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17~23 Side 司 02話
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桜林館に戻りコートに下りると、
「あれ? バレーの審判してなかったっけ?」
ケンに声をかけられた。
「途中で朝陽に代わってもらった」
「そうなん?」
と、ピブスを渡される。
それを着用してから辺りを見回すと、遠くに翠が見えた。
手を引いて一緒に歩いているのがさっきの風紀委員だろう。
「和総ー! 早く来ーい!」
コート内にいた海斗が呼びつけているところを見ると、どうやらこの回で対戦する相手のようだ。
数メートル先にいる女子に翠のことを任せると、こっちへと走ってきた。
クラスの人間といるときは大丈夫だろう……。
そう思うと、少し肩の力が抜ける。
作戦会議らしきものを済ませ観覧席に座る翠を見れば、ピルケースとペットボトルを手にしていた。
俺の視線に気づいた翠が、「何?」とでも言うように首を傾げる。
何って訊きたいのはこっちだ、阿呆……。
自分の手元を指差すと、「あ」って顔をしてすぐに薬を飲む。そして、薬を飲み終えると「大丈夫」と口を大きく動かした。
呼び出しがあったさっきの今で「大丈夫」と言われても、それを信じていいものか……。
でも、こういうところでは嘘はつかれない。隠されない。
そんな自信が俺にはあって――俺はその言葉を額面どおりに受け取ることにした。
もとより、そろそろ試合に意識を戻すべきだ。
相手は一年B組。一学期の準決勝でも当たっている。
集中できず、試合に負けることほど嫌なものはないし、のちにずっと海斗に言われ続けるのも癪だ。
果たして、この試合に翠の応援は望めるものか……。
淡い期待だったと思う。翠の声は一度として聞こえなかった。
自分のクラスに対しても、声をかける場面は一度も見られなかった。
一学期とはえらい違いだ。
そのことに海斗も首を傾げていた。「翠葉の声が聞こえない」と。
「ちょっとね、色々あったから自粛してるんだと思うよ」
風紀委員の補足説明。
自粛、ね……。それに俺の呼び名の件も入っているのだろうか。
試合の挨拶が終わると、翠のもとへと真っ直ぐ向かった。
「応援の声、聞こえなかったけど?」
笑顔を添えて訊いてみる。と、
「……えと、お願いされてないし?」
翠の目が若干泳いだ。
確かに、今回は頼んでなどいない。そんなこと、わざわざ言わなくても応援してもらえる程度には距離を縮めたつもりでいたからだ。
畳み掛けるように、
「決勝戦、また猿のクラスとだけど、そのときは応援してくれるんだろうな?」
笑顔でごり押しすれば表情が固まる。
固まってるというよりは苦笑。返事に困っている顔。
それでも翠は言わないだろう。呼び出されたことも、風紀委員に言われたことも。
なら、こっちから切り込むまでだ。
「何があったかは知ってる。でも、そういうの気にする必要ないから」
脳裏を掠めるのは雅さんの件。でも、あのときほど衝撃を受けているようには見えない。
どうして知っているのか詳しく突っ込まれるのは厄介で、その場からすぐに立ち去った。
途中、三年のクラス委員長に声をかけられる。
「藤宮くん、姫を集計に回してくれてありがとう! あの子、すごく集計早いの! あとは準決勝の集計のみだから、クラス委員が交代で集計する程度よ」
そう言って、それまでの集計結果を渡される。
確か、三年A組の芹園亜里沙(せりぞのありさ)と指宿省吾(いぶすきしょうご)。
「いえ、一年が入りましたから、回せるところには人員回します」
それだけを答えて出口へと向かった。
もう翠がクラスの人間と離れることはないだろう。最初からそれが目的だった。
集計をスムーズに終わらせることと、翠を視聴覚室から極力単独で出さないこと。
そうできれば呼び出される機会を減らすことができると思っていた。
結果的には失敗に終わったわけだけど……。
桜林館から出ると、目のつく場所に青木がいた。
なんとなく、待ち伏せされていた気がする。
外してポケットに入れてあったイヤホンを返そうとすると、
「持ってていいわよ。それ、メール通知後なら学園内にいればどこにいても会話が聞こえるすてきアイテムなの」
時間的に余裕もなく、立ち止まって話すことでもない。特教棟へと歩みを進めたまま話し続ける。
「青木、ひとつ頼みがある」
「あら、天下の藤宮御曹司に何をお願いされるのかしら?」
「翠が殴られるとか、そういうのだけは未然に防いでもらいたい」
それだけは――
「ふーん……本当に特別なのね?」
特別かどうか、と言われたら「特別」だ。けど、そうではなく――
「噂に関することかしら?」
「それ、噂って?」
「本当にそういうことに無関心なのね? 自分の名前が挙がっている噂くらい把握しておきなさいよ」
青木は呆れつつも内容を教えてくれた。
「姫が拒食症だとか、姫の親が藤宮病院と懇意にしてるから藤宮くんが姫を無下にはできないとか。ほかにもいくつかあるわ。――すんごい眉間のしわ……。それ、痕つくんじゃない?」
眉間のしわなんてどうでもいい。
「それ、違うから」
「わかってるわよ。そんなの少し調べればわかることだし。第一、そういうことに左右されないのが藤宮くんでしょう? ったく……噂にもほどがあるわよね。あり得もしない噂がこうも蔓延するんだから」
だったら、その蔓をとっとと伐採してこい、と言いたいところだが、人の噂は七十五日ともいう。放置しておくに越したことはないのかもしれない。
「和総から――あぁ、さっき介入した風紀委員、河野和総から姫の体調についてはかいつまんで聞いてるわ。だから、手を上げられる前に介入する。それは二学期に入ってすぐに決まっていたこと。ご心配なく」
言うと、青木はテラスから階段も使わずに一階へと飛び降りた。
相変わらず身軽な……。
体操部が喉から手が出そうなくらいに欲しがっている人材というのはわからなくもない。まるで重力を感じさせない身のこなしを見せる人間。それが風紀委員、二年代表青木沙耶――
「あれ? バレーの審判してなかったっけ?」
ケンに声をかけられた。
「途中で朝陽に代わってもらった」
「そうなん?」
と、ピブスを渡される。
それを着用してから辺りを見回すと、遠くに翠が見えた。
手を引いて一緒に歩いているのがさっきの風紀委員だろう。
「和総ー! 早く来ーい!」
コート内にいた海斗が呼びつけているところを見ると、どうやらこの回で対戦する相手のようだ。
数メートル先にいる女子に翠のことを任せると、こっちへと走ってきた。
クラスの人間といるときは大丈夫だろう……。
そう思うと、少し肩の力が抜ける。
作戦会議らしきものを済ませ観覧席に座る翠を見れば、ピルケースとペットボトルを手にしていた。
俺の視線に気づいた翠が、「何?」とでも言うように首を傾げる。
何って訊きたいのはこっちだ、阿呆……。
自分の手元を指差すと、「あ」って顔をしてすぐに薬を飲む。そして、薬を飲み終えると「大丈夫」と口を大きく動かした。
呼び出しがあったさっきの今で「大丈夫」と言われても、それを信じていいものか……。
でも、こういうところでは嘘はつかれない。隠されない。
そんな自信が俺にはあって――俺はその言葉を額面どおりに受け取ることにした。
もとより、そろそろ試合に意識を戻すべきだ。
相手は一年B組。一学期の準決勝でも当たっている。
集中できず、試合に負けることほど嫌なものはないし、のちにずっと海斗に言われ続けるのも癪だ。
果たして、この試合に翠の応援は望めるものか……。
淡い期待だったと思う。翠の声は一度として聞こえなかった。
自分のクラスに対しても、声をかける場面は一度も見られなかった。
一学期とはえらい違いだ。
そのことに海斗も首を傾げていた。「翠葉の声が聞こえない」と。
「ちょっとね、色々あったから自粛してるんだと思うよ」
風紀委員の補足説明。
自粛、ね……。それに俺の呼び名の件も入っているのだろうか。
試合の挨拶が終わると、翠のもとへと真っ直ぐ向かった。
「応援の声、聞こえなかったけど?」
笑顔を添えて訊いてみる。と、
「……えと、お願いされてないし?」
翠の目が若干泳いだ。
確かに、今回は頼んでなどいない。そんなこと、わざわざ言わなくても応援してもらえる程度には距離を縮めたつもりでいたからだ。
畳み掛けるように、
「決勝戦、また猿のクラスとだけど、そのときは応援してくれるんだろうな?」
笑顔でごり押しすれば表情が固まる。
固まってるというよりは苦笑。返事に困っている顔。
それでも翠は言わないだろう。呼び出されたことも、風紀委員に言われたことも。
なら、こっちから切り込むまでだ。
「何があったかは知ってる。でも、そういうの気にする必要ないから」
脳裏を掠めるのは雅さんの件。でも、あのときほど衝撃を受けているようには見えない。
どうして知っているのか詳しく突っ込まれるのは厄介で、その場からすぐに立ち去った。
途中、三年のクラス委員長に声をかけられる。
「藤宮くん、姫を集計に回してくれてありがとう! あの子、すごく集計早いの! あとは準決勝の集計のみだから、クラス委員が交代で集計する程度よ」
そう言って、それまでの集計結果を渡される。
確か、三年A組の芹園亜里沙(せりぞのありさ)と指宿省吾(いぶすきしょうご)。
「いえ、一年が入りましたから、回せるところには人員回します」
それだけを答えて出口へと向かった。
もう翠がクラスの人間と離れることはないだろう。最初からそれが目的だった。
集計をスムーズに終わらせることと、翠を視聴覚室から極力単独で出さないこと。
そうできれば呼び出される機会を減らすことができると思っていた。
結果的には失敗に終わったわけだけど……。
桜林館から出ると、目のつく場所に青木がいた。
なんとなく、待ち伏せされていた気がする。
外してポケットに入れてあったイヤホンを返そうとすると、
「持ってていいわよ。それ、メール通知後なら学園内にいればどこにいても会話が聞こえるすてきアイテムなの」
時間的に余裕もなく、立ち止まって話すことでもない。特教棟へと歩みを進めたまま話し続ける。
「青木、ひとつ頼みがある」
「あら、天下の藤宮御曹司に何をお願いされるのかしら?」
「翠が殴られるとか、そういうのだけは未然に防いでもらいたい」
それだけは――
「ふーん……本当に特別なのね?」
特別かどうか、と言われたら「特別」だ。けど、そうではなく――
「噂に関することかしら?」
「それ、噂って?」
「本当にそういうことに無関心なのね? 自分の名前が挙がっている噂くらい把握しておきなさいよ」
青木は呆れつつも内容を教えてくれた。
「姫が拒食症だとか、姫の親が藤宮病院と懇意にしてるから藤宮くんが姫を無下にはできないとか。ほかにもいくつかあるわ。――すんごい眉間のしわ……。それ、痕つくんじゃない?」
眉間のしわなんてどうでもいい。
「それ、違うから」
「わかってるわよ。そんなの少し調べればわかることだし。第一、そういうことに左右されないのが藤宮くんでしょう? ったく……噂にもほどがあるわよね。あり得もしない噂がこうも蔓延するんだから」
だったら、その蔓をとっとと伐採してこい、と言いたいところだが、人の噂は七十五日ともいう。放置しておくに越したことはないのかもしれない。
「和総から――あぁ、さっき介入した風紀委員、河野和総から姫の体調についてはかいつまんで聞いてるわ。だから、手を上げられる前に介入する。それは二学期に入ってすぐに決まっていたこと。ご心配なく」
言うと、青木はテラスから階段も使わずに一階へと飛び降りた。
相変わらず身軽な……。
体操部が喉から手が出そうなくらいに欲しがっている人材というのはわからなくもない。まるで重力を感じさせない身のこなしを見せる人間。それが風紀委員、二年代表青木沙耶――
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