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07~08 Side 海斗 01話
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「海斗くん、三階も二階とクラス順は同じ?」
後ろの席から声をかけられた。俺はくるりと振り返り、
「うん? 一緒だけど? 誰に用?」
「司先輩。先週具合悪くなったときにミネラルウォーターを買ってもらったの。そのお代をまだ返してなくて……」
ふーん……。
「じゃ、一限のあとついていくよ」
「わ、嬉しい! お願いします」
きっとクラスのドアは閉まってる。翠葉にはそのドアを開けるのはハードルが高い気がするし、司は窓際の後方の席を確保しているだろうから、直接呼び出せる距離にはいない。
もしドアを開けることができたとして、ドアの一番近くにいる人間が男子だったら、翠葉的には色々アウトな気がした。
困ってる翠葉がありありと想像できてどうにも――
やっぱり困ってると助けてあげたくなる妹的存在なんだよな。
何より、司が翠葉と話しているところを見たいというのが一番の理由。
相変らず素っ気無いんだろうな、とは思うものの、好きな女に対してくらいは態度が変わるんじゃないかと思っている。それを見たい……。
俺としては純粋なる好奇心だったりするんだけど、司からしてみたら、「限りなく邪な好奇心だろ」と言われそうな何か。
三階に上がり、案の定閉まっていたドアを開く。そして窓際を見れば当たり前のようにそこに司がいた。
手には高校の教材ではない医学書。周りは授業始めにある小テストの勉強をしているというのに、そんな中でこいつはひとり我が道を行く。
そんなの読む余裕があるなら、恋愛のノウハウを学ぶべく恋愛小説でも読みやがれ。見つけた暁には大笑いしてやるから。
「司ーっ」
声をかけるとうざったそうに俺を見て、後ろのドアから出てきた。
「何」
「用があるのは俺じゃなくて翠葉」
言うと、俺の後ろにいた翠葉に視線を移した。
「あのっ、土曜日――ミネラルウォーターを買ってもらってそのままだったので」
「別にいいのに……」
いいのに、と言いながら、翠葉が手にしている封筒から目を離さない。
「それ……手紙付き?」
「はい、短いですけど……」
翠葉が答えてすぐ、
「なら受け取っておく」
と、即座に封筒を受け取った。直後、
「あと二分で二限が始まるけど?」
もっと言いようがあるだろっ!?
「はいはい、勉強の邪魔して悪かったね。翠葉、帰るよっ」
俺は翠葉の手を取って歩き始めた。
ざまーみろ。司にはこんな芸当できないだろ?
手を引かれている翠葉は、
「先輩、本当にありがとうございました」
司を振り返る翠葉を気にせずずんずん歩みを進める。階段を下りながら、
「あいつ、本当に素直じゃないっ」
好きなら好きでもっとそれっぽい対応すればいいものを。なんであそこまで素っ気無い態度そのままなんだかっ。
若干行き過ぎなのは認める。でも、少しくらいは秋兄を見習えよ。
おまえ、俺よりも秋兄と一緒にいる時間長いんだろ!?
「どうしたの……?」
隣を見ると、翠葉が心配そうに俺を見上げていた。よほどイライラして見えたのかもしれない。
「こればかりは教えらんねぇな」
教室に戻ると飛鳥にどこへ行っていたのかを訊かれ、それには翠葉が答えた。すると、
「またなんで……」
と、桃華が嫌そうな顔をする。
桃華と司は似たところがあるくせに仲が悪い。誰がどう見ても同属嫌悪そのものだけど……。
ま、わからなくもない。煮え切らないヤツってのは見ててイライラする。もっとはっきりすっぱりばしっとできないものか。
「土曜日に具合悪くなって、そのときにミネラルウォーターを買ってもらったの。そのお代返してなかったからお礼を兼ねて……」
「で? なんでこいつは不機嫌そうな顔してるわけ?」
佐野に訊かれれば、
「訊いてみたんだけど内緒みたい」
と、翠葉らしい答えを口にした。
「なんだそりゃ……」
だってさ、ここで話していいものじゃないから。
「海斗が不機嫌なんて珍しいわね?」
桃華に言われて、背中で放っておいてくれ、と応えたつもり。
桃華じゃないけど、俺も司が絡むとどうにもだめなんだよね。嫌いとかじゃなくて、もどかして仕方がない。
「海斗ー?」
飛鳥がご機嫌うかがいに声をかけてくる。
「あとにして。次の授業受けたら元に戻る」
悪い、飛鳥。今口を開くと言わなくていいこと言っちゃいそうなんだ。
司の気持ちなんて俺が翠葉に言っていいことじゃない。
次は現国か……。
割と好きな教科だ。気持ちを切り替えるのにはもってこいかも。
三限が始まる前、
「あ、司先輩……」
え……? 司がこのクラスに来るなんてそうそうないだろ?
