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13 Side 昇 01話
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病室に入ろうとした栞の腕を掴み、首を振ることで「やめておけ」と伝える。
それでも、かわいい奥さんは中へ踏み込みたいらしい。
「俺たちの問題じゃない」
静かに一言、言い聞かせるように口にした。
ことの顛末は、そろそろ帰る旨を翠葉ちゃんに伝えに行こうとしたときのこと――
病室から聞こえてきた会話はこんなものだった。
「あのさ、秋兄に会わない?」
「……え?」
「藤宮秋斗、俺の従兄に会わない?」
「会うよ……? だって、いつか静さんが連れてきてくれるのでしょう?」
「そのときじゃなくて……明日、秋兄に会わない?」
この会話が奥さんを刺激した。
気持ちはわからなくもない。
だが、これを口にした司の気持ちはどうだ……?
あいつは翠葉ちゃんのことも考えていれば、自分の気持ちとだって対峙しているし、そのうえで秋斗のことも考えている。
ならば、これは俺たちが首を突っ込んでいい話じゃない。
俺は栞の腕を掴み、無理やりその場からエレベーター前のロビーまで移動した。
「どうしてっ!?」
「どうして、じゃない」
「だってっっっ――また翠葉ちゃんが混乱したらっ!? ストレスを感じて痛みがひどくなったらっ!? 不整脈を起こしたらどうするのっ!?」
栞の不安もわかる。が、
「そういうのもケアするのが俺らの仕事だろう?」
俺がそう言うと同時、栞の背後に相馬が立った。
「そうそう、大事大事で守りすぎるのも良くねぇぜ?」
「相馬先生はあの子を知らないからっっっ」
相馬は険呑な視線を栞に向ける。
「栞姫よぉ、知る知らないじゃねぇだろーが。起きた事象に対処していく能力を培うには、そういう出来事に出くわさないといけねーんだよ。まだ経験値の少ない若者からその機会奪ってどうするよ」
そこまで言われても栞は黙らなかった。
「翠葉ちゃん、ものすごく感受性が豊かで繊細でっ――」
「だからなんだ?」
「だからっっっ――」
はぁ……栞は翠葉ちゃんがかわいくてかわいくて仕方ないんだろうなぁ……。
その気持ちもわからんではない。
できることなら茨道は歩かせたくないし、足の裏が傷つくことのないふわふわとした場所を歩かせたい。
俺にだって少なからずともそんな感情はある。でも――
「栞、あれは俺たちが関与していい問題じゃないと思うぞ? あれは翠葉ちゃんと司と秋斗、三人の問題だ。三人がどうにかして乗り越えなくちゃいけない問題であって、周りの人間が干渉していいことじゃない」
栞は口を引き結び、ポロポロと涙を零す。
「はい、いい子いい子……」
小柄な栞を抱き寄せ背中をトントンと叩く。
栞は小さい子どものように、俺の胸にしがみついて泣いていた。
「栞姫はよっぽどスイハが大切なんだなぁ……」
相馬が栞を見て苦笑する。
「海外にいるときも電話の内容はたいてい翠葉ちゃんのことだったさ」
「ま、今時珍しく擦れてない子ではあるかもな。真っ黒な俺からしてみたら、眩しいくらいの白で困っちまう」
相馬は悪態をつきながらロビーのソファに腰を下ろした。
「俺も時々感化されそうで怖ぇよ」
「安心しろ。昇は間違いなく俺様と同類、真っ黒サイド」
ケケケ、と笑う相馬と一緒にはなりたくないが、似たり寄ったりであることには変わりはない。
「栞……。翠葉ちゃんがかわいいのも守ってあげたいのもわかる。でも、翠葉ちゃんってそんなに弱い子か? 俺らが必死こいて守ってやらなくちゃ生きていけないくらいに弱いか?」
栞は沈黙を守ったまま俺を見上げた。
「俺はさ、あの子と出逢ってまだ間もないよ。正直、脆いと思った。綱渡りしているような危うさを感じたりもした。でもさ、あの子はあの数値の痛みに耐えていた子なんだ。間違っても弱いだけの子じゃない」
「……いつだって隠すのよ。具合が悪いことも痛いことも――入院する前は本当にひどくて……」
栞は言葉を詰まらせ涙を流した。
入院する前がどれほどひどかったのかは栞からも湊からも聞いていた。
それを説き伏せて連れてきたのが司だという。
あの日のことは俺も覚えている。
処置をしたのは俺と楓だったからな。
初めて目にしたその姿にびっくりした。
ここまで衰弱するほどに痛みに耐える理由はなんだったのか、ここまで我慢できる精神力とはどんなものなのか――
考えずにはいられないほどに痩せ細り、やつれた顔をしていた。
「なぁ、栞……。すごいこじつけしてもいいか?」
「……私が納得できる言葉が欲しい」
「……その翠葉ちゃんを説き伏せた人間が司なんだろ? ある意味ゴールデンコンビじゃね?」
「…………」
納得したか?
