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第十二章 自分のモノサシ
41話
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香月さんの背を見送りながら思う。「不快にさせた」というよりは、「傷つけた」のかもしれない、と。
嫌な思いをさせるだろうとわかっていて話した。
それは香月さんの言ったとおり、「宣言」みたいなものだったと思う。
「ごめんなさい……」
それでも、私は香月さんに言いたかったんだ。
ツカサでも生徒会メンバーでもなく、あなたに。
何か少し違うと思ったの。今まで私に文句を言いにくる人とは違うと思ったんだよ。
今まで私に話をしに来た人は、みんながみんな、ツカサの側にいる私が許せないという趣旨だったし、私に生徒会を辞めるように言う人がいても、誰ひとりとして、私に代わって生徒会に入りたいと言う人はいなかった。
でも、香月さんは一度もツカサのことは一切口にせず、生徒会の会計という仕事のみに固執していた。
そんな香月さんだからこそ、きちんと伝えたいと思ったのだ。
昨日の今日で口にすることが真逆になったことを謝りたいと思った。責任をもってちゃんとやる、と伝えたかった。
単なる自己満足と言われても仕方がない。嫌な思いをさせるとわかっていて口にしたのだから。
後悔なんてしたら、それこそ今の行動が無駄になってしまう。
前を向こう。私も、いつまでもここにはいない――
私は下りてきた階段は戻らず、昇降口近くのいつも使う階段を上った。
人が多くても使い慣れている階段のほうがいくらか落ち着くし、その中にクラスメイトの顔を見つけるとほっとする。
「大丈夫だったみたいだね」
階段を上がりきったところにいた河野くんに声をかけられた。その隣には佐野くんもいる。
「うん……でも、なんでここにいたの?」
まるで待っていてくれたような気がするのは気のせい?
「佐野が戻ってきたとき、賭けを持ちかけたんだけど、賭けにならんかった」
「え……?」
「御園生が二階から戻ってくるか、こっちの階段から戻ってくるか、って言われたんだけど、どう考えてもこっちでしょ?」
と、私の後ろの階段を指す。
……なるほど。
上がってきた階段を振り返り、少し恥ずかしく思う。
「行動、というよりは、思考回路を読まれてるみたいで恥ずかしいな」
「俺、ストーカー並みに観察してるからね」
河野くんは得意そうに笑った。佐野くんには、
「見ててわかることっていうのはたぶんこういうこと。でも、見ててもわからないこともあるよ」
さりげなく、「話してくれるのを待ってる」と言われた気がした。
教室に入ると、窓際の私の席に座っていた飛鳥ちゃんが立ち上がる。
「翠葉ーっ! あと二十五分で昼休み終わっちゃうよ!」
私はその二十五分でがんばってお弁当を食べた。
半分残してしまったから、お母さんが迎えに来る前にサーモスステンレスの野菜のスープだけは飲み干さなくては……。
全部は無理でも半分は――と決意してから午後の授業に挑んだ。
放課後になればみんな各々の作業に取り掛かる。けれど、私の周りには桃華さんたちがいる。
何って、私の報告待ち。
「時間なんて気にすることないわよ」
桃華さんがにこりと笑い、
「そうそう、司は歌合せのトップバッターだから遅れていったところでうるさいのはいないから安心しろ」
言わずと知れた海斗くんの言葉である。
前と後ろから笑顔のサンドイッチ状態。
「省略しようとかまとめようとか、そういうのが考えなくていいから」
優しく言葉を添えてくれたのは佐野くんだった。
最初から話せばいい。昨日香月さんと話したことからさっきの出来事まで。
私は順を追って話した。
話し終えると海斗くんと桃華さんが中等部のときのことを教えてくれた。
香月さんは中等部一年のとき、生徒会の会計を担当していたらしい。けれども、体育祭が終わったあと、すぐに解任されたのだとか……。
