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第十章 なくした宝物
19話
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話は四月の出逢いまで遡ってしまった。
秋斗さんからの提案で、ツカサも含めて話をしたほうが抜け落ちているものをすべて補えるだろう、ということで。
ツカサは虚をつかれた顔をしたけれど、ため息をひとつついて「わかった」と了承してくれた。
そこで新たに、藤倉の市街へ一緒に出かけたのがツカサで、知らない人に声をかけられたときに叱ってくれたのもツカサだということを知る。
柘植櫛を誕生日プレゼントとして渡されたいきさつや、ストラップをプレゼントしてもらったいきさつ。秋斗さんからは誕生日プレゼントに髪飾りをいただいているみたい。
私の記憶は、取り戻すのではなく、どんどん色を塗られていくキャンバスのようだった。
秋斗さんは時々クスクスと笑い、ツカサはどこまでも素っ気無く話す。何度か見たことのある柔らかな表情は、一度として見ることができなかった。
「翠はテストが終わると急に幸倉の家へ帰ると言いだした」
それはわからなくもない。期末考査の期間中は本当に最悪なコンディションだったから。
シャーペンを持つのもままならず、直接持てないからタオルを巻いて痛みを緩和させていたくらいだ。
その数日前に唯兄や蒼兄に幸倉へ帰りたいと言ったのも覚えているし、幸倉に戻って気持ち心がほっとしたのも覚えている。
なのにどうして――こんなにも関わりが深い人たちを忘れなくちゃいけなかったのかな。
私の理解が追いつくのを待っていてくれたのか、ふたりが何も話さずに私を見ていることに気づく。
「あ、えと……幸倉に帰ったらほっとしたのに、お母さんもお父さんも帰ってきちゃって、どうしようって思ったのを思い出してました」
慌てて話すと、
「親なんだから子どもが調子悪ければ帰ってくるのが普通だろ」
そんなふうにツカサが言えば、その続きもあるわけで……。
「だいたいにして、翠は周りに気を遣いすぎ。頭の容量少ないんだから少しは空回り率下げろよな。それから――」
言いたいことは山ほどあるらしいけれど、ヒートアップする前に秋斗さんが「司ストップ」と声をかける。そんなことが何度もあった。
どうやら、ツカサは私に言いたいことがたくさんあるらしい。しかも、言われることすべてが耳を塞ぎたくなるようなことばかり。正直止めに入ってくれる秋斗さんに感謝したくなるほどだった。
でも、すごいな、と思う。こういうの、相手にどう思われるかを考えずにザクザク言えてしまうツカサが少し羨ましい。私は、相手にどう思われるだろう、と考えてしまうと、なかなか言葉にできないから。
「翠、参考までに言っておくけど……」
「え?」
「翠だって結構ずけずけものを言うタイプだと思う」
「え……」
「何度も言ってきたけど、翠は思ってることが顔に出すぎ。駄々漏れもいいところだ」
呆れたような顔でそっぽを向かれる。
クスクスと笑う秋斗さんを見れば、どうしてか苦笑の表情。
「俺、浦島太郎の気分」
「……どうしてですか?」
「だって、ツカサと翠葉ちゃんがこんな会話してるところを見るのは初めてなんだ」
そう言う秋斗さんをツカサが振り返り、
「じゃ、もうひとつ情報提供。翠、記憶をなくしてから大声で発狂するわ、ガッツリ噛み付き返してくるわ、相当変わったよ」
「なっ――私、そんなに変わったのっ!?」
「自覚あったら怖いけど、なさすぎるのも問題」
「むぅ……ツカサは辛辣すぎっ」
「それはどうも」
「くははっ、本当だ。こんな翠葉ちゃんは見たことないや」
「……秋斗さんまで」
秋斗さんは目尻に涙を浮かべて笑っていた。そのうちお腹まで抱え出しそうで少し怖い。
「だってさ、本当に見たことがないんだ。くるくると表情が変わる表現豊かな子だってことは知っていたけど、こんなふうにむくれる様はそうそう見られない」
そう言ってはふわりと優しく笑う。今度は泣きそうな表情ではなかった。
良かった……。
「俺と付き合ってないことになったのは、幸倉に戻る前日の出来事だよ」
話をもとに戻され、
「俺たちはそれからしばらくの間、翠葉ちゃんには会っていないんだ。そのあたりは蒼樹や唯、こっちサイドからは湊ちゃんが行っていたと思うんだけど、記憶があればそのあたりの話を聞かせてもらえる?」
「え……?」
「俺も知りたい……。何がどうして翠があんな状態になっていたのか」
ツカサが振り返り、真っ直ぐな目を向けてくる。
メガネ越しなのに、その目は心臓を射抜くほどの威力があると思った。
「ツカサ、怖い……」
「……無愛想は生まれつき」
「……秋斗さん、愛想って生まれたときからのデフォルト仕様ですか?」
秋斗さんに訊くと、秋斗さんはおかしそうに吹きだした。
おかしいな……。
少し前まではとても重い空気だったのに、今、この空間はとても柔らかくてあたたかい。
ひとしきり笑い終えた秋斗さんがスツールを立ち、冷蔵庫へ向かう。すると、ツカサもベッドから立ち上がっては私のカップを持って病室を出ていった。
すぐに戻ってきたツカサは空のカップををテーブルに乗せ、秋斗さんがジュースとミネラルウォーターを手に戻ってくると、秋斗さんがジュースのパックを開け、ツカサがミネラルウォーターのキャップを開く。そして今、ふたりに半々ずつ注がれたカップが目の前にある。
「翠葉ちゃん、水分補給」
「今すぐ飲め」
ふたり同時に口にした。
「仲良しですね」
笑って言うと、
「うん、仲良しだよ」と答えた秋斗さんに対し、ツカサは「いい迷惑」と答えた。
「絶対に仲いいでしょう?」
ツカサの顔を覗き込めば、
「だから、いい迷惑」
「基本、俺の回りにいる人間って『ご愁傷様』って言葉がかわいそうなくらいよく似合うんだ」
秋斗さんは笑って口にした。
私……三人で話しているこの空気、好きだな――
秋斗さんからの提案で、ツカサも含めて話をしたほうが抜け落ちているものをすべて補えるだろう、ということで。
ツカサは虚をつかれた顔をしたけれど、ため息をひとつついて「わかった」と了承してくれた。
そこで新たに、藤倉の市街へ一緒に出かけたのがツカサで、知らない人に声をかけられたときに叱ってくれたのもツカサだということを知る。
柘植櫛を誕生日プレゼントとして渡されたいきさつや、ストラップをプレゼントしてもらったいきさつ。秋斗さんからは誕生日プレゼントに髪飾りをいただいているみたい。
私の記憶は、取り戻すのではなく、どんどん色を塗られていくキャンバスのようだった。
秋斗さんは時々クスクスと笑い、ツカサはどこまでも素っ気無く話す。何度か見たことのある柔らかな表情は、一度として見ることができなかった。
「翠はテストが終わると急に幸倉の家へ帰ると言いだした」
それはわからなくもない。期末考査の期間中は本当に最悪なコンディションだったから。
シャーペンを持つのもままならず、直接持てないからタオルを巻いて痛みを緩和させていたくらいだ。
その数日前に唯兄や蒼兄に幸倉へ帰りたいと言ったのも覚えているし、幸倉に戻って気持ち心がほっとしたのも覚えている。
なのにどうして――こんなにも関わりが深い人たちを忘れなくちゃいけなかったのかな。
私の理解が追いつくのを待っていてくれたのか、ふたりが何も話さずに私を見ていることに気づく。
「あ、えと……幸倉に帰ったらほっとしたのに、お母さんもお父さんも帰ってきちゃって、どうしようって思ったのを思い出してました」
慌てて話すと、
「親なんだから子どもが調子悪ければ帰ってくるのが普通だろ」
そんなふうにツカサが言えば、その続きもあるわけで……。
「だいたいにして、翠は周りに気を遣いすぎ。頭の容量少ないんだから少しは空回り率下げろよな。それから――」
