内気なスタバイター

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オープン日から早一週間が経った出勤日。

「おはようございます」
程々に元気な挨拶をして、従業員の待機部屋に入る。
「柊おはよう」
返答したのは店長だった。夕方からの出勤にも関わらず、職場ではおはようが共通言語だ。
「柊そろそろ慣れたかな」
「はい。もう慣れましたよ」
「頼もしいな。今日も締め作業お願いね」
「はい。分かりました」
もう少し会話のキャッチボールがあっても不思議ではないが、あいにく僕は会話を見つけるのが得意ではない。その日のシフト表を確認すると、綺麗な先輩は出勤していないようだ。
「ホットの商品がよく出てるから、気をつけてね」
「はい」
店長との出勤前ミーティングにて忠告を受ける。
「柊今日の目標は」
「接客にも少しずつ慣れてきたので、商品のカスタマイズ提案とか頑張ります」
「おーいいねぇ。シロップ変更とか勧めてあげて」
「はい。頑張ります」

レジに向かうと20代くらいの綺麗な女性が立っている。
「こんばんは」
「ホワイトモカトール」
「ホットとアイスございますが」
「ホット」
「かしこまりました。ミルクの変更やカスタマイズは宜しいでしょうか」
「結構」
「かしこまりました。お客様店内で過ごされますか」
「持って帰る」
「かしこまりました。お会計が475円です」

挨拶が返ってこないと少し寂しい気持ちになる。愛想の悪い人でも好意を示している男性の前では急に女の目になるんだろうな。忙しくない時間だと、こんな余計なことまで考えてしまう。

「トールホワイトモカです」
「はーい。トールホワイトモカ」
バーにいる同い年の上原聖也が応える。

他の従業員であればもう少しお客さんと会話が弾むのだろうと感じながら、500円玉を受け取る。25円のお釣りを渡し、商品を受け取るカウンターへ案内する。
「お客様お待たせしました。こちらトールサイズのホットのホワイトモカです。寒くなってきたのでホットが飲みたくなりますよね」
「そうなんですよ。温まりたいなって思って」
「そうですよね。またお待ちしてますね」
「はーい」
「ありがとうございます」
上原はお客さんと会話するのが上手で、店長や副店長からも高い信頼を置かれている。

「こんばんは」
「こんばんは。子供用の飲み物とか置いてます」
「はい。オレンジジュースとアップルジュースがございます」
身長170センチの僕の腰にも満たない可愛らしい男の子が、こちらを見ている。
「じゃ。オレンジジュース一つと。私はショートサイズのラテで」
「かしこまりました。スターバックスラテはホットとアイスございますが何方にされますかね」
「ホットで」
「かしこまりました。お客様店内で過ごされますか」
「はい」
「はい。お会計が594円です」
「カードで」
「かしこまりました」

「商品左手でお渡ししますね。ありがとうございます」
「バイバーイ」男の子が手を振ってくれる。
「バイバーイ」
自然と元気が湧いてくる。子供たちにとっては戦隊ヒーローみたくカッコよく映っているのだろうか。


23時からの締め作業を足早に終わらせ、従業員の待機部屋で腰を下ろした。
締め作業を終えた従業員が続々と待機部屋へ戻ってくる。といっても自分を含めて4人だ。各々が携帯を触り、LINEの返信や、SNSをチェックしている。

「今日も疲れたね」
静寂した空間に温もりを落とし込む様に店長が反応を求めた。
「いやー疲れましたね。やっぱり新店舗だとお客さん沢山来ますね」
上原が反応した。
「お仕事終わりの方が多いんですかね」
乗り遅れまいと僕も返答する。
僕たちの店はビジネス街かつ、都心であるため、仕事人や学生、子供連れ、様々なお客さんが来店する。

「終電無くなる前に帰りや」
店長の言葉をきっかけに僕と上原、同期の山本莉沙、学生3人で店を後にする。
それぞれ乗る電車が異なり店の前で解散となった。静まり返った飲食店、服屋が左右に並んだ長い地下道を一人寂しく歩く。

ピッという音と共に改札を通過する。電車に乗ると、疲弊した夏村柊が窓に映っている。
「戦隊ヒーローではないか」
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