理由は、成績が二十位から脱落してしまったから。
「それ以前に、あの男の会計速度についていかれる子じゃなかったのよね」
「確かに理系の人間なんだけどねぇ……。司の下につく人間ってのはさ、単に理系ってだけじゃついていけない。頭の回転の速さは必須事項で、きつい言葉にだって耐えられる人間じゃないとね」
そう言って、海斗くんは桃華さんを見た。
「……本当にいい迷惑だったわよ。その後任に抜擢されるだなんて……」
桃華さんはぷい、とそっぽを向く。
「え……? もしかして、桃華さんが会計を引き継いだの?」
「使える人間がまだ生徒会にいるなら再選出する必要はないって司が言い切って、まんまと桃華がやらされてたよ」
海斗くんが苦笑して言う。
「あのときの桃華の不機嫌ぷりったらそうそうなかったよねぇ」
飛鳥ちゃんも顔を歪めて笑った。
「香月さんはさ、書記担当だった文系の桃華に会計を引き継がれたのが悔しくて、さらには藤宮先輩に認めてもらえている桃華が羨ましくて、今でもすれ違えば嫌な視線を向けてくる。だから心配だったんだ」
そう言う飛鳥ちゃんは少し寂しそうな顔で私を見た。
「昨日はごめんね。ちゃんと話せなくて」
「ううん、今話してくれたからいい。それに、翠葉のことを全部話せって言ってるわけじゃないし……」
そこまで言われて本音を白状することにした。
「……実はね、ひどい話なんだけど、香月さんがどうとかではなく、ツカサに言われたことがショックすぎて、何も話したくなかったの」
苦笑する私を、みんなには「は?」といった表情で見ている。
「責任感がないって、バカと無責任に費やす時間はないってとても冷たい目で見られたの。そう言われても仕方のないことをしていたんだけど――それだけでものすごく動揺しちゃったんだよね」
私も香月さんと変わらないかもしれない。
ツカサに一言二言見舞われただけですごいダメージだ。
「ツカサの言動には意外と免疫あるはずなのにね……」
「翠葉、それ――」
飛鳥ちゃんの言葉に視線を向けると、
「立花、そろそろ行かないとさすがに神谷先輩あたりが切れるんじゃね?」
「えっ? あっ、うっわーーー! やばっ、私、昨日先輩のファイルを間違えて持って帰っちゃってたんだよ。佐野、ありがとっ! みんなごめん、私、先に行くっ」
佐野くんの指摘から早数秒でガタガタと席を立っては教室を出ていった。
「相変わらず忙しいやつ」
海斗くんが目を細めて笑う。
「でも、ああじゃなかったら立花じゃないだろ?」
「それもそうだな。飛鳥が桃華みたいに落ち着き払ってたら、逆に俺が落ち着かないわ」
そのまま私の方に視線を戻すと、
「翠葉、司がああいう性格で口が立つ人間なのは知ってると思うけど、それだけじゃないからさ」
頭に手が伸びてきて、髪の毛をくしゃくしゃとされた。
「そうそう、あの毒舌は標準装備。それに、相手が誰であってもこういうところで特別扱いする人間じゃないわ。使えないと思っているなら、こんなチャンス見逃さずに解任の道筋整えて即実行。そういう男よ。それをしなかったのは、翠葉が生徒会の中でちゃんと機能しているからよ」
「ま、そういうこと。じゃ、俺と桃華も図書室行くわ。佐野は先に部活だっけ?」
「そう、六時にはそっちに行けると思う」
「了解」
お風呂から上がると佐野くんからメールが届いていた。
携帯がテーブルの上に置いてあって良かったと思う。
もしもベッドの枕元に置いてあったら、寝る直前まで気づかなかったと思うから。
件名 :香月って人
本文 :うちの部の女子だった。
なんかすれ違うたびに睨まれると思ったんだけど、
俺、どうやら現時点では香月よりも成績がいいみたい。
でもって、生徒会にかなり首を突っ込んでるからね。
でも、こういうのは仕方ないと思う。
人を羨む要素なんてどこにでもあるから。
だから、こんなことで弱気になるなよ。
「ありがとう」と思う。
きっと、私や佐野くんのことを羨んでいる人はほかにもいるのだろう。
でも、だからといって成績を落とすのは違うから。
