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第九章 化学反応
15話
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帰り際に唯兄がミニバッグの中を覗きこみ、
「ひとつ使ったんだ?」
「あ、バッテリーありがとうっ」
「うん、これ追加分ね」
「いつでも電話しておいで。メールでもいいし」
「……ありがとう」
新しく追加されたバッテリーの数にびっくりしていると、
「唯、だから多すぎるって言っただろ?」
「でも、これからは連絡くれるようになるだろうから、そしたらすぐになくなるってば」
これはもう、何がなんでも一日に一度は連絡しないといけない気がする。
「そんなに気負わなくてもいいわよ。連絡してこなくても、私たちが入れ替わりで来るんだもの」
お母さんの言葉に少しほっとした。
「俺はちょっと頻度低めね」
唯兄の言葉に首を傾げると、
「本格的に御園生家で仕事ができるように環境整えるから、しばらくちょっと忙しいんだ」
「ホテルじゃなくていいの?」
「うん、大丈夫。ま、設定にはちょっと時間かかるし秋斗さんの手も借りるようなんだけどね」
私にはさっぱりわからない話だけれど、機械に明るい秋斗さんと唯兄が時間がかかると言う程度には大変なことなのだろう。
「……やっぱり、私だけ残ってもいい? 夕飯を食べ終わるまで」
お母さんはまだ遠慮気味に訊いてくる。
「いいよ」
ただ一言答えただけなのに、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃ、唯くんと俺はふたりで帰るか」
お父さんの提案に唯兄がにこりと笑う。
「そうします。まだ配線ごっちゃだし……」
そんな会話を聞いて思い出す。今日、急遽病院へ呼びつけたのは私だということを。
「ごめんねっ、急に呼んでっ」
「まったく、何言ってんのかな、この子は……。いいでしょ? 全然いいでしょ?」
唯兄にわしわしと頭を撫でられた。
「俺は母さんの足ってことで一緒に残るけど……」
蒼兄もうかがうように私を見ていた。
自分が招いたこととわかっていても、ここまでくると苦笑せずにはいられない。
「困ったな……。本当に大丈夫だから……。もう顔色うかがわないで?」
このわだかまりは自分が解きほぐさなくてはいけない。
「蒼兄……仲直り、しよう?」
蒼兄は無言でベッドまでやってきて、いつものように抱きしめてくれた。
「何、これ……」
真横で唯兄の声がする。
「仲直りの抱擁……かな?」
蒼兄の声が身体中に伝った。
「じゃ、俺も混ぜてよ」
と、抱擁に唯兄が加わる。
雁字搦めで身動きは取れないのだけど、なんだかとてもくすぐったくて幸せな気持ちになった。
「なんだなんだ、微笑ましいじゃないか。真夏にはちょっと暑っ苦しそうだが……」
そんなお父さんの言葉にお母さんもクスクスと笑う。
久しぶりに家族が揃った時間は、とても幸せで優しさに満ちた時間だった。
時計は五時半を指している。
「お母さん」
「何?」
「お風呂に入ったら髪の毛を乾かしてもらえる?」
「いいけど……お風呂に入れるの?」
クローゼットの荷物を整理していたお母さんが振り返る。
「うん。七時からって言われているのだけど、今なら入れるし、出てきたら髪の毛乾かしてもらえるし……」
「いいわよ。じゃ、藤原さん呼んでくるわ」
お母さんは病室を出ていき、蒼兄とふたりになる。
「大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」
「ならいい」
たぶん、きちんと納得してくれたのだと思う。
すぐにお母さんと藤原さんが病室に入ってきて、お風呂の支度をしてくれた。
点滴の防水処置を始めると、お母さんが不安そうに「大丈夫なんですか?」と尋ねる。
「えぇ、意外と大丈夫なものなんです」
二日に一度はルートの消毒をすることなどを話すと、いくらかは安心してもらえたようだ。
「浴室までは車椅子ね」
