぎて、イヴはどうしようもなく心細くなってしまったのである。
 おそらく外の雰囲気からしてここは魔界。そして城。つまり魔王城なのではないか。
 そう当たりをつけたイヴは、魔王封印に失敗したのだと察し、件の主を探した。
 しばらく無人(魔族)の城を彷徨い辿り着いたのは最上階。とてつもなく広い部屋で、その奥まった部分にあったこれまた広い寝台で、聖剣士にボロボロにされたはずの仇敵が眠っているのを発見したのだった。
 恐る恐る近寄ってみると、息をしていた。
 滅ぼすつもりだったのに、なぜかそれを見てイヴはほっとしてしまった。
 この広い城で、人(いや人ではないのだが)に出会えたことにとても安心して、そうか自分は意外と強がっていたのだなと自覚したのだ。


「魔王さまのご要望が無いのでしたら、わたくしの好きな献立にしてしまいますけど、よろしいです?」
「……好きにするがよい」
 そしてこの不思議な日々が始まってから7日ほどが経過した。といっても太陽の出るタイミングが不規則なこの世界では、昼も夜もよくわからなくてイヴの体感でしかないのであるが。
 この城にはほとんど生き物がいなかった。それが昔からなのか、決戦からなのかはわからないが、ただただ城の外の森から聞いたこともない鳴き声が聞こえるのみで、内側はとても静かだった。
 イヴは声も出さず頷くと、そのまま執務室を出て厨房に向かう。
 どこからどうやって調達されているのか仕組みはサッパリわからないのだが、この厨房は存分な食糧が定期的に補充されていて、イヴは毎日楽しく料理に専念出来ていた。
「さて今晩はどうしましょうか」
 食材を眺めながら唸っていると、廊下の方から足音がする。
「俺、肉食べたい!」
 ドカドカと元気にそう言いながら入ってきたのは、大きな黒い羽根を持つ金髪の青年だった。
「ジズさん」
 ジズと呼ばれた青年は目をキラキラさせながら食材を眺めている。
「俺めっちゃ腹減ってんだよねー。いつできる?もうできる?」
「まだできませんわ、夜までまだ2時間くらいはありますし」
「えーっ!いいじゃんつくってよ!」
「うーん、では、軽食でもよろしいですか?夜までもてばいいんですよね?」
「ヤッター!イヴ大好き!」
 ジズは大喜びしながらイヴに抱きついてくる。まだ包丁を持ってなくてよかったと思いながら、イヴは食材の山からいくつか野菜を取り出した。
「え、野菜使うの?」
「使いますよ」
「ヤダ、不味いもん」
「我儘仰るなら作りませんけど」
「え~!意地悪!」
 ブーブー言いながらも、ジズはイヴにまとわりついたまま離れない。
 魔族であるはずの彼は数少ないこの城の住人の1人で、そしてなぜか仇敵であるはずのイヴにすっかり懐いていた。まぁ、初日で胃袋を掴んでしまったとも言う。
「はい、美味しく作りますから、そろそろ離れてくださいませ」
「え~イヴ柔らかくて抱き心地いーからなぁ~」
「…ちょんぎっちゃいますわよ?」
 なかなか離れようとしないジズに、右手にしっかと握った包丁をチラつかせて何をとは言わないが脅す。すぐに彼はイヴに巻き付けていた腕を解いた。
「こえ~んだから」
 ちぇー、とブツブツ言いながら、諦めたようにジズは厨房を出ていく。おそらく魔王の執務室へ向かうのだろう。
 イヴはカボチャと格闘しながらこの1週間を思い返す。そして情報を整理しながら、これからどうするか思案するのだった。
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