言いたいことは山ほどあるらしいけれど、ヒートアップする前に秋斗さんが「司ストップ」と声をかける。そんなことが何度もあった。
どうやら、ツカサは私に言いたいことがたくさんあるらしい。しかも、言われることすべてが耳を塞ぎたくなるようなことばかり。正直止めに入ってくれる秋斗さんに感謝したくなるほどだった。
でも、すごいな、と思う。こういうの、相手にどう思われるかを考えずにザクザク言えてしまうツカサが少し羨ましい。私は、相手にどう思われるだろう、と考えてしまうと、なかなか言葉にできないから。
「翠、参考までに言っておくけど……」
「え?」
「翠だって結構ずけずけものを言うタイプだと思う」
「え……」
「何度も言ってきたけど、翠は思ってることが顔に出すぎ。駄々漏れもいいところだ」
呆れたような顔でそっぽを向かれる。
クスクスと笑う秋斗さんを見れば、どうしてか苦笑の表情。
「俺、浦島太郎の気分」
「……どうしてですか?」
「だって、ツカサと翠葉ちゃんがこんな会話してるところを見るのは初めてなんだ」
そう言う秋斗さんをツカサが振り返り、
「じゃ、もうひとつ情報提供。翠、記憶をなくしてから大声で発狂するわ、ガッツリ噛み付き返してくるわ、相当変わったよ」
「なっ――私、そんなに変わったのっ!?」
「自覚あったら怖いけど、なさすぎるのも問題」
「むぅ……ツカサは辛辣すぎっ」
「それはどうも」
「くははっ、本当だ。こんな翠葉ちゃんは見たことないや」
「……秋斗さんまで」
秋斗さんは目尻に涙を浮かべて笑っていた。そのうちお腹まで抱え出しそうで少し怖い。
「だってさ、本当に見たことがないんだ。くるくると表情が変わる表現豊かな子だってことは知っていたけど、こんなふうにむくれる様はそうそう見られない」
そう言ってはふわりと優しく笑う。今度は泣きそうな表情ではなかった。
良かった……。
「俺と付き合ってないことになったのは、幸倉に戻る前日の出来事だよ」
話をもとに戻され、
「俺たちはそれからしばらくの間、翠葉ちゃんには会っていないんだ。そのあたりは蒼樹や唯、こっちサイドからは湊ちゃんが行っていたと思うんだけど、記憶があればそのあたりの話を聞かせてもらえる?」
「え……?」
「俺も知りたい……。何がどうして翠があんな状態になっていたのか」
ツカサが振り返り、真っ直ぐな目を向けてくる。
メガネ越しなのに、その目は心臓を射抜くほどの威力があると思った。
「ツカサ、怖い……」
「……無愛想は生まれつき」
「……秋斗さん、愛想って生まれたときからのデフォルト仕様ですか?」
秋斗さんに訊くと、秋斗さんはおかしそうに吹きだした。
おかしいな……。
少し前まではとても重い空気だったのに、今、この空間はとても柔らかくてあたたかい。
ひとしきり笑い終えた秋斗さんがスツールを立ち、冷蔵庫へ向かう。すると、ツカサもベッドから立ち上がっては私のカップを持って病室を出ていった。
すぐに戻ってきたツカサは空のカップををテーブルに乗せ、秋斗さんがジュースとミネラルウォーターを手に戻ってくると、秋斗さんがジュースのパックを開け、ツカサがミネラルウォーターのキャップを開く。そして今、ふたりに半々ずつ注がれたカップが目の前にある。
「翠葉ちゃん、水分補給」
「今すぐ飲め」
ふたり同時に口にした。
「仲良しですね」
笑って言うと、
「うん、仲良しだよ」と答えた秋斗さんに対し、ツカサは「いい迷惑」と答えた。
「絶対に仲いいでしょう?」
ツカサの顔を覗き込めば、
「だから、いい迷惑」
「基本、俺の回りにいる人間って『ご愁傷様』って言葉がかわいそうなくらいよく似合うんだ」
秋斗さんは笑って口にした。
私……三人で話しているこの空気、好きだな――
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