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第十二章 自分のモノサシ
10話
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今の私が譲れないもの――
ねぇ、佐野くん……私が今手に持っているもの全部と言ったら、呆れる……? 欲張りだって言われちゃう? でもね、私、どれも手放したくないの。どれも大切で、どれも諦められないの。
友達も学校生活も何もかも――
だけど、体調を安定させないと家族にも普段私を助けてくれる周りの人たちにも心配や迷惑をかけてしまう。
蒼兄と唯兄、栞さんとツカサ――
ツカサの顔が脳裏に浮かぶと、すぐに海斗くんや桃華さんの顔も出てきて、あっという間にクラスメイトの顔が揃った。それから生徒会メンバーの顔も。
そっか……その中に「友達」も含まれていたのかな……。
今、私の周りにいる友達は、私のことを心配してくれてるんだ。
忘れてはいけないことを忘れていた気分。
というよりは、知っていたはずなのに、ちゃんと気づけていなかった感じ。
「心配をかけたくない」と思う自分が、「心配してくれる友達」に布をかぶせて見えなくしていたような、そんな感じ。
もしくは、そう信じた末になくなってしまうことが怖くて、見ようとしていなかったのかも……。
ちゃんとそこにあって目に見えていたはずなのに……。
空太くんのメールにはこんなことが書かれていた。
件名 :後方部隊
本文 :翠葉ちゃんは戦線離脱したら、後方部隊にいればいいと思う。
知ってる?
後方部隊では人の手当をしたり、ほかの役割があるんだ。
たとえば球技大会。
翠葉ちゃんが応援してくれたらみんながんばれる。
「常に一緒」だけが友達じゃないよ。
全部が一緒じゃなくてもいいじゃん。
いずれみんな分かれるときには分かれる。
理系文系文理系。
わかりやすい分かれ道はそこだよね。
翠葉ちゃんは人と違う道を歩くことを誰よりも先に知ってるんだから、
俺らよりも先輩。
でも、ひとつ――
道は分かれてもひとりじゃないよ。
全部一緒だから友達なわけでもない。
一年が終わっても何も変わらない。
高校を卒業しても何も変わらない。
俺たち、そういう友達になろうよ。
みんな、私が知らないことをたくさん知っていて、とてもわかりやすい言葉でひとつひとつを教えてくれる。
そのひとつひとつ読み解くたびに、私の心はふわりと優しいものに包まれた――
「翠、夕飯」
ゆう、はん……?
目を開けると、薄暗い部屋にツカサの顔が見えた。
「少しは休めた?」
「……うん。桃華さんは?」
「五時前に帰った」
「そう……」
メールを全部読み終えた私は、身体中の力が一気に抜けてしまった。
ツカサが支えてくれなかったらそのままラグの上に倒れていただろう。
ラグの上だからそんなに痛くはなかったと思うけれど、その場に自分を支えてくれる人がいたことに感謝。
――「翠、顔を洗って夕飯まで休め」。
ツカサのその言葉に頷き、三人にお礼を言って休んだのだ。
まだぼんやりと霞がかった頭でツカサに尋ねる。
「ツカサ……もし願ったなら、私の未来に友達はいてくれるのかな?」
「……俺が願ったなら、翠は俺の未来にいるのか?」
「そこに私はいられるのかな? いていいのかな?」
「……俺の十秒後の未来に翠はいるだろ。翠の十秒後の未来にも俺はいる。一秒先でも未来は未来だ」
そう言うと、ツカサは先に部屋を出ていった。
入学したばかりのころは、こんなに大切なものは多くなかったはず。
身体に負担がかかって学校へ通い続けることが困難ならば、すぐに辞めようと――そのときは友達のことは何も考えなかった。
ただ、自分の体調のことで家族に心配をかけて、蒼兄の負担になるくらいなら、とそのふたつしかなかった。
でも、学校が楽しい場所だとみんなが教えてくれ、人があたたかくて優しいと知ったら――無理をしてでも学校へ通いたくなった。
人の手を借りて、周りに負担をかけてまですることなのか、と考えれば、自分のわがままでしかないんじゃないか、と思う。
考えることは次から次へと降ってくる。
佐野くんの言うとおりだ……。
ひとつの不安が拭えても、まだ新たなる不安が降ってくる。
大切なものが増えるたびに不安は多く大きくなる。
すでに潰されてしまいそうなのに、それでも前へ進みたいってなんだろう……。
怖いのに手放せなくて、大切でかけがえのないもの――逆、かな?