胸におさまる奥さんを見下ろすと、
「悔しい……納得したくないけど、納得できなくもない」
その返答に、俺が笑う前に相馬が笑った。
「なんだ、おまえらいつもこんな会話してんのか?」
「悪いな、独り者の前でいちゃついて」
「あぁ、目の毒だからとっとと帰れや」
相馬は立ち上がり、ナースセンターに向かって歩きだした。
即ち、あとは任せとけ、ってところだろう。
「栞、帰ろう」
「……うん」
「帰ったら風呂だな」
「……一緒に入ってもいい?」
「大歓迎」
栞はぴたりとくっつき、「着替えてくるね」と俺から離れた。
今日は骨の髄まで愛してやるさ――
それでも、かわいい奥さんは中へ踏み込みたいらしい。
「俺たちの問題じゃない」
静かに一言、言い聞かせるように口にした。
ことの顛末は、そろそろ帰る旨を翠葉ちゃんに伝えに行こうとしたときのこと――
病室から聞こえてきた会話はこんなものだった。
「あのさ、秋兄に会わない?」
「……え?」
「藤宮秋斗、俺の従兄に会わない?」
「会うよ……? だって、いつか静さんが連れてきてくれるのでしょう?」
「そのときじゃなくて……明日、秋兄に会わない?」
この会話が奥さんを刺激した。
気持ちはわからなくもない。
だが、これを口にした司の気持ちはどうだ……?
あいつは翠葉ちゃんのことも考えていれば、自分の気持ちとだって対峙しているし、そのうえで秋斗のことも考えている。
ならば、これは俺たちが首を突っ込んでいい話じゃない。
俺は栞の腕を掴み、無理やりその場からエレベーター前のロビーまで移動した。
「どうしてっ!?」
「どうして、じゃない」
「だってっっっ――また翠葉ちゃんが混乱したらっ!? ストレスを感じて痛みがひどくなったらっ!? 不整脈を起こしたらどうするのっ!?」
栞の不安もわかる。が、
「そういうのもケアするのが俺らの仕事だろう?」
俺がそう言うと同時、栞の背後に相馬が立った。
「そうそう、大事大事で守りすぎるのも良くねぇぜ?」
「相馬先生はあの子を知らないからっっっ」
相馬は険呑な視線を栞に向ける。
「栞姫よぉ、知る知らないじゃねぇだろーが。起きた事象に対処していく能力を培うには、そういう出来事に出くわさないといけねーんだよ。まだ経験値の少ない若者からその機会奪ってどうするよ」
そこまで言われても栞は黙らなかった。
「翠葉ちゃん、ものすごく感受性が豊かで繊細でっ――」
「だからなんだ?」
「だからっっっ――」
はぁ……栞は翠葉ちゃんがかわいくてかわいくて仕方ないんだろうなぁ……。
その気持ちもわからんではない。
できることなら茨道は歩かせたくないし、足の裏が傷つくことのないふわふわとした場所を歩かせたい。
俺にだって少なからずともそんな感情はある。でも――
「栞、あれは俺たちが関与していい問題じゃないと思うぞ? あれは翠葉ちゃんと司と秋斗、三人の問題だ。三人がどうにかして乗り越えなくちゃいけない問題であって、周りの人間が干渉していいことじゃない」
栞は口を引き結び、ポロポロと涙を零す。
「はい、いい子いい子……」
小柄な栞を抱き寄せ背中をトントンと叩く。
栞は小さい子どものように、俺の胸にしがみついて泣いていた。
「栞姫はよっぽどスイハが大切なんだなぁ……」
相馬が栞を見て苦笑する。
「海外にいるときも電話の内容はたいてい翠葉ちゃんのことだったさ」
「ま、今時珍しく擦れてない子ではあるかもな。真っ黒な俺からしてみたら、眩しいくらいの白で困っちまう」
相馬は悪態をつきながらロビーのソファに腰を下ろした。
「俺も時々感化されそうで怖ぇよ」
「安心しろ。昇は間違いなく俺様と同類、真っ黒サイド」
ケケケ、と笑う相馬と一緒にはなりたくないが、似たり寄ったりであることには変わりはない。
「栞……。翠葉ちゃんがかわいいのも守ってあげたいのもわかる。でも、翠葉ちゃんってそんなに弱い子か? 俺らが必死こいて守ってやらなくちゃ生きていけないくらいに弱いか?」
栞は沈黙を守ったまま俺を見上げた。
「俺はさ、あの子と出逢ってまだ間もないよ。正直、脆いと思った。綱渡りしているような危うさを感じたりもした。でもさ、あの子はあの数値の痛みに耐えていた子なんだ。間違っても弱いだけの子じゃない」
「……いつだって隠すのよ。具合が悪いことも痛いことも――入院する前は本当にひどくて……」
栞は言葉を詰まらせ涙を流した。
入院する前がどれほどひどかったのかは栞からも湊からも聞いていた。
それを説き伏せて連れてきたのが司だという。
あの日のことは俺も覚えている。
処置をしたのは俺と楓だったからな。
初めて目にしたその姿にびっくりした。
ここまで衰弱するほどに痛みに耐える理由はなんだったのか、ここまで我慢できる精神力とはどんなものなのか――
考えずにはいられないほどに痩せ細り、やつれた顔をしていた。
「なぁ、栞……。すごいこじつけしてもいいか?」
「……私が納得できる言葉が欲しい」
「……その翠葉ちゃんを説き伏せた人間が司なんだろ? ある意味ゴールデンコンビじゃね?」
「…………」
納得したか?
胸におさまる奥さんを見下ろすと、
「悔しい……納得したくないけど、納得できなくもない」
その返答に、俺が笑う前に相馬が笑った。
「なんだ、おまえらいつもこんな会話してんのか?」
「悪いな、独り者の前でいちゃついて」
「あぁ、目の毒だからとっとと帰れや」
相馬は立ち上がり、ナースセンターに向かって歩きだした。
即ち、あとは任せとけ、ってところだろう。
「栞、帰ろう」
「……うん」
「帰ったら風呂だな」
「……一緒に入ってもいい?」
「大歓迎」
栞はぴたりとくっつき、「着替えてくるね」と俺から離れた。
今日は骨の髄まで愛してやるさ――
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