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【第一部 きみいろ ~君と僕がみている世界の色は~】

第六話 邂逅相遇

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「きゃっ!」
「おっと。ごめんね。あれ? 君は……」

 突然現れた男の子に驚いた彩は、その拍子に手に持っていたお弁当を落としてしまう。それに気が付いた緑色の生き物はお弁当を目掛けて向かって来る。

「え? なに?」
 緑色の生き物はお弁当に興味深々で目をキラッキラに輝かせ、両手を広げ、彩のお弁当に向かって突撃してくる。

「きゃっ!」
「ぎゃっ!」
 と潰れたようながしたかと思うと、緑色の生き物はフワフワしたものに包まれ遠ざかっていく。

「うわっ、泥だらけ。ばっちぃ」
 フワフワの正体は狐のような生き物の尻尾。狐の大きさは通常サイズで尻尾だけ大きくなっている。

 ドンッ! 緑色の生き物が逆さまに落とされる。
「うっぺ!」と緑色の生き物は落とされた衝撃で声を上げる。

「金平糖、乱暴だな。そっと下ろしてあげなきゃ。メロンソーダくん、大丈夫?」と緑髪の少年が緑色の生き物に声をかける。

 えと……メロンソーダくん? あ、緑色だから?

 緑色の生き物は幼稚園児のような大きさで、頭にはお皿のようなもの、背中には甲羅のようなものを背負っている。これは……よくみると河童? あと、金平糖? 狐……コンコンのコンだから? ってこの名前、聞いたことがあるような?

 彩が不思議そうに首を傾げ考えていると、金平糖が電車の中で出会った銀髪で動物のような耳と尻尾をつけた青年に変化する。そして金平糖はメロンソーダの甲羅をガッチリと掴む。

「あー! やっぱりあの時の!」と彩は金平糖に指をさす。
 金平糖は鋭い眼差しで彩を睨みつける。前にあった時とは別人格のような表情をして。

「でも少し雰囲気違います?」
 今の金平糖の姿は髪が短い銀髪で声も違っている。前にあった時は……。

「前にあった時は、金平糖が僕に憑依していたからね。あの時は髪が長かったよね」と緑髪の少年。
「ですです! ん? 憑依?」

「うん。わかりやすくいうと、合体的な? 二人の力を合わせる的な? ちなみに僕の妖力が大きいから髪の長さが変わるんだ」
 あ! この人があの時の人なのか! 葉くん!

「少し難しいですが、わかりました!」
 彩は目がキョトンとし口をポカンと開け、理解が出来ずフワフワっとしている。とりあえず理解はしきれないが納得したようで両手をパンと叩く。

「お前。その顔! 絶対理解してないだろ」
 金平糖はヤレヤレと諦めた表情をみせ、大きなため息をつく。

 葉はペットボトルの水を緑色の生き物にかけはじめる。
 やっぱり、その生き物は河童……だよね?

「潤うっぺ。幸せだっぺ」
 緑色の生き物は気持ちよさそうにニコニコしながらユラユラと揺れている。
 緑色の生き物は語尾に「ぺ」というのが口癖らしい。
 彩は緊張が解け、怖かったのと面白さとで泣きながらクスクスと笑いだす。

「人間、やっぱりおいらが見えるんだっぺ。怖くないっぺ?」と緑色の生き物が彩に話しかけるが、彩の笑いが止まらない。

「河童がそんなに面白い? まあ変な生き物だもんね」
 葉は微笑みながら河童のホッペをツンツンとする。
「おいら、変な生き物じゃないっぺ」と河童は葉をポカポカと叩く。

「あ、ごめんなさい。変じゃないよ。でもね、怖かったのとその……っぺっていうのが可愛くて、つい。やっぱり河童さんなのね」と彩はクスクスと笑う。
「おいら、可愛いっぺ。嬉しいっぺ」
 河童はニコニコしながらスキップをする。

「ええ、可愛くねえよ。ばっちぃしよ」
 金平糖は目を細めて睨みつけながら、尻尾でバタンバタンと大きな音を立てる。

「可愛いけど、可愛くないし。オレの網……壊したし」
 白いヘッドホンをつけている双子の片方が半べそをかいている。
かい、だからいったじゃん? 自業自得だろ? 泣くとかカッコ悪いじゃん」
 黒いヘッドホンをした双子の片方が白ヘッドホンの少年の頭をポンポンと叩く。

「おい、ポンコツ。紛らわしいから元の姿に戻れよ」
 金平糖はイライラして尻尾を大きく振っている。
「ああ、わかったじゃん」
 黒いヘッドホンをした少年が二十歳くらいの青年の姿に変化する。

「お嬢さん、お怪我はありませんでしたか?」
 青年は微笑みながら彩の手を取り優しく握る。
 彩は突然の出来事に驚き目をパチクリと瞬きをする。

「あれ? 好みではないと? 大人すぎたかな? じゃあ……」
 青年は少し考え、また別の者に変化しようとすると金平糖の尻尾でベシっと叩かれる。
「ポンコツ、お嬢ちゃんが困っているだろ。獣の姿に戻れ」
「師匠……わかったじゃん」
 青年は本来の姿、狸に変化する。

「おねえさん、大丈夫だっぺ?」と心配そうに彩をみるメロンソーダ。
「え? あ、うん。大丈夫だよ」

「よかったっぺ」
 メロンソーダは嬉しそうにピョンピョンとジャンプする。
「ほんと、可愛いね」
 彩はメロンソーダの可愛さに心を奪われ、メロンソーダの頭を優しく撫でる。
「可愛いっぺ? 可愛いっぺ?」
 メロンソーダは頬をピンク色に染め、嬉しそうに手足をピンっと伸ばしきる。

「だからさ、可愛くねえって」
 金平糖は不機嫌そうに尻尾を縦にバシンバシンと音と立てて振る。
「あら、可愛いわよ」とフワフワと飛んでいた蝶が人型のリンの姿に変化し、メロンソーダの頭を撫でる。

「可愛いっぺ、可愛いっぺ」とメロンソーダはクルクルとダンスをする。
「こいつがここまで嬉しそうなのは初めてだな」
 金平糖は腕を組み、半目で河童を見つめている。

「あ~確かにね。いつも悪戯するから怒られてビクビクしているものね。メロンクリームソーダくんは可愛い、可愛いよ」と葉は微笑む。
 ん? クリームが追加された? 適当に名前がつけられているのかな? 感覚なのかな? まあ、どちらにしろ可愛いからいいかな。

「それで、メロンクリームソーダくん。盗んだものを返してくれるかい」
 葉はニコニコしながら河童に手を差し出す。
「……ごめんだっぺ」とメロンクリームソーダは大事に抱えていた小さな袋を葉に手渡す。

「これはね、人が神様に願いを込めてお供えしていったものなんだ。だから食べちゃダメだよ」
「どうしたの?」と彩が尋ねると、メロンクリームソーダはモジモジしながら「おいら、クッキーが好きだっぺ」と答える。

「だからって盗んじゃだめだよ」と葉が言うと、メロンクリームソーダは下を向きしょんぼりとする。それをみた彩は「クッキー? それなら私が作ってあげるよ」と言う。

「作ってくれるっぺ? 嬉しいっぺ」とメロンクリームソーダは彩の手を握りブンブンと振る。

 メロンクリームソーダくんの手は柔らかくて少しプニプニして、ちょっとヒンヤリしている。肌触りはザラザラしていたりツルツルしていたりとはじめましての感じ。妖怪と会話して、作ったことのないクッキーを作ってあげる約束までするなんて……。




 キーンコーンカーンコーン。

「あ、やばい。これじゃあ遅刻だ……。金平糖、出番だ!」
「葉、俺をタクシー代わりにすんなよ」
 文句を言いながらも金平糖は大きな狐の姿となり、背を低くする。

「ちょっ、ちょっと。オレはどうすればいいし?」と絵。
「タルトよろしく!」と葉はタルトにサムズアップをする。

「わかったじゃん! かいはキックスケーターでいくじゃん」
 タルトはキックスケーターに化ける。
「タルト……オレも空から行きたかったし」

「今は子どもらしく行くじゃん」
「なんだよ。子どもらしくとか。そういうの嫌いだし」

「まあまあ、はやく行くじゃん」
 絵はしぶしぶキックスケーターに乗って小学校へ向かう。


「さあ、彩! いくよ!」
 葉は彩の手を掴み、金平糖の背にのせる。

「え? なに?」
「金平糖、安全運転でお願いしますよ」

「あいよ」
 金平糖は空高く上がり、学校へと一直線で進んでいく。

「これ、誰かにみられたら……」
「大丈夫。金平糖たちに触れている時は、僕らは普通の人には見えないよ」と葉はウインクをする。

 金平糖は空高く上がっていき、猛スピードで飛んでいく。

 空から見た町は思ったより小さく見える。けど歩いたら時間がかかる大きさなんだろう。地上で感じる匂いや風の感覚も違っている。鳥が飛ぶ世界ってこんな感じなのかな。空の旅はあっという間に終わってしまったがとてもステキな時間だった。

 この時はじめて、普通の人たちには見えない世界がちょっとだけステキだと思った。妖モノに触れるのも喋るのも悪くないなって思った。
 見えざるものがいる世界にいるのが私一人ではないこと……それが本当に嬉しく思った。
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