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第十一章 トラウマ
21話
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球技大会が終わっても、「呼び出し」と言われる類のものは続いていた。でも、みんなが心配するほどのものはなく、私は「話し合い」だと認識している。
そのため、先日ツカサに渡されたGPS搭載のナースコールもどきは、まだ一度も使っていない。それが原因で、 ツカサとは険悪なムードになっていた。
最近では、私が自分から助けを求めないことを理解した風紀委員が途中で介入することがあったり、ツカサ自身がその場に来ることもある。でも、ツカサが来ることほど迷惑なものはなかった。
ツカサが来ることで、相手が私に言いたかったことを言えなくなってしまうし、話し合いがブツリと中断されてしまう。
その場で私がツカサに対してぶち切れることは少なくなかった。
「翠、そんな質問に答える必要はない。こんなことに時間を割く暇があるなら仕事しろ」
「仕事は滞らせずにしているでしょっ!? それに、私あと十分はフリータイムっ」
「そんなに余裕があるなら別の仕事も回すけど?」
私の対応に、ツカサの機嫌も悪化する。
最初はため息をつくとかそのくらいだったものが、今ではこんなふうに言い返されることが多くなった。
「十分後に戻るからそのときにしてっ」
私に話があるという女の子を連れて違う場所へ移動することもしばしば……。
今日の内容もツカサの呼び方についてだった。
「呼び捨てになんてなさらないでっ。聞いていて不愉快だわっ」
口調が丁寧……というよりはお嬢様っぽい。きっとそういう家柄の人なのだろう。
でも、だからといって自分の対応は変えない。
あのあと、ツカサの呼び方に付いて何度かツカサ自身と話をした。
そのときのことを思い出すだけでも頭が痛くなる。
呼び方を変えると、ことごとく無視されるのだ。挙句、仕事すらままならなくなる。
「……呼び方を変えたら返事をしてもらえなくて、生徒会の仕事に支障が出てしまう状況に陥ってしまったので、できればその件だけは目を瞑ってもらえませんか?」
「見逃せるなら、あなたに直接言いにきたりしませんっ」
もっともだ……。
「第一、あなた……身体が弱いというのは本当なのかしら? それを理由に藤宮先輩に付きまとっているのではなくて?」
これはつまり、あの噂は本当なのか、と言われているのだろう。
……だめだなぁ。これにだけはカチンときてしまう。
なんというか、ツカサという人間の認識に腹が立ってしまうのだ。
第一、両親が病院と懇意って何? うちは自営業ではあるけれど、大きな企業ではないし、病院と懇意にするほどの何かがあるわけでもない。
患者だから病院とは嫌でも縁が切れないだけで、好きで通院しているわけでもない。
何よりも、周りの環境如何でツカサの対応が変わるなどあり得ない。ツカサを好きだと言う割に、そういうところを理解していないのはどうしてだろう。
それはほかの人にも感じたこと。
突き詰めて考えると、すべての元凶がツカサにある気がした。
ツカサは自分のことを知ってもらおうという努力を一切しない。関係のない人間とは一切関わろうとしない。ゆえに、彼女たちはツカサに近づくことすらできないのだ。
つまり、ツカサと仲良くなりたくても、話したくても話せない状況。だから、私に文句を言いにくる。
少しでもツカサが態度を改めてくれたら、こういうことは減る気がする。けれども、ツカサは自分の態度を改めるつもりは一切ないらしい。
私を助けにくる以前に、自分の日ごろの行いを改めてもらいたい。ツカサが少し変わるだけでファンの女の子たちは満足するのではないだろうか。
黙々と考察を深めていると、
「目の前で倒れてくれさえしたら、病弱なのも認めなくはないけれど……」
上から目線で言われて少し考える。
きっと、見せようと思えば見せることはできる。ただ、それをすると間違いなくたくさんの人に心配をかけるし怒られる。そして、自分も苦しい思いをする。
「……見せることは可能だと思います」
「あら、倒れることを自分でコントロールできるの?」
女の子は嘲笑を浮かべ、「やっぱり演技だったのね」と口にした。
「いえ……そういうことではなくて、普段からしてはいけない、と言われていることを実行すればいいだけなので」
「え……?」
その人は笑みを消し、怪訝そうに眉をひそめた。
「たとえば、私が今から一〇〇メートルほど全力で走るとします。それ自体はできないわけではないので……。問題はそのあとです」
「何を……」
「人の身体は運動をすると血液循環量を増やさなくてはいけない構造になっています。でも、私の身体はそれができない。だから、走ったあとには倒れるでしょう。倒れることで血圧数値がもとに戻れば問題はないのですが、最悪、心肺停止になる可能性があります。その前に、あなたが救急車を呼ぶなり、湊先生に連絡を取っていただけるなら、見せることは可能です」
ただ、起こる事象を淡々と答えると、女の子の表情が固まった。次の瞬間――
「それはいただけないわよ」
第三者の声が割り込んだ。
誰……?