それなら――
件名 :ありがとう
本文 :佐野くん、がんばろう。
勉強も部活も生徒会も。
私たちはそれでいいのだと思うの。
引け目を感じる必要はないよね。
そういうことだよね。
送信してすぐに携帯が鳴った。
メールかと思ったけれども通話の着信音。
「もしもし?」
『俺、佐野』
「うん」
『それでいいと思う。俺も御園生と同じ考え。自分が全力で勝ちたいと思っている相手に、手を抜かれてまでして勝ちたいと思うかどうか――俺はそういうふうに考えた。手を抜かれた相手に勝つことができても俺は嬉しくもなんともない。むしろ、悔しいし腹が立つ』
「それ、すごくわかりやすいね」
思わず笑みが漏れる。
考え方がとても佐野くんらしいと思った。
『御園生がわざわざ香月と向き合ったのはライバルだと思ったからじゃないの?』
「ライバル、か……。そういう意識はなかったんだけど、香月さんはツカサがどうとか、そういうのではなく、本当に生徒会の仕事をしたいんだろうな、って思う部分があって……。だから、ちゃんとしなくちゃって思った。きっと、中等部で解任されたことをずっと引き摺ってるんだろうね」
『じゃ、なおさらだ。がんばれよ。俺もがんばる』
「うん、がんばり方間違えないようにがんばる」
『御園生らしい』
佐野くんは言って笑った。
『なんかさ、メールよりも話したほうが早いと思って。ニュアンスの違いってディスプレイに表示される文字だけじゃ伝えきれないことがあるからさ』
そうだね、言葉はとても難しい。でも、そこに声音やイントネーション、話す速度が加わると、相手を知る情報がたくさん追加されて、最小限のすれ違いで済むのかもしれない。だとしたら、本当はその人を前にして、会って話すのが一番なんだろうな。
「メールも電話もありがとう。私、これから会計作業だよ。がんばらなくちゃ」
『ははは、笑えねぇ……』
「しかも、そのあとみっちり予習復習タイム」
『なおさら笑えねぇ……』
「うん、結構ハード。でもね、なんだか楽しいの。身体が本調子じゃなくても、こうやって生徒会の仕事に携われるのも、ツカサに勉強を見てもらうのも、なんだかすごく楽しいんだよ」
『そっか……。ま、ほどほどにな。じゃ、邪魔する前に切るわ』
「うん、本当にありがとう。おやすみなさい」
携帯を切ってテーブルに置くと、すぐにノートパソコンを立ち上げて作業に取り掛かった。
嫌な思いをさせるだろうとわかっていて話した。
それは香月さんの言ったとおり、「宣言」みたいなものだったと思う。
「ごめんなさい……」
それでも、私は香月さんに言いたかったんだ。
ツカサでも生徒会メンバーでもなく、あなたに。
何か少し違うと思ったの。今まで私に文句を言いにくる人とは違うと思ったんだよ。
今まで私に話をしに来た人は、みんながみんな、ツカサの側にいる私が許せないという趣旨だったし、私に生徒会を辞めるように言う人がいても、誰ひとりとして、私に代わって生徒会に入りたいと言う人はいなかった。
でも、香月さんは一度もツカサのことは一切口にせず、生徒会の会計という仕事のみに固執していた。
そんな香月さんだからこそ、きちんと伝えたいと思ったのだ。
昨日の今日で口にすることが真逆になったことを謝りたいと思った。責任をもってちゃんとやる、と伝えたかった。
単なる自己満足と言われても仕方がない。嫌な思いをさせるとわかっていて口にしたのだから。
後悔なんてしたら、それこそ今の行動が無駄になってしまう。
前を向こう。私も、いつまでもここにはいない――
私は下りてきた階段は戻らず、昇降口近くのいつも使う階段を上った。
人が多くても使い慣れている階段のほうがいくらか落ち着くし、その中にクラスメイトの顔を見つけるとほっとする。
「大丈夫だったみたいだね」
階段を上がりきったところにいた河野くんに声をかけられた。その隣には佐野くんもいる。
「うん……でも、なんでここにいたの?」
まるで待っていてくれたような気がするのは気のせい?