と車椅子を用意され、それに自分で移ると、
「立てるの?」
お母さんに驚かれた。
「うん、歩くこともできるよ」
それすら信じられないという顔だった。
それは蒼兄も同じで、改めて、人のことを言えないくらいに自分が痩せてしまったことに気づいた。
「じゃ、いってくるね」
そう言って、藤原さんと病室を出た。
ひとりでお風呂に入るとはいえ、湯船に浸かれるわけではない。でもシャワーを浴びられるだけで十分だった。
きっと、今日も藤原さんが脱衣所で待っていてくれるのだろう。
「ご家族と普通に話せた?」
「はい、すごく緊張したけど大丈夫でした」
「ふふ、マックスの脈拍一〇〇を超えてたわ」
「……そのくらい緊張してたんです」
「でも、今はいい顔してるわね」
「なんだか色々とすみません……」
「別にかまわないわ」
お風呂上り、藤原さんに渡されたものがあった。
「これ、栞ちゃんから。カップ内臓のキャミソールですって」
お母さんが用意してくれたのは家で着ているルームウェアだ。
確かに、下着を何もつけずにこれを着て人前に出るのはどうかと思う。でも、カップ内臓のキャミソールを着てならそんな心配もない。
「栞さんにお礼言わなくちゃ……」
病室に戻ると、夕飯が届いていた。
藤原さんは点滴を再開させると、「じゃ、ごゆっくり」と病室を出ていく。
髪の毛は蒼兄が乾かしてくれるみたいで、ドライヤーは蒼兄が持っていた。
「冷めないうちに食べちゃいなさい」
お母さんに言われてテーブルに着くと、蒼兄が髪の毛を乾かし始めた。
いつか家でもこんなことがあったな、と思い出す。確か、あのときは唯兄が乾かしてくれたのだ。
まだそんなに遠い過去の出来事ではないのに、いつのことだったかは不鮮明。
月日が気になり携帯を手に取ると、ディスプレイにカレンダーを表示させた。
「あ……」
「どうした?」
私の異変に気づいた蒼兄に訊かれる。
私の治療が明日でストップするということは、ツカサのインターハイの日は痛みに耐えている時期ではないだろうか……。
「なんでもない……」
そうは答えたものの、胸がざわつく。
「なんでもなくはないだろ?」
今度は顔色をうかがわず、いつものように指摘された。
「うん……四日がツカサのインターハイの日」
「まさか行きたいとか言わないよな……」
「さすがにそれは考えてないよ」
ただ、痛みがどんなふうに出てくるのかがわからない時期。
私は自分で携帯が使える場所まで行くことができるだろうか。
「あのね、ツカサからの電話を待つことになっているの。でも、携帯が使える場所はこの棟の両端だから……。そこまで行けるのかなって、少し不安になっただけ」
「……あら、そんなことなら私がそこまで連れていくわよ?」
え……?
「なんでもひとりでやろうとしないで人を頼ればいいのよ」
お母さんに、「とても簡単なことよ」と言われた気がした。
連れていってもらうのは簡単だろう。でも、違うのだ……。
「そのとき、どのくらいの痛みが自分にあるのかがわからないから……怖いの」
電話なんて言ってられないような状態だったらどうしよう。
そう思うと、約束が守れない気がしてきてしまうのだ。
「事前に司に話しておきな。あいつは自分で報告したいだけだろうから。それまでは俺たちも結果は調べないでおくし」
「うん……あとで電話してみる」
気を取り直してご飯と向き合う。
いつもは藤原さんが一緒にいてくれるけど、今日はお母さんと蒼兄。おうちにいる気分にはなれないけれど、なんだか雰囲気が和やかで、それが嬉しかった。
七時になると面会時間の終わりを告げるアナウンスが流れた。
「じゃ、帰るけど、また明日来るわね」
お母さんに言われて、またドキリとする。
明日――明日は秋斗さんに会わなくてはいけない。その段取りはまだ何もできてはいなかった。
それに桃華さんたちにも会っておきたい。
欲張りな自分に少しうんざり……。
「蒼兄、私、桃華さんたちにも会いたくて……。でも、秋斗さんにも謝らなくちゃいけない」
そこまではいい。ただ、秋斗さんの時間の都合もあるだろうから、何時に来てもらえばいいのかがわからないのだ。