私の背後にあった木からひらり、と舞い降りたのは長い髪の毛をポニーテールにしている人。
身長は一六五センチくらい。華奢な身体つきとは思わないのに、着地したときに音がほとんどしなかった。
忍者みたい……。
「あなた、とんでもないことを提案するのね?」
私を呼び出した女の子は青ざめた顔をして、その先輩の名前らしきものを口にした。
「初めてお目にかかるわね、お姫様。風紀委員の二年、青木沙耶よ」
「……一年の御園生翠葉です」
「警護対象の名前くらいわかってるわ。でも……具合が悪いところを見せてみろといわれて命を懸けるバカだとは思わなかった」
少しむかっとした。
確かにバカだと思う。でも、わかってもらうのに必要なことならば、それもひとつの手だと思う。
つい、カッとしてそんなことを思ってしまったけれど、そこまでしてわかってもらう必要はないのかな……と改めて思いなおした。
わかってくれる人だけがわかってくれればいい――
そう思っていたはずなのに、最近は少し欲が出てきていたのかもしれなくて……。
そんなことを考えていると、
「私、これで失礼します」
私を呼び出した人は踵を返して走り去った。
「あ……名前訊くの忘れちゃった……」
取り残されたのは私と青木先輩。
「和総から聞いていたけど、本当に一風変わったお姫様だわね」
腰に手を当てて、呆れた、って顔をされる。そして、ガサ、と音がして木陰から人が現れた。
「っ……ツカサ」
「翠……今みたいなことは二度と口にするな」
「……はい」
鬼のような形相をしていて、それ以外の言葉を発することができなかった。
ツカサが怒るのは当然だ。
ツカサは私の身体のことを詳しく知っているから。どれだけ危険なことを口にしたのか、よくわかっている人だから。
「そんな危険な方法を取らなくても、飲んでいる薬を見せるとかほかにも手はあるだろっ!?」
あ……そっか。
言われて今さらのように気づく。
「青木に聞いた。これで呼び出された回数が十一回目だって」
ツカサは無表情に戻り、訊くでもなしに口にする。
「数えてないからわからないけど、まだ十回はいってないと思う……」
「あら、間違いなく十一回目よ? 風紀委員できちんとカウントしてるもの。呼び出した人間のクラスも名前も明白」
青木先輩がメモを取り出し、再度数えては、
「間違いなく十一回、十四人」
「呼べよっ」
こめかみに血管が浮き出そうな勢いでツカサに怒鳴られた。
さっきの無表情は繕っていただけ……? でも――
「やだ」
「っ……翠――」
「だってっ、ツカサが来たところでいいことないものっ。どうせ、ツカサは私をその場から引き剥がそうとするだけで、女の子たちの言い分を聞くつもりはないのでしょうっ!? それじゃ意味がないものっ。私は会いにきてくれた人と話をしているだけっ。それ以上でもそれ以下でもないっ。もし、ツカサが来て、その女の子たちと話をしてくれるなら呼ぶ」
じっとツカサの目を見ると、
「勝手にしろっ」
ツカサは不機嫌そうな顔で去っていった。
そのため、先日ツカサに渡されたGPS搭載のナースコールもどきは、まだ一度も使っていない。それが原因で、 ツカサとは険悪なムードになっていた。
最近では、私が自分から助けを求めないことを理解した風紀委員が途中で介入することがあったり、ツカサ自身がその場に来ることもある。でも、ツカサが来ることほど迷惑なものはなかった。
ツカサが来ることで、相手が私に言いたかったことを言えなくなってしまうし、話し合いがブツリと中断されてしまう。
その場で私がツカサに対してぶち切れることは少なくなかった。
「翠、そんな質問に答える必要はない。こんなことに時間を割く暇があるなら仕事しろ」
「仕事は滞らせずにしているでしょっ!? それに、私あと十分はフリータイムっ」
「そんなに余裕があるなら別の仕事も回すけど?」
私の対応に、ツカサの機嫌も悪化する。
最初はため息をつくとかそのくらいだったものが、今ではこんなふうに言い返されることが多くなった。
「十分後に戻るからそのときにしてっ」
私に話があるという女の子を連れて違う場所へ移動することもしばしば……。
今日の内容もツカサの呼び方についてだった。
「呼び捨てになんてなさらないでっ。聞いていて不愉快だわっ」
口調が丁寧……というよりはお嬢様っぽい。きっとそういう家柄の人なのだろう。
でも、だからといって自分の対応は変えない。
あのあと、ツカサの呼び方に付いて何度かツカサ自身と話をした。
そのときのことを思い出すだけでも頭が痛くなる。
呼び方を変えると、ことごとく無視されるのだ。挙句、仕事すらままならなくなる。
「……呼び方を変えたら返事をしてもらえなくて、生徒会の仕事に支障が出てしまう状況に陥ってしまったので、できればその件だけは目を瞑ってもらえませんか?」
「見逃せるなら、あなたに直接言いにきたりしませんっ」
もっともだ……。
「第一、あなた……身体が弱いというのは本当なのかしら? それを理由に藤宮先輩に付きまとっているのではなくて?」
これはつまり、あの噂は本当なのか、と言われているのだろう。
……だめだなぁ。これにだけはカチンときてしまう。
なんというか、ツカサという人間の認識に腹が立ってしまうのだ。
第一、両親が病院と懇意って何? うちは自営業ではあるけれど、大きな企業ではないし、病院と懇意にするほどの何かがあるわけでもない。
患者だから病院とは嫌でも縁が切れないだけで、好きで通院しているわけでもない。
何よりも、周りの環境如何でツカサの対応が変わるなどあり得ない。ツカサを好きだと言う割に、そういうところを理解していないのはどうしてだろう。
それはほかの人にも感じたこと。
突き詰めて考えると、すべての元凶がツカサにある気がした。
ツカサは自分のことを知ってもらおうという努力を一切しない。関係のない人間とは一切関わろうとしない。ゆえに、彼女たちはツカサに近づくことすらできないのだ。
つまり、ツカサと仲良くなりたくても、話したくても話せない状況。だから、私に文句を言いにくる。
少しでもツカサが態度を改めてくれたら、こういうことは減る気がする。けれども、ツカサは自分の態度を改めるつもりは一切ないらしい。
私を助けにくる以前に、自分の日ごろの行いを改めてもらいたい。ツカサが少し変わるだけでファンの女の子たちは満足するのではないだろうか。
黙々と考察を深めていると、
「目の前で倒れてくれさえしたら、病弱なのも認めなくはないけれど……」
上から目線で言われて少し考える。
きっと、見せようと思えば見せることはできる。ただ、それをすると間違いなくたくさんの人に心配をかけるし怒られる。そして、自分も苦しい思いをする。
「……見せることは可能だと思います」
「あら、倒れることを自分でコントロールできるの?」
女の子は嘲笑を浮かべ、「やっぱり演技だったのね」と口にした。
「いえ……そういうことではなくて、普段からしてはいけない、と言われていることを実行すればいいだけなので」
「え……?」
その人は笑みを消し、怪訝そうに眉をひそめた。
「たとえば、私が今から一〇〇メートルほど全力で走るとします。それ自体はできないわけではないので……。問題はそのあとです」
「何を……」
「人の身体は運動をすると血液循環量を増やさなくてはいけない構造になっています。でも、私の身体はそれができない。だから、走ったあとには倒れるでしょう。倒れることで血圧数値がもとに戻れば問題はないのですが、最悪、心肺停止になる可能性があります。その前に、あなたが救急車を呼ぶなり、湊先生に連絡を取っていただけるなら、見せることは可能です」
ただ、起こる事象を淡々と答えると、女の子の表情が固まった。次の瞬間――
「それはいただけないわよ」
第三者の声が割り込んだ。
誰……?
私の背後にあった木からひらり、と舞い降りたのは長い髪の毛をポニーテールにしている人。
身長は一六五センチくらい。華奢な身体つきとは思わないのに、着地したときに音がほとんどしなかった。
忍者みたい……。
「あなた、とんでもないことを提案するのね?」
私を呼び出した女の子は青ざめた顔をして、その先輩の名前らしきものを口にした。
「初めてお目にかかるわね、お姫様。風紀委員の二年、青木沙耶よ」
「……一年の御園生翠葉です」
「警護対象の名前くらいわかってるわ。でも……具合が悪いところを見せてみろといわれて命を懸けるバカだとは思わなかった」
少しむかっとした。
確かにバカだと思う。でも、わかってもらうのに必要なことならば、それもひとつの手だと思う。
つい、カッとしてそんなことを思ってしまったけれど、そこまでしてわかってもらう必要はないのかな……と改めて思いなおした。
わかってくれる人だけがわかってくれればいい――
そう思っていたはずなのに、最近は少し欲が出てきていたのかもしれなくて……。
そんなことを考えていると、
「私、これで失礼します」
私を呼び出した人は踵を返して走り去った。
「あ……名前訊くの忘れちゃった……」
取り残されたのは私と青木先輩。
「和総から聞いていたけど、本当に一風変わったお姫様だわね」
腰に手を当てて、呆れた、って顔をされる。そして、ガサ、と音がして木陰から人が現れた。
「っ……ツカサ」
「翠……今みたいなことは二度と口にするな」
「……はい」
鬼のような形相をしていて、それ以外の言葉を発することができなかった。
ツカサが怒るのは当然だ。
ツカサは私の身体のことを詳しく知っているから。どれだけ危険なことを口にしたのか、よくわかっている人だから。
「そんな危険な方法を取らなくても、飲んでいる薬を見せるとかほかにも手はあるだろっ!?」
あ……そっか。
言われて今さらのように気づく。
「青木に聞いた。これで呼び出された回数が十一回目だって」
ツカサは無表情に戻り、訊くでもなしに口にする。
「数えてないからわからないけど、まだ十回はいってないと思う……」
「あら、間違いなく十一回目よ? 風紀委員できちんとカウントしてるもの。呼び出した人間のクラスも名前も明白」
青木先輩がメモを取り出し、再度数えては、
「間違いなく十一回、十四人」
「呼べよっ」
こめかみに血管が浮き出そうな勢いでツカサに怒鳴られた。
さっきの無表情は繕っていただけ……? でも――
「やだ」
「っ……翠――」
「だってっ、ツカサが来たところでいいことないものっ。どうせ、ツカサは私をその場から引き剥がそうとするだけで、女の子たちの言い分を聞くつもりはないのでしょうっ!? それじゃ意味がないものっ。私は会いにきてくれた人と話をしているだけっ。それ以上でもそれ以下でもないっ。もし、ツカサが来て、その女の子たちと話をしてくれるなら呼ぶ」
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