「佐野が戻ってきたとき、賭けを持ちかけたんだけど、賭けにならんかった」
「え……?」
「御園生が二階から戻ってくるか、こっちの階段から戻ってくるか、って言われたんだけど、どう考えてもこっちでしょ?」
と、私の後ろの階段を指す。
……なるほど。
上がってきた階段を振り返り、少し恥ずかしく思う。
「行動、というよりは、思考回路を読まれてるみたいで恥ずかしいな」
「俺、ストーカー並みに観察してるからね」
河野くんは得意そうに笑った。佐野くんには、
「見ててわかることっていうのはたぶんこういうこと。でも、見ててもわからないこともあるよ」
さりげなく、「話してくれるのを待ってる」と言われた気がした。
教室に入ると、窓際の私の席に座っていた飛鳥ちゃんが立ち上がる。
「翠葉ーっ! あと二十五分で昼休み終わっちゃうよ!」
私はその二十五分でがんばってお弁当を食べた。
半分残してしまったから、お母さんが迎えに来る前にサーモスステンレスの野菜のスープだけは飲み干さなくては……。
全部は無理でも半分は――と決意してから午後の授業に挑んだ。
放課後になればみんな各々の作業に取り掛かる。けれど、私の周りには桃華さんたちがいる。
何って、私の報告待ち。
「時間なんて気にすることないわよ」
桃華さんがにこりと笑い、
「そうそう、司は歌合せのトップバッターだから遅れていったところでうるさいのはいないから安心しろ」
言わずと知れた海斗くんの言葉である。
前と後ろから笑顔のサンドイッチ状態。
「省略しようとかまとめようとか、そういうのが考えなくていいから」
優しく言葉を添えてくれたのは佐野くんだった。
最初から話せばいい。昨日香月さんと話したことからさっきの出来事まで。
私は順を追って話した。
話し終えると海斗くんと桃華さんが中等部のときのことを教えてくれた。
香月さんは中等部一年のとき、生徒会の会計を担当していたらしい。けれども、体育祭が終わったあと、すぐに解任されたのだとか……。
理由は、成績が二十位から脱落してしまったから。
「それ以前に、あの男の会計速度についていかれる子じゃなかったのよね」
「確かに理系の人間なんだけどねぇ……。司の下につく人間ってのはさ、単に理系ってだけじゃついていけない。頭の回転の速さは必須事項で、きつい言葉にだって耐えられる人間じゃないとね」
そう言って、海斗くんは桃華さんを見た。
「……本当にいい迷惑だったわよ。その後任に抜擢されるだなんて……」
桃華さんはぷい、とそっぽを向く。
「え……? もしかして、桃華さんが会計を引き継いだの?」
「使える人間がまだ生徒会にいるなら再選出する必要はないって司が言い切って、まんまと桃華がやらされてたよ」
海斗くんが苦笑して言う。
「あのときの桃華の不機嫌ぷりったらそうそうなかったよねぇ」
飛鳥ちゃんも顔を歪めて笑った。
「香月さんはさ、書記担当だった文系の桃華に会計を引き継がれたのが悔しくて、さらには藤宮先輩に認めてもらえている桃華が羨ましくて、今でもすれ違えば嫌な視線を向けてくる。だから心配だったんだ」
そう言う飛鳥ちゃんは少し寂しそうな顔で私を見た。
「昨日はごめんね。ちゃんと話せなくて」
「ううん、今話してくれたからいい。それに、翠葉のことを全部話せって言ってるわけじゃないし……」
そこまで言われて本音を白状することにした。
「……実はね、ひどい話なんだけど、香月さんがどうとかではなく、ツカサに言われたことがショックすぎて、何も話したくなかったの」
苦笑する私を、みんなには「は?」といった表情で見ている。
「責任感がないって、バカと無責任に費やす時間はないってとても冷たい目で見られたの。そう言われても仕方のないことをしていたんだけど――それだけでものすごく動揺しちゃったんだよね」
私も香月さんと変わらないかもしれない。
ツカサに一言二言見舞われただけですごいダメージだ。
「ツカサの言動には意外と免疫あるはずなのにね……」
「翠葉、それ――」
飛鳥ちゃんの言葉に視線を向けると、
「立花、そろそろ行かないとさすがに神谷先輩あたりが切れるんじゃね?」
「えっ? あっ、うっわーーー! やばっ、私、昨日先輩のファイルを間違えて持って帰っちゃってたんだよ。佐野、ありがとっ! みんなごめん、私、先に行くっ」
佐野くんの指摘から早数秒でガタガタと席を立っては教室を出ていった。
「相変わらず忙しいやつ」
海斗くんが目を細めて笑う。
「でも、ああじゃなかったら立花じゃないだろ?」
「それもそうだな。飛鳥が桃華みたいに落ち着き払ってたら、逆に俺が落ち着かないわ」
そのまま私の方に視線を戻すと、
「翠葉、司がああいう性格で口が立つ人間なのは知ってると思うけど、それだけじゃないからさ」
頭に手が伸びてきて、髪の毛をくしゃくしゃとされた。
「そうそう、あの毒舌は標準装備。それに、相手が誰であってもこういうところで特別扱いする人間じゃないわ。使えないと思っているなら、こんなチャンス見逃さずに解任の道筋整えて即実行。そういう男よ。それをしなかったのは、翠葉が生徒会の中でちゃんと機能しているからよ」
「ま、そういうこと。じゃ、俺と桃華も図書室行くわ。佐野は先に部活だっけ?」
「そう、六時にはそっちに行けると思う」
「了解」
お風呂から上がると佐野くんからメールが届いていた。
携帯がテーブルの上に置いてあって良かったと思う。
もしもベッドの枕元に置いてあったら、寝る直前まで気づかなかったと思うから。
件名 :香月って人
本文 :うちの部の女子だった。
なんかすれ違うたびに睨まれると思ったんだけど、
俺、どうやら現時点では香月よりも成績がいいみたい。
でもって、生徒会にかなり首を突っ込んでるからね。
でも、こういうのは仕方ないと思う。
人を羨む要素なんてどこにでもあるから。
だから、こんなことで弱気になるなよ。
「ありがとう」と思う。
きっと、私や佐野くんのことを羨んでいる人はほかにもいるのだろう。
でも、だからといって成績を落とすのは違うから。
それなら――
件名 :ありがとう
本文 :佐野くん、がんばろう。
勉強も部活も生徒会も。
私たちはそれでいいのだと思うの。
引け目を感じる必要はないよね。
そういうことだよね。
送信してすぐに携帯が鳴った。
メールかと思ったけれども通話の着信音。
「もしもし?」
『俺、佐野』
「うん」
『それでいいと思う。俺も御園生と同じ考え。自分が全力で勝ちたいと思っている相手に、手を抜かれてまでして勝ちたいと思うかどうか――俺はそういうふうに考えた。手を抜かれた相手に勝つことができても俺は嬉しくもなんともない。むしろ、悔しいし腹が立つ』
「それ、すごくわかりやすいね」
思わず笑みが漏れる。
考え方がとても佐野くんらしいと思った。
『御園生がわざわざ香月と向き合ったのはライバルだと思ったからじゃないの?』
「ライバル、か……。そういう意識はなかったんだけど、香月さんはツカサがどうとか、そういうのではなく、本当に生徒会の仕事をしたいんだろうな、って思う部分があって……。だから、ちゃんとしなくちゃって思った。きっと、中等部で解任されたことをずっと引き摺ってるんだろうね」
『じゃ、なおさらだ。がんばれよ。俺もがんばる』
「うん、がんばり方間違えないようにがんばる」
『御園生らしい』
佐野くんは言って笑った。
『なんかさ、メールよりも話したほうが早いと思って。ニュアンスの違いってディスプレイに表示される文字だけじゃ伝えきれないことがあるからさ』
そうだね、言葉はとても難しい。でも、そこに声音やイントネーション、話す速度が加わると、相手を知る情報がたくさん追加されて、最小限のすれ違いで済むのかもしれない。だとしたら、本当はその人を前にして、会って話すのが一番なんだろうな。
「メールも電話もありがとう。私、これから会計作業だよ。がんばらなくちゃ」
『ははは、笑えねぇ……』
「しかも、そのあとみっちり予習復習タイム」
『なおさら笑えねぇ……』
「うん、結構ハード。でもね、なんだか楽しいの。身体が本調子じゃなくても、こうやって生徒会の仕事に携われるのも、ツカサに勉強を見てもらうのも、なんだかすごく楽しいんだよ」
『そっか……。ま、ほどほどにな。じゃ、邪魔する前に切るわ』
「うん、本当にありがとう。おやすみなさい」
携帯を切ってテーブルに置くと、すぐにノートパソコンを立ち上げて作業に取り掛かった。
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