316 / 1,060
Side View Story 07
07 Side 湊 01話
しおりを挟む
午前中に仮眠も取れたし、秋斗に連絡も入れた。あと、今日はとくにやることないわねぇ……。
翠葉の疼痛発作に関する調べ物でもしようか――
でも、わからないのよね。
あれだけ痛がっているにも関わらず、血液検査での炎症値には表れない。CTにもMRIにもレントゲンにも、核医学検査も何もかもやっているのに何ひとつ出てこない。
紫さんも私も、僧帽弁逸脱症からきている痛みだと思っていたけれど、それも定かではない。
整形外科の医師とも話したし、検査技師を交えての話し合いもした。けれど、皆が首を傾げるばかり。
精神科医との話で脳内におけるホルモンバランスが崩れたときに疼痛として現れるケースがあるという話は聞いたけれど……。
現に、消炎鎮痛剤が効かないときには常用外として用いる三環系抗鬱剤が効くこともある。
あの子の身体の中で何が起こっているのか……。
そんなことを考えながら調べ物をしているときだった。
家族からの着信を知らせる着信音が鳴り始めた。
「お母様かしら?」
ディスプレイを確認し、違和感を覚えながら応答した。
「楓から電話なんて珍しい。どうしたの? 今日もヘルプに来いって話なら遠慮するわよ?」
『秋斗がホテルで倒れた。今、静さんから連絡が入ったとこ』
「ちょっと待ってっ。私、ついさっき電話で話したばかりよっ!?」
『じゃあ、その電話のあとに倒れたんじゃない? 結構な分量吐血しててこれから病院に搬送されてくる』
「……胃潰瘍か十二指腸潰瘍ね」
『俺、今から病院に行くから姉さんから病院に連絡入れてほしい。場合によっては輸血が必要になるかも』
「わかったわ」
いつもは落ち着いている楓がかなり慌てていた。静さんが取り乱して連絡を入れてくることはないだろうから、状況を聞いてかなり良くないと判断したわけね。
固定電話の短縮ボタンを押し病院へ連絡を入れる。
「学校医の湊よ」
『お疲れ様です』
「すでに搬送要請は入っているかと思うけど、秋斗が運ばれてくる。オペ中でなければ父に診てもらえるよう伝えてもらえるかしら。それからRHマイナスABの輸血パックを緊急確保」
『少々お待ちください。――搬送要請を確認いたしました。藤宮涼医師に連絡を入れます』
「お願いね」
秋斗が吐血、ね……。コーヒーの飲みすぎと日ごろの不摂生。加えて、楓からの電話と私からの電話。
それだけで一気に胃にきたか……。ま、相当気に病んでたってことね。
ふと携帯に視線が留まる。
「司に黙ってたらあとが面倒よねぇ……」
あれはなんだかんだ言って、秋斗っ子だから。
今の時間だと部活か生徒会。携帯にかけて出なければ部活ね。
司の携帯にかけると意外と早くに出た。
携帯の向こうから嫌そうな声が聞こえてくる。
『何』
「今どこ? 周りに人は?」
『ひとりでテラスを移動中』
「秋斗情報知りたい?」
『何それ……』
「秋斗が倒れた。大量に吐血したらしい。状況は詳しくわかっていないけど、恐らくは食道から十二指腸のどこかしらに潰瘍ができてるんでしょう」
『……このこと翠には?』
「言うわけないでしょっ!? それこそ、知られたくない人間ナンバーワン」
『それなら、海斗と栞さんには言わないほうがいいと思う』
「そうね、栞は顔に出るし、海斗は口を滑らせる。今のところ、極秘扱いよ。あんたには知らせないとあとが面倒だから知らせただけ」
『…………』
「そんなわけだから、どっかで秋斗のフォローもしてやって」
『わかった』
必要なことを話すと通話は切られた。
あとはお父様がどうにかしてくれるはず……。
お父様に連絡が入れば必然的に紫さんにも連絡がいくだろう。
すぐにでも駆けつけたいところだけど、あと二十分で職員会議が始まる。
それが終わったら病院へ行こう。
ふと携帯を見た瞬間に着信があった。ディスプレイには崎本美波と表示されていた。
「はい、湊です」
『湊ちゃん、擦過傷の手当てなんだけど……』
「擦過傷?」
『うん。水で洗ったら――』
「シート貼るだけです」
『了解。湿潤療法でいいのよね?』
「誰か怪我でもしました?」
『それはあとで……』
そう言うと通話は切れた。
「……拓斗か?」
まぁ、初等部って言ったら怪我をよくする盛りよね。海斗もよく怪我をしてはお母様に手当てをされていたっけ……。年が経つにつれ、その役割は司がするようになっていたけれど。
そんな小さいころを思い出すと、心が少しあたたかくなった。
私たち姉弟と従弟は本当の姉弟のように育ってきた。
従弟という関係であっても、一般的に言われる従弟とははるかに強いつながりだと思う。
だからこそ、何かあれば心配も大きくなるというもの。
「……こんなことでくたばってるんじゃないわよ」
従弟に思いを馳せ、マンションで何が起こっているとも知らずに私は保健室をあとにした。