「蒼兄、秋斗さんは明日もお仕事だよね……。だとしたら、何時くらいだと思う? ……それ以前に、会ってもらえるのかもわからないのだけど……」
そうだ――謝りたくても拒絶される恐れだってあるのだ。
最悪のことも考えておかないと、受ける打撃は大きい。
「まずはさ、秋斗先輩に連絡してごらん。俺から桃華に連絡を入れるのはそれからでいいから」
「……うん」
そうだよね、まずは秋斗さんに謝らなくてはいけない。
「消灯時間までには連絡するね」
「わかった、待ってる」
頭をポンポンと二回叩かれる。それは「大丈夫だよ」の合図。
「明日、都合がわかったらそれに合わせて動くから。どんな予定でも入れちゃいなさい」
明日で治療が打ち切られるから、それまでに……。
「いいのよ、甘えて……」
お母さんが言うと、蒼兄も嬉しそうに笑った。
「さっき、治療が怖いって……痛みが出てくるのが怖いって、普通に話してくれて嬉しかった」
蒼兄に言われて、そんなことを嬉しく思うなんて、なんだか申し訳なく思う。
「翠葉、少しずつ変わろう」
「え……?」
「人はさ、色んなことを経験して成長していくから……。だから、少しずつ変わろう」
私も成長できるのかな……。前へ進めるのかな……。
「大丈夫だよ」
蒼兄が笑ってそう言ってくれるなら、大丈夫な気がした。
お母さんと蒼兄が病室を出てからひとり考える。
私、少しずつ前へ進めているのかな……。
自分ではわからない。
同じところをぐるぐる回っている気がするし、時々後ずさりしている気もする。でも、進まなくちゃいけないとは思っていて――
テーブルに置いた携帯が目に入る。
……ツカサに電話しよう。
これからの治療のことと秋斗さんのことを聞いてもらおう。
勉強しているかな? 邪魔になるかな……。
でも、聞いてもらいたい――
「ひとつ使ったんだ?」
「あ、バッテリーありがとうっ」
「うん、これ追加分ね」
「いつでも電話しておいで。メールでもいいし」
「……ありがとう」
新しく追加されたバッテリーの数にびっくりしていると、
「唯、だから多すぎるって言っただろ?」
「でも、これからは連絡くれるようになるだろうから、そしたらすぐになくなるってば」
これはもう、何がなんでも一日に一度は連絡しないといけない気がする。
「そんなに気負わなくてもいいわよ。連絡してこなくても、私たちが入れ替わりで来るんだもの」
お母さんの言葉に少しほっとした。
「俺はちょっと頻度低めね」
唯兄の言葉に首を傾げると、
「本格的に御園生家で仕事ができるように環境整えるから、しばらくちょっと忙しいんだ」
「ホテルじゃなくていいの?」
「うん、大丈夫。ま、設定にはちょっと時間かかるし秋斗さんの手も借りるようなんだけどね」
私にはさっぱりわからない話だけれど、機械に明るい秋斗さんと唯兄が時間がかかると言う程度には大変なことなのだろう。
「……やっぱり、私だけ残ってもいい? 夕飯を食べ終わるまで」
お母さんはまだ遠慮気味に訊いてくる。
「いいよ」
ただ一言答えただけなのに、とても嬉しそうに笑ってくれた。
「じゃ、唯くんと俺はふたりで帰るか」
お父さんの提案に唯兄がにこりと笑う。
「そうします。まだ配線ごっちゃだし……」
そんな会話を聞いて思い出す。今日、急遽病院へ呼びつけたのは私だということを。
「ごめんねっ、急に呼んでっ」
「まったく、何言ってんのかな、この子は……。いいでしょ? 全然いいでしょ?」
唯兄にわしわしと頭を撫でられた。
「俺は母さんの足ってことで一緒に残るけど……」
蒼兄もうかがうように私を見ていた。
自分が招いたこととわかっていても、ここまでくると苦笑せずにはいられない。
「困ったな……。本当に大丈夫だから……。もう顔色うかがわないで?」
このわだかまりは自分が解きほぐさなくてはいけない。
「蒼兄……仲直り、しよう?」
蒼兄は無言でベッドまでやってきて、いつものように抱きしめてくれた。
「何、これ……」
真横で唯兄の声がする。
「仲直りの抱擁……かな?」
蒼兄の声が身体中に伝った。
