内気なスタバイター

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日付は変わり研修最終日。

「夏村君1ヶ月お疲れさまでした。本庄さんから聞いてるけどドリンク作成も早くなってるし、クローズ作業も早くなってるから、この調子で頑張るんやで」
「ありがとうございます。本庄さんも1ヶ月間ご指導ありがとうございました」
「いえいえ。これからも新しいドリンク沢山出てきて大変やと思うけど頑張ってね」
「はい」



ついに迎えた新店舗のオープン日。

「トールサイズのホットコーヒーご用意してます」
冬を目前にした肌寒い空間に、レジから熱々のコーヒーを渡しているのは店長の森本香帆里だった。店長と控えめの会釈を交わし従業員待機部屋に入る。
今まで通りミスなく業務を遂行出来るだろうか。商品の作り方を間違えないだろうか。様々な不安を抱えながら緑色のエプロンを手に取った。業務連絡にザッとを目を通しエプロンを後ろで結び、昂揚する。
役割分担された自身の担当ポジションを確認し、レジにてお客さんを出迎える。お客さんと話すにつれて、緊張はほぐれていった。

ふと、商品を作るバーに目を向けると、知らない女性が立っている。あまりの緊張で周りに目を配ることが出来ず、長い髪をバッサリ切った、先輩従業員宮野ふみに気が付かなかった。ショートヘアーの芯の強そうな綺麗な女性が立っている。
「お待たせしました。こちらトールサイズのホットのスターバックスラテです」少し低めの深みのある声。


しばらく目で追っていた僕は、緊張がほぐれたのと同時に、集中力も欠けていた。
「すみません。注文いいですか」別のお客さんがレジ前に立っている。
「申し訳ございません。お伺い致します」
「アイスのカフェモカ。トールサイズで」
「かしこまりました。お客様店内で過ごされますか」
「はい」
「かしこまりました。お会計が484円です」
お客さんが注文内容を確認する画面を指差しながら、現金を受け取る銀皿を差し出す。

「アイストールモカです」
「はーい。アイストールモカ」
バーで待機している綺麗な先輩とオーダーの確認作業のため、アイコンタクトを取りお互いの業務に戻る。

「500円お預かりしますね。お釣りが16円です」
「はい」
「商品左手のカウンターでお渡ししますね。ありがとうございます」
笑顔で見送り、お辞儀をする。
改めて商品を作るバーに目を向ける。綺麗な先輩が真剣な表情でミルクをスチームしている。
綺麗な先輩が眼にぼやけて映るまで眺めていた。この日僕は、人生で初めて一目惚れを経験した。
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