翠葉の疼痛発作に関する調べ物でもしようか――
でも、わからないのよね。
あれだけ痛がっているにも関わらず、血液検査での炎症値には表れない。CTにもMRIにもレントゲンにも、核医学検査も何もかもやっているのに何ひとつ出てこない。
紫さんも私も、僧帽弁逸脱症からきている痛みだと思っていたけれど、それも定かではない。
整形外科の医師とも話したし、検査技師を交えての話し合いもした。けれど、皆が首を傾げるばかり。
精神科医との話で脳内におけるホルモンバランスが崩れたときに疼痛として現れるケースがあるという話は聞いたけれど……。
現に、消炎鎮痛剤が効かないときには常用外として用いる三環系抗鬱剤が効くこともある。
あの子の身体の中で何が起こっているのか……。
そんなことを考えながら調べ物をしているときだった。
家族からの着信を知らせる着信音が鳴り始めた。
「お母様かしら?」
ディスプレイを確認し、違和感を覚えながら応答した。
「楓から電話なんて珍しい。どうしたの? 今日もヘルプに来いって話なら遠慮するわよ?」
『秋斗がホテルで倒れた。今、静さんから連絡が入ったとこ』
「ちょっと待ってっ。私、ついさっき電話で話したばかりよっ!?」
『じゃあ、その電話のあとに倒れたんじゃない? 結構な分量吐血しててこれから病院に搬送されてくる』
「……胃潰瘍か十二指腸潰瘍ね」
『俺、今から病院に行くから姉さんから病院に連絡入れてほしい。場合によっては輸血が必要になるかも』
「わかったわ」
いつもは落ち着いている楓がかなり慌てていた。静さんが取り乱して連絡を入れてくることはないだろうから、状況を聞いてかなり良くないと判断したわけね。
固定電話の短縮ボタンを押し病院へ連絡を入れる。
「学校医の湊よ」
『お疲れ様です』
「すでに搬送要請は入っているかと思うけど、秋斗が運ばれてくる。オペ中でなければ父に診てもらえるよう伝えてもらえるかしら。それからRHマイナスABの輸血パックを緊急確保」
『少々お待ちください。――搬送要請を確認いたしました。藤宮涼医師に連絡を入れます』
「お願いね」
秋斗が吐血、ね……。コーヒーの飲みすぎと日ごろの不摂生。加えて、楓からの電話と私からの電話。
それだけで一気に胃にきたか……。ま、相当気に病んでたってことね。
ふと携帯に視線が留まる。
「司に黙ってたらあとが面倒よねぇ……」
あれはなんだかんだ言って、秋斗っ子だから。
今の時間だと部活か生徒会。携帯にかけて出なければ部活ね。
司の携帯にかけると意外と早くに出た。
携帯の向こうから嫌そうな声が聞こえてくる。
『何』
「今どこ? 周りに人は?」
『ひとりでテラスを移動中』
「秋斗情報知りたい?」
『何それ……』
「秋斗が倒れた。大量に吐血したらしい。状況は詳しくわかっていないけど、恐らくは食道から十二指腸のどこかしらに潰瘍ができてるんでしょう」
『……このこと翠には?』
「言うわけないでしょっ!? それこそ、知られたくない人間ナンバーワン」
『それなら、海斗と栞さんには言わないほうがいいと思う』
「そうね、栞は顔に出るし、海斗は口を滑らせる。今のところ、極秘扱いよ。あんたには知らせないとあとが面倒だから知らせただけ」
『…………』
「そんなわけだから、どっかで秋斗のフォローもしてやって」
『わかった』
必要なことを話すと通話は切られた。
あとはお父様がどうにかしてくれるはず……。
お父様に連絡が入れば必然的に紫さんにも連絡がいくだろう。
すぐにでも駆けつけたいところだけど、あと二十分で職員会議が始まる。
それが終わったら病院へ行こう。
ふと携帯を見た瞬間に着信があった。ディスプレイには崎本美波と表示されていた。
「はい、湊です」
『湊ちゃん、擦過傷の手当てなんだけど……』
「擦過傷?」
『うん。水で洗ったら――』
「シート貼るだけです」
『了解。湿潤療法でいいのよね?』
「誰か怪我でもしました?」
『それはあとで……』
そう言うと通話は切れた。
「……拓斗か?」
まぁ、初等部って言ったら怪我をよくする盛りよね。海斗もよく怪我をしてはお母様に手当てをされていたっけ……。年が経つにつれ、その役割は司がするようになっていたけれど。
そんな小さいころを思い出すと、心が少しあたたかくなった。
私たち姉弟と従弟は本当の姉弟のように育ってきた。
従弟という関係であっても、一般的に言われる従弟とははるかに強いつながりだと思う。
だからこそ、何かあれば心配も大きくなるというもの。
「……こんなことでくたばってるんじゃないわよ」
従弟に思いを馳せ、マンションで何が起こっているとも知らずに私は保健室をあとにした。
5
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる