490 / 1,060
Side View Story 10
13 Side 司 01話
しおりを挟む
「本当は起きてらっしゃるのでしょう?」
秋兄がいたときは無駄口を叩かなかった人間が、秋兄がいなくなった途端に口を開いた。
無視を決め込むと、
「どこまでも気の回る人ですねぇ? そんなんじゃ将来苦労しますよ?」
そのあとは藤山の一角にある自宅まで何も喋らなかった。
けれど、車を降りるときに一言だけ――
「世話になりました」
その言葉と共に腰を折る。
礼は言うべきだと思ったから。
ゼロ課という課がどういった規律のもとに動いているのかはわからない。けど、この二日間、俺と秋兄に労を費やした事実は変わらない。
「またお会いできる日を楽しみにしています」
そんなふうに言って去っていったけど、
「……真っ平ごめんだ」
ゼロ課が絡むことなどそうそうないはずなのに、「また」だと?
「次があってたまるか――」
家に入ってシャワーを浴び、夕飯を済ませてから病院へ行くつもりだった。しかし、出かける間際に母さんが言いづらそうに声をかけてきた。
「お父様が庵でお待ちなの……」
じーさんが何……?
母さんの目は不安そうに揺れていた。
きっと、母さんは何も聞かされていない。知らないからこそ不安を感じているのだろう。
「わかった、寄っていく」
ゼロ課の存在を知った直後ということもあり、嫌な予感を胸に庵を訪ねると、
「来たか」
「……何」
「コーヒーでも飲むかの?」
「このあと用があるから早く済ませてほしいんだけど」
「つれぬのぉ……。まぁ時間はかからぬわ」
じーさんは髭をいじりながら言う。
「ゼロ課の存在を知ったとな」
今年八十八になるというのに、目に宿る眼光は一向に衰えない。
「それは即ち、秋斗と共に会長候補に挙がったということじゃ」
「は……? 意味がわからないんだけど。何がどうして俺?」
「会長、もしくは次期会長はひとりだけ推薦することができる」
「何それ、意味わからないし」
「意味などないわ。ただ、推薦することができる。それだけじゃ」
「じーさん、俺、医者以外になるつもりないんだけど」
「ふぉっふぉっふぉっ、涼の息子が何を言うか」
「父さんの息子というなら兄さんで十分だと思うけど?」
「そうじゃがの、それではつまらんぞい」
「俺はつまらなくて一向に構わない。むしろ、俺が巻き込まれることを回避できるなら兄さんを生贄に差し出す」
じーさんはおかしそうに笑った。
「そういうところが涼譲りなんじゃよ」
「……俺、そんなに父さんに似てる?」
「そっくりじゃ。ああ見えて、一番真白に近い性質を持っているのは湊じゃろうの」
「はっ!?」
「司は涼の血が濃い。それに、真白の天性の優しさが根底にある。人間としてバランスがいい気質じゃろう」
「どう担がれても会長なんて無理。っていうか、これから帝王学を学つもりもさらさらない」
「そんなことは危惧せんでも、司は秋斗に仕込まれとるじゃろう」
「は……? 身に覚えがないんだけどっ!?」
「いつか秋斗や静に訊くがよい。話は以上じゃ。お姫様のところへ行くんじゃろ? 早うせい」
呼び出した本人にそう言われて庵を追い出されるのだからたまらない。
心の整理がつかないまま自転車に跨り舗装された山道を走る。
陽が落ちた今はさほど暑くないはずなのに、緑山から帰った自分にはひどく暑く感じた。
時計を見れば七時半前。坂を下れば病院まではすぐだ。
ジーパンのポケットには長めのチェーンが入っている。
夕飯のとき、母さんに昨日から今日までのことを訊かれるのが面倒で、自分から話題を振った。
「あのさ、長いチェーン持ってない?」
「……この間のじゃだめだったの?」
「そうじゃない。……翠はすごく喜んでいたけど、指先が痛むらしくてつけ外しができないんだ」
「そうなのね……。じゃ、留め具をいじらなくてもつけ外しできる長さがいいのね」
逡巡していた母さんが、「あっ!」と立ち上がり部屋を出ていった。
満面の笑みで戻ってきた母さんに渡されたものは、シンプルな長いチェーンだった。
「涼さんのものなのだけど、きっと怒られることはないわ。素材はサージカルステンレスだからアレルギー体質の子でも大丈夫だと思うの」
なんでそんなものを父さんが……?
「仕事中はマリッジリングも邪魔になることがあると言われて、それでも身につけていてほしくてこれをプレゼントしたの」
すごく父さんらしい理由で、母さんらしい理由だ。
「でもね、最近になって指にはめてくれるようになったから、もう必要ないと思うの」
母さんはたかがそれだけのことをとても嬉しそうに話す。
きっとこれなら大丈夫だろう。でも、どうやって切り出すか……。
つけていなければ、適当にチェーンを替えてしまえばいい。
つけていたら……?
つけていてくれたら嬉しいけど、それをつけたり外したりするたびに痛い思いはさせたくない――
汗をかくこともなく病院に着き、警備室前をそのままスルーして歩みを進める。
エレベーターで九階へ上がると、ロビーに昇さんともうひとり知らない医師がいた。
きっとこの人が相馬医師なのだろう。
挨拶をしようとすれば、手で行った行った、と追いやられる。
「スイハが病室で待ってんだよ」
と、初対面にも関わらず追い払われた。
面食らった俺を笑いながら、昇さんが口を開く。
「そわそわしてるからさっさと行ってやれ」
この場にいるふたりに言われたらそうせざるを得ない。
俺は会釈して病室へと急いだ。
ナースセンターでは栞さんが申し訳なさそうに寄ってくる。
「昨日はごめんなさいね? 静兄様が何か急なお願いしたみたいで」
「うちの親族、そういう人間多いので慣れてます」
「そうね……。でも、ありがとう」
別段、栞さんに礼を言われるようなことはしていないわけだけど、詳細を知らない人間に話す必要もない。
病室を振り返ると、相変わらずドアは開けたままになっていた。
あまりの静かさにノックはせず病室を覗いてみる。と、翠はベッドの上で横になり、嬉しそうにとんぼ玉を眺めていた。
まるでそれしか目に入っていないような顔で、大切そうに愛でている。
そんな様を見て嬉しいと思う。でも――
「寝るときくらい外せ。危ないだろ?」
気づけばそんなことを口にしていた。
急に声をかけたからか、翠は驚いた表情で俺を見る。けれど、すぐに表情を改め「おかえりなさい」と口にしてくれた。
やっと見ることができた――曇りない満面の笑みを。しかも、首には俺のあげたとんぼ玉がぶら下がっていて、未だ翠の手中にある。
嬉しいものだな……。
「ただいま」
「なんか……すごい日焼けしたね? 肌真っ赤」
「……数日後には落ち着く」
「ツカサも赤くなって痛いだけで焼けない人?」
「そう」
「じゃ、私と同じ!」
無邪気に笑う翠を見ると、帰ってきた、という気になる。
「ツカサ、いいことあった?」
「……いいことというよりは、最悪なことだらけの気がするけど?」
いいことは今あったけど、そのほかは最悪なことだらけだ。
「だって、いつもよりも顔が優しく見えたよ?」
「それ、いつもは怖いって言いたいの?」
つい……つい、嫌みのようなことが口をついてしまう。
「怖いなんて言ってないよ。ただ、ツン、として見える……かな?」
それもどうなんだか……。
「ツカサ……?」
下から覗き見るように声をかけられた。
「それ、自分で外せる?」
「あ……ネックレスのこと?」
「そう」
身につけてくれているのは嬉しいと思う。けれど、それをつけたまま寝るのは良くない。
首に絡んで首が絞まったらどうするつもりだ……。
「……できない」
やっぱり……。
「そう。じゃ、外すから」
「やだっ」
翠はベッドの端まで逃げた。
「やだじゃない。こんなのつけたまま寝るな」
抵抗はされると思っていた。でも、首に手をかけた瞬間におとなしくなった。
取り外すと、さっきまでの笑顔はどこへやら……。
「不服そうな顔……」
翠は頬を膨らませる勢いでむくれている。
別に全部を取り上げるつもりで外したわけじゃない。だから、そんな顔するな……。
「これなら留め具をいじらなくても首にかけるだけでいいだろ?」
言いながら、長めのチェーンを翠に見せる。
「……ありがとう」
「素材はシルバーでも金でもなければプラチナでもなくステンレスだけど」
「ありがとうっ!」
翠は花が咲いたような笑顔になった。
翠の手が伸ばされると、俺は同じ要領でネックレスを遠ざける。
「ツカサ……?」
さて――
「交換条件とまいりましょう」
にこりと笑ってとんぼ玉を手中におさめると、とんぼ玉を掴み損ねた翠は怪訝な表情をする。
「交換条件って……?」
「あのさ、秋兄に会わない?」
「……え?」
「藤宮秋斗、俺の従兄に会わない?」
「会うよ……? だって、いつか静さんが連れてきてくれるのでしょう?」
「そのときじゃなくて……明日、秋兄に会わない?」
すごく悩んだ……。でも、俺も秋兄も、翠の知り合いなんだ。出逢ってないことにはできない。
今のままじゃ、歯車はうまく回らない。
時計と同じだ。直せるものなら直したほうがいいんだ。
俺の気持ち的な都合かもしれない。でも、秋兄をあのままにはしておけない。
自業自得だと言われようが、秋兄は自分の欲求を優先させて行動したわけじゃなかった。秋兄なりに翠のことを考えていた。ただ、それが裏目に出てしまっただけ。
翠は何も知らずに記憶を失った。そのときのことだけではなく、それまで築いてきたいくつもの出来事や気持ちの一切を。
人の財産は金や地位じゃないと思う。その人間が経験したすべてが財産なんだ。
だとしたら――翠はそれを失ったことになる。
それはちゃんと取り戻したほうがいい。
人は嬉しいだけ、幸せなことだけで人生が成り立っているわけじゃない。つらいことや悲しいこと、それら全部が揃って人生だったり思い出だったりする。
それは失ったままでいるべきじゃない――
秋兄がいたときは無駄口を叩かなかった人間が、秋兄がいなくなった途端に口を開いた。
無視を決め込むと、
「どこまでも気の回る人ですねぇ? そんなんじゃ将来苦労しますよ?」
そのあとは藤山の一角にある自宅まで何も喋らなかった。
けれど、車を降りるときに一言だけ――
「世話になりました」
その言葉と共に腰を折る。
礼は言うべきだと思ったから。
ゼロ課という課がどういった規律のもとに動いているのかはわからない。けど、この二日間、俺と秋兄に労を費やした事実は変わらない。
「またお会いできる日を楽しみにしています」
そんなふうに言って去っていったけど、
「……真っ平ごめんだ」
ゼロ課が絡むことなどそうそうないはずなのに、「また」だと?
「次があってたまるか――」
家に入ってシャワーを浴び、夕飯を済ませてから病院へ行くつもりだった。しかし、出かける間際に母さんが言いづらそうに声をかけてきた。
「お父様が庵でお待ちなの……」
じーさんが何……?
母さんの目は不安そうに揺れていた。
きっと、母さんは何も聞かされていない。知らないからこそ不安を感じているのだろう。
「わかった、寄っていく」
ゼロ課の存在を知った直後ということもあり、嫌な予感を胸に庵を訪ねると、
「来たか」
「……何」
「コーヒーでも飲むかの?」
「このあと用があるから早く済ませてほしいんだけど」
「つれぬのぉ……。まぁ時間はかからぬわ」
じーさんは髭をいじりながら言う。
「ゼロ課の存在を知ったとな」
今年八十八になるというのに、目に宿る眼光は一向に衰えない。
「それは即ち、秋斗と共に会長候補に挙がったということじゃ」
「は……? 意味がわからないんだけど。何がどうして俺?」
「会長、もしくは次期会長はひとりだけ推薦することができる」
「何それ、意味わからないし」
「意味などないわ。ただ、推薦することができる。それだけじゃ」
「じーさん、俺、医者以外になるつもりないんだけど」
「ふぉっふぉっふぉっ、涼の息子が何を言うか」
「父さんの息子というなら兄さんで十分だと思うけど?」
「そうじゃがの、それではつまらんぞい」
「俺はつまらなくて一向に構わない。むしろ、俺が巻き込まれることを回避できるなら兄さんを生贄に差し出す」
じーさんはおかしそうに笑った。
「そういうところが涼譲りなんじゃよ」
「……俺、そんなに父さんに似てる?」
「そっくりじゃ。ああ見えて、一番真白に近い性質を持っているのは湊じゃろうの」
「はっ!?」
「司は涼の血が濃い。それに、真白の天性の優しさが根底にある。人間としてバランスがいい気質じゃろう」
「どう担がれても会長なんて無理。っていうか、これから帝王学を学つもりもさらさらない」
「そんなことは危惧せんでも、司は秋斗に仕込まれとるじゃろう」
「は……? 身に覚えがないんだけどっ!?」
「いつか秋斗や静に訊くがよい。話は以上じゃ。お姫様のところへ行くんじゃろ? 早うせい」
呼び出した本人にそう言われて庵を追い出されるのだからたまらない。
心の整理がつかないまま自転車に跨り舗装された山道を走る。
陽が落ちた今はさほど暑くないはずなのに、緑山から帰った自分にはひどく暑く感じた。
時計を見れば七時半前。坂を下れば病院まではすぐだ。
ジーパンのポケットには長めのチェーンが入っている。
夕飯のとき、母さんに昨日から今日までのことを訊かれるのが面倒で、自分から話題を振った。
「あのさ、長いチェーン持ってない?」
「……この間のじゃだめだったの?」
「そうじゃない。……翠はすごく喜んでいたけど、指先が痛むらしくてつけ外しができないんだ」
「そうなのね……。じゃ、留め具をいじらなくてもつけ外しできる長さがいいのね」
逡巡していた母さんが、「あっ!」と立ち上がり部屋を出ていった。
満面の笑みで戻ってきた母さんに渡されたものは、シンプルな長いチェーンだった。
「涼さんのものなのだけど、きっと怒られることはないわ。素材はサージカルステンレスだからアレルギー体質の子でも大丈夫だと思うの」
なんでそんなものを父さんが……?
「仕事中はマリッジリングも邪魔になることがあると言われて、それでも身につけていてほしくてこれをプレゼントしたの」
すごく父さんらしい理由で、母さんらしい理由だ。
「でもね、最近になって指にはめてくれるようになったから、もう必要ないと思うの」
母さんはたかがそれだけのことをとても嬉しそうに話す。
きっとこれなら大丈夫だろう。でも、どうやって切り出すか……。
つけていなければ、適当にチェーンを替えてしまえばいい。
つけていたら……?
つけていてくれたら嬉しいけど、それをつけたり外したりするたびに痛い思いはさせたくない――
汗をかくこともなく病院に着き、警備室前をそのままスルーして歩みを進める。
エレベーターで九階へ上がると、ロビーに昇さんともうひとり知らない医師がいた。
きっとこの人が相馬医師なのだろう。
挨拶をしようとすれば、手で行った行った、と追いやられる。
「スイハが病室で待ってんだよ」
と、初対面にも関わらず追い払われた。
面食らった俺を笑いながら、昇さんが口を開く。
「そわそわしてるからさっさと行ってやれ」
この場にいるふたりに言われたらそうせざるを得ない。
俺は会釈して病室へと急いだ。
ナースセンターでは栞さんが申し訳なさそうに寄ってくる。
「昨日はごめんなさいね? 静兄様が何か急なお願いしたみたいで」
「うちの親族、そういう人間多いので慣れてます」
「そうね……。でも、ありがとう」
別段、栞さんに礼を言われるようなことはしていないわけだけど、詳細を知らない人間に話す必要もない。
病室を振り返ると、相変わらずドアは開けたままになっていた。
あまりの静かさにノックはせず病室を覗いてみる。と、翠はベッドの上で横になり、嬉しそうにとんぼ玉を眺めていた。
まるでそれしか目に入っていないような顔で、大切そうに愛でている。
そんな様を見て嬉しいと思う。でも――
「寝るときくらい外せ。危ないだろ?」
気づけばそんなことを口にしていた。
急に声をかけたからか、翠は驚いた表情で俺を見る。けれど、すぐに表情を改め「おかえりなさい」と口にしてくれた。
やっと見ることができた――曇りない満面の笑みを。しかも、首には俺のあげたとんぼ玉がぶら下がっていて、未だ翠の手中にある。
嬉しいものだな……。
「ただいま」
「なんか……すごい日焼けしたね? 肌真っ赤」
「……数日後には落ち着く」
「ツカサも赤くなって痛いだけで焼けない人?」
「そう」
「じゃ、私と同じ!」
無邪気に笑う翠を見ると、帰ってきた、という気になる。
「ツカサ、いいことあった?」
「……いいことというよりは、最悪なことだらけの気がするけど?」
いいことは今あったけど、そのほかは最悪なことだらけだ。