思いながら前のドア、後ろのドアを確認する。けれど、ドアは閉まったままだった。
改めて翠葉を振り返ると、翠葉が見ていたのは携帯だった。
「なんだって?」
また、好きな子いじめみたいなメール送ってきてるんじゃないだろうな……。
「んと……寝る時間は一時前くらいって」
「……は? それなんの話?」
頭の中を一瞬で白紙にされた。
「あ、昨夜日付が変わる頃に電話をもらっておめでとうを言ってくれたの。それで、私もお返しがしたくてさっきの手紙で寝る時間を訊いたのだけど、そのお返事……?」
「くっ……」
思わず笑みが漏れる。
なんだ……司は司で一応努力してるんだ。
「……今の、どのあたりに笑いの種あったかな?」
翠葉は珍しく机に身を乗り出し訊いてくる。
おまえ、面倒くさい人間にばかり好かれるな?
そんなことを思いながら、俺は「内緒」と答えた。
本当は教えたくて仕方ないんだけど、でも言わない。
けどさ、司……このくらいじゃ、このお姫様は気づかねーよ? 何せ、あの秋兄ですら手こずっている相手だ。
あ、そういえば――
「でも、司の誕生日ってもう終わってるけど? あいつ四月六日だもん」
教えてみると、意外な言葉が返ってきた。
「今朝蒼兄からその情報をもらってショック受けたんだけど、大丈夫。ちゃんと対策練るから」
「過ぎた日に対して対策も何もなくね?」
「ふふ、内緒」
しまった。俺が散々内緒と言っていたからか、秘密にされてしまった。
その「内緒です」って笑顔すらかわいい。そして思う。妹に欲しい、と。
でも、もし秋兄と結婚でもしたら義姉になるんだよな。
今ですら年上とわかってはいるものの、義姉……姉さん……。
うーん……そうは思えそうにない――
後ろの席から声をかけられた。俺はくるりと振り返り、
「うん? 一緒だけど? 誰に用?」
「司先輩。先週具合悪くなったときにミネラルウォーターを買ってもらったの。そのお代をまだ返してなくて……」
ふーん……。
「じゃ、一限のあとついていくよ」
「わ、嬉しい! お願いします」
きっとクラスのドアは閉まってる。翠葉にはそのドアを開けるのはハードルが高い気がするし、司は窓際の後方の席を確保しているだろうから、直接呼び出せる距離にはいない。
もしドアを開けることができたとして、ドアの一番近くにいる人間が男子だったら、翠葉的には色々アウトな気がした。
困ってる翠葉がありありと想像できてどうにも――
やっぱり困ってると助けてあげたくなる妹的存在なんだよな。
何より、司が翠葉と話しているところを見たいというのが一番の理由。
相変らず素っ気無いんだろうな、とは思うものの、好きな女に対してくらいは態度が変わるんじゃないかと思っている。それを見たい……。
俺としては純粋なる好奇心だったりするんだけど、司からしてみたら、「限りなく邪な好奇心だろ」と言われそうな何か。
三階に上がり、案の定閉まっていたドアを開く。そして窓際を見れば当たり前のようにそこに司がいた。
手には高校の教材ではない医学書。周りは授業始めにある小テストの勉強をしているというのに、そんな中でこいつはひとり我が道を行く。
そんなの読む余裕があるなら、恋愛のノウハウを学ぶべく恋愛小説でも読みやがれ。見つけた暁には大笑いしてやるから。
「司ーっ」
声をかけるとうざったそうに俺を見て、後ろのドアから出てきた。
「何」
「用があるのは俺じゃなくて翠葉」
言うと、俺の後ろにいた翠葉に視線を移した。
「あのっ、土曜日――ミネラルウォーターを買ってもらってそのままだったので」
「別にいいのに……」
いいのに、と言いながら、翠葉が手にしている封筒から目を離さない。
「それ……手紙付き?」
「はい、短いですけど……」
翠葉が答えてすぐ、
「なら受け取っておく」
と、即座に封筒を受け取った。直後、
「あと二分で二限が始まるけど?」
もっと言いようがあるだろっ!?
「はいはい、勉強の邪魔して悪かったね。翠葉、帰るよっ」
俺は翠葉の手を取って歩き始めた。
ざまーみろ。司にはこんな芸当できないだろ?
手を引かれている翠葉は、
「先輩、本当にありがとうございました」
司を振り返る翠葉を気にせずずんずん歩みを進める。階段を下りながら、
「あいつ、本当に素直じゃないっ」
好きなら好きでもっとそれっぽい対応すればいいものを。なんであそこまで素っ気無い態度そのままなんだかっ。
若干行き過ぎなのは認める。でも、少しくらいは秋兄を見習えよ。
おまえ、俺よりも秋兄と一緒にいる時間長いんだろ!?
「どうしたの……?」
隣を見ると、翠葉が心配そうに俺を見上げていた。よほどイライラして見えたのかもしれない。
「こればかりは教えらんねぇな」
教室に戻ると飛鳥にどこへ行っていたのかを訊かれ、それには翠葉が答えた。すると、
「またなんで……」
と、桃華が嫌そうな顔をする。
桃華と司は似たところがあるくせに仲が悪い。誰がどう見ても同属嫌悪そのものだけど……。
ま、わからなくもない。煮え切らないヤツってのは見ててイライラする。もっとはっきりすっぱりばしっとできないものか。
「土曜日に具合悪くなって、そのときにミネラルウォーターを買ってもらったの。そのお代返してなかったからお礼を兼ねて……」
「で? なんでこいつは不機嫌そうな顔してるわけ?」
佐野に訊かれれば、
「訊いてみたんだけど内緒みたい」
と、翠葉らしい答えを口にした。
「なんだそりゃ……」
だってさ、ここで話していいものじゃないから。
「海斗が不機嫌なんて珍しいわね?」
桃華に言われて、背中で放っておいてくれ、と応えたつもり。
桃華じゃないけど、俺も司が絡むとどうにもだめなんだよね。嫌いとかじゃなくて、もどかして仕方がない。
「海斗ー?」
飛鳥がご機嫌うかがいに声をかけてくる。
「あとにして。次の授業受けたら元に戻る」
悪い、飛鳥。今口を開くと言わなくていいこと言っちゃいそうなんだ。
司の気持ちなんて俺が翠葉に言っていいことじゃない。
次は現国か……。
割と好きな教科だ。気持ちを切り替えるのにはもってこいかも。
三限が始まる前、
「あ、司先輩……」
え……? 司がこのクラスに来るなんてそうそうないだろ?
思いながら前のドア、後ろのドアを確認する。けれど、ドアは閉まったままだった。
改めて翠葉を振り返ると、翠葉が見ていたのは携帯だった。
「なんだって?」
また、好きな子いじめみたいなメール送ってきてるんじゃないだろうな……。
「んと……寝る時間は一時前くらいって」
「……は? それなんの話?」
頭の中を一瞬で白紙にされた。
「あ、昨夜日付が変わる頃に電話をもらっておめでとうを言ってくれたの。それで、私もお返しがしたくてさっきの手紙で寝る時間を訊いたのだけど、そのお返事……?」
「くっ……」
思わず笑みが漏れる。
なんだ……司は司で一応努力してるんだ。
「……今の、どのあたりに笑いの種あったかな?」
翠葉は珍しく机に身を乗り出し訊いてくる。
おまえ、面倒くさい人間にばかり好かれるな?
そんなことを思いながら、俺は「内緒」と答えた。
本当は教えたくて仕方ないんだけど、でも言わない。
けどさ、司……このくらいじゃ、このお姫様は気づかねーよ? 何せ、あの秋兄ですら手こずっている相手だ。
あ、そういえば――
「でも、司の誕生日ってもう終わってるけど? あいつ四月六日だもん」
教えてみると、意外な言葉が返ってきた。
「今朝蒼兄からその情報をもらってショック受けたんだけど、大丈夫。ちゃんと対策練るから」
「過ぎた日に対して対策も何もなくね?」
「ふふ、内緒」
しまった。俺が散々内緒と言っていたからか、秘密にされてしまった。
その「内緒です」って笑顔すらかわいい。そして思う。妹に欲しい、と。
でも、もし秋兄と結婚でもしたら義姉になるんだよな。
今ですら年上とわかってはいるものの、義姉……姉さん……。
うーん……そうは思えそうにない――
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