大切でかけがえのないものだから、手放すのが怖いのかな。いつかなくなってしまうことが怖いのかな。
家族以外にそんな存在があるなんて知らなかった。
きっと、私はこれから何度も立ち止まるのだろう。でも、そのたびに前へ進む選択をしたい。
できれば、人に頼らず自分の力で――
夏休み、インターハイ前のツカサに「大丈夫だからがんばってって言ってほしい」とお願いされたとき、とても嬉しかった。
決して頼られたわけではない。そんなたいそうな出来事ではないけれど、自分に求められたことがとても嬉しかったのだ。
二学期は生徒会で自分に割り当てられた仕事があって、自分の居場所を感じることができた。
人に頼られるようになるまでにはまだまだだけど、それでもいつかは私を頼りにしてくれる人がいるのかな。そんな淡い期待を抱いてもいいだろうか――
強くなりたいと思う動機が不純すぎる。でも、いつも支えてもらうばかりではなく、いつかは支える側になりたい。
当面、私の目標は「強くなること」かな。
今、私の目の前にあるもの。それは気持ちの弱さ。
「心を強くもつ」とはどういうことを言うのだろう。
せめて、今手に持っているものを全部持ち続けられるくらいには強くなりたい――
ねぇ、佐野くん……私が今手に持っているもの全部と言ったら、呆れる……? 欲張りだって言われちゃう? でもね、私、どれも手放したくないの。どれも大切で、どれも諦められないの。
友達も学校生活も何もかも――
だけど、体調を安定させないと家族にも普段私を助けてくれる周りの人たちにも心配や迷惑をかけてしまう。
蒼兄と唯兄、栞さんとツカサ――
ツカサの顔が脳裏に浮かぶと、すぐに海斗くんや桃華さんの顔も出てきて、あっという間にクラスメイトの顔が揃った。それから生徒会メンバーの顔も。
そっか……その中に「友達」も含まれていたのかな……。
今、私の周りにいる友達は、私のことを心配してくれてるんだ。
忘れてはいけないことを忘れていた気分。
というよりは、知っていたはずなのに、ちゃんと気づけていなかった感じ。
「心配をかけたくない」と思う自分が、「心配してくれる友達」に布をかぶせて見えなくしていたような、そんな感じ。
もしくは、そう信じた末になくなってしまうことが怖くて、見ようとしていなかったのかも……。
ちゃんとそこにあって目に見えていたはずなのに……。
空太くんのメールにはこんなことが書かれていた。
件名 :後方部隊
本文 :翠葉ちゃんは戦線離脱したら、後方部隊にいればいいと思う。
知ってる?
後方部隊では人の手当をしたり、ほかの役割があるんだ。
たとえば球技大会。
翠葉ちゃんが応援してくれたらみんながんばれる。
「常に一緒」だけが友達じゃないよ。
全部が一緒じゃなくてもいいじゃん。
いずれみんな分かれるときには分かれる。
理系文系文理系。
わかりやすい分かれ道はそこだよね。
翠葉ちゃんは人と違う道を歩くことを誰よりも先に知ってるんだから、
俺らよりも先輩。
でも、ひとつ――
道は分かれてもひとりじゃないよ。
全部一緒だから友達なわけでもない。
一年が終わっても何も変わらない。
高校を卒業しても何も変わらない。
俺たち、そういう友達になろうよ。
みんな、私が知らないことをたくさん知っていて、とてもわかりやすい言葉でひとつひとつを教えてくれる。
そのひとつひとつ読み解くたびに、私の心はふわりと優しいものに包まれた――
「翠、夕飯」
ゆう、はん……?
目を開けると、薄暗い部屋にツカサの顔が見えた。
「少しは休めた?」
「……うん。桃華さんは?」
「五時前に帰った」
「そう……」
メールを全部読み終えた私は、身体中の力が一気に抜けてしまった。
ツカサが支えてくれなかったらそのままラグの上に倒れていただろう。
ラグの上だからそんなに痛くはなかったと思うけれど、その場に自分を支えてくれる人がいたことに感謝。
――「翠、顔を洗って夕飯まで休め」。
ツカサのその言葉に頷き、三人にお礼を言って休んだのだ。
まだぼんやりと霞がかった頭でツカサに尋ねる。
「ツカサ……もし願ったなら、私の未来に友達はいてくれるのかな?」
「……俺が願ったなら、翠は俺の未来にいるのか?」
「そこに私はいられるのかな? いていいのかな?」
「……俺の十秒後の未来に翠はいるだろ。翠の十秒後の未来にも俺はいる。一秒先でも未来は未来だ」
そう言うと、ツカサは先に部屋を出ていった。
入学したばかりのころは、こんなに大切なものは多くなかったはず。
身体に負担がかかって学校へ通い続けることが困難ならば、すぐに辞めようと――そのときは友達のことは何も考えなかった。
ただ、自分の体調のことで家族に心配をかけて、蒼兄の負担になるくらいなら、とそのふたつしかなかった。
でも、学校が楽しい場所だとみんなが教えてくれ、人があたたかくて優しいと知ったら――無理をしてでも学校へ通いたくなった。
人の手を借りて、周りに負担をかけてまですることなのか、と考えれば、自分のわがままでしかないんじゃないか、と思う。
考えることは次から次へと降ってくる。
佐野くんの言うとおりだ……。
ひとつの不安が拭えても、まだ新たなる不安が降ってくる。
大切なものが増えるたびに不安は多く大きくなる。
すでに潰されてしまいそうなのに、それでも前へ進みたいってなんだろう……。
怖いのに手放せなくて、大切でかけがえのないもの――逆、かな?
大切でかけがえのないものだから、手放すのが怖いのかな。いつかなくなってしまうことが怖いのかな。
家族以外にそんな存在があるなんて知らなかった。
きっと、私はこれから何度も立ち止まるのだろう。でも、そのたびに前へ進む選択をしたい。
できれば、人に頼らず自分の力で――
夏休み、インターハイ前のツカサに「大丈夫だからがんばってって言ってほしい」とお願いされたとき、とても嬉しかった。
決して頼られたわけではない。そんなたいそうな出来事ではないけれど、自分に求められたことがとても嬉しかったのだ。
二学期は生徒会で自分に割り当てられた仕事があって、自分の居場所を感じることができた。
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強くなりたいと思う動機が不純すぎる。でも、いつも支えてもらうばかりではなく、いつかは支える側になりたい。
当面、私の目標は「強くなること」かな。
今、私の目の前にあるもの。それは気持ちの弱さ。
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