「じゃ、俺も混ぜてよ」
と、抱擁に唯兄が加わる。
雁字搦めで身動きは取れないのだけど、なんだかとてもくすぐったくて幸せな気持ちになった。
「なんだなんだ、微笑ましいじゃないか。真夏にはちょっと暑っ苦しそうだが……」
そんなお父さんの言葉にお母さんもクスクスと笑う。
久しぶりに家族が揃った時間は、とても幸せで優しさに満ちた時間だった。
時計は五時半を指している。
「お母さん」
「何?」
「お風呂に入ったら髪の毛を乾かしてもらえる?」
「いいけど……お風呂に入れるの?」
クローゼットの荷物を整理していたお母さんが振り返る。
「うん。七時からって言われているのだけど、今なら入れるし、出てきたら髪の毛乾かしてもらえるし……」
「いいわよ。じゃ、藤原さん呼んでくるわ」
お母さんは病室を出ていき、蒼兄とふたりになる。
「大丈夫か?」
「……大丈夫だよ」
「ならいい」
たぶん、きちんと納得してくれたのだと思う。
すぐにお母さんと藤原さんが病室に入ってきて、お風呂の支度をしてくれた。
点滴の防水処置を始めると、お母さんが不安そうに「大丈夫なんですか?」と尋ねる。
「えぇ、意外と大丈夫なものなんです」
二日に一度はルートの消毒をすることなどを話すと、いくらかは安心してもらえたようだ。
「浴室までは車椅子ね」
と車椅子を用意され、それに自分で移ると、
「立てるの?」
お母さんに驚かれた。
「うん、歩くこともできるよ」
それすら信じられないという顔だった。
それは蒼兄も同じで、改めて、人のことを言えないくらいに自分が痩せてしまったことに気づいた。
「じゃ、いってくるね」
そう言って、藤原さんと病室を出た。
ひとりでお風呂に入るとはいえ、湯船に浸かれるわけではない。でもシャワーを浴びられるだけで十分だった。
きっと、今日も藤原さんが脱衣所で待っていてくれるのだろう。
「ご家族と普通に話せた?」
「はい、すごく緊張したけど大丈夫でした」
「ふふ、マックスの脈拍一〇〇を超えてたわ」
「……そのくらい緊張してたんです」
「でも、今はいい顔してるわね」
「なんだか色々とすみません……」
「別にかまわないわ」
お風呂上り、藤原さんに渡されたものがあった。
「これ、栞ちゃんから。カップ内臓のキャミソールですって」
お母さんが用意してくれたのは家で着ているルームウェアだ。
確かに、下着を何もつけずにこれを着て人前に出るのはどうかと思う。でも、カップ内臓のキャミソールを着てならそんな心配もない。
「栞さんにお礼言わなくちゃ……」
病室に戻ると、夕飯が届いていた。
藤原さんは点滴を再開させると、「じゃ、ごゆっくり」と病室を出ていく。
髪の毛は蒼兄が乾かしてくれるみたいで、ドライヤーは蒼兄が持っていた。
「冷めないうちに食べちゃいなさい」
お母さんに言われてテーブルに着くと、蒼兄が髪の毛を乾かし始めた。
いつか家でもこんなことがあったな、と思い出す。確か、あのときは唯兄が乾かしてくれたのだ。
まだそんなに遠い過去の出来事ではないのに、いつのことだったかは不鮮明。
月日が気になり携帯を手に取ると、ディスプレイにカレンダーを表示させた。
「あ……」
「どうした?」
私の異変に気づいた蒼兄に訊かれる。
私の治療が明日でストップするということは、ツカサのインターハイの日は痛みに耐えている時期ではないだろうか……。
「なんでもない……」
そうは答えたものの、胸がざわつく。
「なんでもなくはないだろ?」
今度は顔色をうかがわず、いつものように指摘された。
「うん……四日がツカサのインターハイの日」
「まさか行きたいとか言わないよな……」
「さすがにそれは考えてないよ」
ただ、痛みがどんなふうに出てくるのかがわからない時期。
私は自分で携帯が使える場所まで行くことができるだろうか。
「あのね、ツカサからの電話を待つことになっているの。でも、携帯が使える場所はこの棟の両端だから……。そこまで行けるのかなって、少し不安になっただけ」
「……あら、そんなことなら私がそこまで連れていくわよ?」
え……?
「なんでもひとりでやろうとしないで人を頼ればいいのよ」
お母さんに、「とても簡単なことよ」と言われた気がした。
連れていってもらうのは簡単だろう。でも、違うのだ……。
「そのとき、どのくらいの痛みが自分にあるのかがわからないから……怖いの」
電話なんて言ってられないような状態だったらどうしよう。
そう思うと、約束が守れない気がしてきてしまうのだ。
「事前に司に話しておきな。あいつは自分で報告したいだけだろうから。それまでは俺たちも結果は調べないでおくし」
「うん……あとで電話してみる」
気を取り直してご飯と向き合う。
いつもは藤原さんが一緒にいてくれるけど、今日はお母さんと蒼兄。おうちにいる気分にはなれないけれど、なんだか雰囲気が和やかで、それが嬉しかった。
七時になると面会時間の終わりを告げるアナウンスが流れた。
「じゃ、帰るけど、また明日来るわね」
お母さんに言われて、またドキリとする。
明日――明日は秋斗さんに会わなくてはいけない。その段取りはまだ何もできてはいなかった。
それに桃華さんたちにも会っておきたい。
欲張りな自分に少しうんざり……。
「蒼兄、私、桃華さんたちにも会いたくて……。でも、秋斗さんにも謝らなくちゃいけない」
そこまではいい。ただ、秋斗さんの時間の都合もあるだろうから、何時に来てもらえばいいのかがわからないのだ。
「蒼兄、秋斗さんは明日もお仕事だよね……。だとしたら、何時くらいだと思う? ……それ以前に、会ってもらえるのかもわからないのだけど……」
そうだ――謝りたくても拒絶される恐れだってあるのだ。
最悪のことも考えておかないと、受ける打撃は大きい。
「まずはさ、秋斗先輩に連絡してごらん。俺から桃華に連絡を入れるのはそれからでいいから」
「……うん」
そうだよね、まずは秋斗さんに謝らなくてはいけない。
「消灯時間までには連絡するね」
「わかった、待ってる」
頭をポンポンと二回叩かれる。それは「大丈夫だよ」の合図。
「明日、都合がわかったらそれに合わせて動くから。どんな予定でも入れちゃいなさい」
明日で治療が打ち切られるから、それまでに……。
「いいのよ、甘えて……」
お母さんが言うと、蒼兄も嬉しそうに笑った。
「さっき、治療が怖いって……痛みが出てくるのが怖いって、普通に話してくれて嬉しかった」
蒼兄に言われて、そんなことを嬉しく思うなんて、なんだか申し訳なく思う。
「翠葉、少しずつ変わろう」
「え……?」
「人はさ、色んなことを経験して成長していくから……。だから、少しずつ変わろう」
私も成長できるのかな……。前へ進めるのかな……。
「大丈夫だよ」
蒼兄が笑ってそう言ってくれるなら、大丈夫な気がした。
お母さんと蒼兄が病室を出てからひとり考える。
私、少しずつ前へ進めているのかな……。
自分ではわからない。
同じところをぐるぐる回っている気がするし、時々後ずさりしている気もする。でも、進まなくちゃいけないとは思っていて――
テーブルに置いた携帯が目に入る。
……ツカサに電話しよう。
これからの治療のことと秋斗さんのことを聞いてもらおう。
勉強しているかな? 邪魔になるかな……。
でも、聞いてもらいたい――
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