「だって、いつもよりも顔が優しく見えたよ?」
「それ、いつもは怖いって言いたいの?」
つい……つい、嫌みのようなことが口をついてしまう。
「怖いなんて言ってないよ。ただ、ツン、として見える……かな?」
それもどうなんだか……。
「ツカサ……?」
下から覗き見るように声をかけられた。
「それ、自分で外せる?」
「あ……ネックレスのこと?」
「そう」
身につけてくれているのは嬉しいと思う。けれど、それをつけたまま寝るのは良くない。
首に絡んで首が絞まったらどうするつもりだ……。
「……できない」
やっぱり……。
「そう。じゃ、外すから」
「やだっ」
翠はベッドの端まで逃げた。
「やだじゃない。こんなのつけたまま寝るな」
抵抗はされると思っていた。でも、首に手をかけた瞬間におとなしくなった。
取り外すと、さっきまでの笑顔はどこへやら……。
「不服そうな顔……」
翠は頬を膨らませる勢いでむくれている。
別に全部を取り上げるつもりで外したわけじゃない。だから、そんな顔するな……。
「これなら留め具をいじらなくても首にかけるだけでいいだろ?」
言いながら、長めのチェーンを翠に見せる。
「……ありがとう」
「素材はシルバーでも金でもなければプラチナでもなくステンレスだけど」
「ありがとうっ!」
翠は花が咲いたような笑顔になった。
翠の手が伸ばされると、俺は同じ要領でネックレスを遠ざける。
「ツカサ……?」
さて――
「交換条件とまいりましょう」
にこりと笑ってとんぼ玉を手中におさめると、とんぼ玉を掴み損ねた翠は怪訝な表情をする。
「交換条件って……?」
「あのさ、秋兄に会わない?」
「……え?」
「藤宮秋斗、俺の従兄に会わない?」
「会うよ……? だって、いつか静さんが連れてきてくれるのでしょう?」
「そのときじゃなくて……明日、秋兄に会わない?」
すごく悩んだ……。でも、俺も秋兄も、翠の知り合いなんだ。出逢ってないことにはできない。
今のままじゃ、歯車はうまく回らない。
時計と同じだ。直せるものなら直したほうがいいんだ。
俺の気持ち的な都合かもしれない。でも、秋兄をあのままにはしておけない。
自業自得だと言われようが、秋兄は自分の欲求を優先させて行動したわけじゃなかった。秋兄なりに翠のことを考えていた。ただ、それが裏目に出てしまっただけ。
翠は何も知らずに記憶を失った。そのときのことだけではなく、それまで築いてきたいくつもの出来事や気持ちの一切を。
人の財産は金や地位じゃないと思う。その人間が経験したすべてが財産なんだ。
だとしたら――翠はそれを失ったことになる。
それはちゃんと取り戻したほうがいい。
人は嬉しいだけ、幸せなことだけで人生が成り立っているわけじゃない。つらいことや悲しいこと、それら全部が揃って人生だったり思い出だったりする。
それは失ったままでいるべきじゃない――
5
あなたにおすすめの小説
光のもとで2
葉野りるは
青春
一年の療養を経て高校へ入学した翠葉は「高校一年」という濃厚な時間を過ごし、
新たな気持ちで新学期を迎える。
好きな人と両思いにはなれたけれど、だからといって順風満帆にいくわけではないみたい。
少し環境が変わっただけで会う機会は減ってしまったし、気持ちがすれ違うことも多々。
それでも、同じ時間を過ごし共に歩めることに感謝を……。
この世界には当たり前のことなどひとつもなく、あるのは光のような奇跡だけだから。
何か問題が起きたとしても、一つひとつ乗り越えて行きたい――
(10万文字を一冊として、文庫本10冊ほどの長さです)
【完結】イケメンが邪魔して本命に告白できません
竹柏凪紗
青春
高校の入学式、芸能コースに通うアイドルでイケメンの如月風磨が普通科で目立たない最上碧衣の教室にやってきた。女子たちがキャーキャー騒ぐなか、風磨は碧衣の肩を抱き寄せ「お前、今日から俺の女な」と宣言する。その真意とウソつきたちによって複雑になっていく2人の結末とは──
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる